魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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夜の一族編6 失敗作

 武装した男たちを蹴散らしながら屋敷を進み、二階に上がろうとしたところで辺りの空気が変わったことに気付き足を止める。ヴィルも不穏な気配を感じているらしく立ち止まって周囲を見回している。

 その時、階段の上からカツンカツンと足音を響かせながら、大きなスリットの入ったチャイナ服のような格好をした女が降りてきた。右手に鞭をまとわせ、左手には長短二本の鋭い刃が直接腕に取り付けられ、明らかにただものでないとわかる。

 緑色のヘアバンドを乗せた長い黒髪をたなびかせながら、赤く虚ろな目で女は俺たちを見回す。

 そして彼女は言った。

 

「……侵入者を発見」

 

「――!」

「――ぬっ!」

 

 女が告げると同時に、両脇の通路から鞭が飛び出してくる。俺とヴィルは身をひるがえして鞭を避けた。

 

「侵入者を発見……これより排除に当たります」

 

「侵入者一名から《一族》の反応あり……マスターからの命令を遂行するため、“絶対戒律(リミッター)”を解除します」

 

 鞭と声がかけられた方に目を向けると、そこから階段の上に現れた女と瓜二つの姿と恰好をした女たちが何人も現れた。全員虚ろな目で俺たちを眺めており、生気がまるで感じられない。

 

「ほう、《イレイン》か」

 

「知ってるのか!?」

 

 イレインというらしい女を見てつぶやきを漏らすヴィルに俺は思わず問いをぶつける。ヴィルはイレインたちに視線を向けたまま首を縦に振った。

 

「うむ。お主なら気付いていると思うが、あやつらは人ではない。《一族》の護衛や生き血の補給のために、我らの先祖が造った《自動人形》じゃ。人間はおろか、《一族》でもかなう者は()()()()おらん」

 

「自動人形……」

 

 ヴィルの説明に冷たい汗が流れる。《夜の一族》は人間にはない身体能力と異能を持つ一族だ。だが《一族》はそれで安心しきることはなく、自らを超える力を持つものまでも造り出したらしい。

 しかし、ヴィルの話はそれで終わりではなかった。

 

「そして、あのイレインは自動人形の中でも最も後期に造られた“最終機体”じゃ。戦闘能力ならすべての自動人形の中でも最高の性能を誇る。じゃが――」

 

 ヴィルが言い終わる前にイレインたちが再び鞭を放ってくる。ヴィルはうまくかわすものの、戦慄していたせいか一瞬遅れて腕にかすり、そこから鈍い痛みと強烈な痺れが襲ってきた。

 ティルフィングだけでは厳しいか。まあ今更ヴィルに隠す必要もないだろう。

 

「バリアジャケット装着」

『Jawohl(はっ)』

 

 ティルフィングの返事とともに体が紺色の光に包まれ、コート型のバリアジャケットが装着される。それを見てヴィルが目を丸くした。

 

「ほぉ、“魔導着”か! そちらも300年ぶりに見るわい!」

 

 ヴィルが零した言葉に俺は眉を吊り上げる。魔導着は昔のベルカでバリアジャケットを指す言葉だ。それを知ってるという事は、こいつ本当に――

 

「では儂も備えるとするかの。さすがにイレインが相手だとこのままではきついわい。男の血というのは不満じゃが――」

 

 そういうやいなや、ヴィルは素早く俺のそばへ跳んできて腕を掴んでくる。

 そしてヴィルは袖をめくりあげ、口を大きく開ける。

 

――まさか。

 

 そう思う間もなく、ヴィルは勢いよく俺の腕に噛みついた。

 

「――!」

 

「ん……んっ……くはぁ! やはり同性の血は口に合わんの。あやつの味に似てなければとても飲めんわい」

 

 勝手に一口分の血を吸っておきながら、ヴィルは不味そうに口を拭う。俺だって男に腕を噛まれていい気はしないというのに。

 

「じゃがまあ、あやつらを片付けるぐらいなら十分じゃ。ゆくぞ人形ども! 一族の総当主を舐めるでないわ!!」

 

 そう叫びながらヴィルは天井近くまで一気に跳躍し、十本の指先をイレインたちに向ける。そして――

 

「はあああああ!!」

 

 ヴィルの指から無数の爪が放たれ、イレインたちはそれをまともに受けて一体また一体と倒れていく。

 しかし、それでもすべてのイレインが攻撃を受けたわけではなく、ヴィルの死角にいたイレインは空中にいる彼に向けて鞭をまとわせた右手を向ける。それを見て――

 

「はああ!」

 

 ほぼ反射的に俺はイレインに突貫し、《雷徹》で彼女たちを斬りつける。

 俺の背後から別のイレインたちが鞭を向けてくる。だが彼女らは空中から降り注ぐ爪の嵐を食らって、その場に倒れた。

 

「――」

 

 残る一体が左手に取り付けた刃で俺に切りかかってきて、俺はティルフィングで受け止める。見た目に反してその力は重く、腕に痺れが伝わってくる。

 ふいにイレインは左手を上げる。その拍子に俺の剣は空を切り、大きな隙を晒してしまう。イレインはそれを狙って再び刃を振り下ろそうとした。

 

「御神流――《疾風(はやて)》!」

 

 空を切った状態のままイレインの首元に狙いを定め、相手が刃を振り下ろすよりも早く剣を振り上げる。

 首から上はどさりと地面に落ち、頭を失ったイレインはその場に立ったまま動きを止めた。

 

 剣を振り刃についたオイルを払っていると、横からヴィルが声をかけてきた。

 

「やるのう! それもベルカの剣術か?」

 

 彼の口からベルカという言葉が出てももう驚かず、俺は首を横に振る。

 

「いや、これは現世で母親から教わった技だ。《御神流》と呼ぶらしい」

 

「ああ、忍の男もそんな名前の技を使っておるらしいな。なるほど、さくらが手放しで褒めるわけじゃ。魔具とはいえイレインを斬ってしまうとはのう」

 

 やはり忍さんの事も知っているのか。さくらという人も俺が知ってるさくらさんで間違いなさそうだな。

 

「ところで、イレインというのはどのくらいいるんだ? もしかしてこれで全部なのか?」

 

 わずかほど期待しながら問うものの、ヴィルは首を横に振る。

 

「さあの。イレインは失敗作で一体のみしか作られておらんはずじゃ。それがこんなに現れるとは。儂も驚いておる」

 

「失敗作だと? 自動人形の中で最も強いのにか?」

 

 疑念に満ちた声色で尋ねる俺にヴィルは首を縦に振った。

 

「元々イレインは、《エーディリヒ式》という、人に近い心を持たせるために造られた自動人形なのじゃが、自我が強すぎたせいで主たる一族に反旗を翻しての。一族の技術者のほとんどを殺害したうえで逃亡を目論んだのじゃ。

 それゆえ一族は多くの自動人形を駆り出してイレインを停止させ、失敗作として封印することにしたのじゃ。そのようなものを二体以上も造ると思うか。そもそも技術者のほとんどがイレインに殺されたために、一族は高度な技術を失い、自動人形を造れる者はもう存在せんはずじゃ」

 

「だが現にイレインは何体も現れてるし、感情らしいものもろくになかったぞ! お前の話と違うじゃないか!」

 

 矢継ぎ早に問いかける俺にヴィルは腕を組んで言った。

 

「ふむ、それなんじゃがな、考えられることがないでもない。イレインにはオリジナルの他に、オリジナルの命令を受けて動く“子機”があっての。親機(オリジナル)に比べれば戦闘能力は低く自我もほとんどないが、親機の命令通りに動く。その子機を改良すれば量産機と呼べるものができあがるかもしれん。それだけでも莫大な金と高い技術が必要じゃが、イレインの設計図と今の人間たちの科学力をあわせれば不可能ではないかもしれん。じゃがそうなると……」

 

「強い自我と戦闘能力を持つ本物のイレインが別にいるってことか……」

 

 俺の言葉にヴィルはこくりとうなずく。

 

「うむ、この館の主とともにおるはずじゃ。高い戦闘能力を持つオリジナルを自身の傍に置かん理由もないしの」

 

 それを聞いて俺は2階に続く階段を見上げる。おそらくここより上にすずかとアリサに彼女たちをさらった者がいるはずだ。そしてオリジナルのイレインも……。

 それにしても親機の命令によって動く子機か。《マリアージュ》みたいだな。人工知能によって動く兵器も人間のように指揮系統が必要なのだろうか?

 

 そんなことを考えてる暇じゃないと自身を叱咤しながらヴィルの方を見ると、彼は今まで進んできた通路の方を見ていた。どうしたと言いかけた俺に――

 

「……健斗、悪いがここから先はお主一人で行け」

 

「えっ?」

 

 突然の言葉に俺は思わず聞き返す。ヴィルは通路の方を見ながら言った。

 

「後ろから大量の追手がきよる。この気配や足音は量産型のイレインと見て間違いなかろう」

 

「なに!? じゃあさっきのように二人で――」

「阿呆!!」

 

 言いかけた俺にヴィルは鋭い一喝を浴びせる。ヴィルは続けて言う。

 

「このまま量産型を相手にしても体力を消耗するだけじゃ。万全でない状態で勝てるほどオリジナルのイレインは甘くないぞ。……それにさっきのでは到底物足りないと思っていたところじゃ。ここは儂に任せてお主はすずかたちを助けに行け! すずかを不埒者の魔の手から救ってみせれば、少しはお主の事を認めてやろう!」

 

 娘との結婚を認める寸前の頑固親父のような台詞を言いながら、ヴィルは二階を指す。俺はそちらを向きながら――

 

「無茶はするなよ!」

 

「誰にものを言っておる。さっさと行けい小童!」

 

 激励を交わしたところで通路側からカチャ、カチャという足音が響いてくる。それを背にしながら俺は階段を駆け上がった。

 

 

 

 健斗が去ったところで、大量のイレインがヴィルの前に現れる。彼女らの前でヴィルは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「また大量に現れたもんじゃのう。イレインを持つ者と子機の増産ができるほどの資金を持つ者となれば、おのずとすずかをさらった者どもの正体は掴めるが、あやつらは健斗に任せるとしよう。――来い鉄屑ども。お主らに儂の相手が務まるかのう!」

 

 

 

 

 

 

 イレインを何体か倒しながら2階を進むと、広間らしき開けた空間に出た。そこに――

 

「健斗君!」

「健斗!」

 

「すずか! アリサ!」

 

 広間の奥にいる二人の姿を捕らえ、俺は彼女たちの名を叫ぶ。すると……。

 

「ほう、君一人で来たのか。お友達はどうしたのかな?」

 

 よく通る、しかし陰湿そうな響きを帯びた声がして、俺は彼女たちの隣に目を向ける。

 そこには整った顔の青年がいた。赤毛と碧眼を備えた、見た目だけなら好青年と呼べる印象の男だ。しかし、他者を見下している目つきと口調が彼の醜悪な内面を表していた。

 青年の横には金縁の眼鏡をかけた中年の男と、すずかたちを押さえている男二人。

 そして彼らの後ろにコートを着た金髪の女がいる。紫色の瞳はさっき倒した量産型のように光がない……間違いない。あいつが本物の――。

 

 俺は首謀者らしき赤毛の男を睨む。

 

「お前が二人を連れ去った奴らの首謀者か?」

 

「その言い方は不服だが、一応そうだと言っておこう。私は氷村 遊(ひむら ゆう)。すずかの叔父にして婚約者だよ」

 

「婚約者……?」

 

 その言葉に俺はすずかを見るも、すずかは首をぶんぶん横に振る。とりあえずすずかが望んでいる話じゃなさそうだな。

 すずかの横で遊はふんと鼻を鳴らし。

 

「そういう君は御神健斗君でいいのかな? うちのすずかがずいぶんお世話になっているみたいじゃないか。もう一人の女の子と一緒に大変お世話になって……いや、お世話をしてもらってると言った方が正しいのかな?」

 

 そう言って遊は嫌味そうに笑い、後ろの男たちも遊に合わせて笑い声をあげる。彼らに対し俺は左手を振りながら叫んだ。

 

「余計なお世話だ! とにかく二人を解放しろ! でないと――」

 

「でないと? でないとどうするって言うんだ? その剣で私たちを斬るというのかい? 最近の子供は怖いな。そんなものをどこで手に入れたのやら。見境なしの好色ぶりに加え、気に入らないことがあるとすぐに人を脅かす粗暴さ……やはり君にすずかを渡すわけにはいかない。命が惜しければここから立ち去りたまえ」

 

 俺が持っている剣を見て、遊はそんなことをのたまう。それに対して俺も言い返す。

 

「無理やり女の子をさらったり、銃を持つ男たちや自動人形というのを仕向けてくる奴に言われたくないな。すずかを渡すわけにはいかないのはこっちの方だ。すずかもアリサも俺が連れて帰る!」

 

「健斗君……」

 

 遊のみならず皆に向けて宣言すると、すずかは嬉しそうに俺の名を呼び、アリサも少し顔を赤くする。

 一方、遊は不快そうに顔をしかめると……

 

「聞き分けの悪い子供は嫌いだよ。私はこう言ったはずだ、命が惜しければ立ち去れと。君がその気ならこちらもそれ相応の対応を取らなければならない」

 

 そう言って遊はピンと指を鳴らす。

 すると今まで遊たちの後ろにいたコートの女が前に進み出てきて、長いコートを脱ぎ捨てた。

 露わになった彼女の格好は量産型と同じように、大きなスリットの入ったチャイナ服のような赤い服を着て、“右手と左手には”それぞれ黒い鞭が巻き付けられ、長短二本の刃が腕に取り付けられている。

 こいつが……

 

「《イレイン》! その色違い目のガキを殺せ! 我らに食われるだけの家畜の分際で尊き純血種に手を出そうとしたことを後悔させてやれ!!」

 

 吼えるように遊が命じると、イレインは刃が取り付けられている両腕を持ち上げながら言った。

 

「了解……これより《夜の一族》に仇なす敵を排除します……」

 

 量産型のように感情のない声をこぼしてから、イレインは俺の眼前に飛び掛かってきた。

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