魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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留学編終 修了試験、その後

 8月末。短期プログラムの最終日。

 

 俺たちは再びバリアジャケットを装着して、ファーン教官と相対していた。

 あの時と同じ、俺はグラウンドの隅に下がり、なのはとフェイトの二人が教官と対峙する。

 

 なのはを後方に立たせ、フェイトは鎌型のバルディッシュを構える。彼女の衣装は高速に特化したソニックフォームだ。

 それを前にファーン教官もカードを杖型に変え、彼女に向けて突き出す。

 

「いつでもいいわよ……来なさい」

 

 それを聞いてフェイトはすうっと息を吸って上半身をかがめた。

 

「――行きます!」

 

 フェイトが声を発したと同時に彼女の姿はかき消える。だが、教官は臆することなく即座に左に跳んだ。

 フェイトは空を切った状態のまま動きを止め、バルディッシュを手に棒立ちする。それを狙って教官は彼女に杖を向ける――その時!

 

「ディバイン――バスター!!」

 

 後方から桃色の光線が飛んできたのを察して、教官はすぐさま後ろに避ける。そこへ今度はフェイトが彼女に迫っていく。

 それに対して、教官は疾走してくるフェイトに向かって杖から複数の魔力弾を撃ち出す。しかし――

 

「――ふっ」

 

 フェイトは魔力弾の軌道を見切り、最小限の動きで弾をかわしながら教官に迫る。そしてカートリッジをロードしながら鎌を振り上げた。

 

「はあああああっ!」

「――はあっ!」

 

 回避できないと悟ったのか、教官は杖を突き出してフェイトと得物をぶつけ合う。その衝撃で互いの得物から火花のように魔力の残滓が舞い散った。

 

「ぐぐっ……」

「……くっ」

 

 フェイトは顔を歪めながらバルディッシュを押し上げる。一方教官も苦しげな声を漏らしながら抵抗していた。

 元々、魔力と身体能力はフェイトやなのはの方が上だ。それを教官は先読みやトラップといった小手先でしのいでいるにすぎない。だが教官にはそれに対する魔法(手段)を持っている。

 

『Break Impulse!』

 

「ぐっ……これは?」

 

 デバイスが声を発した瞬間、フェイトの姿がぶれ、頭を直接揺らされているような感覚に彼女は顔をゆがませる。そして鎌を握る手が弱くなり、教官はここぞとばかりに杖に力を込める。だが、彼女はフェイトの鎌を弾くと攻撃せずに後ろに跳ぶ。ちょうどそこへ教官がいた所になのはが放った魔力弾が飛んできた。

 なのははレイジングハートの先端を向けながら立て続けに――

 

「ディバインシュート!」

 

 それを見て、教官はとっさに真上に飛んでレイジングハートから撃ち出される魔力弾をかわす。そこへ空中に桃色のバインドが現れ、避ける暇さえなく教官の両手首に巻き付く。

 両手を封じられ、かろうじて杖を持つのがやっとの教官に向かって狙いを定める。

 カートリッジをロードし、2発の薬莢を吐き出すレイジングハートを握りながらなのはは唱える。

 

「エクセリオン……」

 

 そんな中で教官は自分の手首に巻き付いたバインドを解析し、それを打ち砕く。解析の速さもさることながら、攻撃が放たれようとしている状況で、冷静にそれを行える胆力には驚くほかない。

 なのはも内心臆しながらも教官に狙いを定め――

 

「――バスター!!」

 

 レイジングハートから砲撃が放たれ、教官に向かって真っすぐ飛んでいく。教官はすかさず自由になった手を使ってシールドを張って、砲撃を受け止めた。

 しかし砲撃を防ぎ切ることはできず、教官の張ったシールドは瞬く間にひび割れて砕けそうになる。

 それを見定めて教官はシールドから手を離し、真下へ逃れる。なのはの砲撃は外れ空中に向かって飛んでいった。

 バインドを使ったなのは渾身の一撃を、ファーン教官はバインドブレイクとシールドを駆使して回避した。――だが、彼女と戦っているのはなのはだけじゃない。

 

「はあああっ!!」

 

 教官が空中を漂っているほんの一瞬の間にフェイトが飛んできて、大剣型(ザンバーフォーム)に変えたバルディッシュを教官めがけて振り下ろす。教官はとっさに杖で防ぐが、大剣に変わったバルディッシュ相手では、鍔迫り合いに持ち込むことすらできず杖は真っ二つに砕ける。

 杖が完全に割れる前に教官は後ろに下がり刃を避けるが、空中に跳んできて自分に杖を向けるなのはとその横で刃を構え直すフェイトを前にして動きを止めた。

 フェイトは教官に告げる。

 

「勝負ありです。降参してください」

 

 その宣言に教官はふっと笑みを浮かべて……

 

「そうさせてもらうわ……降参よ。もうあなたたちにはかなわないわね」

 

 

 

 

 

「さて、それでは次は健斗君の番……と言いたいところだけど、あなたとはやり合うまでもないわね。私が負けるに決まってるわ」

 

 いったん俺に向けた杖をくるりと回しながら、ファーン教官は肩をすくめてみせる。

 それを聞いた途端思わずよろめく俺に、なのはとフェイトは思わず笑いを漏らした。

 

「ずいぶんあっさり認めるんですね。あれから大して力を伸ばしたわけじゃありませんし、また俺が負けてしまうかもしれませんよ」

 

「いいえ。もう私の手の内も掴んだでしょうし、この前だってあなたが勝ってもおかしくないくらいだった。もう私なんかじゃかなわないわ」

 

 教官は苦笑しながら首を横に振る。そして彼女は笑みを向けたまま俺たちに言った。

 

「じゃあ聞かせてもらいましょうか。私がこの前出した問題、『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くなければいけない』……この言葉の意味と矛盾について、それぞれの答えを聞かせてくれるかしら」

 

 教官からの問いになのはとフェイトはお互いの顔を見合わせて、まずはなのはから言った。

 

「フェイトちゃんと一緒にある人と相談して決めたから、同じ答えになっちゃうかもしれませんけど、いいですか……?」

 

 そう確認してくるなのはに教官はこくりとうなずく。なのはも意を決したように言った。

 

「ファーンさんは“魔力で勝る”私たちに対して、“私たちにはない経験と技術”を駆使して戦っていました。だから問題の意味は、『自分より()()()()()()相手に勝つためには、自分が持っている()()()()()()()()で戦う』――だと思います!」

 

 自信満々に言い切るなのはに続いて、フェイトも声を上げた。

 

「そのために自分自身の強みを磨いて、誰にも負けない自信と気概を持って相手に当たる……それが私たちの出した答えです」

 

 なのはより少し落とした声でフェイトは答える。それに教官は笑みを浮かべながら、

 

「そうね。間違ってはいないと思うわ。じゃあ健斗君、あなたはどう思う? なのはさんたちが言った通りでいいと思うかしら?」

 

 そう尋ねられ、俺は軽く息を吐き出してから言った。

 

「まあ、回答の一つとしては間違ってないんじゃないでしょうか。ただ、相手との差を“強さ”と呼んで、それにとらわれすぎるのもどうかと思います。管理局員として犯罪者に対する時に重要なのは、“相手と強さを比べること”ではなく、“どうやって相手に勝つか”だと思います。自分や相手の“強さ”にとらわれてその本質を忘れたら本末転倒です。だから教官の言葉はある意味正しくもあるけど、ある意味間違ってもいる。そういう答えになりましたが……違いますか?」

 

 俺の問いにファーン教官はぽつりと言った

 

希少技能(レアスキル)持ちならではの答えね。それに近い事を言った子を思い出すわ。その子はこの問いかけに対して、“どんなに強い相手も急所に一撃入れれば倒せる”なんて言ってたわ。その言葉通り、その子は初めての模擬戦で私の急所に一撃入れて勝ってみせた。その後、あの子はパートナーの子ともども期待の新人と呼ばれながら首席でここを巣立って、二人とも結婚して家庭を持ちながら今でも首都防衛隊のエースとして活躍しているわ」

 

 ……いきなりファーン教官を倒した生徒がいるのか。まだまだすごい人はいるものだ。

 

「つまり私が言いたいのは、強さなんてものは戦力評価の目安でしかないってことよ。総合力で決まる魔導師ランクなんて特にね。魔導師として恵まれた才能を持つあなたたちだから、その意味に気付いてほしかった。そう思って模擬戦と強さについて問題を出したのだけど、わかってもらえたかしら?」

 

 その言葉に俺たちはうなずく。実際あれだけボコボコにされ、問題の答えとともに教官に負けた理由や彼女に勝つ方法を考えていたなのはたちや俺には、教官が言いたいことはよくわかった。

 

「じゃあこれでプログラムは修了よ! 一ヶ月間よく頑張ったわね。あなたたちの今後の活躍と息災を祈っています!」

 

 満面の笑みを浮かべながらファーん教官は俺たちを労ってくれる。そんな彼女に対する返事はたった一つしかなかった。

 

「「「ご指導ありがとうございました!!」」」

 

 

 

 こうして、訓練校での研修は終わり、俺たちは学長やファーンさんをはじめとする何人かの教官、一ヶ月限りの同級生たち、駆けつけてきた聖王教会の面々やティミル博士に見送られながら、第四陸士訓練校を後にした。

 俺たちを見送った同級生たちの中にはエリックもいて、彼と俺たちは再会の祈願をこめた握手を交わし、ひと時の別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 健斗たちが訓練校を後にしてしばらくして、再び彼一人だけのものになった部屋にて、エリックは端末を手に口を開いた。

 

「親父、今話せるか?」

 

『エリックか、珍しいな。何の用だ?』

 

 親父と呼ばれた相手は数ヶ月ぶりに聞く息子の声に、さしたる感慨もうかがわせず率直に尋ねてくる。それに対しエリックもなんでもなさそうに続けた。

 

「ちょいと急だが、管理局の訓練校を辞める事にした。一応あんたには報告しなきゃと思ってな」

 

『本当に急だな。どうした? 安寧に浸かって腑抜けた連中に嫌気でもさしたか?』

 

 端末越しに聞こえる、見透かしたような物言いにエリックは乾いた笑みを漏らし、

 

「色々あってな。訓練校を抜けてしばらくミッドチルダや他の管理世界を見て回る事にした。ろくな情報を掴めなくて悪いがな」

 

『気にするな。元よりお前から言い出した事。奴らに毒される前に辞めてくれて、私としては安心したところだ。“大義”のためとはいえ、一人息子を手にかけたくはないからな』

 

「容赦ないな、養子とはいえ一応息子だろう。まあいい。ところで“あいつ”はどうしてる? あんたと一緒にいるのか?」

 

 尋ねるエリックに、相手は首を横に振ったような間を空けてから言った。

 

『いや、私は今“有力な同志”のもとにいてな。娘とはしばらく会っていない。まあ何かあれば現地から連絡が来る手筈になってるから、今のところ無事ではいるだろう』

 

「そうか。ところで“有力な同志”って、もしかして『ジェイル・スカリエッティ』っていう奴じゃねえだろうな? オルセアでもたまに聞くぐらいの犯罪者――」

 

『そうだが。それがどうかしたか?』

 

 あっさり返ってきた答えに、エリックは顔をしかめる。そして彼は義父に尋ねた。

 

「大丈夫なのかよ? こっちでも何回かそいつの話を聞いたが、相当やばい奴みたいだぞ。頃合いを見て手を切った方がいいんじゃねえか」

 

『心配はいらん。傲慢な管理局に鉄槌を下すという、彼の意思は本物だ。何度も話してそう確信した。それに《イクスヴェリア》が見つかっていない現状では、《マリアージュ》の製造に彼の助力は欠かせん。まだ手を切るわけにはいかんよ。まあ本当にまずくなったらマリアージュを使って乗っ取るさ。彼の手勢の少なさを突けば十分可能だ』

 

――簡単に乗っ取られるタマじゃないと思うが。

 

 そう思いながらエリックはあえて触れずに、

 

「――じゃあ俺はしばらく管理世界を見て回る。“あいつ”にも気を付けるように言ってくれ。それじゃあな、“同志トレディア”」

 

『ああ、こちらも無事を祈る。“同志エリック”』

 

 そう言ってエリックは端末を切り、養父にして同志でもあるトレディアとの通信を終える。

 彼が退学届を出し、訓練校を去ったのはその翌日の事だ。

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