魔法少女リリカルなのは 愚王の魂を持つ者   作:ヒアデス

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第4話 決意

「お前はどこの世界から来た? 何の目的でこんなことをした? はやてを襲っている赤いドレスの女とはどんな関係だ? ――答えろ!」

 

 リインが治療魔法で母さんの傷をふさいでいるのを横目に見ながら、俺はバインドで縛り付けている“敵”に問いをぶつける。友達(はやて)を襲っている女と関係があるかもしれないこと、母親を傷つけられた怒りで声が上ずっているのが自分でもわかった。

 それに反して“敵”は沈黙を保ったままだった。顔を覆うヘルメットが一層不気味さを際立たせている。

 なんなんだこいつは……?

 

 

 

――“バインド”なる術の解析は完了。破壊はいつでも可能。

 

 

 

「健斗――御神捜査官、美沙斗さんの治療が終わりました。命に別状はありませんが、病院で診てもらった方がいいのではないかと。早く運んだ方がいいと思いますし、容疑者の尋問も後にしませんか? 失礼ながらそんなに感情的な状態では尋問も難しいかと」

 

 母さんを道路の脇に置いてから、そう訴えてくるリインに思わず言い返したい気持ちがわいてくるが、母さんを一刻も早く病院に送った方がいいのは確かだ。それに……。

 

「…………」

 

 呆然としながらも、俺やリインを交互に見る女性に目を向ける。視線が合うと、警戒心に満ちた表情でこちらを見返してくる。

 今までの様子とスーツ姿からすると、どこかの刑事……母さんの仕事仲間といったところか。やむなく彼女の前で魔法を使ったり管理局の事を言っちゃったけど、夢とかで片づけられるわけないよなあ……。

 

 ピキッ……

 

「……?」

 

 かすかに音がした気がしてそちらを見ると、捕らえた“敵”が体に力を入れる仕草をしていた。

 あれは夜天の書(リイン)が過去に蒐集した術を基に考え出したバインドだぞ。しかも全身をぎちぎちに縛ってある。あれがそう簡単に解けるわけが……

 

 バキィィンッ!

 

 ガラスが割れるような軽快な音ともに奴を縛るバインドが砕け、紫色の闘気のようなものを噴き出しながら“敵”は宙に浮かんだ。その直後に――

 

「ぐあっ!」

 

 リインのうめき声が聞こえ、思わずそちらを見る。“敵”はいつの間にかリインのすぐそばにおり、彼女のどてっ腹に拳を突き入れていた。それと同時に彼の手にはめられている籠手につけられているメーターが紫色に点滅するが、見たこともない白い文字を表示させてから消えた。

 

――エラー……やはり管制ユニットでは《鍵》の器には出来ないか。ならばやはり……。

 

 “敵”はリインを無造作に放り、俺を見上げる。そこで――

 

「フライングムーヴ!」

 

 俺はほとんど無意識のうちに固有技能を発動し、俺以外のものは動きを止める。

 ――にも関わらず、奴は俺のすぐ前まで飛んできていて、いつの間にか拾っていた剣を振り下ろしてくる。俺はすかさず愛剣《ティルフィング》を振り上げ、それを受け止めた。

 すると――

 

「……最後に笑えばいい」

 

「――なに?」

 

 初めて発した、そのうえ意味不明な一言に俺は思わず聞き返す。奴は続けて信じがたい事を言った。

 

「“ケント・α(アルファ)・F・プリムス”…………君は私と同類だよ。途中で失敗しても、最後に笑える結末になればいい。君は二つの世界を巡ってそれを実践した人間だ……違うかい?」

 

「何を言って……いや……お前、(ケント)を知っているのか?」

 

 その問いに奴はフッと笑い声のようなものを漏らす。続けて返ってきたのは返事ではなく、

 

「ぐあっ!」

 

 みぞおちに鈍い痛みが走る。気が付けばそこに奴の拳がねじ込まれていた。奴がはめていた籠手に再び紫のメーターが灯り、先ほどとは違う“赤色の文字”を表示させた。

 

――目的達成。後は“本体様”に彼のデータを届けるだけか……おもしろい事が起こりそうだ。

 

「であああああっ!」

 

 メーターを見てほくそ笑むような仕草をしている奴に向けて、魔力を込めた剣を振り下ろす。不意を突かれたのか、奴は俺の剣を体にまともに受ける。だが奴はうめき声一つ上げず、右腕を空中に向けた。

 その瞬間、奴の右手は体から離れ、ロケットみたいに飛んでいった。妙なメーターが付いた籠手を付けたまま……。

 

「お前――一体何をした!?」

 

 俺は右手を失った奴の胸倉をつかみながら怒鳴り声を浴びせる。だが奴は――

 

「また…………おう」

 

 それだけ言って“敵”は動かなくなる。まさか――

 

「健斗、大丈夫ですか? ……彼は?」

 

 リインは俺の方に飛んで来ながら、俺に掴まれたままぐったりしている“敵”を見て、訝しげに眉を寄せる。そしてリインもこいつの状態を察したように目を見張った。

 

「息をしていない……こいつもう」

 

 死んでいると言いかけて、俺は内心で首を横に振る。

 そんなバカな。非殺傷設定で攻撃したんだぞ。……そういえば感触が変だ。妙に重いし、全身が固い。まるで金属の塊を持ち上げているような……。

 

 まさかと思い、俺は奴の顔を覆っていたヘルメットを力任せにはぎとる。それを見て俺とリインは目を見張り、眼下では母さんと女刑事が信じられないものを見たかのように、ぽかんと口を開けていた。

 

 

 

 “奴”が被っていた()()()()()()ヘルメットの下には何もなく、空っぽだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 イリスはアジトで一人じっと待っていた。

 自身による闇の書の“借用”は、アミティエ・フローリアンに邪魔されて失敗。だが、その後キリエが、闇の書とあの二人の《魔導データ》を手に入れる事に成功したらしい。

 そして乏しいリソースを費やして造った“分身”もまた、彼の《データ》を手に入れてくれた。自分はただそれらが届くのを待てばいい。

 そう思って窓を眺めると、ちょうど右手が飛んでくるのが見えた。右手は割れた窓からアジトの中に入り、イリスに向かって飛んでくる。

 イリスは“分身”が遺した右手を掴み取り、愛おしげに撫でながら言った。

 

「ご苦労様。ちゃんと役目を果たしてくれたみたいね……“あの人”をモデルに造ったあなたを失ったのは残念だけど、私の悲願を叶えるには彼のデータも必要だものね。短い間だったけどお疲れ様」

 

 労いと別れの挨拶をしてから、イリスは右手を近くの机の上に置く。それきり右手が動くことはなかった。

 

(さて、残るは……――!)

 

 彼女の事を思い浮かべた途端、外からバイクが走ってくる音が聞こえてくる。そっちも帰ってきたようだ。そう思ってイリスは笑みを作るが、彼女の姿を見た途端、イリスの顔は驚愕に引きつる。

 

「た……ただいま……イリ…ス…………」

 

「キリエ!! どうしたのその怪我!?」

 

「お……お節介な、姉が私を押さえてきたから……撃っちゃったのよ……面倒だから自分ごと……あはは、いい気味…………」

 

 キリエは血があふれ出ている腹を押さえながら笑い、強がってみせる。そんな相棒にキリエは飛び寄り――

 

「いい気味じゃないわよ! いいから横になって! 手当てしてあげるから!」

 

 イリスの言葉にキリエは首を横に振りながら右手を開き、そこに握られていた十字のアクセサリーを出した。

 

「こ……これに……闇の書が入ってる…………永遠結晶を手に入れるには必要なんでしょう……それで、《鍵》でもなんでもいいから呼び出して…………」

 

「キリエ? ちょっと、しっかりしてキリエ!!」

 

 闇の書を差し出そうと手を伸ばしながらキリエは倒れかかり、イリスは慌てて彼女を抱きかかえる。

 そしてホッとした。実体のない体でありながら物に触れられることができる事に。そのおかげで相棒にさらなる傷を与えずに済んだ。

 そう思った後、イリスは首を横に振って自ら浮かべた表情を打ち消す。

 

 

 

 キリエを心配する資格なんて、私にあるわけないじゃない。

 

 

 

 

 

 

 クロノが言った通り、はやては三原木にて、イリスという女が操る大型機械に襲われ闇の書が奪われかける所までいったが、異世界『エルトリア』から来た、アミティエ・フローリアンという女に助けられ、なんとか事なきを得た……()()()()()()()

 

 それとほぼ同時に、なのはとフェイトも鳴坂で、暴走車を操作していたキリエ・フローリアンと交戦し、魔法を解析する能力を持つキリエ相手に苦戦していたが、クロノに依頼され独自に事件を追っていたザフィーラとアルフ、電磁兵器を持って応援に来た守護騎士、そしてイリスを退けたはやてとアミティエの助けを借りて、キリエを追いつめかける所までいった。

 しかし、キリエは《システムオルタ》という加速機能(システム)で形勢を覆し、守護騎士となのはたちを圧倒。リインフォース・ツヴァイが必死に抵抗するがそれもむなしく、夜天の書を奪われてしまった。

 

 俺とリインが戦った“奴”も、キリエとイリスが送り込んできたものだろう。正体はわからなかったが、おそらく彼女らが操っていたロボット。目的は俺とリインをおびき出して、なのはたちやはやてから切り離して戦力を分断すること……。

 

 ――本当にそれだけか? “奴”に殴られた時、なにかを奪われたような気がする。でなければ右手だけを切り離す意味がわからない。

 それにこの状況、カリムさんの《預言》にそっくり当てはまるような……。

 

 

 

 

 

「御神さん、御神さん! 今よろしいでしょうか?」

 

 看護師さんの呼び声に、俺の意識は現実に引きずり戻され、

 

「――はい、なんでしょうか?」

 

 若干慌てた様子で返事を返す俺に、看護師さんは安心させるように笑みを浮かべながら言った。

 

「お母さんの治療が終わったようです。今は眠ってるから会えないけど、明日には面会できるようになるから、その時に会ってあげてくださいね」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 笑顔以上に優しい言葉をかけてくれる彼女に、俺はお礼を言いながら深く頭を下げる。

 彼女は笑いながら頭を上げるように言ってくれる。しかし、言われた通り頭を上げた途端彼女は笑みを消して……

 

「ただ、お母さんが目を覚ましたら、すぐ何人かの局員と聴取をするかもしれません。もちろん無理はしないように配慮しますが、事件解決のためにどうかご理解ください」

 

 そう言って今度は看護師さんが頭を下げる。さっきとは逆に、今度は俺が彼女に頭を上げるように言った。

 

 ここは一般の病院ではない。本局から派遣された医療魔導師がホテル近くの施設を間借りして作った、“管理局用の簡易病棟”だ。母さんを斬りつけた剣は『エルトリア』という異世界の技術で作られた可能性が高く、普通の病院で検査されたら異世界の材質が発見されていらない騒ぎを起こされる可能性があるらしい。アミティエも同じ施設に運ばれ、治療を受けている。

 そして、この病棟に運ばれた人間がもう一人いる。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 後ろからかかってきた声に、俺と看護師さんはそちらを向く。そこには体のいくつかにガーゼと包帯を巻いた、30代ほどのスーツ姿の女性が立っていた。確か母さんの仕事仲間の……

 

「早見と申します。警視庁の刑事で、御神さんとは仕事上ある程度の付き合いがあります。御神健斗さんとおっしゃるみたいだけど、あなたは彼女の……」

 

「息子です。母がいつもお世話になっているみたいで……」

 

 お決まりの定例句に早見さんは苦笑しながら言葉を返してくる。

 

「お世話になってるのは私の方よ。あの人には色々助けられて。……ところで、あなたには色々聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

 

 笑みを消して尋ねてくる彼女に、俺も真剣な顔を作る。

 

 あそこにいた警察官のほとんどは、大型機械が変形してすぐ逃げ出したためか、記憶操作魔法が効いてあの時の事を夢だと思い始めているみたいだが、早見さんほど深入りした人間の記憶を書き換えるなどそう簡単ではない。

 この人を誤魔化すのは難しそうだが――

 

「健斗!」

 

 後ろからリインの声がしてそちらを振り向くと、駆けつけてくる勢いで彼女がこっちに向かって来ていた。訝しそうな目で自身を見る早見さんにリインは会釈を返すと、俺の方を向いて思念を飛ばしてくる。

 

《アミティエという女性の治療が終わったらしい》

 

《本当か? 話には聞いていたがすごい回復力だな》

 

 驚く俺にリインは首を縦に揺らす。

 

《ああ。最低限の治療とエネルギー(食事)を補給したらあっさりと。それでアミティエがこれまでの経緯を話したいから、自身の病室に来てほしいと言っている。主たちも高町たちもこちらに向かっているそうだ》

 

《そうか。わかった、すぐに向かおう》

 

 思念通話を終えると、早見さんが怪しそうな目でこちらを見ていた。そんな彼女に友達のお見舞いをしてくる別れを告げる。早見さんは何か言いたそうにしながらも、俺とリインの顔を見比べてから「わかったわ」と言って、了承してくれた。

 

 それから十歩くらい進んで振り返ると、早見さんに看護師さんが話しかけているのが見えた。

 あっちの方もはたしてどうなる事か……。

 

 

 

 

 

 

 ……また、助けられなかった。

 はやてちゃんの大切なものを奪われて。キリエさんもお姉さんとすれ違ったままどこかへ行っちゃって。美沙斗叔母さんも大きな怪我をしちゃった。

 

 あの時と同じだ。アリサちゃんとすずかちゃんが誰かにさらわれた時のように……。

 本当にアリサちゃんとすずかちゃんが大切なら、リンディさんや管理局にどれだけ責められても、魔法の力を使ってアリサちゃんたちを助けるべきだった……健斗君はそれが出来たのに。

 

 

 

 私は“あの頃”と変わらないの? 家族が大変な時に何もできなかった頃と――。

 

 そこまで思って私は大きく首を振る。

 いや違う。今の私なら――魔法を覚えた私なら、アミティエさんとキリエさん、イリスさんを助けられるはずだ!

 

 

「助けなきゃ……」

 

 そんな言葉が自然に口から出てくる。

 私はベランダの手すりに手を置き、まばゆい輝きを放つ眼下の街を見下ろしながら、もう一度口を開いた。

 

「今度は、私が“みんな”を(たす)けるんだ!」

 

 

 

 

 

 病棟に向かう前。ホテルのベランダで一人、高町なのはは決意を固めていた。

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