部下たちは目の前の惨状に大量の冷や汗を流していた。
目の前には、レオナのお気に入りの服をぐちゃぐちゃにして抱き抱えながら、すやすやと寝息を立てるヤマトがいた。
更には部屋も衣装タンスも荒らされ、壁も落書きだらけの無法地帯と化している。
この現状に、それはもう部下達は焦り散らかした。
何故ならば、この部屋はあのレオナ様の部屋なのだ。
そして、自分たちはヤマト様の面倒をみるように命令を受けているのだ。
……この惨状、レオナ様のお怒りに触れぬ筈がない。
「……お、終わった…」
「な、なななんとかレオナ様が帰ってくるまでにっ!」
「いや無理だろ!?
部屋めちゃくちゃだし、ヤマト様が起きたらまた汚しちまうだろうしよォ!」
「ばか野郎!声がデケェよ、ヤマト様が起きちまう!」
「「うるせぇのはテメェだ、ばか!」」
やいのやいのと喧嘩する部下達の声に、寝息を立てていたヤマトがゆっくりと起き上がる。
「や、やべぇ!?起きたぞ……」
「お、おはようごぜぇます
え~と、飯にしやすか?」
「……ぬ、ぬいぐるみもありやすぜ~?」
寝起きで不機嫌そうなヤマトに恐る恐る声をかける。
小さな手で目を擦りながらヤマトは部下達を見やると、よたよたと立ち上がった。
「やだ。
ぼくはくまさんも、ごはんもいらない!
レオねぇ に あいたい…」
ヤマトの言葉に部下達は打ちのめされる。
最近のヤマトは何を進めても『やだ!』とそっぽを向くのだ。
何故だかここ最近機嫌の悪いことが多いヤマトに部下達は苦渋を飲まされてきた。
目の前ではヤマトがまたペンを握って壁の方へ向かっているのだ。
下手に邪魔すればヤマトは泣き出し、そうなれば後でレオナの怒りを買うのは明白。
だが、このまま放置すれば部屋は更に汚れ、それはそれでレオナの怒りを買うかもしれないのだ。
これぞまさに板挟み状態である。
ムスッとした表情でレオナの部屋の壁にペンを走らせるヤマトに部下達は弱々しい声を漏らした。
「「「「か、勘弁してくださいよヤマトお嬢様ァ……」」」」
そんな悲痛な表情の部下達の後ろから凛とした声がかかる。
「ヤマト、何をしているんだ。」
「うぉ!?レオナ様!?」
「あ、これは……そのぉ…」
「え、いつお帰りになられたんで!?」
たじろぐ部下達の横をすり抜け、ヤマトの前に仁王立ちするレオナの顔は険しいものであった。
ヤマトもそれを察したのか、ペンをゆっくりと床に置いた。
部下達はただオロオロとその場で狼狽えることしかできない。
「(流石に……レオナ様もお部屋を荒らされたらな…)」
「(今回は鬼姫様が悪いぜ……けどおれらも怒られんだろうな…)」
「(あぁ……おれだけでも見逃してもらえねぇかなぁ
いや、無理だろうな……潔く謝るしかねぇ!)」
「(レオナ様が大切にしてる軍服もあれじゃあカイドウ様にも怒られそうだ…)」
それぞれの部下が諦めを滲ませていると、部屋にレオナの声が響く。
「ヤマト、部下を困らせる真似はするなと言っただろう!
見ろ、部下達の顔を……顔面蒼白ではないか!」
予想外の言葉に部下たちはきょとんととし、ヤマトは意味がわからぬのか首を傾げている。
しかし、レオナはそれを気にすることなく、ヤマトを抱き抱えると話を続ける。
「いいか、ヤマト。
お前はいずれ百獣海賊団を父様や私達と共に背負う者になるのだ。
人の上に立つ者ならば、周りをしっかり見渡せねばならん!
……わかるな?」
「ん~とうさまとレオねぇと、せおう?
…わかったよ!ぼくまわりいっぱいみる!」
「うむうむ、流石は私の妹…!
理解が早くて助かるぞ、では部下たちにこれ以上迷惑をかけぬようにな!」
偉いぞ、とヤマトの頭を撫でるとレオナは部下に振り向く。
突然振り返ったレオナに部下達はビシッと姿勢をただし言葉を待った。
「……私はまだ仕事がある。
戻って来るまでに部屋を掃除するように……いいな?」
「「「「は、はいッ!」」」」
部下の揃った返事を聞くと、レオナはヤマトを床にそっと下ろす。
「では、仕事に戻る。
……ヤマトしっかり部下達に指示を出し、掃除の指揮を取るんだぞ?」
「うん!かたづけ がんばるよ!」
「フフフ……いい返事だ、期待しているからな。」
レオナは膝をつきヤマトを優しく抱き締め額に軽く口付けると、そのまま部屋を後にした。
何事もなく終わった事に部下達はホッと息をつく。
「「「「(れ、レオナさまの機嫌が良くて助かったぁ…)」」」」
しかしこの後、ヤマトのハチャメチャ振りにまた胃を痛める部下がいた事は言うまでもないだろう。
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部屋を後にしたレオナは早足で午後の仕事へと向かっていた。
ここ最近は
今、新しいナワバリであるワノ国を安定させることが如何に大切であるかは重々承知していたが、レオナは仕事内容や可愛い妹との時間が取れないことで大きなストレスを抱えていた。
「(まったく……過半数の侍達は百獣を受け入れ始めたと言うのに、一部の大名やあの侠客の頑固さは手に余る…!!)」
そう考えながら早足で歩くレオナの足取りにはイラつきが表れている。
元来、レオナはあまり交渉と言ったような回りくどいやり方が得意ではないのだ。
どちらかと言えば力で圧倒し、実力の差で相手を黙らせる方が得意であった。
そもそも、親であるカイドウが
そんなレオナだったのだが、ある日を境にそれだけでは駄目だと奮起した。
奪い取るだけでなく、利用することも必要であると感じ始めたのだ。
百獣海賊団の……延いてはカイドウの為にレオナは交渉という新しいスキルを磨き始めた。
結果、百獣海賊団において大きな交渉や懐柔の担当はレオナに一任されるのが基本的な流れになっていった。
しかし、繰り返すようだがレオナは交渉や懐柔などの回りくどいやり方が“出来る”だけであり、“得意”でもなければ“好き”でもないのだ。
その為、遠征などで暴れまわるという任務の数倍の疲労を感じていた。
「(あぁ……今後の作戦を考えるのも億劫だ…
もういっそ、頑固な奴らは皆殺しにして素直な奴らだけを生かせば楽なんだが…)」
物騒なことを考えつつレオナは目的地である部屋の襖を開いた。
そこには約束の時間よりも少し早いと言うのに、キングが報告書片手に椅子に腰掛けていた。
「すまない、待たせたか?」
「いや、おれもさっき着いたところだ。」
キングは報告書にやっていた目線を上げると、少し目を細める。
「……ずいぶんとイラだってるな。
その様子だと、あの大名共と侠客は相変わらずなのか?」
「あぁ、キングの想像してる通りさ。
相も変わらず光月、光月と……本当に耳障りだ。」
眉を寄せるレオナにキングはマスクの下で小さく笑いながら口を開く。
「フッ…だから言っただろ、お嬢。
確かに侍は良い戦力になるだろうが、あれは頑固すぎる。
……面倒ならおれが殺して、お嬢にその首を捧げようか?」
冗談とも本気ともとれるトーンで言うキングにレオナは肩をすくめる。
「私の答えが分かってて聞いているだろ、キング。
ここまで手をかけたんだ、今さら奴らを殺しては苦労が水のアワだ。
……まぁ、そんな事よりここ数ヶ月の遠征での成果の報告をしてくれ。
それによって今後のワノ国への投資の方法も変わってくる。」
「了解だ、お嬢。」
キングは頷くと手に持っていた報告書とは別に机の上にあった書類を手に取って報告を始めた。
遠征で手に入れた物質や資金、ナワバリから人員まで
余すことなく淡々と報告を進めていった。
その正面ではレオナがキングの報告を聞きながらワノ国での方針を固めていく。
そして報告を終えたキングとレオナは方針について少しの議論を交わすと、次の仕事に行くべく立ち上がった。
「遠征でのキング達の成果は完璧だ。
これでワノ国での作戦へ向けての準備も進められる、ありがとう。
じゃあ、私はワノ国の巡回に行ってくる。」
「お嬢もマメだな。
わざわざ村だの町だのに気を回すなんてな。」
自分ならば絶対にしないというような雰囲気で言うキングにレオナはふっと笑いながら返す。
「こう言う面倒でも細かい事の積み重ねが信頼関係に繋がるんだぞ、キング。」
「そりゃ初耳だな。
手足の一本でも落としてやれば、
「私は
キングのソレじゃあ、力
ある程度の敬意を払った付き合いというやつをだな……」
少し呆れたような声で言うレオナにキングはキッパリと答える。
「敬意…?
それはカイドウさんとお嬢相手にだけでいい。
あとの奴らは、おれにとっちゃ有象無象だ。」
「フッ…まぁ、キングはそれでいいさ。
私は父様の為に百獣の株を上げに行くとする。」
不敵に笑って出口の襖に手をかけたレオナの背にキングが言葉をぶつける。
「…そんな回りくどいやり方、お嬢には似合わねぇと思うがな。」
「否定はしないが、全ては父様を海賊王にする為だ。
その為なら手段には拘らない……キング、お前もそうだろう?」
振り返って綺麗に微笑むレオナにキングはスッとマスクから覗く目を細めて口を開いた。
「……そうだな。」
返ってきた答えに満足そうな顔をするとレオナは今度こそ部屋を後にした。
キングは部屋を出ていったレオナの背を見送ると眉間に皺を寄せた。
「……侍ごときがお嬢に手間かけさせやがって…」
地を這うよう声で吐き捨てられた言葉はキングが書類を握り潰す音に書き消された。
ー後書きー
ヤマト:最近、1人遊びばかりで不満がたまっている
レオナの部屋をめちゃくちゃにしたが悪気があった訳ではなく、レオナの匂いや見慣れた服が落ち着くから引っ張り出していたただけ
レオナ:ワノ国関係の仕事で休み無く飛び回っている
本来は脳筋的な思考の持ち主なので、お疲れ気味
最近の癒しはカイドウとの食事とヤマトと遊ぶ時間