リインフォース・ツヴァイの誕生からさらに一年。俺たちが5年生に進級した年のある日のこと。
管理局標準時刻16:26
とある管理外世界。
「――くそっ!」
空中で小箱を抱えながら、男は唾を吐くように毒づく。
そんな彼を俺とリインフォース・アインス、同じ部隊に属する武装局員たちは取り囲んでいた。
俺は小箱を抱えている男――次元犯罪者に向かって言う。
「そこまでだ。管理外世界での不法滞在、およびロストロギアの違法所持の現行犯で逮捕する!」
声を張り上げた俺を見て、男は忌々しそうに顔を歪め。
「ふざけやがって。せっかくこいつを手に入れたのに、こんなガキに捕まってたまるか!!」
そう言いながら男は小箱を開ける。そこには筒状の形をした銅色の物体――ロストロギアが入っていた。男は素早い動作でそれを掴み取る。それを見て局員たちは一斉に動いた。
しかし、男は彼らより速くロストロギアのスイッチを押し、俺にそれを投げつける。
「健斗――!」
「待て! 来るなリイン――」
犯人に目もくれず、そばに飛んでくるリインにそう叫ぶ。その瞬間ロストロギアは白く発光し、俺たちの視界は白く染まった。
「この――大人しくしろ!」
「御神捜査官、リインフォース補佐、大丈夫ですか!?」
取っ組み合うような喧騒の中、ある者は俺たちに寄りながら声をかけてくる。俺は彼に向かって返事をした。
「……俺なら大丈夫です。犯人の方は?」
「……? 犯人ならこちらで取り押さえました。ロストロギアも
御神捜査官? 俺はロストロギアなんて持っていないが……?
自分の両手を開きながら確認する。すると、むき出しの腕に指出しグローブをはめた手が見えた。こんなもの填めた覚えはないぞ……。それに足がスースーする。
いや、それよりリインは無事か?
体の違和感に首をひねりながらも彼女のことを思い出し、そちらに顔を向ける。するとそこにいたのは……。
「えっ……」
「まさか……」
俺の目の前にいたのは筒状のロストロギアを抱えた、“十代の少年”だった。
短い黒髪、黒い右目と緑色の左目のオッドアイ。鏡でしか見たことがないが間違えようがない。
一方、相手の方も口をパクパクさせながら俺の方を見ていた。まさかと思うが……
「お前は……」
「あなたは……」
俺と相手はおそるおそる口を開き、そして叫んだ。
「まさかリインか!?」
「もしかして健斗なのか!?」
俺とリインは指をさす代わりに言葉をぶつけ合う。一方、まわりの局員は何が起きたかわからず不思議そうな目で俺たちを見、犯人だけがざまあみろと言うように笑っていた。
◆
二時間後。本局に戻って犯人を引き渡した後で、俺とリインは技術部に向かって、マリエルさんたちから精密検査を受けていた。
その結果……。
「……間違いありません。二人とも体が入れ替わっちゃってるみたいです。たぶん、回収したロストロギアの影響ではないかと……」
「本人たちがそう思っているだけの可能性は? 二人とも知らない仲じゃないみたいだし、お互いに体が入れ替わったと思い込んでるだけの可能性も……」
レティ提督の意見にマリエルさんは首を横に振る。
「いえ、検査の後で個別にプライベートに関わる質問もしてみたんですが、それぞれ本人しか知らないはずの事も知っていたみたいです。健斗君とリインフォースさんの体、あるいは意識が入れ替わってしまったのは確かなんじゃないかと」
「そう……」
マリエルさんの返事にレティさんはそれだけを返しながらあごに手を当てた。
ロストロギアとは滅びた文明や世界が遺した遺産。その中には、ジュエルシードや夜天の書のように世界を滅ぼすほどの力を持つものもあれば、このような不思議な現象を起こすだけのものもある。今回押収したのがそれだったというわけだ。
「体が入れ替わるロストロギアですか……犯人はそんなものを使って何をしようとしてたんでしょう?」
「色々できるわよ。自分より見た目のいい人と体を入れ替えたり、お金持ちと入れ替わって資産を奪ったりとか、あるいは…………。まあジュエルシードや夜天の書のようなロストロギアと比べれば、内包している力ははるかに小さいけどリスクがない分使いやすいし、どちらかといえばこういった物を求める犯罪者の方が多いわね」
メガネをかけた新人局員の問いに、レティさんは言葉を途中で詰まらせながらもそう説明する。
新人局員の名はシャリオ・フィニーノ。今年の5月*1に第四陸士訓練校の通信科を卒業し、マリエルさんが主任を務める技術部装備課に配属された新人で、俺やなのはたちとは局員としても同じ訓練校を出たOBとしても、二重の意味で後輩にあたる。
さらに付け加えると、実家がレティさんの家の隣にあるとのことで、彼女とも親しい間柄にある。
「とにかく問題は二人を元に戻せるかという事ね。二人を元の体に戻す方法はわかりそう? 犯人から何か聞き出せた?」
「あっ、はい。犯人によれば、あのロストロギアをもう一度二人に使用すれば元に戻るとのことです。こちらの解析でもそのような結果が出ていますが……ただ……」
「ただ……?」
レティさんが目線で問いかけると、マリエルさんはちらりと俺たちを見てから言った。
「精神の入れ替えは両者の脳に大きな負担がかかるため、入れ替わってから24時間――いえ、大事をとって36時間は空けておく必要があるとのことです……つまり……」
それを聞いてレティさんも俺たちも、マリエルさんが言わんとすることを察した。
要するに、俺とリインは今から丸一日以上入れ替わった状態で過ごす必要があるという事だ。不運な事に明日は平日。俺には学校が、リインには仕事がある――いや、今は体が入れ替わってるわけだから、俺が仕事に行ってリインが学校に行く事になるのか……。
レティさんたちが沈黙してからしばらくして、俺はようやく口を開く。
「明日、リインフォースの予定はどうなっています? 普段俺が学校に行ってる間、彼女は別の部隊の応援に行ってるはずですが……」
「健斗!」
俺が尋ねるとリインが声を上げる。お互い姿と声がそっくり入れ替わってしまっていて妙な感じだが、そんなことを気にしている場合じゃない。
そんな俺たちを見ながらレティさんは告げた。
「リインフォースは明日、一日中航空武装隊に付いてもらう予定よ。シグナムと同じ班」
やはりか。リインは空中での行動に慣れているし、ヴォルケンリッターの将を務めるシグナムとは通じるところも多い。組み合わせとしてはちょうどいいぐらいだろう。それなら何とかなりそうだ。
「わかりました。じゃあ明日は俺がリインフォースの代わりに航空隊の応援に行きます。航空隊なら俺自身研修で行ったことありますし、何とかなると思います!」
「そんな――健斗にそんな真似はさせられません! それならシグナムに事情を話して私が――」
そこでリインははっとして言葉を飲み込む。
確かにシグナムあたりに事情を説明すれば、“俺の姿をした”リイン自身が航空隊に加わることは可能だ。だが、そうなると地球にいるはずの“俺”はどうなるのかという問題が起きる。
リインもそれに気付き、俺に尋ねてくる。
「健斗、その、学校の方は……やはり行った方がいいでしょうか?」
「……いや、さすがにそれはまずいだろう。授業はついていけているし一日くらい休んでも大丈夫さ。……問題は母さんだな。こんな時に限って明日は非番らしい。あの人に仮病は通用しないだろうし、何とかして学校を休む言い訳を考えないと……」
「――いいえ、学校には行きなさい!」
その声に俺とリインは思わずそちらを振り返る。俺たちに向かってそう言ったのは、この場で最も高い立場にいるレティ提督だった。
「健斗君やはやて、なのはさんたちの局入りにあたって、私たち管理局は保護者の方々と“本人たちの学業を何よりも優先すること”を約束しました。その約束がある以上例え一日でも、私たちの都合であなたたちに学校を休ませるわけにはいかないの。だから病気でもない限り健斗君には学校に行ってもらいます――
レティさんは強い口調で俺たちに言い聞かせる。
それが伝わったのか、リインは覚悟を決めたように胸の前に手を置いて。
「……わかりました。私は明日、健斗になったつもりで彼の学校に行って、彼の家で生活します。ちょっと不安ですが学校には主たちもいますし、健斗のお母様とも何度か会ったことがありますから……多分大丈夫だと思います」
「うん、リインさん偉いよ!」
リインの決意にマリエルさんは拍手しそうな勢いで褒め称え、レティさんも強くうなずき……
「やっぱり、今の状況では親御さんには伏せておいた方がいいですよね」
「そうね。私たちには彼を元に戻せる確証があるけど、保護者からしたら息子が元に戻るか不安でしょうし、今は話さない方がいいと思うわ。はやてや他の子たちにもまだ言わない方がいいかも」
「はやてさんたちにもですか? はやてさんには話した方がいいと思いますけど」
「いいえシャーリーちゃん。はやてちゃんには話さない方がいいわ! もし健斗君が女の人と体が入れ替わったなんて知ったら、はやてちゃんショックで寝込んじゃうか、もしかしたらいけない道に走っちゃうかもしれない。ただでさえ胸揉みの癖があるのに、そんなことになったら――」
「マリエル、落ち着きなさい。とにかく今はやみくもに事を荒立てない方がいいわ。はやてたちに事実を話すのは、健斗君とリインが元に戻るか確かめてからで十分よ。とにかく明日、健斗君はリインフォースとして航空隊に、リインフォースには健斗君の振りをして学校に行ってもらいましょう」
シャーリーも加えて、三人はそんなことを言い合う。
そんな彼女らに……
「もしかしてなんだけど……あんたら楽しんでないか?」
そう訊ねると、レティさんとマリエルさんはギクリとしながら目を宙にそらす。そんな彼女たちの前で俺はやれやれと首を振った。
とはいえ、俺の方は自分から航空隊に行くと言ってしまったし、リインも自分の発言を取り消すつもりはないようだ。ここは腹をくくって交換生活を送るとしよう。
……それはそうと