魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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夜の一族編3 誘拐

 目を覚ますと車の中だった。

 後部座席に座らされているものの、手と足は固い縄によってがちがちに付けられており、口にはガムテープが貼られている。

 左隣には眠ったままのアリサがいて、自身と同様に口にガムテープを貼られ、手が縛られている。しかし足の方は縛られておらず、手の縄もすずかほどきつい縛り方ではなかった。アリサの方はそれほど警戒されていないようだ。いや、すずかが過剰に警戒されているというべきか。

 自身の右隣にはコートを着た長い金髪の女が座っており、虚ろな目で前を眺めたままでいる。

 前方の運転席と助手席にはスーツを着た男が一人ずつ座っていた。全身黒で統一しているわけでもサングラスをかけているわけでもない、どこにでもいる会社員といった感じの男たちだ。

 車は自分がよく知ってる海鳴市の街中を法定速度で走っており、停止中に通行人が傍を通ることもある。だが、黒く染められたスモークガラスによって他の車や通行人が自分たちに気が付くことはなかった。

 

 すずかがおおよその状況を把握したところで、助手席に座っている男が前を向いたまま自分に声をかけてきた。

 

「おや、すずかお嬢様、お目覚めになりましたか」

 

 男はバックミラー越しにすずかたちを見ながら続ける。

 

「手荒なことをして申し訳ありません。ですが、傷をつけないように連れて来いと言われてましてね。窮屈だと思いますが、もうしばらくはそのままご辛抱していただきますよ」

 

 それを聞いて確信が強まった。自分とアリサは誘拐されているのだ。前方にいる二人の男と隣のコートを着た女によって。

 同時にさっきまでの記憶がよみがえってくる。確か、フェイトがスマホを選び終えてリンディと一緒に購入の手続きに行って、それとほぼ同時になのはたちが自分たちの元から離れ、自分とアリサだけが残る形になった。

 そこへコートを着た女が近づいてきて、いきなり自分の口元にハンカチを――

 

「――!」

 

 彼女だ! 彼女が自分たちを連れ去ったのだ!

 すずかは隣に座る女を睨みつけるが、女はピクリとも動かずじっと前を見続けている。まるで人形のように。

 そこへ男がまた声をかけてきた。

 

「心配しなくてもお二人に危害は加えたりはしませんよ。そんなことをしたら私たちが主人に殺されてしまいます。だからお嬢様も大人しくしていてください。車内で暴れたりしたら、お嬢様はともかく我々とお友達は無事ではすみませんからな。まあ、あなたの隣にいる《イレイン》がいれば大丈夫だと思いますが」

 

(イレイン……?)

 

 男が発した言葉にすずかは首をかしげながらコートの女を見る。

 彼女の名前だろうか? そう考えるのが自然だが、彼女を語る男の声の調子から少し違うようにも思えた。

 それに彼女の雰囲気は異様だった。すぐそばにいるのに生気がまるで感じられない。すぐ後ろに張り付かれても気付かないくらいに。だからなすすべもなく捕まってしまった。

 ただものじゃない。少なくとも自分をねじ伏せる力は十分にある。

 それを確信してすずかは抵抗を諦めた。そうでなくても、車内で事を起こせばアリサや犯人たち、外の通行人に危険が及ぶのは確かだ。ここは大人しくしているしかない。

 男はバックミラーから目を移し、前方を眺めながら最後に言った。

 

「目的の場所までしばらくかかります。もう一眠りされてはいかがですか。お友達もぐっすりお休みのようですし」

 

 そう言われたところでこの状況で眠れるわけがない。

 すずかは寄りかかってくるアリサの感触を半身で感じながら、じっと前を見据え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 アリサとすずかがいなくなったと聞いてからしばらくして、俺は彼女らを探していた七瀬、アリシア、リンディさんを呼び戻し、ショップの近くで合流した。

 彼女たちは袴姿の外国人少年を見て驚き、彼について尋ねる。そんな彼女らに……

 

「儂はヴィル。健斗とはそこの店で知り合っての。互いの身上を明かし友諠を交わしたところで、お主らの連れが行方をくらましたと聞いたのじゃ。その場面を目にしたわけではないが手助けぐらいはできるかもしれん。儂にも一枚噛ませよ」

 

 ヴィルの申し出に、リンディさんもなのはたちも困ったように目を見合わせる。

 一方、アリシアはけたけた笑いながら。

 

「あははっ。フェイトや健斗たちと変わらないのにおじいちゃんみたいな話し方だね。私アリシア。よろしくねヴィル!」

 

 アリシアの失礼な物言いにフェイトは慌てて彼女を止めようとする。それに対してヴィルは気を悪くせずに言った。

 

「うむ、元気な娘じゃの。こちらこそよろしくするぞ、アリシア。して、そっちの娘はなんという?」

 

「……七瀬です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 アリシアに続いておずおず自己紹介してくる七瀬にも、ヴィルは「うむ」と鷹揚なうなずきを返す。

 

(さくらと同じ目の色によく似た顔立ち……もしかしてこの人……)

 

 七瀬は眉をひそめながらヴィルを見る。

 そんな中、俺はアリサたちに話を戻すべく口を開いた。

 

「とにかく、今はアリサとすずかを見つける方が先決だ。もう一度状況を確認したい。いいか?」

 

 俺がそう尋ねるとなのはと七瀬が中心になって、その時の状況をもう一度教えてくれる。

 

 事のきっかけはフェイトが購入するスマホを選び終わった時だった。

 フェイトとリンディさんは契約の手続きをするために窓口へと向かい、それを待つ間、七瀬とアリシアはジュースを買いに自販機へ向かい、それに付き添う形でなのはも二人について行き、ジュースを買って三人が戻った頃にはアリサとすずかは姿を消していた。

 最初はトイレに行ったのだろうと思い、ジュースを飲みながらその場で待つことにしたがいつまで経っても二人は戻ってこず、とうとう手続きを終えてスマホの購入を終えたフェイトとリンディさんが戻ってきた。その間なんと37分。

 さすがになのはたちもおかしいと思い、ショップの近くを中心に探し回り、リンディさんは店内放送をかけてもらうようスタッフに頼みに行き、途中から俺とヴィルも加わってデパート中を駆け回っていた。だが、結局アリサもすずかも見つかっていない。

 

「あいつらのスマホにはかけたんだよな?」

 

 俺の問いに何人かがうなずきを返し、なのはが答える。

 

「うん。でも二人とも返事をしてくれなくて……」

 

 暗い顔で告げるなのはに俺は心の中で同意した。

 俺もあいつらに連絡を取ろうとしたが、何度かけても向こうに繋がる様子はない。

 もしやこれは……。

 

「何者かにさらわれたかもしれんの」

 

 ヴィルの一言に俺たちは皆彼の方を見る。ヴィルははばかることもなく平然と言った。

 

「そう考えるのが自然じゃろう。アリサとやらはともかく、すずかがお主らに何も告げず外に出たり、いたずらにスマホの電源を切ったりするとは思えん。二人に何かあったと考える方が自然じゃ。この国の治安がいいからといって、誘拐や事故がそうそう起こるはずないと考えるのは現実逃避でしかないぞ」

 

 ヴィルの指摘に、リンディさんを含め俺たちは言い返すことができずにおし黙った。確かにあの二人が俺たちに無断でデパートから出て行くなんて考えられない。しかも二人とも携帯が繋がらないとくれば、あいつらの身になにかあったと考えるのが道理だ。

 過去(前世)でも、ヴィータが誘拐される瞬間を見たじゃないか。

 

「ヴィルの言う通りかもしれない。とにかく、これ以上デパートを探しても時間と体力を消耗するだけだ。二人がデパートを出てどこへ行ったのかを考えよう。場合によっては警察に相談することも考える」

 

 俺がそう言うとみんなはうなずいてから腕を組んだりして考え込む。すでにデパートにおらずスマホも繋がらない相手をどうやって探すのか。

 普通だったら俺たちみたいな素人にはお手上げだが……。

 

《ねえ、私の《エリアサーチ》で街中にサーチャーを飛ばして二人を探すっていうのはどうかな?》

 

《でもこの街も広いし、見つかるまでいつまでかかるかわからないよ。それなら管理局に協力してもらえばどうかな。今度地球に新しい部署を立てるって言ってたし》

 

 そこでフェイトはリンディさんを見るが、リンディさんは首を横に振った。

 

《それは無理ね。魔法がらみならともかく、そうでない行方不明事件に局の協力を仰ぐことなんてできないわ。それどころか探索魔法の使用許可も下りないでしょうね。あなたたちはもう知ってると思うけど、管理外世界への干渉や当該世界での魔法使用は固く禁じられているのよ。“あの部署”もあくまで地球で起こるかもしれない次元災害や犯罪に対処するための部署よ》

 

 脳に直接届いてきた返事に俺たちは歯噛みする。理屈はわかるがまどろこしいな。管理局の存在を知らず自由に魔法を使えた頃が懐かしい。もちろんあの頃も結界を張ったり、周囲にばれたり被害が及ばないように配慮はしていたが。

 

《なかなか面白そうな話をしておるのう。あの部署とはなんじゃ?》

 

 ――!?

 

 突然割り込んできた声に俺たちは辺りを見回す。

 七瀬とアリシアは不思議そうな顔で俺たちを眺めている。そして彼女らの隣で、ヴィルがニヤニヤと愉快そうな笑みを俺たちに向けていた。

 対して、俺たちは自分の耳を疑いながら彼を見返す。

 

《今の声……ヴィル君だよね?》

 

《う……うん。私にもそう聞こえたけど……》

 

 ヴィルを見ながらなのはとフェイトは念話でそんな囁きを交わす。

 俺は念を飛ばしてきたと思われる者に思念通話で問いかけた。

 

《まさか、ヴィル、今のはお前が?》

 

《うむ。儂と稚児どもに隠れて、思念で密談なんぞしおって。しかし管理局とやらも狭量じゃのう。娘二人を探すために魔法とやらを使うぐらいいいではないか》

 

《――!》

 

 ヴィルが飛ばしてきた思念にリンディさんも目を剥く。こいつ、まじで俺たちの会話を聞いてやがる。

 まさかとは思うが――

 

 そこでリンディさんは怪訝そうに自分たちを見つめる七瀬とアリシアに気付き、ごほんと大きな咳払いをして口を開いた。

 

「と、とにかく、私としては警察に相談して、彼らに任せるべきだと思います。たしか健斗君のお母様は警察官をしていらっしゃると聞きましたが、その方に相談すれば……」

 

 そう言ってくるリンディさんに俺は首を横に振る。

 

「あいにく母は先週から香港に行ってて日本にいないんですよ。その間こっちで起きた事件についてはどうにもならないんじゃないかと」

 

「お母さんがいない間は健斗君もうちで生活してるんです。私たちについて来たのもそのためで」

 

「そうなんだ! てっきり健斗の家もこの近くにあるものだと」

 

 なのはの説明でうちの事情を知って、フェイトは口元に手を当てながら驚く。

 その横でリンディさんは再び口を開いた。

 

「そうですか。いずれにしても、(魔法が使えない状態の)私たちでは警察に頼る以外に方法はないでしょう。この国の警察はとても優秀だと聞いています。彼らに任せればアリサさんもすずかさんもきっと無事に帰ってくるでしょう。私たちはそれを待って――」

 

「それはどうかの」

 

 口を挟んできたヴィルに、話をさえぎられたリンディさんも俺たちも彼に目を向ける。

 俺たちの視線を浴びながらヴィルは言った。

 

「儂の考えでは二人をさらった者どもは警察なんぞ恐れておらん。娘がさらわれればあれの父親は必ず警察に連絡する。それぐらい(さら)い屋どもも予想しているはずじゃ。警察が動いても対処できるようにしてある。そう儂は睨んでおるがの」

 

 ヴィルの説明に俺たちは再び考える。確かにその通りだ。

 この国での誘拐、特に身代金誘拐の成功率は0に等しい。事件が発覚すれば身代金を奪うことは不可能というのが日本における誘拐事件の常識だ。

 そんなことも知らず、大企業の令嬢二人が並んでいるのを見かけて誘拐に及んだのか? 衆人ひしめくデパートの中で誰にも気付かれずに二人をさらった手際を考えると、とてもそうは思えない。

 そもそも二人のうち、片方は並外れた運動能力を持つすずかだぞ。あいつが大人しくさらわれるとは思えない。

 それにさっきから気になっていることがある。もしかしたらこの事件……

 

 

 

 やはり警察に任せるだけでいいとは思えない。俺たちの手で二人を見つけたいところだ。

 しかし、リンディさんの言う通りサーチャーや探索魔法も使わずに二人の行方を追うことなど……

 

――!

 

 待てよ。たしかこの前……。

 

 

 

 

 

 

 車は街中を抜けて広い林といくつかの家が並ぶ郊外に出る。そこを通ってしばらくすると、周りにあるものよりずっと大きな邸宅が見えてきた。月村や綺堂の本家に比べたら手狭だが、別荘としてなら二家が持ってるものにも見劣りしない。

 それを見てすずかは驚きながらも、それ以上に納得もした。男たちの自分への態度や警戒ぶりから、“一族”がらみではないかと思っていたのである。

 

 そしてすずかの予想通り、車は邸宅の前で止まり、すずかとアリサは中から引っ張り出された。

 

 

 

「なにするのよ!? 離しなさい!!」

 

「このガキ、おとなしくしろ!」

 

 すずかとアリサは男たちに腕を掴まれながら、邸宅の中へ連れ込まれる。車から邸宅の前に来たあたりでアリサもようやく目覚め、車内で何度も抵抗しようとし、今も自身を連れ込もうとする男の手を焼かせていた。

 あまりの抵抗ぶりに男は荒っぽい言葉でアリサをどやしつける。自身が仕えている家と関係がない娘なのも一因かもしれない。

 一方、すずかは助手席に座っていた男に背を押されるままになっていた。自分が抵抗すればアリサに危害が及ぶかもしれなかったし、すぐ後ろにコートの女がいて抵抗できなかったからでもある。

 

 そしてほどなくある部屋の前へとやってきた。

 男はすずかの腕を掴みながらもう片方の手で部屋をノックする。

 

「遊様、連れてきました」

 

 しばらく経って「入れ」という男の声が返ってくる。

 男はそのまま扉を押してすずかとともに中へと入り、アリサともう一人の男、そしてコートの女もそれに続いた。

 

 中は豪華な部屋だった。色鮮やかな花瓶があちこちに置かれ、虎の皮を剥いで作った絨毯が床に敷かれ、天井からシャンデリアが吊り下げられている、至る所に贅の限りを尽くした部屋だ。月村、綺堂、両当主の部屋もここまでではないだろう。

 その部屋の奥に巨大なベッドが置かれ、その上で“女がうつ伏せに倒れていた”。

 それを見てアリサは顔を赤くするものの、女が着衣したまま倒れているのを見て眉をひそめる。

 一方すずかは驚きもせずに、ベッドの手前の椅子に腰掛けている男を見やる。その視線に気づいたように男は立ち上がり、こちらを振り返って言った。

 

「やあ、待っていたよ。君が月村すずか君だね。私は氷村 遊(ひむら ゆう)。君と同じ《夜の一族》の純血種だ。君から見れば叔父にあたる者だよ」

 

「……叔父様?」

 

 叔父と名乗る男にすずかは困惑の表情を浮かべる。そんな姪に遊は冷涼な笑みを浮かべていた。

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