次回から本編進めますので、今回は“あの子”との遭遇をお楽しみください。
ファーン教官との模擬戦から五日が過ぎて二週間目の土曜日。俺たちはエリックも交えて気分転換のために訓練校を離れ、首都クラナガンに来ていた。
首都の中央には相変わらず、天を貫くほどの高さと威容を誇る地上本部のビルがそびえ立っており、俺たちはバスの中からそれを眺め、改めて地上本部とそれを抱えている時空管理局の巨大さに圧倒され、エリックもいつもとはかけ離れた神妙な顔で地上本部を見上げていた。
それからしばらくの間、なのはとフェイトに付き合わされる形で俺とエリックもショッピングモールを見て回り、一通り回ってから俺とエリックはいったんなのはたちと別れ、モールを出た先にある公園で休んでいた。
「なあ、あの子たちはまだ買い物なんか続けてるんだろうか? あれ以上見るとこなんてないと思うが」
「さあな。気になるならあいつらのとこに戻ったらどうだ。俺はここで休んでる」
「バカ言え。女の子二人の買い物に大の男が張り付いてられるか――ってか俺も疲れた。ここで休ませてもらうぞ」
言いながらエリックはベンチにへたり込む。俺たちより4つ離れた年長者が情けない、と言いたいところだがエリックの気持ちもわかる。女の子たちがキャッキャ言いながら品定めしている後ろでただぼうっとしているのも結構疲れるものだ。体力はともかく精神的に。
そう思いながら俺も背中をそらして背もたれに寄り掛かる。
そんな俺たちとは対照的に、元気に体を動かしている短い青髪の少年がいた。ぴょこんと跳ねたアホ毛が特徴的な、5、6歳くらいの男の子だ。
「よっ、ほっ…………――はあっ!」
少年は足先で何回かボールを軽く蹴り上げてから、
彼はすぐにボールを持ち上げ、気まずそうにきょろきょろと左右を見回してからふうッと息をついた。後ろにいる俺たちにはまったく気付いていないらしい。
そこへ俺は人差し指と親指を口に含み、ピーッと甲高い指笛を鳴らした。
「――えっ!?」
少年はびくりと肩を震わせて俺たちの方を振り返る。
「ナイスシュート!」
彼に向かって俺はそう言って手を打ち鳴らす。それを見て少年はこくりと首をかしげていた。
片や、俺の隣でエリックはため息をついて、
「何をやっている。いきなり指笛を鳴らされて、わけの分からないという顔をしているぞ。……悪いな、こいつの変ないたずらだ。気にしないでくれ」
「いえ。バカにされたわけじゃないのはわかりますから。というより、ほめてもらえてうれしいです」
何度か首を横に振り、少年は顔をほころばせながら答えてくれる。
そうかと言いながら、エリックは彼が持つ白黒のボールに目を向けた。
「しかし変わったボールだな。一体何のスポーツをしてたんだ? 手を使わない球技なんて初めて見るが……」
「ああ。あれはサッカーといって、お父さんが教えてくれたスポーツです。お父さんのご先祖さまがいた世界のスポーツらしくて」
「――!」
少年の説明を聞いて俺は思わず目を見張る。まさかこの子――。
「もしかして、君のご先祖様は第97管理外世界――地球から来たのか?」
「ええ、そんな名前だったと思いますけど……もしかしてお兄さんも……」
少年の問いに俺はこくりとうなずく。すると彼は目を輝かせて。
「ほんとうですか!? お名前を聞いても?」
「御神健斗だ。そっちのでかいのはエリック。君の名前は?」
俺の問いに顔をほころばせたまま少年は答えた。
「スバル! スバル・ナカジマです! まさかチキュウから来た人に会えるなんて。お父さんが聞いたらおどろきます!」
「そうか。俺も驚いたよ、こんなところで同じ世界の、それも同じ国出身の人間に会えるなんて」
同郷の人間とわかり、俺もスバルも興奮を隠さず言葉を交わし合う。
それからしばらくの間、俺たちは互いの事について話した。
そして……。
「ほう。定期健診の帰りか」
「うん。まだお姉ちゃんの検査が終わらなくて。だからここでお母さんとお姉ちゃんが戻ってくるまで待ってたんだ」
エリックにスバルは明るい口調で答える。この頃には打ち解けてくれたようでたどたどしい敬語もなくなっていた。
そんな彼に俺も尋ねる。
「健康診断って時期じゃないが、どこか悪いのか?」
「ううん、この通り何ともない。でも一ヶ月に一度病院でみてもらってる。……変かな?」
スバルの問いに俺は特に考えもなく「いや」と首を横に振った。
まあそういう家庭もあるだろう。心配性な両親なのかもしれない。スバルやお姉さんが自覚症状のない何かの病気にかかっている可能性もなくはないが。
「何でもない。それより、ボール見てたら久しぶりにサッカーやりたくなってきたな。俺たちも混ぜてもらっていいか。さっきの見てたからエリックも大体わかるだろう?」
「ああ、それもおもしろそうだな。スバル、いいか?」
「あっ……ええと、それは……」
何気なく一緒に遊ぼうという俺たちに対し、スバルは気まずそうに口ごもる。
俺たちが首をかしげているところへ着信音が鳴った。俺は通信デバイスを取り出し、届いたばかりのメールを開く。
「あの子たちからか?」
「ああ。買い物が終わったからそろそろ合流しよう、だってさ。……そういうわけだから俺たちはもう行くよ。スバルはどうする? なんならショッピングモールまで一緒に――」
俺の誘いにスバルはぶんぶん首を横に振って――
「ううん! ここでお母さんとお姉ちゃんを待ってる。そろそろ戻ってくるころだから」
「そうか、あいつらにも紹介したかったんだが。じゃあまたなスバル!」
「知らない奴にはついていくなよ!」
そう言い残して片手を上げながら別れを告げると、スバルは元気のいい声で「うん!」と言って俺たちにぶんぶん手を振った。
「元気のいい奴だったな」
「ああ。あんな弟がいると楽しいかもしれねえ」
エリックの言葉に「かもな」と言って、俺も笑う。そこで一房跳ねた薄い青色の髪をポニーテールに結んだ女性と白いリボンを付けた長い青髪の女の子とすれ違った。
もしかして彼女たちが……。
◇
健斗とエリックが去ってから、入れ違いに二人の親子がやってきた。彼女たちを見てスバルは満面の笑みを浮かべながら駆け寄っていく。
「お母さん! お姉ちゃん!」
「お待たせスバル!」
「ごめんね、私のせいで。待たせちゃった?」
不安そうに謝る姉にスバルは大きく首を振り。
「ううん、ぜんぜん! サッカーやってたしあっという間だった! ――それより聞いて! あたしチキュウからきた人とお話ししたんだ!」
「チキュウって、お父さんが話してた……」
「ああ、あの人のご先祖様がいた世界ね。それで、その子はもう行っちゃったの?」
母親の問いにスバルは残念そうにうつむきながら「うん」と言う。しかしスバルは再び顔を上げて。
「あっ、でもその人たち、管理局の訓練校の生徒だって言ってたから、もしかしたらお母さんやお父さんと会うことがあるかも!」
「そう。その子たちの名前は?」
「えーと、確か……ミカミケントってあたしよりちょっと年上の人と、エリックっていう大きなお兄さん」
顎に指を乗せながらスバルは彼らの名前を挙げる。それを聞いて母親は微笑みを浮かべて、
「そう。確かにミカミっていう名前はミッドじゃ聞かないわね。わかった。もしミカミさんやエリックさんに会えたらスバルに教えてあげる」
「ほんと!?」
思わず身を乗り出すスバルに母親は彼女の頭を撫でながら、
「ええ、お父さんにもちゃんと言っておくわ。あの人の方が会いたがると思うし……色々な意味で」
不安そうに一言付け足しながら約束する母親の隣で、姉の方は半ズボン姿のスバルを見ながら言った。
「でも、その人たち、今度スバルに会ったらびっくりするんじゃない。そんな格好でサッカーなんてやってるの見たから、スバルのこと男の子だって思ってるかも」
「そ、そんなわけないよ! ……確かにこの間も間違えられたけど」
顔を赤くしながら言い返しながらも、自分の格好を見ながらスバルはもしかしてと思う。
その懸念通り、スバルが