カムラの対の竜 -カムラVSプレデター 作:薫鮫かおルみずち
・モンハン世界やカムラの里の対して設定を膨らませています。
・主人公の女ハンターはデフォルトハンターをイメージしてください。
・また、主人公は愛弟子・猛き焔・乙女・戦乙女と呼ばれます。
・映画「プレデター」シリーズを想定した暴力・流血表現があります。
カムラの里の大門と里を繋ぐ橋の上の傘屋と言えば私ヒナミのことである。
雨傘に日除け傘、仕込み傘に盾の傘、旅のお土産としても中々の評判で意外にも一定の売上がある。里を訪れた駆け出しの若い商人が里から出る際にカゲロウさんが持つ傘と似たものを買っていくのも珍しくはない。
門前の傘屋は親子代々と引き継がれてきたもので、只者ではない傘までも店頭に出せば買われ続けているのも代々変わらないらしく、それはもう傘もカムラの里のちょっとした特産品なのでは?と胸を張りたい。
まぁ仕込みどころか傘そのままの大剣をハモンさん達がこしらえたのはやり過ぎだと思います。
傘を店先に並べ、日除け代わりにその日のオススメの傘を広げて、さり気ない視線の死角を作ったら里守・傘屋のヒナミの一日が始まる。
カムラの里の入り口となる大門に一番近い所で店を構えるヒナミは里の有事の際に門を閉じる権限を預かる里守である。
たたら場の周りにある高い煙突から飛竜避けの煙を焚いているが、アオアシラ等の牙獣種が稀に突っ込んで来ないとは言い切れない。ハンターがいても狩場と違い町中の戦闘は避けたいですから。
二年前に百竜夜行が頻発する事態となった。里守一同と里守ではない住人とカムラを気に入ってくれた余所のハンター、そして猛き焔つまり愛弟子が一丸となり幾度も幾度も砦で踏ん張り凌いでくれたおかげで私は、門を担う私は砦から引き上げる人を切り捨てて門を閉じるという選択をしないで済んだ。
長い長いカムラの里の歴史は、何十年か幾たびと起きる百竜夜行による壊滅と復興と要撃の歴史でもある。我が家は先祖代々、砦を突破された時の最後の防衛戦である里の門を担ってきた専守防衛の里守で、門を閉じることの意味と責任の重さを受け継いできた。
あの頃私は、百竜夜行を迎え撃つべく砦へ向かう者に例え里長であろうが軽口を叩いて送り出しながらも、皆の無事を祈り誰一人欠けること無きよう帰還を祈り門を閉じる伝令が飛んでこないことを祈り、また砦への道を外れたモンスター共が門に里中に向かってこないことを祈り、緊張で売り物の傘を握り壊す日々を過ごした。
橋を渡りきった里の手前側に傷痍者看護の為に陣を張っていたゼンチ先生が「ヒナミ!毎度毎度そんな強い力で傘を握っていたらお前の手が壊れるのニャ。余計な患者を増やすんじゃニャイッ!!」と猫パンチを手に喰らわせてきたのは数え切れない。私は今でも肉球の感触と共にそれを思い出すとフフっと笑ってしまう。
「おはようございます、ヒナミさん。」
「あらおはよう、今日は休みかしら『花嫁さん』」
「んもー!朝っぱらからくすぐったい返しはやめてくださいー!」
「しつこくしてくる輩に『大切な許婚がいるので』って甘酸っぱい返り討ちする期間をおかわり出来たんだから良かったじゃない。来週からは『新婚生活の邪魔しないでください』って二年ぐらい続けなさいな。」
顔を耳まで朱に染め、照れの感情が振り切れた『花嫁さん』は頬っぺたを膨らまし唇をワナワナもにょもにょさせてヒナミをはたこうとする。
「待って待って!本気でそう思ってるけど、からかうつもりは無いんだって!」
売り物の頑丈な傘でガードしながらヒナミは花嫁をなだめた。
「たっ…タチが悪いです…それ…」
取り繕っていないがさほど宥めになっていないヒナミの言葉に花嫁は振りかぶった腕を下げた。
まぁまぁと、藍や紫色のカムラの花と手裏剣の紋をあしらった白い浴衣を纏う乙女をヒナミは隣に座らせる。傘屋の店番は今から二人になりました。
店番に加わった乙女は翌週に祝言を上げる予定の里の英雄、猛き焔である。
五〇年ぶりにカムラの里を襲った百竜夜行は、二年前に再発すると過去にない頻度で起きたが、一人のハンターと里守達によって防がれた。二年前に乙女がハンターとして独り立ちする時と同じくして百竜夜行の兆候が現れ、ハンターとして心技体を成長するのに合わせるかの様に災禍も徐々に手強いものになっていった。五〇年前の百竜夜行にて里を破壊し尽くしたマガイマガドを倒すも古龍が現れ災禍は続く。狩り場より奥地に住む竜までも惑わし、百竜夜行に巻き込む原因が互いを求めあう対の古龍にあると突き止めた里を背に、猛き焔は百竜ノ淵源たる古龍を激闘の末に降した。
長い年月をかけて土地にそういう癖がついてしまったと思っていいのだろうか、それからも半年に一度程度で百竜夜行が起きる様になったがかつての様な禍々しさはなく、むしろ一度に大量の素材が手に入る豊穣と表裏一体の自然現象になった。
新しく他所から来るハンター達には「呪われてません?移住した方がよくないですか?」と嘯く者がいるが、カムラの里には全く違う呪いがある。
「おはよう!愛弟子!」
音もなく眼前に現れた美丈夫は快活に大声で朝の挨拶を乙女に投げかける。
こいつよ、こいつ。猛き焔の名を冠した里の英雄を一流のハンターに育て上げたウツシ教官の呼びかけが呪いなのである。
ウツシはハンターであった両親を幼い頃に無くした乙女を引き取り、人としてハンターとして愛弟子を導き育てた。普段は仲睦まじく微笑ましい様子を振りまき、訓練となれば厳しい試練を課す師匠と失敗しても挫けず喰らい付く弟子を里の民は見守ってきた。人の恋路や甘酸っぱい雰囲気を悟ってはひとりで味わう趣味があるヒナミは二人を見守っているうちに師弟の絆と家族の情とは少し違う気持ちの矢印を嗅ぎ取った。
ヒナミが違和感を覚えたのは弟子がハンターとして独り立ちしマガイマガドを倒した頃のこと。独り立ちの一環で一人暮らしを始めていた弟子を往来や屋根の上から大きな声で「愛弟子!」と呼びかけるようになり、幼き頃から彼女の名を呼んでいた里の民の耳は繰り返される「愛弟子!」の呼びかけで塗りつぶされ、大抵の彼女を名で呼んでいた者も「愛弟子」と彼女を呼ぶようになってしまった。
一体いつから彼女に恋慕の情を抱いたのかは知らないけれど、一見気さくで爽やかな青年による、彼女の名を独り占めする呼び掛けはカムラを覆う呪いみたいなものだとヒナミは思った。うっかりウツシの前で彼女の名を口にすると視線の苦無が飛んでくる。これで愛弟子が違う人を好きになったらどうしてたのよ…。
しかし愛弟子については、ウツシが闘技大会の受付業務中を他所から来た女ハンターに群がられて邪魔されているのを目にしては無の表情になったり、腕を無理やり絡まれているのを目撃してしは涙目でミノトさんからクエストの受注する愛弟子の様子を、川を望む茶屋の席から度々目撃しているとアヤメさんから聞いているので心配には及ばなかった。
一見さわやかで人懐こいが狼雷竜の如き執着心と激情を秘めた青年と、一見可憐であるがモンスターに敗れても「絶対に仕留めてやる!」と黒い瞳に炎たぎらせ鼻血を拭いながら再度モンスターに突進する苛烈な乙女の組み合わせも味わい深い、とヒナミは呪いを受け入れ二人を見守ることにした。
強過ぎる恋慕と独占欲を覆い隠せていない癖に父娘にも兄妹にも見える家族同然の関係性と年の差に尻込みし、師匠としては真面目に己の培った狩猟と戦闘の技術を叩き込んで里一番のツワモノとして育て上げた愛弟子に対して百竜夜行と古龍との過酷な闘いの前線に立つ役割を背負わせてしまったと気負い始めたウツシの手を、怨虎竜の如く逃すまいと掴んだのは愛弟子だった。
淵源の対の古龍との最終決戦の折、愛弟子は師匠に想いを伝えると里の期待と悲願と一緒に恋い慕う男の全ての情を勝手に背負って対の古龍を見事討ち果たした。ウツシとは逆に人前で滅多に恋心の片鱗を見せなかった彼女は、戦いの場で恋心を鬼火に変えて纏う戦乙女だったのである。まさに猛き焔。
二年前、愛弟子がハンターになり災禍としての百竜夜行が終わるまで約半年。
カムラの里と翡葉の砦が立て直され、近隣との交流が復活し里に賑わいが戻った半年間、互いに仕事が忙しくとも師弟は恋人として歩みを重ね、稀に人前で甘酸っぱい雰囲気を醸し出してはそれをヒナミは満足げに吸い込んだ。
一年前、師弟であり恋人である二人は夫婦になりたいと婚礼の許しを里長フゲンに申し出た。強い男女なら早く番って子を産み早く次の世代を…と婚礼を急がせる意見もあったが、前回の百竜夜行が五〇年前で発生の周期が読めないこと、今回以降から古龍が狩り場に気軽に出没するようになったことを鑑みて、ハンターと里守の育成と里の戦力増強に注力する方が手っ取り早いという結論に至った。
また、生まれた頃から愛弟子を見守ってきたヒノトとミノトや里の若い世代は、年端もいかぬ乙女が百竜夜行のせいで年相応の青春を堪能できず、駆け出しのハンターとしては早くに過酷な戦いを強いられ生き急がせてしまったことを憂う者も多く、それらの声をまとめたフゲンは半年後の吉日を選んで祝言を挙げると宣言した。
そして、里の英雄と次期里長と謳われる実力を持つ男の祝言を控えた半年前のこと。タタラ場の製鉄技術と豊かな資源に目を付けていた賊が祝言の噂を聞きつけて、宴の隙をつこうと動き始めた。ウツシ率いる偵察部隊が察知したが、己の実力を見誤った賊共は破れかぶれに里に突入するも竜と渡り合う里守達の前には歯が立たず、里の狼雷竜と猛き焔によって屠られた。
ハレの日を目前に里の民の前で賊を殺めてしまい、自身も人の血を浴びたことをひどく恥じた乙女は己と里の禊の時間が欲しいと涙ながらに訴えて、皆が気にせず予定通りやる気満々だった祝言を半年延期させてしまった。
スズカリとセンナミ夫妻の仲睦まじさも、コミツちゃんとセイハク君のもどかしい微笑ましさも美味しく見守り味わっていたヒナミは、楽しみにしていた新婚の甘酸っぱさに待てをかけられ残念がったが、恋人達が互いに許婚と呼び合う日々が増えたと喜ぶことにした。
…相思相愛の二人がやや照れながら許婚と口にする様子はとてもいいものです。
相思相愛かつ愛しい乙女との祝言を目前に控えてもなお呪いの挨拶を続けるウツシに、ヒナミは先程と同じように挨拶を返す。
「あらおはよう、今日は休みじゃないのかしら『花婿さん』」
「いやぁ、朝からくすぐったい返しはやめてくださいよ、ヒナミさん!」
花婿は花嫁とほぼ同じ言葉で照れた。
「まだまだくすぐっていくわよ~。お二人さん覚悟なさい?」
「うわぁ、これは思わぬ強敵だ。」
「カムラの門前に手強き傘鳥あり、ですね。」
恋人達は声を笑いながら降参する。
「あ、そうだ。祝言のお祝いに夫婦揃いの傘を贈りたいんだけど好みがあるなら教えて。出来れば早く、早くね。」
急かす言葉の中にヒナミが大門の外を意識していることを察した狼雷竜と猛き焔は、竜を前に身構える表情で「わかりました、早めにお返事しますね。」と声だけを朗らかに揃えた。
ヒナミはずっと見守り続けていた二人の祝言を祝いたいとがむしゃらに願った。
四か月前からカムラの里にも少しずつ積もり始めた、血の混ざった不吉な空気を全て気のせいにして目前に控えた二人の門出を祝いたかった。
四か月ほど前から里の桜が散ってしまうのではないかと心配するぐらいに里の気温が上がった。ハンターの話によれば大社跡は里と同じくらいで、寒冷群島は寒さが厳しくなり、他の狩り場は暑くなったという。
気候を司る新たな古龍の出現を心配したがモンスター達に兆候は現れず、代わりに奇妙な旅人をヒナミは迎えるようになった。
素材や修行や武功を求めて里を訪れるハンターが減り、代わりに何かに怯えながらも武器を持つことを拒む旅人が里に流れ着く頻度が少しずつ増えてきた。
ひとり、またひとりと皆一様に武器を持たず何かにひどく怯え、着の身着のままで身を竦めてカムラの里に逃げてきた逃れ者達にヒナミは困惑した。
「森が襲ってきた。」「見えない奴に村の男達が殺された。」「武器を持っているとやられる。」「森が死んだ奴らの声で話しかけてくる」「一番強い奴が獲物だ。」「森がハンターを狩っている。」…と、ハンターを狩る見えないハンターの存在を示唆するにわかに信じがたい内容を震えながら語り、ある者は里に留まり、またある者は隠れる場所を探しにカムラを後にした。
百竜夜行の脅威と全く違う何かが起きている。そして気候の異変はカムラの里だけのものではなく、モンスターや古龍は関係していないらしい。
十日前、大門をくぐると目の前にいるヒナミの顔を見た途端、泣き崩れた男がいた。ハンターとして鍛えたであろう大きな体を震わせすすり泣いている。丸腰で獣や竜に襲われる方がマシだ…あんな惨たらしい死に様は嫌だ…と武器を捨て鍛えた体を縮こませ震える男は見えない視線に怯えて一歩も動けない。
「とっても疲れているんだね。奥に進めば茶屋や宿もあるから、お団子食べてお茶でも飲んで少し休みな。ほら傘も貸してあげるから、これなら怖い視線からも隠れるよ。」
ヒナミは大きめの傘を広げ大男に握らせると何とか立ち上がらせた。しかし見てきた惨劇に心が折れていた男はこれ以上足を踏み出すことが出来ず、一本の傘を困惑した表情のヒナミと二人で握り一歩また一歩…と、付き添われる形で茶屋に連れていかれたのだった。
そして先週、ついにユクモ村とカムラの里の間で襲われたという重症のハンターが運び込まれた。
ハンターを狩るハンターの脅威が少しずつカムラの里に近付いている。
2021/8/20にtwitterに序盤のヒナミの独白まで連続投稿していた第1章です。最初から『傘屋ヒナミの困惑』というタイトルと話の筋は決まっていたのに、全5章のうち9/9に下書きができるまで完成に一番時間がかかってしまいました。
ヒナミにはコミツとタイシ君の初恋から老夫婦まで幅広くカップル萌えし、人の恋路を見守るのが趣味だが自分からは根ほり葉ほり聞くことはしない、最前線でカップル萌えしたい私を投影しています。
本来は「祝言が半年後に延期になった事件」の話を書く予定でした。