○登場人物紹介
ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM
ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM
ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM
パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。
ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。
コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。
カレン・ジョシュワ曹長(26)・・・第08MS小隊の隊員。シロー・アマダ少尉着任以前から08小隊メンバーであり、女性MSパイロットである。MS操縦にはかなりの自信を持っており、それに見合うだけの確かな腕の持ち主でもある。かなり近づきがたい雰囲気を持つ女性だが、人一倍仲間を想うあまりについ厳しさが出てしまうようである。なお、かなりの酒豪である。
ジダン・ニッカード大尉(72)・・・機械化混成大隊補給中隊隊長。酒と賭け事を愛するスケベなじいさん。飄々とした実にくえない老人である。
第07MS小隊・・・小隊のメンバーは、紅一点のサリー伍長が索敵担当、素肌にジャケットという出で立ちがトレードマークのマイクと、小隊指揮官のロブ少尉がMSパイロットを務める。他の小隊にことあるごとに絡んでくる困った連中である。ただし、小隊としての戦闘技量は確かなものがある。
ユウ・クロメ伍長が第05MS小隊に着任して早くも1週間が過ぎた。
第05小隊の隊員と活動を共にし、さらに他部隊の隊員から05小隊の情報を聞き出し、色々と分かったことがある。
第05MS小隊は問題のある人物が集められたいわゆる「左遷小隊」であり、滅多なことでは出撃許可が下りないということだ。そんなことだから、他の小隊から忌み嫌われている。
社会に出れば分かることだが、大きい会社であればこのような部署は必ず1つは存在する。適当に部署をつくり、使えない、もしくは上から疎まれている人物を集めるのだ。大企業であれば、例えば「社史編纂室」とかいうように。
会社も軍隊も1つの組織であるので似たようなものだ。むしろこのような左遷部署を1つ作ることにより、組織が上手く動くのかもしれない。
話を05小隊の隊員に戻そう。
まず、隊長のウィル・オールド曹長だ。実はウィルは以前の05小隊の生き残りであった。以前の05小隊隊長はガーハ・ロズカッヒ中尉であったが、ジオン軍拠点制圧作戦中に小隊がウィルを残して全滅。再編成後の05小隊はウィルがそのまま小隊長となった。なお、昇進は無しの方向で。小隊壊滅前の05小隊隊長のガーハ・ロズカッヒ中尉はコジマ大隊のエースであった。しかし生き残ったのは小隊内で最もMS操縦技量の低いウィルであった。「なんであいつが生き残ってガーハが死んだんだ」「あいつにあるのは悪運だけだ」などと他の小隊に暴言を吐かれている。
次はロック・カーペント伍長。コジマ基地周辺のジャングルには、民間人の村が存在する。彼らは連邦軍でもジオン軍でもなく、現地の民間人が武装した組織、いわゆるゲリラである。軍人とゲリラは持ちつ持たれつの関係であり、ゲリラが連邦軍にジオンの情報を教える代わりに連邦軍はゲリラに物資を供給するといったことがよくある。ただし、ゲリラは連邦軍でもジオン軍でもない。逆にジオン軍に連邦軍の情報を教えることだってある。ロック・カーペント伍長は若さゆえ、ゲリラと親密になりすぎてしまった。頻繁にゲリラと密会していることが上層部に見つかってしまい、軽いスパイ容疑を掛けられてしまった。もともと素行が良くなく、他人とのトラブルが絶えない人物であり、前の小隊では疎まれていたため、05小隊に転属となった。
パーク・マウント曹長は現在ホバートラック搭乗員だが、以前はMS乗りであった。さらに、極東方面軍のコジマ大隊以外の別の機械化混成大隊に所属していた。理由は不明だが、以前の大隊に嫌気が差し、MSを降りてコジマ大隊のホバートラック搭乗員に転属したとのことだ。優秀なMS乗りであったらしいが、現在はどこか上の空でやる気もあまり感じられない。よって05小隊の雰囲気には馴染んでいるようだ。
ダ・オカ軍曹は謎が多い。どうやら最近軍に入ったらしい。また、連邦軍に父親がいると08小隊のエレドア伍長が話していたが定かではない。オカ軍曹は口数も少なく、あまり自身のことを話さないので謎は深まるばかりである。
そんな問題隊員達とこの1週間、毎日何をしているかというと、大体がトレーニングである。
毎日トレーニングを行い身体を鍛え、出撃命令に備える・・といっても、その出撃許可が下りない訳だが・・
トレーニングの後は5人でトランプをやるというのがいつもの流れだ。
パーク曹長やオカ軍曹は機械の整備担当でもあるので、MSやホバートラックの整備をたまに行っている。
MS操縦担当のウィル隊長やロック伍長は、午後の昼下がりにはハンモックで寝ていたりする。
この1週間でクロメが得たものといえば、見事に割れた自身の腹筋だけであった。
最も、こんなに呑気でいられるのは世界的に地球連邦軍が優勢となっているためである。
各地域で続々とMSが配備され、地球連邦軍が進軍しているとの情報が連日ラジオから聞こえてくる。
このことはコジマ大隊からも伺える。例えば第08MS小隊は新隊長就任後、目覚ましい活躍を遂げている。ジオン軍拠点の制圧はもちろん、新型の敵MA(モビルアーマー)とも一線交えたというから驚きだ。他の小隊も08小隊に負けじと進撃している。07小隊隊長のロブ少尉は敵の新型MSスカート付き(MS-09ドム)を堕としたと豪語していた。
「この小隊、ほんとに大丈夫なんですか。他の小隊は出撃して戦果を挙げてるのに・・」
今日も相変わらずトレーニングだ。クロメがぼやく。
「そーですよ!ウィル隊長!俺たちもやってやりましょーよ!コジマ大隊長に俺から直訴しちゃいましょーか?筋トレだけじゃつまんないッスよ!」
ロック伍長も騒ぐ。何というか、暴れたい気持ちを抑えられないようだ。ただし、問題児のロック伍長が直訴したところで何も変わらないだろう。そもそも、コジマ大隊長のところへ行くまでに他兵士に摘み出されるのが関の山だ。
「まーそうだわな。俺も一応軍人なんだし、任務があればこなしたいよ。けど、出撃許可が下りないんじゃ、どうしようもねーわな。あとロック、コジマ大隊長に直訴するのだけはマジでやめてくれ、流石に隊長である俺の責任問題になっちまう」
いつも通りウィルはローテンションであった。ロックとじゃれ合っている。
「ただなぁ、そろそろのんびりばかりしていられんと思うぞ。ジオン軍が最近、秘密兵器の実験をしているって噂もあるしな」
パークがどこから仕入れたのか、ジオンの情報を話す。
戦争は現在、地球連邦軍が押しているが、兵器開発の点ではジオン軍に一日の長がある。明日何が起きるかは誰にも分からないのが現状である。
さらに数日後・・
「それでは、クロメ伍長の着任および、05小隊の復活を祝してカンパーイ!!」
「「カンパーイ!!」」
ここは、コジマ基地内にある酒保(PX)である。
酒保にはバーテンダーもおり、出撃命令の出ていない兵士達はここで日々のストレスを発散させている。何故かピアノが置いてあり、その筋に趣向の深い兵士が弾いていることもある。この酒保は最近では夜になると酒盛りする兵士で溢れかえる。戦争なんてしているのかという錯覚に陥る。いや、末端兵士にとって、酒にでも溺れなければやっていけない環境なのかもしれない。
今日はクロメの着任を祝して、ウィルが歓迎会を開催したのだ。
05小隊は他の小隊から色々と叩かれているが、小隊の仲は良い方であり、今日も全員が顔を揃えている。隊長のウィルが面倒見の良いことの現れなのだろう。
クロメは久々に大量に酒を呑み、大分酔いが回ってきた。ジャブローではこういうアットホーム(?)な職場ではなかったため、呑み会なんてほとんど無かった。思いのほか楽しんでしまい、いささか飲み過ぎてしまった。しかしコジマ大隊はほかの軍に比べて規律がゆるい。こんな風に基地での生活を意外と楽しんでいるあたり、自分もコジマ大隊に慣れてしまったということか。
他の隊員もかなり酔っ払っている。ウィル隊長なんかウイスキーをラッパ飲みしている。大丈夫なのかこの人達。
皆でワイワイしていると、他の小隊が声をかけてきた。
「おうおう、お荷物の05小隊じゃねーかぁ、なんだぁ~、やること無いからみんなでお遊戯会かぁ?出撃命令出ねぇから、気楽でいいなオイ」
しまった・・07小隊隊長のロブ少尉だ。何かと他の小隊につっかかってくる人物であり、05小隊に穀潰し小隊などとあだ名をつけたのも07小隊という話だ。数日前には08小隊のテリー・サンダースJr軍曹とケンカ騒動を起こし、コジマ大隊長から厳重注意を受けている。
ロブもかなり酒が入っているようだ。傍らには、07小隊のサリーとマイクもいる。
「よぉウィル、何もしなくても給料入ってきて、良い身分だよなぁー。05小隊はよ」
ロブがウィルに詰め寄る。ロブに続いて、サリーとマイクも高笑いする。
「ハハハ・・ウチの小隊にはウチの事情があるんすよ、ロブ少尉」
ウィルは笑ってはいるが、口元は震えているように見える。
「新任のやつは~クロメ伍長、お前か。全くテメェもついてないな、こんな左遷小隊に配属されるなんてよ。早いとこ転属願いを出した方が身のためだぞ。こんなとこでダラダラしてたらこいつみたいに・・」
ドカッ!!
ロブが急に倒れた。なんとウィルがロブを殴ったのだ。
さぁ大変。
「テメェやりやがったな!」
サリーとマイクも加わる。
「へへっ!ウィル隊長!そうこなくっちゃな!!」
ロック伍長も加勢する。出撃出来ない苛立ちをこの場で解消する勢いだ。
他の隊員はというと、パーク曹長とオカ軍曹はやれやれといった風にギャラリーへと逃げていった。
クロメは呆気にとらわれている。
05小隊 VS 07小隊、人数は2対3、05小隊が劣勢だ。
ロックはマイクと戦い、ウィルはサリーに羽交い絞めにされ、ロブにボコボコに殴られている。
いつの間にか、周りにはギャラリーが集まり皆観戦している。
コジマ大隊では小隊同士の喧嘩は日常茶飯事であり、生活の一部のようなものだ。
まるで競馬中継を見ているような雰囲気だ。
「ほらほら、どっちに賭けるんだ!早くしねぇと終わっちまうぞ!」
どこかで聞いた声がするかと思えば、ジダン・ニッカード大尉であった。
早くも05小隊と07小隊の喧嘩を賭け事にして仕切っている。
この光景は小隊同士の喧嘩の際には、もはや風物詩と化していた。
05小隊が見るからに劣勢であり、ギャラリーのほとんどは07小隊に賭けている。
しかし、その時。
「2対3か、これはフェアじゃないねぇ、私も参加させてもらうよ!」
群衆の中から屈強な女性が現れた。
08小隊のカレン・ジョシュワ曹長である。
カレンがウィルを羽交い絞めしていたサリーを殴る。
「おぉ!カレンが乱入かよ!面白くなってきたぜ!!」
「じいさん、やっぱり俺、05小隊に賭け直すよ!」
カレンの乱入によりギャラリーも白熱している。オッズは五分五分といったとこか。
3対3となり、いよいよ大乱闘となる!
ジダン・ニッカード大尉を始めとしたギャラリーも固唾を飲んで見守っている。
その矢先であった。
「やめんかぁ!!!」
コジマ大隊長の登場であった。
さすがに騒ぎを聞きつけたコジマが駆けつけたのである。
全員、乱闘を止め、その場に起立する。
「何をじゃれ合っておるんだ、お前ら!」
コジマ大隊長が全員をギロリと睨む。
普段は優しそうな管理職といった雰囲気の人物だが、このような場では大隊長としての威厳を見せている。さすが不良大隊を仕切る長である。
「ハッ!レクリエーションであります!!」
ウィルが平然とごまかす。
「小隊同士の親睦を深めておりましたァ!」
ロブも続く。このあたりの切り替えはさすがである。
「ふん、親睦だと・・どの口がほざくのか・・もう23時を回っている。今日は全員解散だ!明日の任務に支障が出ないようにな!」
「「ハッ!!」」
その場にいた全員が酒保から出ていく。
「ケッ、悔しかったら出撃して戦果を挙げろってんだ」
07小隊が捨て台詞を吐いて立ち去る。
05小隊やカレンも続いて立ち去る。
ユウ・クロメ伍長はこの光景をただ茫然と立ち尽くして眺めているだけであった。
「らしくないじゃないか、ウィル曹長。小隊長いち穏やかな性格のあんたが乱闘騒ぎを起こすなんてさ」
ひととおりの騒ぎの後、カレンがウィルに声を掛けた。
「カレン曹長、いや、スンマセンね。うちの小隊の騒ぎに加勢してもらって。アマダ少尉にわび入れないとな・・」
「いいんだよ。前から07小隊の連中は気に入らなかったんで良いストレス解消になったよ。しかし、なんであんなに怒ってたんだい?」
「俺なんかけなされてもどうでもいいんだが、小隊をあそこまでバカにされたからカチンときたんだよ。ましてや新人にあんなこと言われたもんでね・・」
「・・そうか、安心した。05小隊もまだまだ捨てたモンじゃないね。また出撃することがあったらヨロシク頼むよ!」
カレンはそう言って立ち去った。
08小隊新隊長のシロー・アマダ少尉が着任してから、毎日が大騒ぎだ。
隊長がゲリラに捕らわれたり、ジオンの新型MAと交戦したり・・
しかし、なんとか1人の戦死者も出さずにジオンと渡り合っている。最近、コジマ大隊全体の雰囲気も前より良くなっている気がする。08小隊のバカ隊長(良い意味で)のやる気が他の小隊に伝染しているのだろうか。今日の一件から、05小隊も何かが変わり始めているのかもしれない。
カレンはそんなことを思い、自機の陸戦型ガンダムを見上げるのであった。
一方、ウィルは兵士宿舎に向かいながら考えていた。
酒に酔っていたとはいえ、今日の自分は幼すぎた。悔しさから人に手を出すなんて、30を超えた大人としてどうかしている。
しかも、ロブ少尉の言うことも一理ある。というか、全ての小隊が感じていることを酒の席でロブが代弁しただけではないのか。
「また、やってしまったな・・いくつになっても、俺は本当変わらないな・・死んでいった小隊のみんなやガーハ隊長に合わせる顔がねぇよ」
月夜を見上げ、涙が込み上げてきた。
何も出来ていないのが、ただただ悔しかった。
カレンがなんか優しすぎる気がしますがそこは自分の好みの問題です。
ご勘弁ください(笑)