魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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留学編1 地上部隊

 時空管理局には大きく分けて二つの部署があり、次元空間や管理外世界を含む複数の次元世界に渡って発生する事件の対処やロストロギアの回収にあたる『次元航行部隊』と、各管理世界に駐留し当該世界の治安維持を担う『地上部隊』が存在する。

 『本局』を本部とする次元航行部隊に対し、地上部隊はミッドチルダの首都クラナガンの中央に天高くそびえる『地上本部』を本部としている。

 

 転送ポートで本局を発った俺たちは、その地上本部に来ていた。

 

 

 

 クロノとエイミィさんに連れられて、本部の中や外の景色を眺めながら出入り口がある一階を目指している途中で、青い士官服を着た男と鉢合わせた。

 茶色い髪を角刈りに刈り上げ、頬から口元、顎にいたるまで髭を蓄えた、貫禄のある中年の男だ。彼の傍には茶色い地上部隊の制服を着た、黒髪の男が控えている。

 中年の男は、黒い執務官服を着たクロノと次元航行部隊の制服を着たエイミィさんを見て眉をひそめる。彼に対してクロノは右手を頭の上に当てて敬礼をし、エイミィさんも慌てて敬礼をした。

 

「ゲイズ一佐、ご無沙汰しています」

 

「執務官と本局の局員か。“海”の人間が地上本部に何の用だ?」

 

 不愉快そうな態度を隠さず問いかけるゲイズ一佐に、クロノは臆する様子もなく答える。

 

「こちらの嘱託魔導師たちを、研修のために第四陸士訓練校へ向かわせるためです。本局と繋がっている転送ポートは地上本部にしかありませんので、勝手ながらお邪魔させていただいてます。すぐに失礼しますので」

 

「ほう、嘱託魔導師か。てっきり社会見学に来ていた“同級生”かと思ったぞ」

 

 クロノの本当の歳を知ってか知らずかそんな言葉をかける一佐に、クロノは顔をひくつかせながらも「違います」と否定する。

 それに対し一佐は気にする素振りもなく、俺たちに向かって口を開いた。

 

「首都防衛隊の指揮を執っているレジアス・ゲイズだ。こっちは私の部下のゼスト・グランガイツ。本局からここまでよく来てくれた。管理局の局員として歓迎させてもらおう」

 

 不承不承ながらも自己紹介をしてくれる一佐と頭を下げるゼストに対し、俺たちも慌てて。

 

「み、御神健斗です! これから局の魔導師として精一杯務めるつもりです!」

 

「高町なのはです! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 緊張のせいか、まだ慣れていないせいか、敬礼も忘れて名乗る俺たちだが、一佐は意外にも感心したように目を丸くし、ゼストも目を見張った。そして彼らの視線は彼女の方に向く。

 それに対して……

 

「フェイト・テスタロッサです。よ、よろしくお願いします」

 

 恐る恐る、だがしっかりとフェイトは自己紹介を遂げる。しかし一佐は、

 

「テスタロッサだと! まさか、お前がJ・D事件の――」

 

 事件の名と顔をしかめる一佐に、フェイトは思わず縮み上がる。俺となのははフェイトをかばうように前に立ち、そんな俺たちにも一佐は剣呑な顔つきで睨みつける。

 しかしゼストが彼の肩を掴み「レジアス」と呼びながら首を横に振ると、一佐は首をうなずきながらゼストの腕を払い、気を取り直すように咳払いをして口を開いた。

 

「失礼した、予想よりしっかりしているようだな。……しかし、本局の魔導師がミッドの陸士校に研修とはどういう風の吹き回しだ? 本局にも訓練校があったはずだが」

 

「あちらに優秀な教官がいらっしゃると聞いて、ハラオウン総務官とロウラン本部長のお計らいで、一ヶ月の間第四陸士校で学ばせてもらえることになりました。それまでの間彼らと鉢合わせることもあると思いますが、なにとぞよろしくお願いします」

 

 誤魔化しまじりに尋ねる一佐に、クロノは率直に返答する。すると一佐は、

 

「できれば一人か二人はそのまま“陸”に残してくれると助かるのだがな。まあいい。仕事があるのでそろそろ失礼する。行くぞゼスト!」

 

 そう吐き捨てて一佐は俺たちを横切り、ゼストも俺たちに軽く頭を下げて一佐の後に続く。その際、彼から鋭い目を向けられて……。

 

「健斗君、どうしたの?」

 

「――いえ、何でもありません」

 

 怪訝そうに尋ねるエイミィさんに俺は首を横に振る。そんな俺たちに対してゲイズ一佐とゼストはこちらを振り返ることなく遠ざかっていった。

 彼らを見送ってから、俺たちも急いで一階へ向かうことにした。

 

 

 

(緑の左眼を含んだオッドアイに、“ケント”という名か。まさかとは思うが……)

 

 

 

 

 

 

「すまなかったな。嫌な思いをさせて」

 

 地上本部を出て、用意されていた車に乗り込んでから少しして、クロノは俺たちに謝ってきた。思わず彼の方を向く俺たちにクロノは続けて言う。

 

「“海”と“陸”――次元航行部隊と地上部隊は昔から予算や人員を巡っての衝突が絶えなくてね。特に、先ほどのレジアス・ゲイズ一佐は地上部隊の権限の拡充を訴え続けていて、僕たちのような本局側の人間を目の敵にしているんだ。“海”に比べて“地上”に予算と人員が十分に割り当てられていないのも事実だから彼に賛同する者も多く、こちらも下手に事を構えるわけにはいかないんだ」

 

 派閥争いか。いくつもの世界を束ねるほど大きな組織なら当然起こりうることだが、ミッドチルダに来て早々見せつけられるとは。

 

「それに犯罪者に対する当たりも強い人で、前科のある人を局員に登用する事に反対しているみたいなんだって。あの人みたいに考えてる人は少ないから、気にしない方がいいよ」

 

「うん、大丈夫……別に気にしていないよ。あの事件のことを知ったら、あの反応も当然だと思う」

 

 気遣うように言うエイミィさんにフェイトは笑みを浮かべながら答えるものの、その笑みはぎこちない。リンディさんたちと違って、自分を犯罪者として見ている人間が現れたことにショックを隠せないようだ。

 しかし無理やり加担させられていたフェイトを毛嫌いしているとは相当だな。プレシアさんやグレアムさん、ヴォルケンリッターとリインにはどれほど嫌悪を抱いているのだろうか。

 フェイトの気持ちを察したのかクロノは励ますように言った。

 

「J・D事件の詳細を知っている者は局の中でも一握りしかいない。特に容疑者に関してはプライバシー保護の観点があるからね。研修先ではさっきのようなことは起こらないはずだから安心するといい」

 

「う、うん……」

 

 そう言ってクロノは前に体を向ける。俺たちも雑談をする気分ではなく、外に視線を移す。

 窓の外には、途切れることなく続く高層ビルの群れと頭上を這うバイパスが見える。東京都心や一度だけ行ったことのあるニューヨークに似ている。

 ここが第1世界ミッドチルダの首都――

 

「『クラナガン』。ミッドチルダはもちろん、次元世界の中で最大の規模を誇る都市だよ……色々問題もあるけれどね」

 

 言いづらそうに付け足すクロノに、その問題とやらを尋ねることもせず、俺たちはしばらくの間、窓から見えるクラナガンの景色を眺めていた。

 

 

 

 

 

 その後、俺たちを乗せた車は『6番ポート』という施設につき、そこから転移してミッドチルダの北部へと移動し、それからさらに二時間かけて、俺たちは郊外に建てられた建物に辿り着いた。

 なお、それまでの間、飛行魔法は一度も使っていない。現代、各管理世界で飛行魔法を使うには管理局からの許可を取らなければならず、局員でも緊急時でなければ許可が下りることはないとのことだ。窮屈だが、飛行魔法が悪用されるようなことを防ぐには仕方ないことだろう。

 

 ともあれ、ここが俺たちがこれから一ヶ月間通う留学先――『第四陸士訓練校』のようだ。

 

 

 

 

 

 

 到着してすぐ学校から出てきた職員――地上部隊所属らしく、やはり茶色の制服を着ている――に案内されて、俺たちは学長室へと通された。

 学長はゲイズ一佐と同年代か少し上だったが、笑顔を絶やさない温和そうな中老の男性だった。

 

「ええ、総務官たちからもお話は伺っています。そちらの嘱託魔導師さんたちをしばらく当校に預けたいと……それも“彼女”を指導教官につけた上で」

 

 学長の言葉にクロノはうなずく。

 

「はい。ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、お願いできないでしょうか」

 

 心なしか頭をわずかに下げながら頼み込むクロノに学長もうなずきを返して。

 

「ええ、大丈夫です。その手の要望は何度もありますから。それに、教えられる人材が出てくるのは我々にとっても喜ばしい事ですからね。“陸”も“海”も人手不足は深刻ですから。……ですが、訓練校としての性質上手心は加えられませんよ。それでもよければですが……」

 

 表情を硬くして学長はクロノとエイミィさん、そして俺たちを見る。それに――

 

「承知しています。ぜひ――」

 

「はい! こちらからお願いしたいくらいです! どうか厳しい指導をお願いします!」

 

 クロノの言葉を遮りながら、俺は椅子から立ち上がり学長に深く頭を下げる。すると横にいる二人も……

 

「私からもお願いします! 早く立派な魔導師になって、みんなの役に立てるようになりたいんです!」

 

「私もお願いします! リンディさんやクロノにここまでしてもらって、自分だけ甘えるなんてできません!」

 

 俺に続いて、なのはとフェイトも立ち上がりながら頭を下げる。それを見て学長は深い笑みを浮かべた。

 

「……わかりました。『短期プログラム』として、一ヶ月の間君たちを当校の生徒としましょう。君たちの担当教官を呼びますので、しばらく待っていてください」

 

 そう言って学長はモニターを浮かべ、学長室に来るように言う。

 それからしばらくして、ドアを叩く音が聞こえてきた。

 

「コラードです」

 

「どうぞ、入ってください」

 

 学長が許可するとドアが左右に開き、「失礼します」の一言とともに、後ろ髪を団子状に結んだ初老の女性が入ってくる。

 学長は俺たちに視線を戻し――

 

「紹介します。彼女が――」

 

「ああ、学長、自分から言わせてもらえませんか。教え子には自分から自己紹介したいんです」

 

 女性がそう言うと、学長は納得したようにうなずき椅子に深く腰を下ろす。

 女性は俺たちに向き直る。俺たちも腰を上げて彼女と向かい合った。

 

「あなたたちの担当教官を務めるファーン・コラードです。短い間になりますが、よろしくお願いしますね」

 

 そう言って、ファーン教官は優しい微笑みを見せた。




・原作に詳しい方に向けた補足

原作でなのはたちが陸士校にいた期間は三ヶ月ですが、地球での学業の兼ね合いを考えると無理が出てしまいますので、夏休み中の一ヶ月に短縮しています。
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