学長やファーン教官との面談が終わってすぐ、クロノとエイミィさんは早々に訓練校を後にし、俺となのはとフェイトは訓練用の服に着替えてからグラウンドに出て、他の訓練生と一緒の訓練に混ざることになった。
「なんだあいつらは? 訓練の見学か?」
「うわぁ、かわいい! 三人とも10歳くらい?」
「こら、静かにしろ! 訓練中止! 全員集まれ!!」
訓練を止めて俺たちを見ながら騒ぐ生徒たちに、教官は声を張り上げて整列させる。生徒たちは男女とも皆俺たちより大きく、地球でいえば中学生ぐらいの年齢の者がほとんどだった。
教官は俺たちに来るように視線で促してから口を開く。その合間に俺たちも彼らの元へ向かった。
「局に登用された嘱託魔導師で、これから一ヶ月の間だけここで訓練をすることになった。名前だけでいい、簡単な自己紹介をしろ!」
「御神健斗です! 一ヶ月だけですが、よろしくお願いします!」
「高町なのはです! よろしくお願いします!」
「フェイト・テスタロッサです! ご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします!」
教官に促され自己紹介する俺たちに、生徒たちから拍手が返ってくる。一方、一部の生徒は拍手しながらも仲間と目線と念話を交わしていた。
《一ヶ月だけってことは短期プログラムの子? あの年で局に採用されたって相当優秀な子たちなのかな?》
《さあ。でも、あのくらいの子がここにくるのなんて珍しいね》
《ミカミ? タナマチ? 変な名前だな。どこの世界の言葉だ?》
《さあな。少なくともミッド生まれじゃなさそうだ。ルーフェンか、もしかしたら管理外の辺境世界かもな》
《管理外世界の出身ねぇ……》
各々の頭の中でそんなやり取りが交わされているとも知らず、教官はまた声を張り上げ――
「紹介は終わりだ! すぐに訓練を再開する。お前たちも準備しろ!」
「「「はいっ!!」」」
【午前 基礎訓練】
俺たちの紹介が終わってすぐ、何人かの生徒たちがグラウンドの各所に三角ポールを設置していき、他の生徒たちはいくつかの列に分かれて整列する。なのはとフェイトは教官の指示で二人一緒に並び、俺は別の列の後方に行かされた。
そこで……
「よっ」
「……どうも」
俺の隣にいた生徒に声をかけられ、俺は短い返事を返す。赤毛と赤い眼が特徴的な、逞しい体つきの精悍な男だ。訝しむ俺に彼は言ってきた。
「教官から君と組めって言われてさ。しばらくの間君とペアになるみたいだ。エリックと呼んでくれ」
「こちらこそ。御神健斗です」
返事を返す俺にエリックさんは肩をすくめて、
「別に敬語じゃなくていい。ここじゃ年が違ってるのが当たり前だし、みんなほとんど一年で卒業するから先輩後輩なんてものもないしな。堅苦しい言葉遣いはよそうぜ」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
さっそくタメ口になる俺にエリックはおかしそうな笑い声をあげる。
そこでホイッスルの音が響き、教官が声を張り上げた。
「次! Eグループ、ラン&シフト!」
その言葉とともに二人組の男子が列の最前線に出る。それを眺めながらエリックは俺に訓練の内容を説明してくれた。
「基礎訓練の名のとおり、内容は難しくない。
エリックが言い終えたと同時にホイッスルが鳴り、例の男子二人が旗を目指して一気に駆け出す。
先頭の男子がコーンを避けながら進むが、曲がる時に勢い余って足をコーンに引っ掛けてしまい、相方に怒鳴られながら体勢を立て直すも、今度は前の男を意識するあまり、後ろの男が壁にぶつかってしまい、教官から安全確認違反と視野狭窄の烙印を押され、怒鳴られながら腕立て伏せ20回を命じられてしまった。
「次、Fグループ!」
Eグループを叱り飛ばしてすぐに、教官は次のグループを呼び出す。
次に出てきたのは、二つに結んだツインテール同士の女の子二人――なのはとフェイトだった。
「早いな。もうお前の連れの番か。あの女の子たち、どこまでいけると思う?」
新米二人を眺めながらエリックは尋ねてくる。それに対し、なのはと言葉を交わしながら先頭に立つフェイトを見て、俺は言った。
「たぶん、片方は一番いい記録を出すと思う」
「なに……?」
エリックが怪訝そうに俺の方を向いた時だった。
教官がホイッスルを鳴らし、フェイトとなのはが駆け出す。そこから先は、少なくとも俺たち以外の生徒にとっては目を疑うような光景だった。
フェイトの姿がかき消えたと思った次の瞬間には、彼女は曲がり角のところに現れ、そしてまた消えたと思ったら次の曲がり角に現れ、あっという間に旗のすぐそばまで来てしまった。
それに対して、なのはは小学生並みの慎ましい速度で息を切らしながらコーンを避け、時間をかけて旗に辿り着く。その側で二人は陣形を展開し、彼女たちの番は終了となった。
「え、Fグループよし! 次、Gグループ!」
教官の言葉に今度は誰だと辺りを見回す。そこへエリックは俺の肩を叩きながら言った。
「次は俺たちの番だ。どっちが前に出る? 最終的には二人とも旗に辿り着かなきゃならないから、俺はどっちでも構わないが」
「じゃあ俺が前に出る。エリックは
そう言って俺は前列に出ながら、足に魔力を込めた。
「シュヴァルツェ・ヴィルクング」
詠唱を唱えた瞬間、足に魔力がこもる。
これは魔導師としての訓練。身体能力を上げるための訓練とはいえ、魔法を使ったらだめということはないはずだ。
グラウンド中に軽快なホイッスルの音が響く。
その瞬間、俺は足を前に踏み出し、前に向かって駆けだした。
大人並みの脚力に、後ろのエリックを含めたほとんどの生徒が息を飲む。それを横目に俺はコーンを避けては方向を変え、コーンや壁をかいくぐりながらフラッグのもとに辿り着いた。ほどなくしてエリックも追いついてくる。
彼の到着を待ちながら所定の位置に付き、エリックとともに陣を組んだ。
教官はほうと息をついてから。
「Gグループよし! では次の訓練に移る! 訓練用の壁の前に散会!」
教官の指示通り、生徒たちはまた何組かに分かれて各所に設置された薄壁の方に散っていく。
そんな中、エリックは再び俺に訓練内容を説明してくれた。
「次は
エリックが指さす先では、男子が輪の形を作るように腕を組み、女子がその上に足を乗せる。そのまま男子は手に力を込めて女子を壁の上まで放り上げ、上手く壁の上によじ登った女子は、その上から男子を引き上げた。
それを見ながらエリックは言う。
「さすがに今度の訓練は難しいな。一番低い壁ならお前たちでも登れそうだが、お前の相手ができそうなのが、あの二人のどっちかじゃ……」
そう言ってエリックは一番低い壁を登っているなのはとフェイトを見る。
彼の言う通り、今度の訓練はお互いにある程度の身長と腕力がないと厳しい。押し上げる方はもちろん、押し上げられる方も下にいる相手の手を掴めるだけの身体の長さと引っ張り上げるだけの腕力がないといけないからだ。なのはやフェイトの力じゃ俺を押し上げることも引っ張り上げることも難しいし、身体能力を上げる魔法も習得していない。
だが……
「ん? どうした?」
怪訝そうに尋ねるエリックに俺は言った。
「エリック、また協力してくれないか。お前は同年代の中でも身長が高い方だし力もありそうだ。俺を壁の上まで押し上げるくらいわけないだろう」
「――はあ!? まじか? あの上に上がれたとしても、そこから俺を引っ張り上げるんだぞ!」
素っ頓狂な声を上げるエリックに俺はうなずきを見せる。するとエリックは困ったように頭をかいて、
「……わかった。俺がお前を上に上げるから、お前はあの上から俺を引き上げてくれ」
それから何組かが壁の飛越に成功したり失敗したりして、俺たちの番が回ってきた。
「次はGグループだが……本当にこの組み合わせでやるのか? 無理にやろうとしなくてもいいんだぞ」
「いえ、やらせてください!」
頼むように言うと教官は仕方なさそうに、
「わかった。はじめろ!」
教官が号令をかけると、そびえたつ壁を背にしながらエリックは輪の形に両手を組む。俺はその手の上に足を乗せた。
エリックは俺を乗せた腕に力を込めて……。
「…………――はあっ!」
「――!?」
勢いを付けすぎたのか、エリックに放り投げられた途端、俺の体は壁より体三つ分は浮く。見学していたなのはたちをはじめ生徒たちは動きを止めて俺を見上げ、教官も舌打ちをしながら俺を助けようとする。
だが俺は、
――これならいける。
壁の縁を眼下に収めながら体をひねり、空中で体勢を整え壁の上に着地する。
そして、俺はすかさず腕に魔力を込めながら下にいるエリックに手を伸ばし。
「エリック、掴まれ!」
「……お、おう!」
魔力で補強された腕は自分より5つ近く上のエリックの身体を軽々と引っ張り上げ、エリックはもう片方の手で壁の
わあああああああっ!
あわやピンチというところで見事壁の上に着地し、課題をクリアした俺に生徒たちは喝采をあげる。なのはとフェイトも感心したように拍手を送っていた。
一方、エリックは俺の横で釈然としない表情を浮かべていた。
「午前の訓練はここまで! 一時間休憩とする! 午後までしっかり休息を取れ!」
「はい! ありがとうございました!!」
教官に生徒たちは一糸乱れず返事を返す。
それから生徒たちはグループごとに集まり昼食をとりに向かう。俺もなのはたちの所へ行こうとするが……
「健斗!」
「……エリック」
エリックに声をかけられ俺は彼の方を振り向く。
「さっきは悪かったな。いつもの調子でつい力を入れ過ぎちまってよ。お詫びに今日は好きなのおごってやるよ。一緒に食おうぜ」
「いや、気にしなくていいよ。ただ――」
「健斗くーん!」
言いかけたところでなのはの呼び声が響く。それからすぐ、なのはとフェイトが俺たちの所にやってきた。
「健斗君もこれからご飯でしょ。一緒に食べよ!」
「そっちの人は、確か健斗とペアだった……もしかしてその人と食べるつもりだったのかな?」
フェイトの問いに俺はエリックに横目に見ながら、
「あ、ああ。よかったらエリックも入れてやってほしいんだが……」
「私は別にいいけど」
「私も。エリックさんが嫌じゃなければ」
「そうか。じゃあ――」
「――ねえ君たち!」
俺が言いかけたところで、女子たちに声をかけられ、思わず言葉を止めて彼女たちを見る。
彼女たちは気にした様子もなく口を開く
「お昼私たちと一緒に食べない? 食事しながらちょっと君たちのこと聞かせてよ」
「えっ……」
「別にいいですけど……」
「やった! じゃあ早速食堂行こ! あそこ持ち込みOKだからお弁当でも気にしなくていいよ!」
なのはとフェイトの同意を得て、女子たちは二人の背中を押しながら食堂へ向かう。
俺はエリックに向かって、
「じゃあ俺たちも行くか。ちょっと賑やかになりそうだけど」
そう言うとエリックは、
「……いや、俺はやっぱりいい。女子に囲まれるの苦手だからさ。じゃあまた午後で会おう!」
そう言ってエリックは俺たちに背を向けてそそくさと行ってしまった。そこで声をかけてきた女子の一人が、
「おおーい、きみー! 何やってんの? 早くしないと食堂混んじゃうよ!!」
「あっ、今行きます!」
そう返事を返しながら、俺も急いで彼女たちのもとへ向かった。
◇
その頃、地上本部では……。
「レジアス、また昼も摂らずに仕事か……一体何を見ている?」
「……J・D事件の報告書だ。とある筋から手に入ってな。ちょうどいい、お前も見てみろ」
執務室に入って来るなり、伺いも立てず率直に尋ねてくるゼストに、レジアスは空間モニターを操作しながらぶっきらぼうに命じる。ゼストは何も言わず椅子に腰かけながらモニターを開いた。
それからしばらくして、ゼストが報告書にざっと目を通したころを見計らって、レジアスは再び口を開いた。
「今朝、あの執務官が連れていたフェイト・テスタロッサという娘。やはりJ・D事件の実行犯の一人のようだ。そんな人間がなぜ本局や地上本部を自由に歩き回っている? 本来なら牢獄の中にいるはずだぞ!」
忌々しそうに吐き捨てるレジアスにゼストはため息をついてから言葉を返す。
「フェイト・テスタロッサは裁判で数年間の保護観察が決まり、嘱託魔導師になったことで管理局内の施設の出入りも認められている。あの子の境遇を考えればそれぐらいの措置が取られるのも無理はないだろう。生まれた時から母親とその使い魔に手駒として教育され、命令を果たしても果たさなくても頬を打たれる日々を過ごしたとあってはな。次元法でも、そのような子供に対しては
「ふん、詭弁にすぎん。子供がそうそう親の思い通りになるものか。わしの娘など幼い頃から親の言うことに逆らってばかりで、わしの許しもなく管理局に入ると言い出しておるのだぞ。母親に逆らえなかったなど罪を許す理由になるものか!」
レジアスの話をゼストは表情一つ変えずに聞き流す。それに関してはもう何度も聞いた。レジアスが男手一つで育てた娘の将来を巡って、彼女と何度も衝突していることはよく知っている。もしもの時は側近として傍に置こうとしている事も。
それをよそにレジアスはまだまくし立てる。
「それにプレシア・テスタロッサと、テスタロッサ親子の使い魔、そしてギル・グレアムたちまでことごとく無罪に等しい結果を迎えているのはどういうことだ? 次元災害を引き起こすほどのロストロギアを手に入れようとした者たちが、なぜ揃いも揃って野放しになっている?」
誰にともない問いにゼストは首を横に振る。
「さあな。さすがにプレシアとグレアムの処遇は俺も解せん。ただ、それについては“最高評議会”が口出ししたという噂があるが」
「――!」
それを聞いた途端レジアスはかっと目を見開く。それを見て、
「レジアス……どうした? 何か知ってることでも?」
「な、何でもない! 思わぬ言葉に驚いただけだ。ところで、お前から見て何か気になることはないか? フェイトという娘をミッドから叩き出せそうな情報などは……」
その問いにゼストは首を横に振る。
「いや、俺が見た限りそのようなものはない。……ただ」
「ただ……なんだ?」
ただという言葉にレジアスは耳ざとく反応し、迫るように尋ねるが、ゼストはまた首を横に振り。
「いや、何でもない。考え過ぎのようだ。気にしないでくれ」
「……そうか」
ゼストが言うとレジアスはそれ以上追求せずあっさりうなずく。こういう時ゼストは何度聞いても答えてはくれないし、おそらく主題に関係がある事ではない。それはこれまでの付き合いでよくわかっている。
一方、レジアスの反対側で、ゼストはモニターに映る御神健斗の写真とプロフィールを眺めていた。
(管理外世界で生まれ育ったにもかかわらず古代ベルカ式の魔法を使い、まわりよりはるかに早く動ける
◇
「……というわけで訓練校に入ることになったんですけど、午前中はいい所見せられなくて。やっぱり運動は苦手です」
初日限りの親の手作り弁当を食べながらなのははこぼす。それに対して先輩たちは、
「気にしなくていいよ。あたしらも入ってきたばっかの頃はそんな感じだったし。ってか編入していきなりあっさり訓練をこなされたらあたしたちの立場がないって」
「でもフェイトちゃんと健斗君は慣れてるみたいだったね。ランや飛越の時にすごい動きしてたし、ここに来る前からどっかで訓練を受けてきたとか?」
先輩たちは俺やフェイトに話を向けてくる。それに俺たちは、
「私は幼少の頃から家庭教師みたいな人から体術や魔法の使い方を教わってて。そのためだと思います」
「俺も親が剣の使い手で、一日中訓練したりしたこともありますから。多分そのためでしょう」
あと前世で、シュトゥラ学術院で騎士としての訓練を受けていたというのも大きいだろうな。あそこにいた頃は数刻間ぶっ通しで素振りや模擬戦というのもざらだった。
「へえ。ところで健斗君、君ってベルカ式を使うんだってね。瞳の色も左右違うし……もしかして君、ベルカ王族の末裔とかじゃない?」
「――ゴホッ!」
前世の頃を思い返している時に、ちょうどそんな話を出されて、俺は思わずむせてしまう。そう言ってきた先輩は「大丈夫?」と言いながらも話を続ける。
「聖王戦争とかでほとんどの王族が断絶したっていうけど、生き残っている王族もわずかにいるって聞くからさ。もしかしたらって思うんだけど……」
「まさか――俺は平凡に育ったただの一般人ですよ。王族なんかなわけないじゃないですか!」
「そうだよ。この子たちチキュウって世界から来たって言ってたし、ベルカの王族なわけないじゃん。ごめんね君、こいつ、こういう冗談でからかってくる奴だから」
「あははっ、大げさに反応するもんだからつい。お詫びにフライドポテトあげるから許して」
先輩はポテトを差し出しながら謝ってくる。それに対して俺も苦笑いを浮かべながら「気にしないでください」と言いながらポテトを掴み取った。
「なあ、あいつちょっとむかつかね」
「ああ。いきなり入って来て、妙な魔法で注目を浴びて、女に囲まれながら飯食いやがってよ。初日から調子に乗りすぎてんじゃねえのか」
「調べてみたんだけど、あいつらやっぱり管理外世界の人間らしいぜ。ミッドから離れた、統一さえしてない世界の」
「未開人ってことか。なら俺たちがミッドのルールってもんを教えてやる必要があるかもしれねえな……お前もそう思わねえか?」
「……」
健斗たちを遠巻きに眺めながら、まわりより少しガラの悪い生徒が囁き合う。その中でエリックは黙々と食事を摂っていた。
◆
午後の座学は魔法やデバイスに関わる授業で、机に座ってノートを取るという点では地球で俺たちが受けている授業と何も変わらなかった。
そのため午前に比べたら疲弊することなく、訓練校での初日はそのまま終わりを迎えた。
そして男女別々に分かれて、寮で夕食を摂ってシャワーを浴び、俺は自分に割り当てられた部屋に足を踏み入れた。そこで俺を迎えたのは――
「よう健斗、しばらくぶりだな。訓練だけじゃなく部屋も一緒になった。よろしくなルームメイトさん」
「こちらこそエリック。今まではお前ひとりだったのか?」
「ああ。俺一人余っててよ。そこのベッドと机が手つかずだからお前が使うといい」
「サンキュー」
ベッドに寝そべりながら、もう一方のベッドとその向こうにある机を指しながら言うエリックに俺は一言礼を言って、机の近くに荷物を下ろす。
「ちなみにエロ本は外に持ち出さなければ持ち込み自由だ。俺は気にしないから好きな時に見ろ」
「……ミッドでも18歳未満はそういうのは見れないんじゃないのか?」
からかうような笑みと口調で言ってくるエリックに俺はツッコミを入れる。するとエリックは悪びれる様子もなく言う。
「グラビアならお前ぐらいの年齢でも見れるし買うこともできるぜ。俺は持ってないけど興味があるなら週末にでも買って来てやるが、どうだ?」
そのあたりは地球と同じか。俺は呆れながら。
「いい。水着ならこの間見たばかりだからな」
「まじかよ。あの女の子二人か?」
「ああ……」
本当はもっといっぱいいたが、深堀りされたくないので適当にうなずいておく。するとエリックは嘆くような仕草で、
「かあー、羨ましいねえ。俺なんて元の世界じゃ海水浴なんかできねえし、こっちじゃ移った後はすぐ訓練校入りだから週末しか自由な時間がねえしよ」
「海水浴ができない? それって一体?」
動植物が一切住めなかったベルカの海を思い出しながら尋ねる。エリックは肩をすくめながら返事をした。
「……色々あってな。ところで健斗って管理世界じゃ聞かない名前だけど、もしかしてお前管理外世界の人間だったりするか?」
「……ああ。地球――第97管理外世界ってとこから来たが。それが?」
エリックの問いに訝しみながらも答えると、彼は神妙な顔になって……
「聞いた話じゃ、そこって国同士がバラバラに別れていて戦争をしているらしいって聞いたが……本当か?」
その問いに俺はこくりとうなずく。エリックは「そっか」と言って。
「悪い。妙なことを聞いた。そろそろ寝ようぜ。明日も早い」
「……ああ。そうだな」
エリックの声色に引っかかるものを覚えながらも、俺は言われたとおり寝支度をはじめ、ほどなく俺たちは眠りについた。
俺の身のまわりで異変が起きたのはその三日後からだ。