魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第2話 暴走

 空に暗みがかかってきた頃。

 

 

 東京郊外にて、かつてドライブインとして営業していた廃墟のガレージに、赤と黒の混じった肩出しのドレスをまとった少女がいた。その体からはほのかに赤い粒子が漂っている。

 少女の名はイリス。地球からはるか遠くにある、滅びかけた惑星『エルトリア』からきた来訪者()()()である。

 イリスのまわりには無数の重機が置かれてあった。どれもこの星に来た、今日の深夜から昼間にかけて“相棒”が集めてくれたものだ。

 

 イリスはその中の一つ、ショベルカーに手をかざす。すると、ショベルカーのまわりに赤い光が走り、そのまま収まった。傍目には何も変わっていないようにしか見えないが……。

 

「ずいぶん揃ったわね」

 

 エンジン音とともに一台のバイクが転がり込んできて、バイクに乗っていた女はイリスに声をかけながらヘルメットを脱ぎ、長い桃色の髪を揺らす。

 彼女はキリエ・フローリアン。エルトリアからやってきた、もう一人の来訪者だ。

 今の彼女はエルトリアを発った時と違い、白いワイシャツに短いスカートといった、この国の学生服(ガールズスタイル)を身にまとっている。

 

 イリスはキリエの方を振り向きながら……

 

「一応全部、《機動外殻》として使えるようにしといた。“ヒーローたち”の居場所と動きも掴んだわ」

 

 そう言ってイリスは自身の眼前にモニターを出現させる。キリエもイリスの方に寄りながらモニターを眺めた。

 イリスはモニターをタッチして次々に画像を切り替え、十字の髪飾りをつけた短い髪の少女が出てきたところで指を止めた。モニターの少女を見てキリエはつぶやく。

 

「この子が……」

 

「ええ。《闇の書》の現所有者、八神はやて。永遠結晶を手に入れるための《鍵》はこの子が持ってる本の中にある……こっちは私が行くわ。貸してもらえるように“説得”してみる。キリエはこっちの二人ね」

 

「うん……」

 

 イリスが続けて表示させたツインテールの少女二人の画像を見てキリエはうなずく。そこでキリエは表情に影を落として言った。

 

「ねえイリス……闇の書だけじゃ駄目なのかな? パパとエルトリアを助けるには、永遠結晶でなくても……イリスと一緒に見たデータにも載ってあったじゃない。闇の書にはどんな願いも叶えられる力があるって! わざわざあの子たちを傷つけてまで《鍵》と永遠結晶を手に入れなくても、闇の書さえ借りられれば――」

 

「駄目よ!」

 

 言い終わる前にその一言で切り捨てられ、キリエは唖然とイリスを見る。

 イリスは続けて言った。

 

「闇の書なんかじゃキリエのパパもエルトリアも救えないわ。あのデータにも載ってあったでしょう。闇の書のせいでどれだけの悲劇が起きたのか、書を完成させた持ち主たちがどうなったのか……あの本はね、『魔法の指輪』のふりをした《すべてを奪う悪魔》なのよ」

 

「すべてを奪う、悪魔……」

 

 キリエの声から憎悪のようなものが伝わり、キリエは思わず彼女の言葉をそのまま口にする。

 イリスはさらに続けた。

 

「それに今の闇の書に星を救うほどの力はないわ。“資料によれば”防衛プログラムが消滅した影響で、集めた魔力のほとんどがなくなっちゃったんだって。魔力を集める時間だってもう残ってないでしょう」

 

「……っ」

 

 肩をすくめて言うイリスに対し、キリエは無意識に唇を噛む。

 

――だとすれば、やっぱりパパを救うには……。

 

 キリエの考えを察したようにイリスはあえてその顔に笑みを作って、その言葉を口にした。

 

「《永遠結晶》……星の命をも自由に操ることができる、闇の書から分離した“もう一つの核”。パパとエルトリアを救うにはそれを手に入れるしかない……わかってくれた?」

 

 キリエは黙ったまま首を縦に振る。そして彼女はモニターに再び目を戻し、それに映っているオッドアイの少年を見て言った。

 

「ところで、この男の子はどうするの? イリスが手に入れた記録では、この子もこの星を救った“ヒーロー”の一人みたいだけど。この子の足止めと“データ採り”も私がやっておこうか?」

 

 キリエはそう言うもののイリスは首を横に振り……

 

「いえ、キリエでもさすがに三人は手に余るわ。彼の方は魔力に加えて面倒な能力を持ってるみたいだし、それになにより――」

 

 イリスが言いかけたところで、モニターにザザッとノイズが走り、それと同時にかすかな振動が伝わってくる。

 キリエは顔を上げてその名を呼んだ。

 

「アミタ……」

 

「……どうやら、“しばらく”は過ぎちゃったみたいね――ぐずぐずしてられない。打ち合わせ通り、キリエはあの二人を。私は闇の書の持ち主のところに行ってくるわ」

 

「うん! ところで、男の子の方はどうするの?」

 

 バイクにまたがりながらキリエは同じ問いを投げかける。それに対して、イリスは考えるように腕を組みながら言った。

 

「そうね……私の“分身”に行かせるわ」

 

「分身?」

 

 エンジン音に紛れてキリエの問いが漏れる。それに答えずイリスは心の中でつぶやいた。

 

(今の状態で造るのはリスクが大きいし……こんなに早く使うつもりはなかったけどね)

 

 

 

 

 

 

 同時刻。キリエたちがいる場所から少し離れた森の中に、一人の少女が“空から降ってきた”。

 

「表皮と筋肉層に軽微のダメージ……ナノマシンが修復作業中…………うん。体の方は問題ありませんね」

 

 少女は自身の体を見下ろし、たいしたダメージがないことを確認する。

 森に降ってきたのは緑色の瞳を備え、一本だけ跳ね上がった赤い髪を後ろに結んでいる、見るからに活発そうな20寸前の少女だった。

 

「ここが異世界……この世界のどこかにキリエとあの子が……」

 

 “今の故郷”にはない、うっそうとした森を眺め渡してから少女は考えを巡らせる。

 

――家の地下室にある《遺跡板》の記録を見た限り、キリエはまず夜天の書に関わりのある“四人の子供たち”に接触しようとするはず。その後は《永遠結晶》というものを……でも、それが本当に星を救うものかどうかはわからない――それになにより、自分たちの星を救うためとはいえ、罪もない子供を傷つける事なんて母さんも父さんも望むわけがない。だから――

 

 

「お姉ちゃんがあなたたちを止めてみせます!」

 

 決意を固めながら少女は勢いよく立ち上がり、その拍子に足下からビリッという音が響いた。

 少女はまさかと思いながら足下を見る。着地の衝撃によるものだろう、スカートの右後ろ側は大きく破れ、太ももから先の脚と下着の一部があらわになっていた。

 

(そ、その前に服を作り直さないと――たしかこの国の女の子が着る服は……)

 

 顔を赤くしながら、少女は急いで新しい服の形成に取りかかる。

 

 

 毅然(きぜん)としていながら、少し抜けた所のあるこの少女の名はアミティエ・フローリアン。家族からアミタと縮めて呼ばれている、キリエの3つ上の姉である。

 

 

 

 

 

 

 エルトリアから来た姉妹とイリスが動き出している頃。

 オールストン・シーから少し離れた、本土にあるリゾートホテルでは……。

 

 

「ちょうど今ホテルについたところ…………ううん、まだみんなお風呂に入ってないよ……うん。じゃあはやてちゃんが来るまで待ってるから、後で一緒にお風呂入ろうね!」

 

 ホテルについて早々、到着した部屋ですずかははやてに連絡をかけて、俺が傍にいるにもかかわらずそんなことを言う。そこへ――

 

「男どもは関係ないから先に入ってていいわよ。ちょうどいい時間だし、もう今から入ってきたら」

 

 俺を含めた男衆に向かってアリサがそんなことを言ってくる。それを聞いて……

 

「じゃあ、俺たちだけでさっさと入っちまうか。ナナミさんとシンクとの稽古で汗だくだしよ」

 

「儂もそれで構わんよ。久しぶりに数時間も外を練り歩いて、早くさっぱりしたいところじゃしな。デビッド殿はどうじゃ? 事業について相談に乗れることがあるかもしれんぞ」

 

「せっかくのお申し出ですが、僕も俊が来るまで待つことにしますよ。オールストン・シーに携わる者同士、あいつと色々話しておきたいところですし」

 

 雄一、ヴィル、デビッドさんはそんなことを言い合う。この状況じゃリインと入る事なんてできないだろうしな……。

 

「じゃあ、アリサの言葉に甘えて、俺たちは女の子たちより先に入っちまうか。他にすることもないし」

 

「おう」

「うむ」

「ええー!」

 

 ……いや、すずかさん、なんでそこで君が不満そうな声を漏らすんですかね? まさか月村邸に泊まった時のように飛び込んでくるつもりだったんじゃないだろうな。もうお互い10歳過ぎてるし、公衆浴場であれはさすがに洒落にならんと思うが。

 そう思っているところでリンディさんのスマホから着信音が鳴り、彼女はスマホを耳を当てる。

 

「はい、リンディです…………えっ!?」

 

 リンディさんはスマホを手に取ってすぐ、驚いたように目を見開き、いくらか返事を返して連絡を終えた。そして彼女はこちらを向き――

 

「健斗君、申し訳ないけどお風呂は後にして。それとすぐにテレビをつけてもらえませんか! チャンネルはその都度指示します!」

 

 俺に向かって言った直後に、リンディさんは親たちに指示をする。それを受けて春菜さんが急いでリモコンを取り、壁にかけられている大型テレビのスイッチを入れた。

 

『昨夜から気象衛星『久遠』と通信が繋がらなくなっており、同衛星との通信を復旧させるべく、気象庁の職員は現在も作業を――』

 

 ナレーターが言い終わる前にリンディさんの指示を受けて、春奈さんはチャンネルを変える。次に映ったのは、都心に続く長い道と険しい顔をしたリポーターの姿だった。

 

『三原木四丁目で複数の大型車両が横転する事故が発生。複数の乗用車が横転に巻き込まれた模様です。この事故で死傷者が出たという情報はありません。目撃者によりますと、大型車両は道路上を塞ぐように走行し、一斉に横転したとのことです。また、鳴坂高速道でも多数の大型車両が暴走しているとの情報が……』

 

 リポーターの報告を聞いて、俺たちは目を見張る。

 複数の大型車の事故、暴走……これってまさか。

 

「三原木四丁目って、たしか今はやてちゃんとお父さんが……」

 

 すずかが発した言葉に春菜さんははっとして、俊さんに電話をかける。俺もはやてに電話をかけようとするが、その直前に通知音が響き、それに応えると、眼前にクロノが映ったモニターが現れた。今の彼の姿は二年前と違い、スーツや背丈のためか年相応の精悍さが備わっている。

 

『いきなりですまない。だが今テレビでやってるように、昼間何者かに盗まれた大型車両が各地で暴走しているらしい。それと合わせて、たった今はやてから、複数の機械群とそれらを操っている赤いドレスの少女と交戦しているという連絡があった』

 

「機械群? それってまさか――」

 

 俺が問いかける前にクロノはうなずく。

 

『暴走した車両が変形したものだそうだ。状況から考えてただの暴走車とは思えない。健斗、なのは、フェイト、リインフォース、すぐに現地へ出動してくれないか。相手が結界を使う様子がない以上、このままだと一般人に被害が出る恐れがある』

 

「了解!!」

 

 クロノの要請に俺たちは声をそろえて了承する。クロノはうなずいて。

 

『すまない。じゃあなのはとフェイトは鳴坂方面へ、健斗とリインフォースは三原木へはやての加勢に向かって、暴走車を操作している容疑者の確保にあたってくれ』

 

「うん」

「わかった」

「ああ」

「言われるまでもない」

 

 俺たちはそれぞれの言葉で答える。

 ――その時だった、テレビの向こうでリポーターが新たな情報を伝えてきたのは。

 

『ぞ、続報が入りました! 湾岸道路方面に新たな暴走車両が現れたとのことです! すでに警視庁は装甲車を含めた車両数十台を出動させて、暴走車の対処に向かわせているとの事です。これに合わせて、鳴坂、湾岸各道路は封鎖され、付近の道路にも交通規制が敷かれるとのことです。付近を通行中、通行される予定のある方は、誘導にあたる警察官の指示に従って行動してください』

 

 リポーターがそこまで言うと映像が変わり、湾岸道路を上空から映したものになる。そこには猛スピードで進む何台ものトレーラーや重機と、それらを十台近くのパトカーが追跡していた。

 カメラはちょうど先頭のパトカーを映しており、その助手席には――。

 

「――あの人は!」

 

 “彼女”を見てリインは声を上げる。俺も無意識に言った。

 

「母さん……」

 

 

 

 

 

 

 その頃、湾岸道路では――。

 

 

『警察です! 全車速やかに走行をやめて停止しなさい! 繰り返す! 全車速やかに――』

 

 車線の区別もなく、車道を完全に塞ぎながら前を走りつづける大型車両群に向かって、女性警官がスピーカーを使って何度か呼びかけるものの、車両群は停止どころか減速する気配すら見せない。

 先頭を走るパトカーを運転しながら、早見(はやみ)という警官はスピーカー用のマイクを戻して言った。

 

「止まりませんね。やはり強引に停止させるしかないでしょうか」

 

 その問いに、早見の隣に座る美沙斗は鞘に収められた刀を握りながら答えた。

 

「そうですね。このまま街中に出れば、民間人や建物に被害が出てしまうかもしれません。そうなる前にここで食い止めておきたいところです」

 

「ですね。あの量ではスパイクベルトを使ってもすべて止めることはできないでしょうし、私たちで何とかするしかありません。まずは最後尾の車両から止めます。御神さん、万が一のバックアップをお願いできますか?」

 

「心得ました。他の車両への配慮は? それと先ほどから報道用のヘリが付いてきているようですが、下げてもらえるよう計らっていただけますか。《御神流》の技を衆人の目にさらしたくありませんので……」

 

 後ろをついてきているパトカーと上空を飛ぶ報道ヘリを見ながら言う美沙斗に、早見は「ご心配なく」と告げる。

 

「今回連れてきているのは私が選んだ精鋭です。暴走車のクラッシュに巻き込まれるヘマはしません。報道機関に対しても、そろそろ上から撤収命令が出ているはずです――ほら」

 

 ほらという言葉に美沙斗が目線を傾けると、今までついて来ていたヘリが遠ざかっていくのが見えた。どうやら指示が届いたらしい。これなら遠慮なく刀を振るうことができる。道路が封鎖されている現状ではカメラや動画に撮られる心配もないだろう。

 

「では行きます。まずはこの車の性能を見せてやるとしましょう。先ほども言った通り、御神さんは万が一のフォローを」

 

「了解!」

 

 美沙斗が応えると同時に、早見はレバーを前に傾けて思い切りアクセルを踏み、彼女らが乗るパトカーは暴走車群に向かって突っ込んでいった。

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