機動戦士ガンダム第05MS小隊   作:モービルス

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宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。当初は覇気の無かった05小隊だが、敵基地を殲滅する極東方面軍最大の作戦が発動し、05小隊は06小隊とともに総司令部ビッグトレーを護衛する任務に就いた。何も起きなければ良いのだが果たして・・

○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。


第5話 黒の小隊

 

【挿絵表示】

 

 

 大型の陸戦艇であるビッグトレーの進行は難航していた。

 全長約200m、全幅約130mのビッグトレーが進行する道など無く、開けた場所や水上を通って進行していた。時には木々を押し倒し、森の中を進行することもあった。

 当初3日でチベットに到達する予定であったが、この状況だと5日はかかってしまうとのことだ。

 現在、進行が始まって3日目である。

 

「ザニー少尉、こう何も起きないと身体に悪いっすね」

 06小隊のブルーオン・ターボック軍曹がコックピットの中で駄菓子を食べながらザニー・ヘイロー少尉に話しかける。

 ターボックは攻守バランスのとれたパイロットである。

 丸3日も何もないので気が狂いそうなのだ。

「そうだな、河を渡って木立を抜けて、戦場までは何マイル?ってとこか」

 ザニーが答える。

 さすがのザニーも少し気が緩んでいるようだ。

 そんな中、隊長のゴンザ・G・コバヤシ中尉は敵の出現に備えて、ただじっと周囲を警戒していた。自慢のガンダムハンマーを持ちながら。

 

 05小隊はビッグトレー内の休息部屋で待機していた。

 5人で相変わらず仲良くトランプに興じている。

「せっかく出撃したのに敵が出てこないとはな」

 ロック・カーペント伍長がぼやく。今日のトランプは彼が負け続けている。

「いや、別に出てこなければそれにこしたこと無いだろ」

 パーク・マウント曹長だ。彼は安全に事が済めばそれで良い考えだ。

「そうですよ、安全第一、ですよ」

 ダ・オカ軍曹もパークに同調する。

「しかしな、クロメだって実戦を経験したいだろ?」

 ロックがユウ・クロメ伍長に話しかける。

「そうですね、ただチベットに着いたら確実に戦いになりますから」

 クロメも早く実践を経験したいと思っているが、焦りは禁物である。

「まぁあれだ、あせらずいこうぜ」

 隊長のウィル・オールド曹長が適当に話をまとめる。

 今のところ敵の出現は確認されず、隊員たちは東南アジア2000マイルの旅を満喫していた。

 

 地球連邦軍がそんな感じでダラダラしている一方、ジオン軍秘密基地、通称「ラサ基地」では、地球連邦軍がチベットを目指して進軍しているとの情報を入手し、基地内が慌ただしくなっていた。

 ラサ基地はチベット自治区の中心都市ラサにあり、地球に降下したジオン軍によって制圧され、ギニアス・サハリン技術少将によって「アプサラス計画」が進められている秘密工場基地である。

 現在コジマ大隊が捜索している基地がこの秘密基地であり、08小隊が交戦した新型MAがアプサラス計画における「アプサラスⅠ」及び「アプサラスⅡ」であった。

 基地内ではアプサラス計画が最終段階に入っており、「アプサラスⅢ」の建造が急ピッチで進められていた。

 一方、ラサ基地にはオデッサから多くの敗残兵が逃げ込んでおり、宇宙への唯一の撤退手段であるザンジバル級の戦艦ケルゲレンの発射準備も進められていた。

 ラサ基地の指揮権はギニアス・サハリン技術少将にあるが、ギニアスはアプサラス計画に躍起となっており、基地の実質的な指揮はノリス・パッカード大佐が執っていた。

 ノリスは一人でも多くの兵を宇宙に帰すべく、撤退してくる友軍の援護、各部隊への指示、ジオン本国との通信等を行っていた。

「昨日の夜から、ラサ基地の50km範囲に多数の連邦軍MSが確認されている。情報によると連邦軍がこの基地の捜索・殲滅作戦を開始したようだ。いよいよ連邦軍の総攻撃が始まる可能性が大きい。全部隊は何としてもケルゲレン脱出まで時間を稼いで欲しい」

 ノリスが全部隊に基地防衛の指示を行う。

 悔しいことだが、オデッサが陥落し地球での戦いは決した。ジオン軍と地球連邦軍の地球での戦力差は今や十倍以上である。最大に善戦して、ラサ基地はもって一週間といったところであろう。

 しかし、ジオン軍のホームグラウンドである宇宙でなら、まだ互角以上の戦いができる。そのためには、戦いを知った兵士が必要である。MSはまた作ればいいが、戦場を経験してきた兵士には限りがある。

 忙しく指揮を執っているノリスに対し、1人の男が声を掛けた。

「ノリス・パッカード大佐、俺の小隊は単独で行動させてもらうぜ。悪いがやられっぱなしってのは性に合わないんだ。現地ゲリラの情報によると、連邦軍の大型陸戦艇がこちらへ向かっているらしい」

 ボトム・ラングレイ少佐だ。

 ボトム少佐は基地内ではノリスに次ぐMS操縦技術の腕前を持っており、黒いグフカスタム(MS-07B3)に搭乗している。小隊の全ての機体は黒で塗装されており、通称「黒の小隊」と呼ばれている。

「ボトム少佐、しかしだな・・」

 ノリスは言葉を詰まらせた。たしかにボトム少佐の腕前は誰もが認めているが、基地の守備に人手を回して欲しいのが現状である。

「基地周辺を探索しているMSに加えて、大型陸戦艇にでも来られてみろ。ケルゲレン発射前に基地が壊滅だ。俺の小隊が必ず陸戦艇を仕留めてやる。基地守備は大佐のグフカスタムに任せます」

 ボトムはノリスに敬礼した。

 ノリスはしばらくボトムを見つめ、やれやれといった表情で肩をすくめた。

「・・分かった。だが、帰って来いよ。また一緒に旨い酒を飲もう」

 そう言った後、ノリスもボトムに敬礼した。

 地球降下時から共に戦場で支え合ってきた、男と男の約束であった。

 

 基地司令官ギニアス・サハリン技術少将の秘密兵器「アプサラスⅢ」が戦況を覆す可能性もあるが、その可能性は低いとボトムは見ている。

 アプサラスⅢが完成すれば、迫りくる連邦軍を駆逐して一気にジャブローも落とせる――とギニアスは言うが、たった一機の兵器で戦局が変えられるほど戦争とは簡単なものではない。

 ボトムは小隊のMS格納庫に入った。

 そこには自身が搭乗するMS「グフカスタム」に加えて、ザクⅡ(MS-06JC)2機、ザクⅠ・スナイパータイプ(MS-05L)の計4機が配置されている。いずれの機体も黒に塗装されている。

 MSの足元にはそれぞれのMSに搭乗する隊員たちが待機していた。

 ザクⅡに搭乗するのは、シップ中尉とマック中尉である。いずれもベテランであり、ボトムとは地球降下時から共に戦ってきた。ボトムが近接戦闘を行い、シップとマックが中距離支援を行うといった戦法で数多くの戦果を上げている。

 ザクⅠ・スナイパータイプに搭乗するのは、ニーナ・パブリチェンコ少尉だ。年齢は20歳にも満たない少女であるが、軍人としての才があり、格闘術・射撃技術はもちろん、特に長距離射撃が得意である。ニーナは元々孤児であったが、ひょんなことからボトムに軍人としての才能を見出され、ジオン軍に入隊した。地球降下後はザクⅠ・スナイパータイプに搭乗し、数多のMSを屠ってきた。その功績が認められ、少尉にまで昇格した。ニーナは名前のとおりロシア系であり、どこか無表情で人形のようでもある。外見はギニアス・サハリン技術少将の実妹であるアイナ・サハリンに似てないこともない。

「少佐、出撃ですか?」

 ニーナ・パブリチェンコ少尉が柔らかな青い瞳でボトムを見つめる。

「あぁ、しかし今回はかなり大掛かりな作戦となる。こちらに向かっている連邦軍の大型陸戦艇に奇襲攻撃を仕掛け、これを叩く。残念ながら、既に地球の戦局は決した。しかし、宇宙でならまだ互角以上にジオンは戦える。ケルゲレン発射までに出来るだけ時間を稼ごうと思う」

 ボトムの発言を聞き、シップとマックがハッとする。

 生きて帰ることが出来るか分からない作戦だということが直感的に分かった。

 隊員の表情を見て、ボトムが話を続ける。

「今回の作戦は俺の独断によるものだ。参加したくない者は基地守備に回ってくれ。あちらも人手が欲しいみたいだからな」

 直後、ニーナがボトムに一歩近づいた。

「安心してください。どこであろうと、私は少佐についていきます」

 その表情には少しの迷いも無い。

 ニーナは孤児であり、肉親がいない。ボトムに拾われたその日から、ボトムとずっと一緒に過ごしており、ボトムが親代わりのようなものだ。軍に入った当初は表情が無く「ドール」というあだ名で他の兵士から罵られていたが、ボトムやシップ、マックと過ごすうちに次第に表情も豊かになっていった。どんな戦場であろうとニーナがボトムについていくことは自然なことなのだ。ボトムの覚悟にニーナは命を委ねるつもりなのだろう。

「ニーナちゃんにそんなこと言われちゃ俺らが断れる訳ないじゃないの。少佐、地獄までお供しますぜ、なぁ、マック」

 シップが答える。言葉使いは飄々としているが、その目は覚悟を決めた男の目だった。

「・・やれやれ、少佐の行動にはいつも振り回されてばかりですが、それで後悔したことは一度もありませんからね。やってやりましょう!少佐!」

 マックも作戦に賛同した。今回の作戦は相当に大変な、おそらく、自らの命に関わることは容易に想像出来るが、どこかワクワクしている自分もいた。

「お前ら、いつもすまんな・・」

 どんな時でも自分について来る部下を持てたことは、幸せであったと心から言える。

 ふいに目頭が熱くなった。

 ボトムは手で涙腺を抑えたが、不覚にも涙を流してしまった。

 しかし、涙をこぼした隊長を隊員たちは頼もしそうに見つめていた。自分たちのために涙を流せる隊長が誇りだったからだ。

 かくして、ボトム・ラングレイ少佐率いる「黒の小隊」がラサ基地から出撃した。

 

「そろそろ切り上げるか・・」

 第04MS小隊隊長のフレディ・ランス少尉は、本日の仕事を終えようとしていた。

 夕日がフレディ少尉の陸戦型ガンダムを照らし、日が暮れようとしている。

 ホバートラックのアンダー・グラウンド・ソナーに反応はなし。本日も敵秘密基地発見に至らず。

 フレディが日報を記入したその時であった。

 近くで大きな爆発音がした。

 なんと、部下のダニー軍曹の陸戦型ガンダムが爆発したのだ。しかも、コックピットが正確に撃ち抜かれている。

「な・・何が起きた!?ソナーに反応は無かった・・ハッ、スナイパーか!!」

 慌てて臨戦体制に入る。だが・・

 2回目の爆発音が響く。

 次はホバートラックが爆発した。この爆発では中の隊員は生きてはいないだろう。

「クソッ・・なんてこった!おいグレッグ、スナイパーだ!森に隠れろ!」

 フレディが近くにいたグレッグ曹長の陸戦型ガンダムに指示する。

 グレッグ曹長も森に身を隠す。

 あっという間に2機・・こいつは凄腕のスナイパーだ。

 そういえばコジマ基地で敵スナイパーによる被害が多く出ていたことを思い出した。

 敵もまだ切り札を残していたってことか・・

 他の小隊に救援要請を出したいところだが、現在コジマ大隊は各小隊が個別に敵基地捜索を行っており、付近に味方はいない状況だ。

 …何分経っただろうか。フレディの身体から汗が噴き出してくる。嫌な緊張感だ。

 いつの間にか日は落ち、辺りはすっかり暗闇である。

 目の前の森を凝視していると、ふいに森の木々が揺れた。

 森の中で動く巨大な影、敵MSだ。

「いたぞ、いたぞ――!!」

 フレディが100mmマシンガンを連射する。

 グレッグも180mmキャノンを撃ち応戦する。

 手ごたえはなし。次に出てきたら確実に打ち抜いてやる。

 しかしその時、フレディの横から何かが飛んできた。

 その「何か」は、フレディの機体に接触し、機体に高圧電流が走った。

 そして次の瞬間、モニターがブラックアウトし、フレディ機のコックピットは闇に包まれた。

 フレディの陸戦型ガンダムは完全に沈黙してしまった。

 ボトム・ラングレイ少佐のグフカスタムが姿を現す。

 フレディの陸戦型ガンダムを停止させたのはグフカスタムのヒートロッドである。グフの右腕に内蔵された固定武装であり、ワイヤー型の鞭を敵に接触させ、電撃を送り込むことによって電気系統をショートさせて行動不能にさせる効果がある。

「あ・・あ・・く、黒い・・グフ・・」

 1人になってしまったグレッグは完全に戦意を喪失していた。

 直後、グレッグの陸戦型ガンダムに向けて一斉射撃が加えられた。

 機体は大破し、爆散した。

 そしてとどめと言わんばかりに、グフカスタムのヒートサーベルにより、フレディの陸戦型ガンダムが一刀両断され、爆発した。

 長距離及び近距離からの奇襲攻撃、これが黒の小隊の戦法である。

「少佐、さすがですね」

 シップがボトムに声を掛け、シップとマックのザクⅡが姿を現す。

 グレッグの陸戦型ガンダムに一斉射撃を与えたのはこの2機である。

「2機の撃破を確認。撃ち損じはありませんでした」

 後方で狙撃を行ったニーナのザクⅠ・スナイパータイプも合流し、ボトムに戦果を報告する。

 ザクⅠ・スナイパータイプはその名のとおりザクⅠを狙撃仕様に改装した機体であり、長銃身の狙撃用ビーム・スナイパー・ライフルを装備している。さらにニーナ機には近接戦闘も考慮し、ヒートホークも装備されている。

 ニーナは5km後方から撃ち損じ無く2機を撃破した。間違いなくエースである。

「よし、みんなよくやってくれた。前哨戦は完璧だな。この調子で、明日も作戦を成功させるぞ」

 ボトムは皆を称えた。黒の小隊は連邦軍の一個小隊なぞ簡単に撃破することが出来る。相手があのガンダムであってもだ。この前哨戦は作戦前に自信をつける良い戦(いくさ)となった。

 黒の小隊はさらに進軍を続けた。

 コジマ大隊総司令部「ビッグトレー」に向かって。

 

 その夜、ビッグトレーのコジマ中佐に07小隊より連絡が入った。

「・・はい、08小隊が敵秘密基地をとうとう発見しました。各小隊はビッグトレーが到着するまで安全圏で一旦待機しています。しかし、悪い報告もあります。04小隊が敵にやられました。全滅です。そちらもくれぐれも用心してください」

 07小隊のロブ少尉が淡々と報告する。

「分かった。報告ご苦労であった。通信終わるぞ」

 ロブ少尉が映っていたモニターが消える。

 陸戦型ガンダムを有する04小隊がやられた。

 嫌な汗が、コジマの頬をつたって流れた・・

 




物語終盤でやっとジオン軍の登場です。

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