魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第3話 大型機械と謎の“敵”

 指揮を務める女性警官、早見(はやみ)と美沙斗が乗った車は、ぐんぐん速度を上げて暴走車両の群と距離を縮め、最後尾を走るトレーラーの左側へ隣接する。

 トレーラーを走らせている後輪を右目に収めると、早見はハンドルの右側に付いているレバーをいじった。そうすると()()()()なら方向指示や点灯用のライトが付くはずなのだが……。

 

 レバーをいじった瞬間、パトカーのタイヤのホイール部分がパカッと外れ、そのまま真横にスライドして鋭利な刃物を吐き出す。次の瞬間、それは猛スピードで回転し、巨大なカッターと化した。

 早見は自身が運転するパトカーを右に寄せ、徐々にトレーラーの後輪に迫る。そして――

 

 パトカーから伸びるカッターはトレーラーの後輪にぶつかり、ギィィィィンと甲高い音を立てながら、分厚い後輪を易々と切り裂いていく。程なく後輪は外れ、ふらっとトレーラーがぐらつき始める。

 その瞬間、早見は素早い動作でハンドルを左に切り、トレーラーから距離を取った。

 バランスを失ったトレーラーはその場を横転し、大きな土煙を上げながら地面に転がった。

 後続のパトカー群はブレーキと巧みなハンドルさばきで横転したトレーラーをかわしていく。それを見てながら早見は無線を掴み、他のパトカーに乗っている部下たちに指示を出す。

 

『504はクラッシュした車と中に乗ってる乗員を確保して。他の車両はこのまま私に続いてください。今の調子で私たちが暴走車を停止させていきますので、君たちは私に続きながら停止した車と乗員を順次確保していって――いいわね!』

 

 彼女の指示に無線機を通して、他のパトカーから各々(おのおの)の車体番号と『了解』という返事が返ってくる。

 そんな光景に美沙斗は感嘆の息をつき。

 

「大したものですね。無数の大型車両が暴走しているという事態に関わらず、連携に乱れがない。この車の仕掛けにも驚きました。公用車にあんな改造をするなんて、上はよく許してくれましたね」

 

「顔が利く上司とか仕事で知り合った政治家とか、御神さんの仕事仲間とか、色々人脈を駆使しましたから。改造費も全部自費で賄うって言ったら、渋い顔をしながらなんとか許してくれました。そんな私に比べたら後ろの部下たちは本当に優秀ですよ。交通警察隊の中でも指折りばかりです。この状況を知った上司が上に掛け合って急遽用意してくれました」

 

 そう謙遜する早見に対して、美沙斗は内心舌を巻いていた。

 一刑事が人脈だけで公用車(パトカー)の改造や、一時的とはいえ人事に口出しできるわけがない。できたとしても、現場には出てこず庁内で采配を振るっているような人物だろう。その事からも彼女が人脈だけでのし上がってきたような人物ではなく、能力的にもずば抜けたものを持っているのがうかがい知れる。

 

(《警防隊》と繋がりを持つだけはある、か……)

 

 そう思う美沙斗の横で、早見は暴走車を追いながら、最初の時のようにスピーカーマイクを手にして言った。

 

『暴走車に次ぐ! ただちに車を止めて降りてきなさい! でないと、他の車両も後ろの車と同じ目にあわせますよ!』

 

 十中八九止まらないだろうと思いながらも、早見はスピーカー越しに停止と投降を呼びかける。しかし彼女の予想とは裏腹に暴走車群は次々と動きを止め、そこに留まった。

 

 まさか、今頃になって投降する気になったのか?

 

 早見は車内で無線を握ったまま、美沙斗と何人かの警官たちはパトカーから出て、固唾を飲みながら停止した大型車両の群れを見守る。

 その時だった!

 

『は、早見警部! こちら504!』

 

「こちら早見。どうしました?」

 

 先ほど横転させた車両の確保にあたっていた警官から無線が入り、早見は車両群を眺めながら応答する。すると――

 

『先ほど停止させた車両ですが――な、中に誰も乗っていません! 無人の状態です!!』

 

「なっ――何を馬鹿な! どこかに隠れているという事はありませんか? 運転席の下とか、キャビンの後ろとか――」

 

『い、いいえ! 二人がかりで調べましたがどこにも――うわあああ!!』

 

「どうしました? 504、応答しな――」

 

 言いかけたところで早見は言葉を飲み込む。なぜなら……

 

「あ、あれは――」

「う、うわああああ!!」

 

 “それ”を見て、多くの警官が息を飲み、何人かは我を忘れて暴走車()()()()()から背を向けて駆け出す。

 

 今まで高速の上を爆走していたトレーラーと、それらが運んでいた工事車両が形を変え、立ち上がるように変形したからである。まるでアニメや特撮に出てくるロボットみたいに。

 先ほどクラッシュさせたトレーラーとその上に積まれていたショベルカーも変形し、こちらに迫っていた。

 

「く、くそ――!」

「撃て、撃てえええ!!」

 

 変形した大型機械を前に、多くの警察官が拳銃を取り出し、怒声とともに発砲する。しかし、そんな小粒(鉛玉)が鉄の塊に通用するはずもなく――。

 大型機械たちは銃から打ち出された弾を浴びながら、左右についたアームを腕のように持ち上げる。それを見て警官たちは逃げ出すも、そのうち一人が恐怖のあまりつまずき、そのまま倒れてしまう。

 起き上がりながら、思わず後ろを見上げた彼が目にしたのは、眼前に迫って来る大型機械、そして頭上に振り下ろされようとしているアームだった。

 

「う――わああああああ!!」

 

 彼は死を覚悟し、あらん限りの声で叫ぶ。彼を押し潰そうと巨大なアームが迫って――

 

「せええい!」

 

 ――こなかった。アームは一刀両断に切られ、彼のすぐそばに落ちる。あの鉄塊を切ったのは警官と同じくらい――いや、やや低い女だった。彼女を見て捜査官はその名を呼ぶ。

 

「み、御神捜査官!」

 

 長い黒髪をたなびかせ、鉄の塊を切ったにもかかわらず刃こぼれ一つしていない刀と、もう片手に持っているもう一本の刀を振るいながら、彼女は言う。

 

「逃げろ」

 

「えっ?」

 

 思わず聞き返した警官に美沙斗はもう一度言った。

 

「ここは私に任せて逃げろ! 君たちがどうにかできる相手じゃない! 早く!!」

 

「は、はい――!!」

 

 美沙斗に一喝され、警官は動転しながらもたまらずその場を離れる。

 

 逃げる警官たちを背に美沙斗は仁王立ちしながら、巨大な機械群と対峙した。

 

 

 

――御神美沙斗……“彼”にとって現代における母親か。なかなか腕が立つようだが……少し腕前を見せてもらうとしよう。

 

 

 

 その直後、三体ほどの機械たちがタイヤを滑らせながら一斉に美沙斗に向かってくる。その状況で美沙斗は目を閉じ――。

 

(御神流奥義之歩法――《神速》)

 

 意識を集中し、再び目を開いた彼女が見たものは、色を失った世界と、停止()()()()()()()()機械群だった。

 

 

 

 これがかつて“表”と“裏”の双方で最強と呼ばれていた、『御神の剣士』の必修にして奥義の歩法……《神速》。

 視覚にすべての意識を集中させることで、自分以外が“止まったように見え”。くわえて一時的に身体のリミッターを外すことで、制止した時間の中を動くことができる。それが瞬間的と言えるほどの高速移動を可能にしているのだ。

 だが、それによる意識と身体への負荷は決して軽いものではない。美沙斗の技量をもってしても多用はできない技だ。そんな欠点も含めて《神速》という技は、健斗が生まれつき習得している《フライングムーヴ》とよく似ている。

 

 

 

 知覚強化によって常より重く感じる体を動かし、美沙斗は大きく左へ動く。

 次の瞬間、世界は再び色と動きを取り戻し、機械群は大きく前へ突き進み、美沙斗のいた場所を通り抜けていく。

 美沙斗は二本の刀を前に突き出し、機械たちに向かって踏み出した。

 

「はああああっ!」

 

 美沙斗は棒立ちしている大型機械のアームに刀を突き入れ、その勢いを殺さぬままもう一本の刀で数倍の質量を持つアームを完全に断ち切り、斬ったアームを踏み台にもう一本のアームに向かって跳び、刀を振るい下ろしてアームを切り落とす。

 

 地面に着地しながら美沙斗は機械たちを睨む。

 

(厳しいな……《徹》と《貫》を駆使しても(アーム)を斬るのが精一杯だ。どうやってこいつらを止める? いや、そもそもどうやったら止まる? 運転手もいないのにどうして動いている?)

 

 頭の中が疑問で埋め尽くされているところで、また機械たちが迫って来て、美沙斗は《神速》でそれらをかわし、アームを備えている機体に向かい、先ほどのようにそれを斬り落としていく。

 

 今は相手の攻撃手段を封じつつ、機械たちを引き付けておくしかない。時間が経てばお上もこの状況を知り、重装備や戦車を備えた自衛隊を動かしてくるだろう。あるいは……。

 

 息子や姪が所属している、異世界の組織を頼ろうとする自分に不甲斐なさを覚えながらも、美沙斗は意を決して二本の刀を構え、機械群を見据える。

 

 そんな彼女をあざ洗うように大型機械の一体が形を変え、バルカン砲のような複数の銃口を輪状に並べた砲身を形成し、それを彼女に向ける。驚愕すると同時に、美沙斗はとっさに《神速》を使いながらその場を離れた。それから一瞬ほどの間を置かず、美沙斗がいた場所に無数の銃弾が降り注がれる。

 回避した先で、それを眺めて美沙斗は自分の首筋にひやりとした汗が伝って来るのを感じた。一瞬でも遅れていたら蜂の巣になっていたのは間違いない。

 そこへタイヤの音が響いてきて、美沙斗はそちらを振り向く。気が付くと大型機械の一部が彼女に迫って来ていた。

 しまったと思いながらも、美沙斗は《神速》でそれを避けようとするものの――

 

「――ぐっ!」

 

 膝と腕に激痛が走り、美沙斗は思わず動きを止める。ここにきて、《神速》を乱発による反動が彼女を襲ってくる。

 

「くっ――」

 

 美沙斗は顔を上げて目の前の光景を見る。

 《神速》は不完全ながらも発動しており、色褪せた世界で大型機械はゆっくりと迫ってくるのが見える。にもかかわらず、美沙斗はこの場を動くことができない。いや、本来ここは人間が動けるはずの世界ではないのだ。

 ならばこれは死の直前に体感するという、“タキサイキア(スローモーション)現象”に違いなく……。

 

(美由希……健斗――)

 

 最期に愛娘と愛息子を想いながら美沙斗は目をつむる。彼女の諦めにより《神速》は解け、世界に色と音が戻ってくる。

 そんな彼女の耳に真っ先に届いたのは――

 

 パンッ!

 

「――!」

 

 乾いた破裂音を耳にして、美沙斗は思わず目を開けた。

 いずこから放たれた弾は大型機械にあたり、そのままどこかへ跳ね返る。だが、それでも彼女は、美沙斗に迫ろうとしていた機械に向けて何発も弾を放ち続ける。予期せぬ方向からの攻撃に機械の方も動きを止めて彼女の方を振り向く。美沙斗も彼女の方を見て……。

 

「早見さん……」

 

「御神さん、早く離れて! そこにいたら踏み潰されるか蜂の巣になるわよ!!」

 

 銃声に紛れて早見が怒鳴り声を送ってくる。それを聞いた瞬間、美沙斗は痛みすら忘れ無我夢中で足を動かし、その場を逃れた。

 

(しっかりしろ! 端くれとはいえ、銃を出された程度で『御神の剣士』が負けるはずがない! 敵が新たに銃を出してきたのなら銃を落とせばいいだけの事! あるいは――)

 

 美沙斗は逃げながら改めて敵を見回す。

 大型車両がひとりでに変形し、人を襲うわけがない。必ずそれらを操っている者がいるはずだ。どの車両の運転席にもそれらしい人間は乗っていないが……

 ――いや待て!

 

 美沙斗は目を凝らし、後方に立ったままのブルドーザーが変形した大型機械を見る。そいつの肩に黒い影が乗っているのが見えた。よく見ると人の頭みたいな形をしているような……まさかあいつが――。

 それを確認すると、美沙斗は一瞬だけ早見を見る。美沙斗の表情と素振りで、早見は彼女の意図を察した。

 

 

 

 

 その直後、早見はがれきの背後に隠れ、彼女を一瞥もせず美沙斗は駆ける。一番奥の機械がいるところに向かって一直線に――。

 そこへ機械の一体が彼女に向かって弾丸を浴びせてくる。だが――

 

「はあああああっ!」

 

 美沙斗は再度《神速》を使い、弾丸を避け、制止した機械たちの横を走り抜ける。

 その反動でまた体中に痛みが襲ってくるが、さっきと比べればずいぶん軽く感じる。痛みに慣れてきたのもあるが、勝ち筋(ゴール)が見えてきたのが大きいだろう。

 奴を捕まえればこの機械どもも止まるはず――いや、止まる!

 

「ああああああっ!!」

 

 すれ違いざまに機械たちのアームや銃身を斬り落としながら、美沙斗は一心不乱に駆ける。そして――

 犯人(ゴール)は自分から現れた。

 

「なっ――!?」

 

 美沙斗は驚きながらもとっさに刀を突き出す。それに対し、そいつは素手で刀ごと美沙斗を殴り飛ばし、その隙を縫って、懐から青い球体を取り出し、それを剣の形に変えて掴み取った。その剣の刃も美沙斗が知ってるものとは違い、黒い金属でできていた。

 美沙斗は即座に体勢を立て直しながら、目の前に現れた“敵”を見据える。

 

 そいつの姿は一言でいえば異様だった。

 黒一色のSFチックな服をまとい、顔面をヘルメットのようなもので覆っている。ヘルメットの前面はガラス張りだが夜のせいか真っ黒に染まっていて、容姿どころか男か女かさえ分からない。

 

「――何者だ?」

 

「……」

 

 美沙斗は二本の刀のうち一刀の先端を向けながら、問いを投げつける。だがそれに対して相手は何も答えず沈黙を保つ。

 

「お前が暴走車――この機械たちを操っていたんだな!」

 

「……」

 

 確信めいた声で美沙斗は違う問いをぶつけるものの、やはり相手は答えない。

 そんな中、美沙斗は慎重に相手の動きと間合いを測る。だが――

 

 ――その直後、いやほぼ同時に、相手は美沙斗の寸前に現れる。

 美沙斗はただちに刀を繰り出すものの相手は剣で受け止め、続けて繰り出された二刀目を素手で掴み取り――それを握り割った。

 美沙斗は驚愕に目を剥きながら後退し、

 

(――《神速》!)

 

 技を発動した途端、世界は色を失い、自分以外のものは動きを止める――はずだったのだが。

 

「――!?」

 

 《神速》の発動中にもかかわらず、“敵”は自分の前に現れ、当たり前のように剣を繰り出してきた。美沙斗は刀で受け止めようとするが、片手刀と両手剣では込められる力に差があり――

 

「ぐあああっ!」

 

 美沙斗の刀は呆気なく砕かれ、彼女自身も肩の上から斜めに斬られる。その衝撃で《神速》は解け――

 

「御神さん――くっ!」

 

 美沙斗が倒れるのを見て早見はすぐに銃を構え、“敵”の心臓めがけて躊躇なく発砲する。

 しかし、弾丸は“敵”の胸にあたったものの、相手の服を破る事すらなく、胸元にあたった後コロコロと足元に落ちた。相手は地面に落ちた弾丸を見下ろしてから、胸を手でぱんぱんと払う。

 

「そんな……」

 

 驚愕のあまり早見は敵を前にしながら、口をあんぐりと開けながら棒立ちする。裏社会でも無敵と言われていた美沙斗をあっさり破り、実弾を受けても平然としているなんて――。

 まるで映画の悪役や怪物みたいじゃないか。

 

 早見に“敵”は剣の切っ先を向け、それを銃のような形に変える。早見もそれを目の当たりにしていたが、もはや完全に理解の範疇を越えていて驚くことすらできない。

 “敵”は銃を握りながら引き金に手をかけ、そのまま指に力を入れ――

 

「フレースショット!」

 

 その時、上空から少年の声と紺色の弾丸が落ちてきて、“敵”の銃を落とす。さらに――

 

「バインド」

 

 再び上空から女の声が降ってきたと同時に、“敵”のまわりに黒い輪が現れ、彼をきつく締めあげる。

 それに反応して今まで動きを止めていた機械群が、上空の敵に向けて一斉に銃口とアームを向け、無数の銃弾とアームを放っていくが、彼らは三角形の盾でそれらを防ぎ、紺色の放射線と黒い槍を撃ち込んで機械たちを破壊していく。

 

 美沙斗の力量をもってしても、完全破壊が難しかった機械群はあっという間に一掃され、縛られたままの“敵”だけが残った。

 早見は思わず上空を見上げる。

 上空にいたのは黒髪とオッドアイの少年と、四本の黒い羽を生やした銀髪の女だった。

 

「あの子たちは……?」

 

 彼らを見て呆然とつぶやく早見。美沙斗も地面に倒れ、痛みにうめきながら彼らの名を呼ぶ。

 

「健斗……リインフォースさん……」

 

 地面に倒れている美沙斗を見つけて、リインフォースと呼ばれた銀髪の女は急いで彼女のもとに降りる。

 健斗という少年も美沙斗を見て悔しそうに顔を歪めるが、リインフォースが駆け寄るのを見て気を取り直し、縛られたままの“敵”に顔を向けて言った。

 

「時空管理局・本局捜査隊、御神健斗だ。次元法違反の容疑、および殺人未遂の現行犯で逮捕する! 大人しく来てもらおうか」

 

 ミカミ…ケント……。

 

 

 

 健斗が名乗った瞬間、“敵”は嬉しそうな笑みをを浮かべた……ように早見は感じた。

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