魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第61話 今後の予定 後編

 七瀬と出会ったのは、俺が夜天の書に触れて前世(過去)の記憶を取り戻してから、しばらく経った頃だ。

 当時の俺は前世のことを思い出し、ヴォルケンリッターやリヒトを助けると決意していたものの、その記憶が本当に前世のものなのか自信が持てなかった。

 孤児として育ち、生まれつき持っているオッドアイに対する差別を受けたりなど、幸の薄い自分を憐れんで作り出した、妄想や願望によるものだとも思っていた。

 だが……

 

「……もしかして、お兄さんも“そう”なの?」

 

 外出中に偶然出会った、俺より4つは下の幼稚園に入ったばかりの女の子。

 にもかかわらず、大人びた話し方をする不思議な子供だった。

 

 彼女の名前は七瀬(ななせ)

 30年くらい前に事故で死んで、長い間幽霊としてさまよってから成仏し、今から5年前に同じ名前の少女に転生したらしい。前世の記憶を持ったまま……。

 

 それ以来、俺と七瀬は暇を見つけては、さくらさんを交えて話をしたりメールのやり取りをしている。はやてやなのはのような友達とは違う、前世込みの話ができる“相談相手”として。

 

 

 

 

 

 

『……で、あたしにアリシアって子の勉強を見てほしいと』

 

「ああ。どうしてもお姉さんと同じ学校に行きたいそうだ。先輩暇を持て余してるんだろう。さくらさんから聞いたぞ。受験まで半年なのに全然勉強してないって」

 

『だって、あたしが小学校に入るための勉強なんかしたって意味ないでしょう。前世で高校生だったんだから。それも学年トップの優等生! そのあたしが小学校の入試に落ちるなんて、健斗君が学校中の女子からモテるくらいありえない』

 

「言ったな! これでも前世じゃ超がつくぐらい美人の恋人がいたんだぞ! なんなら今度――」

 

『あーはいはい。そういえば特定の女子にはモテてたね健斗君は。……それはともかく、アリシアちゃんという子が聖祥に受かるようにしてほしいんだったね』

 

 そっけない口調で話を戻す七瀬に、俺は憮然としながら「ああ」と答える。

 すると七瀬は考えるように少し沈黙して……

 

『……その子は今、健斗君の近くにいる?』

 

「ああ」

 

 俺が答えると七瀬は――

 

『じゃあその子と少しだけ話をさせてくれない。本当にやる気があるのか聞いておきたいから。電話面接みたいなものよ。それぐらいいいでしょう』

 

「ああ。ちょっと待ってくれ」

 

 それだけ言って俺はアリシアの元に戻り、彼女にスマホを差し出す。

 

「七瀬って子がお前と話したいと言ってる。そいつと少し話をしてくれないか」

 

「うん! いいよ!」

 

 アリシアが元気よく答えると、彼女に続いて――

 

「プレシアさん?」

 

 思わず名を呼ぶ俺にプレシアさんは真剣な顔で言った。

 

「私からもその子と話をさせてくれないかしら。娘が世話になるかもしれないのに、母親が何も言わないわけにはいかないわ」

 

 そう言われると断る理由はない。俺はうなずいてアリシアにスマホを渡す。

 アリシアは俺がやったようにスマホを耳に当てて、母親の隣で「もしもし」と言って話を始めた。

 

 

 

 

 それを見届けながら俺は再び席につく。そこへフェイトが声をかけてきた。

 

「アリシアの勉強を見てくれる子って誰? ずいぶん親しそうだったけど」

 

「近所の幼稚園に通ってる子だよ。アリシアと同い年でそいつも来年聖祥を受ける予定だ。すでに合格間違いなしと言われるくらい頭がいいから、教師役にぴったりだと思ってな」

 

「明るくて元気ないい子やで。アリシアちゃんともすぐ仲良くなれると思うよ」

 

 俺に続いてはやてもそう言ってきた。そこへすずかが、

 

「そういえば、前から気になってるんだけど、どうして七瀬ちゃんのこと、“先輩”って呼んでるの? 叔母さんも私たちのいない所でそう呼んでるみたいだし」

 

「それは……あいつの許可が取れたらお前たちにも話す」

 

「……?」

 

 俺の答えにすずかは首をかしげる。その横からアリサが、

 

「そういえば、あたしの事も少し前まで“先生”って呼んでたわよね……まさかバブみとか、そういう変な意味じゃないでしょうね?」

 

「――ち、違う! そういう意味じゃない!」

 

 距離を取りながらそう言ってくるアリサに続いて、はやてやリイン、すずか、守護騎士などは疑わしそうな目を向け、なのはとフェイトは意味がわからずこくりと首を傾げていた。

 

 俺は誤魔化すように咳払いをして、

 

「ところで勉強といえば、フェイト、最近執務官の勉強をしてるって聞いたけど、お前まさか……」

 

 フェイトは恥ずかしそうに顔を赤く染めながら言った。

 

「うん。将来の選択肢として、執務官を目指してみようかなって。アースラにある教材を借りたりクロノに色々教わったりして勉強してる。すごく難しいけど」

 

「……それは、“例の事故”の事が関係しているのか」

 

 俺の問いに、フェイトは真剣な表情で首を縦に振る。

 

「うん。母さんが働いていた会社で起きた事故の事は大体聞いたんだけど、無茶な開発を指示した人たちが裁かれず、母さんがすべての責任を取ることになったのは、事故を調査していた執務官が会社の人たちからお金を渡されて隠蔽に加担したからなんだって。それどころか、もしかしたらその執務官は悪事を隠すために自分の部下だった人を……」

 

 プレシアさんに聞こえないように声を潜めたフェイトに対して、俺たちは沈黙する。

 『ヒュウドラ事故』の責任を巡る裁判の裏側について、俺とプレシアさんが聞かされたのはほんの数時間前の事だ。

 だがそれより前に、リンディさんとクロノはフェイトに事故の裏側について一部だけ明かしていたらしい。もしかしたらフェイトが自力でたどり着き、隠し通すことができなかったからかもしれないが。

 

「事故を担当した執務官がもっとしっかりした人だったら、お金につられるような人じゃなかったら、母さんは責任を取らされずにすんだかもしれない。アリシアを死なせた人たちにもちゃんと裁きを下すことだってできたかもしれない……だから」

 

 フェイトはそこで言葉を止めて、一息ついて続けた。

 

「それにジュエルシードや闇の書みたいな、危険なロストロギアが関わる事件が、今回のように犠牲者が出ずに終わるのはかなり珍しい事だって。ロストロギアを巡る争いの果てに無関係な人が大勢巻き込まれたり、追いつめられた犯人が自らの命を絶ったりして終わることの方が多いって、クロノは言ってた。

 そんなことを少しでも減らせるように、私は執務官になりたい!」

 

「…………」

 

 確かに、今回はかなり運がよかったと言える。

 俺たちやアースラのクルーたちが一歩でも遅れたり行動を間違えたりしたら、いくつかの世界が夜天の書や次元断層に飲み込まれてしまっていたし、プレシアさんが命を落としてもおかしくなかった。リインフォースを助けられたのもほとんど奇跡に近い。

 

 そんな幸運にも恵まれず、多くの犠牲が出たり世界が滅んでしまうようなことが、他の世界や次元空間の中では何度も起きているらしい。

 フェイトが執務官を目指しているのも、そのような事件や災害に巻き込まれている人たちを助けるためのようだ。無論、プレシアさんの事も大きな理由になっているだろうが。

 

「……そっか、フェイトちゃん()管理局に入るんだ」

 

「……?」

 

 なのはのつぶやきが聞こえて、俺はついそちらに顔を向ける。

 見ると、なのはとはやては仲間ができて安心したような笑みを浮かべていた。

 

「まさか、お前らも管理局に入る気じゃ――」

 

 荒くなった声で尋ねるとはやては苦笑いしながら、

 

「いやあ、リンディさんやクロノ君のおかげで夜天の書は没収されずに済みそうやけど、管理局のお偉いさんが夜天の書や守護騎士を警戒したままなのは変わらんらしいみたいでな。それを踏まえてみんなで色々話し合った結果、局の魔導師として、夜天の書の力を世の中のために使ったほうがええという事になったんよ。そうした方が監視とか受けずにすむやろうしな」

 

 はやての言い分を聞いて、俺は騎士たちを見る。

 だが、彼女たちも同意のようで、先頭にいるシグナムが首を縦に振るのみだった。

 

 実際はやての言うとおりではある。

 夜天の書が力を失ったとはいえ、管理局がそれを信じるかはかなり怪しい。半ば監視がつく事になるだろうと思っていたし、近い未来、グレアムさん以上の強硬派が、主や騎士ごと魔導書を封印しようと動きかねない。

 それを確実に防ごうと思ったら、はやてたちが局に下るのが一番だ。

 管理局もロストロギア()()()武器を使う魔導師と、高ランクの力を持つ騎士たちの加入を断りはしないだろう。

 

 だが……

 

「なのは、お前もこのまま魔導師を続ける気か? お前はそのまま平穏な生活に戻ることができると思うが……」

 

「うん。そうだけど、ちょっと前からリンディさんに管理局に入らないかって誘われてて。まずは『嘱託魔導師』っていう形で管理局のお仕事を経験して、やっていけそうだったらそのまま管理局に入ればいいって言われたから、受けてみようかなって思うの」

 

 リンディさんめ、いつの間にそんな話を。少なくとも俺は聞いてないぞ。

 俺は眉間にしわを寄せたまま、なのはに尋ねる。

 

「もう十分わかってると思うが、管理局の仕事は常に危険と隣り合わせだ。そのうち、夜天の書以上に危険なロストロギアに関わることもあるかもしれない。それでも魔導師を続けたいと?」

 

「うん。ジュエルシードを集めたり、夜天の書を止めたりしている時に思ったの。私のやりたい事、私にしかできない事は、魔法を使うお仕事の先にあるんじゃないかって。まずは嘱託から初めて、それから本格的に管理局の仕事を始めたい。

 私の魔法で困ってる誰かを助けてあげたいんだ!」

 

「健斗、なのはを巻き込んだ僕が言うのもなんだけど、なのはの才能は並大抵のものじゃない。それを眠らせておくのはすごくもったいないと思う。その力で救うことができる人や命はきっとあるはずだ。なのはがいやがってるならともかく、望んでいるなら応援してあげてもいいんじゃないかな」

 

 ユーノがそう言ってなのはを後押ししてくる。

 確かに一理ある。だが、才能があるからといって、彼女を危険な道に引き込んでいいのか?

 そう考えて俺は悩む。

 だが、なのはの表情からは揺るぎない意思が窺え、俺なんかが何を言っても引き下がるようには見えなかった。仮にユーノ、フェイト、はやてが反対しても、なのはが意見を変えることはないだろう。

 

「ユーノ君ももうこの先どうするか決めてるんだよね?」

 

「うん。クロノから無限書庫の司書をしないかって言われてる。本局に寮も用意してもらえるし発掘も続けていいって話だから、決めちゃおうかなって」

 

 ユーノの報告になのはは嬉しそうに「そっか」と答える。

 そこへ――

 

「これで将来のこと決めてないのは健斗君だけになってしもたね。何か決めてないの? 魔導師として管理局に入るか、それとも地球で暮らすのか」

 

 はやての問いが耳に届いて、俺は顔を上げて彼女の方を見る。

 問いをかけてきたはやてをはじめ、みんなは興味津々に耳を傾けていた。

 それに対して……

 

「俺は――」

「けんと、電話終わったよ! はいこれ、お返しします!」

 

 言いかけたところでアリシアが戻ってきて、俺にスマホを返してくる。その後ろにはプレシアさんの姿もあった。

 俺はアリシアからスマホを受け取りながら――

 

「そうか。どうだった、七瀬に勉強を教えてもらうことについては?」

 

「うん。ななせ、私の勉強見てくれるって。ママと一生懸命お願いしたら引き受けてくれたよ。けんとに代わってって言ってるから出てあげて」

 

 アリシアにうなずいて、俺は再びはやてたちから離れて電話に出る。

 俺の進路を聞き出そうとしていたはやてたちがむくれる中、俺は通話口の向こうに声をかけた。

 

 

 

「よう先輩。ありがとな。アリシアも張り切ってたよ。あの子のお母さんも感謝してると思う」

 

『いいよ。さくらが遊んでくれなくて暇だったし。あだ名みたいなものとはいえ、先輩と呼ばれてるからには後輩の頼みくらい聞いてあげないと。それに、健斗君なりにあたしを心配して話を持ち掛けてくれたみたいだし』

 

「なんのことやら。お礼に今度翠屋のスイーツでもご馳走するからアリシアのことは頼むな」

 

『あっ、ちょっと待って!』

 

 通話を切ろうとしたところで七瀬に止められて、俺は再びスマホを耳に当てる。

 

「なんだ?」

 

 俺が聞き返すと通話口からにんまりと笑ったような気配が漏れてきて、

 

『スイーツはともかく、旅行に行ってる間、健斗君がどの女の子と仲良くなったのか詳しく教えてくれない。はやてが健斗君の子供を身ごもったって噂まで流れてるんだけど。そこら辺の真偽も詳しく!』

 

 七瀬からの言葉にたまらず頭を抱える。なんで幼稚園にそんな噂が流れているんだ? 

 否定しつつ、どこで噂を耳にしたのか聞き出しておかないと。

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