訓練校に入って四日目にそれは起こった。
一時限目の訓練に入る前、ロッカーに入れていた訓練用のブーツがズダズダに切り裂かれていたのだ。幸い、訓練の内容上ブーツがボロボロになることはよくあることらしかったのですぐに交換が行われ、当日の訓練に支障はなかった。
さらにその一時限後、座学で使う教書に落書きがされ、その日に習う箇所のページにいたっては真っ黒に塗りつぶされて読むことができなかった。こちらも隣の生徒が教書を見せてくれたり、授業の内容がすでに知っているものばかりだったため障りがなかったが。
だが、ブーツや教書の損傷に気付いた時のこらえるような笑い声や、トラブルを乗り越えた時に聞こえてきた舌打ちなどがたまらなく不快だった。
「大丈夫、健斗君?」
「教官に言った方が――」
昼食中、嫌がらせに気付いた様子でなのはとフェイトはそう言ってくれる。しかし俺は、
「いや、まだいい。今調べても犯人はわからないだろうし、クラス中に触れ回るようなことをされてもほとぼりが冷めた頃にまた同じようなことをされるだけだ。だったら……」
その先を食事とともに飲み込む。すると。
「今度はどうしてやろうかな」
「そうだな、今度は――しっ!」
利用者たちによる雑多なざわめきの中で、そんな会話をする二人組が近づいてきて、俺に気付いた途端口をつぐむ。彼らは一言も交わさず仲間たちがいる席を見つけてそこに座る。そこには――
――エリック!?
二人を出迎える男たちの中にエリックの姿を見つけて俺は思わず目を見張る。それを見咎めて。
「健斗君?」
「……どうしたの?」
「――い、いや、何でもない! そろそろ次の授業の準備がしたいし、さっさと食べ終えてしまおう!」
怪訝そうに尋ねるなのはたちに俺はそう言う。なのはたちもそれについては何も言わず、話題を挟みながら食事を進める。
一方、くだらなそうな話にいちいち下卑た笑いを上げる男たちの中で、エリックは無表情で食を進めていた。
◆
そして翌日の模擬戦訓練でそれは起こった。
「はあっ!」
「くっ!」
剣を振るい徐々にエリックを追いつめる。俺は最後の一撃を入れるべく一歩踏み出す。
そこで不意にエリックは後ろに退いた。彼を追おうとしたその時――
「危ない!!」
女子の悲鳴とともに、俺に向かって光弾が飛んでくるのに気付く。俺はすぐに――
「――はっ!」
空いている方の手でシールドを張り、光弾を受け止める。
霧散した光弾の向こうでは、明らかに俺に杖を向けていた男がいた。
彼は悪びれた様子もなく頭をかきながら。
「悪い悪い。手元が狂ってお前の方に撃っちまった。大丈夫だったか?」
男は嗜虐的な笑みを浮かべながらそう言ってのける。それに対して俺もあえて何でもなさそうに。
「いえ、大丈夫です。気にしないでください」
そう言って俺は彼に背中を晒す。注目が集まっている以上、もう彼は何もしてこれないだろうし、してきたとしても気配を感じ取ることはできる。
それより気になるのは……。
「おい! 大丈夫か?」
「……」
エリックは心配そうに俺に駆け寄ってくる。そんな彼に俺は疑念を抱いていた。
さっき光弾が放たれてきたのはエリックが退いた直後だった。この前の飛越訓練の時といい、まさかとは思うが……
「どうした? やっぱりどこか怪我でも?」
「――いや、何でもない。模擬戦を続けよう! ぼやぼやしているとまた一本取ってしまうぞ!」
「――ああっ! 遠慮なくかかってこい!」
そんな言葉を交わしながら、俺とエリックは模擬戦を再開した。
「……」
ファーン・コラードは何もかも見透かしたように校舎からグラウンドを眺める。しかし、彼女はそれ以上何もすることはなく、ただじっと自身が担当する教え子の様子を眺めるのみだった。
◆
それから数日間、細々とした嫌がらせが続きながらも先んじてそれに対処することもできるようになり、嫌がらせの失敗と俺がそれを気に留める様子もなく学校に通い続けていることに向こうも業を煮やしてきたのか、それは起こった。
座学が終わり、次の訓練場所であるグラウンドへ向かうために階段を下りようとした時だった。
――ドン!
ふいに背中から軽い音がした。
突然後ろから背中を押され、俺はそのまま階段の下へ落ち――
ずにそのままくるりと反転し、伸びたままの相手の腕を掴む。
「なっ――!?」
俺を突き落とそうとした相手は、食堂で俺たちの後ろを通りがかった二人組の一人だった。
思わぬ反撃に驚愕の声を上げる男に俺は問いをかける。
「どういうつもりですか? なぜこんな真似を?」
「ち、違う! 俺はただ――」
詰問する俺に対し、男は言い訳をしようと口をぱくぱく動かす。しかしそうしている間に、周りにいた生徒たちは腕を伸ばしている彼とそれを掴み続けている俺に気付き、ざわめき始める。
「お、おい! なんだあれ?」
「もしかしてあの子を突き落とそうとしたんじゃ?」
「ねえ、教官を呼んできた方がいいんじゃない?」
ざわめきが大きくなり、男は青い顔で周りを見渡す。その一方で何人かの男が俺たちから遠ざかるのが見えた。まるで自分たちは無関係だというように。
俺を突き落とそうとした男はそちらを見て何か言いかけるものの――
「こらお前たち! 一体何をしている!?」
野太い声がかかって来て、俺と男はそちらを振り向く。
そこには鬼のような表情で俺たちを見下ろす教官がいた。
その後、俺たちは訓練を欠席して教官からあれこれ尋ねられ、男は俺に謝罪をさせられた後、三ヶ月の停学を命じられた。
その“報復”と、彼らとの決着は思いのほか早く訪れた。
◆
転落未遂から二日後の昼休み、俺は一人学内用デバイスなどの備品をしまう倉庫の裏に来ていた。
そこにはすでに数人の先客がおり、煙草をくわえながら一斉に俺に目を向けた。その中には訓練中俺に光弾を放ってきた男もいた。
「ほう。思ったより早いじゃないか。こっちから迎えに行こうかと話していたところだったんだが、余計な心配だったようだな」
リーダー格らしき金髪の男が煙草を吐き捨てながらそう言ってくる。それに対して俺は肩をすくめながら返事を返した。
「嫌な用事はさっさと済ませる事にしてますから。ロナウド先輩、俺に何の用です? さっさと昼食を済ませて次の訓練の準備をしたいんですが」
「ふん。よくのうのうとそんなことが言えるものだな、マルコを停学に追いやっておいて。お前のせいであいつの経歴に傷がついたんだぞ。どうしてくれるんだ?」
あいつマルコっていうのか。
心中でそうつぶやきながら俺は肩をすくめて言う。
「突き落とそうとしたのはあっちでしょう。本当なら退学どころか逮捕されてもおかしくないと思いますが。それが三ヶ月の停学で済んだんだから、むしろ御の字でしょう」
「黙れ! 貴様のたわごとなどどうでもいい! とにかく階段での一件は貴様の勘違いだったと教官たちに証言しろ! でないと……」
ロナウドが言葉を止めた途端、不良生徒たちは煙草を地面に捨てながら俺を取り囲み、愉悦の笑みを浮かべながらごきごきと拳を鳴らす。
やれやれ、腐った奴はどこにでもいるもんだな。こんな奴らが管理局員を目指しているとは。
「嫌だと言ったらどうなるんです?」
そう言うと、不良たちの一人がヘヘヘと下品な笑いを漏らしながら俺に近づく。そして……
「教えてやろうか――こうなるんだよ!」
言いながら不良は大仰に腕を振りかぶって俺を殴りつけてくる。無論黙って殴られるわけがなく――
「――っ!?」
俺は体を真横に動かして大振りに振るった腕を避ける。続けて腕を少し後ろに引いて、
「はっ!」
「ぐあっ!」
間近にさらした男の顔面に拳を入れると、不良は醜いうめき声を上げてのけ反る。それを見てロナウドたちは慌てた様子で構えた。
「中途生――それもガキの分際で俺たちに逆らうか……構わん、やっちまえ!」
「おう!」
ロナウドの命令に応じて不良たちが一斉に襲い掛かる。
俺はそのうちの一人の懐に飛び込み腹に向かって一撃を叩きこむ。
「はあああっ!」
「ぐああっ!」
《徹》という打撃法で、腹から体の内側に衝撃を与えられた男はたまらずその場にうずくまり悶絶する。
俺はすぐに他の男の背後に移動し、そいつの後頭部に一撃。
「ぐあっ――なめるな!」
しかし、思いのほか頭が固かったのか、男は倒れず俺を殴ろうとする。俺はそれを避けて男の顔面を殴りつけ、続けざまに蹴りを入れて真後ろに吹き飛ばす。ちょうどそこにいた一人を巻き込みながら、不良二人はコンテナにぶつかり目を回しながらその場にへたりこんだ。
残るはあと一人!
「最後はあなたですね、ロナウド先輩」
「貴様――!」
ロナウドは俺を睨みつけ、少し迷ってからカードを取り出し杖の形に変える。
こいつ……。
「来い中途生。魔導師の戦いがどんなものか、俺が直々に教えてやる」
「――ティルフィング!」
『Ja Meister!』
杖を向けるロナウドに対し、俺も懐から取り出したティルフィングを剣にして構える。
そして勝負は始まった!
「フォトンバレット!」
ロナウドが撃ち込んでくる弾を避けながら俺は彼に迫る。ロナウドはそこで射撃をやめ杖を振り上げて俺に向かってきた。
「はあっ! せあっ!」
ロナウドは杖を振り下ろし力任せに叩きつけてくる。そのたびに俺も剣を振るってそれを受け止める。
鍔迫り合いを続けていくうちにロナウドに隙が見えて、俺は彼に向けて剣を振り下ろした。
「せやああっ!」
「プロテクション!」
だが、ロナウドが突き出した左手から障壁が広がり、俺はたまらず弾き飛ばされる。
そこを狙ってロナウドは光弾を放ってくる。
「パンツァーシルト!」
俺も左手を突き出しシールドで球を防ぐとロナウドは舌打ちを漏らしながら杖を構えた。
また撃ってくるつもりか。だがこの距離なら――。
「はああっ!」
俺は剣を振るいながらロナウドめがけてまっしぐらに突っ込む。だが、それが誤りだった。
「――ぐっ! なに!?」
手首と足元に異変を感じるとともに身動きが取れなくなる。これは――
「引っかかったな! 動きを止めてしまえばこっちのものだ――死ねぇ!!」
バインドで右手首と両足を縛られた俺に向かってロナウドは光が漏れる杖の先端を向ける。だが――
「バレルショット!」
「バインドブレイク!」
ロナウドが撃つと同時に、バインドを破壊しそのまま光弾を斬り落とす。
「なっ――!?」
驚愕に目を見開くロナウド。俺は足を踏み出し彼に接近して剣を振り下ろし、彼の杖を弾き落とした。
剣を向けたまま俺は告げる。
「勝負ありだな、ロナウド」
「……」
剣を突き付けられながら、ロナウドは臆した様子も見せずただ沈黙する。俺は続けて言った。
「もう二度と俺にちょっかいをかけないというならここまでにしてやる。マルコって奴にもあれ以上の処分を要求するつもりはない。だからもう終わりにしよう」
落とし所を提示する俺に対し、ロナウドはニヤリと笑い。
「嫌だと言ったら?」
喧嘩の直前に俺が言ったことと同じ言葉を言う。思わず眉をひそめると突然彼は後ろに跳び、背中に強い衝撃が走った。じりじりとした熱さと痛みを感じながら俺は後ろを振り返る。そこには……
「へへっ」
「くくっ」
さっきまで倒れていた奴らが起き上がり、杖を構える。その中の一人が持っている杖からは丸い魔法陣が浮かんでいた。撃ってきたのはあいつか。
「形勢逆転だな中途生。この人数が相手じゃ勝ち目はあるまい。訓練校のような所で先輩様に逆らったらどうなるのかじっくり教えてやるよ」
……ちっ、加減し過ぎたか。ここで目を覚ましてくるとは。
「だいたい、魔法を知らない管理外の人間が管理局に入るなんておこがましいんだよ!」
「管理世界に属するどころか統一さえできていない世界の人間は自分の世界に戻って、同じ世界の人間同士殺し合いでもしてろ!」
「――!」
管理外世界の人間であることを引き合いに出して、連中は好き勝手なことを言う。
ついに苛立ちを覚えながら剣を構えた時だった。
「待て!!」
彼らの後ろから響いた声に俺も彼らもそちらに目をやる。いつの間に来たのか、そこには燃えるような赤毛と赤い眼の男が立っていた。彼は鋭い眼と怒りに歪んだ形相でこちらを見る。それに対して――
「エリック!」
俺は思わず男の名を叫ぶ。そしてロナウドも。
「エリック! いいところに来た。お前も加勢しろ。お前も管理外のガキなんかと組まされて腹が立ってたんだろう。ここで再起不能にして、残り二十日間登校したくてもできないようにしてやろうぜ!」
「……」
ロナウドが呼びかけると、エリックは黙ったままカード状のデバイスを取り出し杖に変える。それを見て俺も剣を強く握る。
まさかと思ったが、エリックもロナウドたちの仲間か? それとも――
「はああああっ!!」
エリックは雄たけびを上げながら杖を大きく振るう。
そして、すぐそばにいた不良を思い切りぶん殴った。
「ぐああっ!」
「なにっ!?」
仲間に攻撃するエリックに、不良たちは目を丸くしロナウドは目を剝きながら――
「エリック!? 何をしている?」
荒げた声をぶつけるロナウドに、エリックははっと口を吊り上げて言った。
「お前らに合わせるのは今日限りだ。子供一人に寄ってたかってデバイスまで持ち出すような情けない連中とつるむくらいなら、管理外のガキと組んでいた方がよほどましだ。お前らのくだらない話を聞かされながらメシを食うのももう飽き飽きだったしな!」
「エリック、貴様――ぐああっ!」
エリックに向かって何事か咆えようとしたエリックの顔面に俺は拳を叩きこむ。たまらず顔を押さえるエリックに、
「悪いな、隙だらけだったんで。お前が倒したいのは俺だろう。かかって来いよ先輩」
「このガキ――後悔させてやる!!」
挑発したせいかエリックも拳を突き出して殴りかかってくる。その一撃を貰いながら俺も奴の腹を思い切り殴る。
リーダーを援護しようと他の不良たちも俺に殴りかかったり杖を向けたりしたが、エリックが振るう杖に蹴散らされる。
そうして俺たちは不良グループを倒していった。
ロナウドたちを倒してからすぐに、俺はエリックに言葉をかける。
「ありがとうエリック。おかげで助かったよ」
「なに、お前があいつらに囲まれているところを見てついな。まっ、お前なら俺がいなくてもなんとかなりそうだったが」
エリックの言葉に答えず苦笑で応じる。そこでエリックは気絶して倒れているロナウドたちを見下ろしながら言った。
「ところでこれからどうする? さすがにこれだけ騒げば教官の誰かが駆け付けてくると思うが……逃げるか?」
冗談めかして言うエリックに俺は首を横に振る。
「逃げたってどうせすぐにバレる。むしろロナウドたちがある事ないことを言うかもしれないことを考えたら、出頭した方がまだましだ。まっ、それについては心配しないでくれ。ここに来た時から手を打ってある」
「……? わかった。俺も実は最初から逃げるつもりはなかったしな。じゃあここで教官が来るのを待つか」
そう言ってエリックはコンテナにどかっと座る。そんな彼に俺は尋ねた。
「ところでエリック、もしかしてお前も管理外世界から来たのか?」
「……どうしてそう思う?」
コンテナに座ったまま神妙な顔で尋ねるエリック。俺は彼の出自に気付いたわけを答える。
「この間話した時からなんとなくな。それにお前が出てきたのって、ロナウドたちが俺を、管理外世界の人間を馬鹿にしたからだろう。でなきゃあそこまで怒ったりはしなかっただろうしな。……そう思ったんだが、違うか?」
聞き返す俺にエリックは薄い笑みを浮かべながら首を横に振る。
「いいや、その通りだ。俺の故郷は魔法や他の世界へ移動できるだけの技術はあるものの、管理局の庇護を受けるか否かで揉めているところでな――今も内戦中だ」
内戦という言葉に俺は目を見張る。
「じゃあ海水浴ができないっていうのも……」
エリックはこくりとうなずき。
「ああ。内戦しているところで海パン一丁で泳ぎなんてできるわけないだろう。せいぜい妹と一緒に狭い風呂に入ったぐらいさ」
「妹がいるのか?」
「血は繋がってないがな。俺と違って賢い奴だ。ミッドチルダみたいに平和な世界で生まれていたら勉強して大物になれただろうよ。……だからまあ、あいつらが管理外世界に加えて、その世界で起きている争いをネタにしてお前を馬鹿にしているところを聞いて思わずな」
エリックは自嘲気味に言う。そんな彼に俺はさらに尋ねた。
「最後に一つ聞いていいか……お前がいた世界の名は?」
ぶしつけな問いにエリックは怒るでもなく、乾いた笑みを漏らして言った。
「オルセア……第42管理外世界『オルセア』だ」
「お前たち? ――こんなところで何をしている!?」
エリックが故郷の名を口にすると同時に、教官の野太い声が響く。見れば、実技担当の教官をはじめとした何人もの職員たちが驚きの目で俺たちを見渡していた。
かくして、俺とエリック、ロナウドたちは指導室に連れていかれ、そこで諸々のいきさつを話すことになった。
当初は私闘を行ったことで俺たち全員に厳罰が下される予定だったが、懐に入れていたデバイスに記録させていた会話内容から、ロナウドたちが一方的に俺に襲いかかった事が判明し、ロナウドたちがマルコに続く三ヶ月の謹慎を言い渡されたのに対して、俺とエリックが言い渡されたのは今日一日の謹慎と反省文の提出だった。
そして俺たちは自室に戻り、夕食までの間、数枚の原稿用紙との格闘と作文が苦手なエリックの指導に時間を費やすことになった。
◇
「……わかりました。後はこちらで引き受けますから、訓練の監督に戻ってください」
「はい。失礼します」
健斗たちが起こした乱闘騒ぎの報告を聞いてから、学長は教官を下がらせて大きくため息を吐く。そして机の上に置いた両手を組みながら口を開いた。
「やってくれましたね、あの御神健斗という少年。……これもあなたの読み通りですか? コラード教官」
「さあ、どうでしょう? ロナウド君をはじめ、今年は問題のある生徒が多かったので、彼らと揉め事を起こさなければいいと思っていましたが、残念ながらそうもいかなかったようですわね」
口調とは裏腹におもしろそうに微笑むファーンに、学長は首を大きく横に振る。やはり最初から謀っていたらしい。
ロナウドたちは未来の陸士候補としては問題が多く、ミッド以外の世界――とりわけ管理外世界の人間への差別心が強い生徒だった。彼らより年少にもかかわらず初日から好成績を収め、第97管理外世界の人間である健斗やなのはたちとロナウドたちが諍いを起こす可能性は十分高かった。
陸士や武装隊となるからには他の世界に差別意識を持ったままでは困る。また、正規局員を目指す健斗たちにもああいう手合いの者がいる事を知っておいてもらった方がいい。
その思いから、ファーンはあえて彼らと健斗たちを同じクラスにした。
そして結果は案の定。ロナウドたちが健斗にちょっかいを出し、そして返り討ちにあった。
健斗に打ちのめされたことでロナウドたちも少しは思い知っただろう。魔力の資質にミッドや他の管理世界、管理外世界の差はないと。管理外世界から類まれな力を持つ魔導師が出てくることも十分あり得るのだ。
それに今回のことで、将来的に起こるかもしれなかった争いの芽も摘むことができた。管理外世界出身のエリックとロナウドたちの争いの芽を。
「“エリック・グラーゼ”。反管理局思想を掲げる《オルセア解放戦線》に属する活動家の息子。彼についても気にかかるところですが、ひとまず様子を見る事にしましょう。……ところであの子たちですが、訓練校に入って一週間になります。そろそろ総務官たちの要望通り、コラード教官が指導されてもよい頃では」
声の調子を変えてそう言い出す学長。するとファーンは笑みを浮かべながら、
「そうですね。地上での動き方や飛行魔法を用いない飛越法も覚えたようですし、そろそろ老骨に鞭打って、私が直接手ほどきをするとしましょうか」
学長も意地の悪い笑みを浮かべながら……
「ええ、期待していますよ。《高ランクキラー》と呼ばれている、あなたの腕前を」