ただ、お前を護りたくて
贖罪の街で俺たちは任務をこなしていた。
「神威、アリサそっちはどうだ?」
「側面クリア。」
「.........」
返事をしないありさを不思議に思いリンドウはアリサに声をかける
「アリサ、どうした?」
「...えっ!?なんでもありません。後方クリアです。」
「?そうか?」
「アリサ。集中できないのなら帰れ。任務の邪魔だ。」
「おい、神威....」
「.......っ!」
「リンドウさん、あんたには世話になってる。だからあんたには、目の前で部隊員が死ぬのを見て欲しくねぇんだよ。」
「と言ってもなぁ....流石に言い過ぎじゃないか?」
「俺はアリサにロシア支部で一から叩き込んだ。なのに任務中に上の空なんて傲慢も良いとこだ。演習の評価が良くても実践で生き残れるかは別だ。集中しろ。アリサ、俺はお前が死ぬのは見たくない。」
「.......はい。すみません...」
「分かればいい。リンドウさん。前進してくれ。」
「ったく、神威は相変わらず素直じゃねぇな。」
リンドウはフッと笑って警戒しながら前進する。
それに続いて神威とアリサも続く。
そしてしばらく進むうちにアクシデントは起きた。
「なに....?」
「お前ら....」
「あれ?リンドウさん何でここに!?」
「どうして同一区画に2つのチームが...どういうこと!?」
「考えるのは後にしよう、さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認、お前たちは外の警戒。いいな。」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
俺たち三人は教会内部へと入っていく。
通路を通り教会へ侵入すると、ソイツは姿を表した。
白い体躯のヴァジュラ。
白と薄い青色を基調としたそのヴァジュラは、女の顔をしていた。
「こいつ...!ロシアにいたヴァジュラ神属のプリティヴィ・マータだ!」
「下がれアリサ!お前は後方支援を頼む!」
「パパ...!?ママ...!?...やめて...食べないで...」
「アリサぁ!どうしたあ!」
「チッ!リンドウさん!戦闘続行は難しい!アリサが錯乱状態に陥ってやがる!!」
『そうだ!戦え!打ち勝て!』
「くぅ....!」
「リンドウさん!」
『こう唱えて引き金を引くんだ。
「один....два....три....」
『そうだよ、そう唱えるだけで、君は強い子になれるんだ。』
「один....два....три....」
「神威!アリサを下がらせろ!」
『こいつらが君たちの敵、アラガミだよ!』
そこにはヴァジュラ神属のアラガミが映し出されたテレビがあり、そこにはリンドウも映っていた。
『混乱しちまった時にはな、空を見るんだ。』
「やめろ!アリサァ!!!!!」
「いやあああああああ!やめてぇぇぇぇえええ!」
神威はアリサに飛びついて阻止しようとするが努力むなしくアリサは天井に向かって発砲してしまう。
アリサの放ったバレットは天井を崩し、教会の入り口をふさいでしまう。
「リンドウさん!リンドウさん!!!」
「あなた...!いったい何を!!」
騒ぎを聞きつけたサクヤが駆け付けた。
「違う...違うの...パパ...ママ...私、そんなつもりじゃ...」
「くっ...」
サクヤは崩落した天井の残骸に発砲するがびくともしない。
「まずいな、こっちも囲まれてやがる。」
「うわぁああああ!」
「早くしろ!囲まれるぞ!」
「コウタ!」
「命令だ!アリサを連れて、アナグラに戻れ!」
「でも...!」
「聞こえないのか!アリサを連れてとっととアナグラに戻れ!」
「サクヤ!全員を統率!ソーマ、神威!退路を開け!!」
「パパ...ママ...そんな...つもりじゃ...」
「リンドウも早く!」
「わりぃが、俺はちょっとこいつらの相手をして帰るわ。...配給ビール、取っておいてくれよ。」
「ダメよ!...私も残って戦うわ!!」
「サクヤさん!ダメだ!このままだと共倒れだ!アナグラへ退却する!!」
「全員...必ず生きて帰れ!!」
「いやああああ!」
「コウタ!サクヤさんを引きづってでも連れて帰るぞ!ユウナ!お前はアリサを連れて退却!」
「「了解!!」」
「いやよ!リンドウうううう!!」
「良く戻ってきた。」
「ツバキさん!私たちも捜索を....!」
「ダメだ。」
「どうしてですか!」
「お前達は消耗し切っている。なんな状態の奴らを捜索には向かわせられん。」
「ですが!」
「お前達の気持ちは俺にも、よくわかる。こんな疲弊した状態で捜索に加わっても二次災害が発生するだけだ。」
「神威の言う通りだ。捜索は明日から加われ。それまでにしっかりと身体を休ませろ。今日はこれで終わりだ。以上だ。」
――――――――――――――――
エントランスは重苦しい雰囲気になっていた。
「おい、聞いたか?また死神の所で行方不明だってよ。」
「しかも、リンドウさんが行方不明らしい。それに、俺たちを見下してたあの外国人の新型。精神的ショックで出撃できないんだと。あれだけ言っておいて出撃もできないとか笑っちまうよな。」
「チッ......」
「あっ......」
ソーマは途中まで聞いてエレベーターを使って去った。
「ユウナ....リンドウさんならきっと大丈夫だよ....ビールの配給日には戻ってくるよ....」
「そう....だね.....」
――――――――――――――――
「.......リンドウさん...アリサ...」
神威は自室でベットに座り込んで俯いていた。
アリサ・イリーニチナ・アミエーラは病室で眠りについている頃夢を見ていた。
『アリサ、緊張してるようだな。』
『なんですか?もうすぐ作戦開始ですけど。集中したらどうです?』
『危なっかしい新人のお守りだ。集中はしてるが緊張をほぐすのも俺の仕事だ。』
『そうですか.....』
『そんなに不安か?俺と仕事をするのは。』
『そういうわけでは.....』
『ハッ、分かってる。冗談だ。俺からの命令は3つ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。隠れろ。そんでもって隙をついてぶっ殺せ。あ?これじゃ四つか。』
『何言ってるんですか....』
『俺の上官の受け売りだったんだがな...ただ、お前は俺にとって大切な部下だ。死ぬなよ。アラガミの動物園である極東じゃ、今回の目標はソロで討伐できて当たり前だ。小型だからって油断するな。』
『そのくらいわかって.....』
『返事は「はい」か「いいえ」だ。』
『...はい。』
リンドウさんが消息不明になって、俺の中で何かが壊れる音がした。
それから俺は、何かを忘れるように任務に打ち込んだ。
「これでブリーフィングを終了する。サクヤ、神威。お前たちは少し残れ。」
「神威さん、サクヤさんまた後程!」
「ええ。」「ああ。」
ユウナは挨拶だけ済ませてその場から去る。
するとツバキは言葉を発した。
「サクヤ、しばらく休め。休暇命令だ。」
「い、いえ問題ありません。」
「サクヤ、最近鏡は見たか?」
「えっ...」
「ほとんど寝ていないんだろう?お前のリンドウを想う気持ちは姉として嬉しく思う。だがな、上官としては別だ。自身のコンディションを整えられないやつを任務にはいかせられない。分かるな?」
「...はい。軽率でした。」
「よろしい。次に神威。お前は働きすぎだ。」
「......」
「昨日は大型アラガミ2頭任務に大型1頭と中型2頭任務、そして特務。明らかにオーバーワークだ。」
「話はそれだけですか?俺はリンドウさんが欠けた分を補うために....」
「それが問題だと言っている。お前にそこまでのことは求めていな......」
「ツバキさん、あんたには世話にもなったし、言いたいことも分かってるつもりだ!だが!今回ばかりは、はいわかりましたとはいかねぇんだ!!!リンドウさんが俺が連れてきたアリサが起こしたことのせいでMIA判定になり!アリサは精神が不安定になって医務室で休養中!ほとんどが俺のせいみたいなものだ!!アリサが精神的に不安定なことも、あの日のミッションでアリサが不安定になって起こした行動を止められなかった!だから!!」
「言い訳はそれだけか!」
「っ!?」
「お前のそんなちっぽけな悩みでオーバーワークをするな!お前のそれは物事から逃げようとしているだけだ!」
「だったら...だったら俺はどうしたらいいんですか!」
「アリサの近くにいてやれ。私は会ったが少しは知っている者がいたほうがいいだろう。とりあえず今日はお前はアリサの所に居ろ。」
「......了解。」
神威は少しばつが悪そうに頭を右手で掻いて医務室へと向かった。
「ツバキさん...」
「...あいつも苦悩してるからな。」
「...そう...ですね。」