カムラの対の竜 -カムラVSプレデター   作:薫鮫かおルみずち

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モンスターハンターライズと映画「プレデター」シリーズのクロスオーバーを下敷きにしたウツハン♀小説です。ウツシ教官との祝言を1週間後に控えた愛弟子が、異変のあった砂原での捜索と調査で見たものとは。

・モンハン世界のアイテムやカムラの里の対して設定を膨らませています。
・主人公の女ハンターはデフォルトハンターをイメージしてください。
・また、主人公は愛弟子・猛き焔・乙女・戦乙女と呼ばれます。
・全年齢ではありますが映画「プレデター」シリーズを想定した暴力・流血表現があります。


第三章 砂原での痕跡

「うあっつい!!」

 

「あっつい!何これ、マジあっつい。」

 

「最近ずっと暑かったけど今日もっとあっつい!!」

 

自分でもオーバーリアクションになっているのは自覚しているけど「うあぁぁぁ」と悪態をつくのが止まらない。

砂原のスタート地点であるメインキャンプは、大きな岩山の真ん中に乾いた風とかつてあったと思われる大河が年月をかけて削り取ってできた風通しの良い広い風穴を、太陽がどの時間にあっても必ず日陰の下にいられるよう古くからハンターや職人達が掘削して更に広く拓いた場所だ。普段はうさ団子の恩恵もあるが日光が肌を照るようなチリチリとした熱さを感じる程度で日陰にいれば涼しくはなくても過ごしやすい…はずだった。

 

「いやこれ溶岩洞より暑い、日陰なのにあっ…って!」

両太ももに小さな獣脚の蹴りを受けて尻餅をついた。蹴られた感触の大きさと一致する後ろ足の持ち主であるオトモ2匹の呆れた目線に「あ、はい、ごめんなさい。気絶してませんもう大丈夫です。」と冷静さを取り戻す。

「ご主人、いくら暑いからってクーラードリンクも飲まずに騒ぎ過ぎると任務の前に倒れるニャ。早く飲んでのんきな頭を冷やすニャ。」

他の地域や国では暑さによるスタミナの減少を防ぐ為にクーラードリンクを飲むけれど、カムラの里ではうさ団子の中に著しい寒暖差に体が負けないような成分が入っているらしく、外部から来たハンターにクーラードリンクの存在を聞かされるまでは実はそのような物が必要だとは知らなかった。

「ごめんごめん取り乱し過ぎたね。まずモンスターは徹底的に無視する。砂原を左右半分と捉えて最初に右側の砂漠まで捜索調査し、左の砂漠に移動したらこのメインキャンプに向かって左半分を捜索する。これで行こう。」

 

はじまりは四か月ほど前、寒冷群島を除く狩り場の気温が上がり始めた。否、寒冷群島は寒さが厳しくなり――すなわち狩り場の気候の寒暖差がより顕著になった。大社跡は植物の採取に支障のない範囲の暑さではあったけれども、すわ気候を司る新たな古龍の襲来かと里が構えていたらしばらくの後、奇妙な旅人が里に流れ着いた。

古くからカムラの里を幾度も襲った百竜夜行を里守一丸となって凌ぎ、原因となった対の古龍を倒してから二年近く経った。それから小規模な百竜夜行が起きることはあってもヒノエさんとミノトさんに共鳴が起きることは無く、近隣の大型モンスターや古龍の動向に妙な兆候は見られなない。次々と駆け込んでくる奇妙な旅人によって異変は里だけのものではないこと、そして竜や古龍が原因ではない「らしい」ことがわかった。

 

旅人は他の地域のハンターであったり商人であったりしたが奇妙なことに武器を持たず、一様に何かにひどく怯えており、また何らかの事象からの生き残りである。

「森が襲ってきた。」「護衛のハンターが狙われた。」「近くを根城にしていた賊の根城が血の海だった。」「武器を持っていた奴らみんなやられた。」「女子供は襲わない。」「森が死んだ奴らの声で話しかけてくる」「どんなに手先が器用なモンスターでも死体を丁寧に吊らない。」「一番強い奴が獲物だ。」「あれはハンターを狩るハンターだ。」

丸腰だと獣や竜に襲われた時に命を落とすことだってあるのに、獣や竜ではない何者かに狙われるのを恐れて武器を捨て鍛えた体を隠し逃げ延びてきたのだった。彼らは旅人ではなく逃れ者だったのである。逃れ者が新たに流れ着く都度、何処から逃れてきたかを聞く都度にハンターを狩る者はカムラの里に近づいて来ていることがわかった。

そして先週、ついにユクモ村と里の間で襲われたという重症の女ハンターが運び込まれ、同時に狩り場であらゆる小型モンスターが一斉に姿を隠した。

「チクショウ!女子供は襲わないなんて話だったのに!女でもハンターってバレたら…武器を持って戦おうってんならこのザマさ!!」

死の縁でなお足を切り落とされた痛みと恐怖で錯乱する女ハンターを鎮めゼンチ先生や医術に心得のある者総出で必死の措置と看病を施して一命を取り留めた二日前、ついにカムラの里で事件は起きた。二日前ティガレックスの狩猟を受注し夜に出発した四人組が消息を絶ったのである。

 

ギルドは土地勘とあらゆるモンスターに対する立ち回りを会得している私に四人組の捜索と砂原の調査を命じ、また武器だけは置いていく指示を出した。相手はモドリ玉を使う余地すら与えない俊敏さを兼ね備えているらしく、万が一の為に戦う者と悟られぬよう生きた情報を絶対に持ち帰ることを優先する為の苦悩の策である。

一杯目のクーラードリンクを飲み干してガルグの背に乗り駆け出した。

 

第一にクーラードリンクが効いている時間を効率的に使いスタミナの消耗を抑える。第二にオトモ達と離れる単独行動を避けたい。第三に地下洞は陰になっている分地上より幾分かは涼しいだろうとの予測。これらの点を踏まえて最初に砂原の地上だけを探し、水辺などの崖下の窪地には出来るだけ降りずに目視することにした。

 

ウツシさん、ウツシ教官は教官職の傍ら諜報の仕事も担っているけど、捜索や偵察はどんな感じにやっているのだろう。心得とか立ち回りとか注意すべき点とか隠密としての立ち振る舞いを日頃から聞いておくべきだった。

淵源たる対の古龍を倒すべく龍宮砦跡に乗り込んだ時、私は小舟で送り届けてくれたウツシ教官に家族として子弟としてのお礼と親愛の言葉を告げ、さらに心に秘めるつもりでいた恋心までもを教官にあらゆる言の葉を尽くして教官に伝えた。ウツシ教官は私の全ての想いを受け止め、また彼もあらゆる言の葉を尽くし私に抱えていた家族と弟子と、女性として思い慕う気持ちを伝えてくれた。ウツシ教官の全ての想いを受け取った私は対の古龍を討ち果たし、ウツシ教官の対となった。

やがて百竜夜行の脅威が収まり里が復興した後、里長に夫婦になりたいと申し出て晴れて許婚の間柄になった私達は狩りに出掛けたり一緒に依頼を受けるようになった。里周辺の偵察任務を手伝う機会もあったけど、里のよく知る狩り場とは言え今回は勝手が違う。ひとりでぶっつけ本番の偵察任務に当たることになってしまったのだ。

「愛弟子なら大丈夫だよ!モンスターと向き合う時と同じさ。弱点や疲れの溜まっている箇所を窺う、致命傷に繋がる特殊攻撃の兆候を覚えて回避する。もちろん反撃しやすいように見計らってだ。元々しっかり出来ている状況の把握と最適解の身のこなしを探すことだけに集中すればいい。愛弟子はカンがいいからきっと出来るよ!」

教官は訓練生や駆け出しのハンターの頃とも変わらない褒め殺し混じりの励ましと共に私を送り出した。

 

右側の水場と奥の砂漠の間にある丸い壁に囲まれたサブキャンプに着く直前、一杯目のクーラードリンクの効き目が切れた。そして一緒に飲んだオトモ達もほぼ同時にドリンクの効き目が切れたことに妙に感心した。体格も体の構造も違うだろうにドリンクはきっかり時間制なのだ。一旦サブキャンプに寄ってドリンクを飲もうかと思ったけど、一歩も動かずともスタミナを削り落としてくる暑さに危機を覚えたのでその場で二杯目のクーラードリンクをおかわりしてサブキャンプにはポーチの道具の入れ替えにだけ寄った。

 

奥の砂漠に入りガルグはゆるやかに大きく蛇行しながら砂漠の中心を進む。ディアブロスの餌場のサボテン群はこの暑さでもかろうじて逞しく生存している。狩りで大いに活用している閃光羽虫の群れもいつもと同じ宙をまばゆく飛んでいる。小さな生き物は存外無事のようだ。竜との戦いも気にせず足元の砂漠を自由に泳ぎ回るデルクスは砂漠の崖のキワで背びれだけを出して縮こまった群れを作っていた。

砂の橋を渡り折り返し地点となる左側の砂漠に入る。左の砂漠にも人の痕跡はなく不審な点も見付からない。そろそろクーラードリンクの効き目が切れる頃合いなので、砂漠を抜けて左手の台地に駆け上ってから三杯目のドリンクを飲み干して再び高台からの哨戒に戻る。

 

朽ちた遺跡群に囲まれたキャンプのある台地の手前の水辺で遠目にティガレックスの死体を確認したので、捜索対象のパーティーが受注していた轟竜はこれかしら?と近づいてみる。連日の酷暑の中で損傷箇所から傷みはじめた轟竜を見下ろして初めて全身の神経と筋肉に緊張が走った。

周囲を警戒しながら片足を切り落とされ頭が無い轟竜の検分を始める。写真を撮りながら首の切断面を観察してみると頭をモンスターに喰い千切られたような歯の形跡は無く、一撃二撃といかなくても鋭利な刃物で切り落とされていたことが分かった。首の切断面の血だまりからある方向に血を引きずった跡が伸びていたが、途中で何らかの血止めを施したのか跡は途絶えている。なお、切り離された足は死体の傍らに転がっていた。

こんなことが出来る奴、私は知らない。デカい図体のくせに小回りが利いて咆哮と地面を掘り起こして飛ばしては簡単に近寄らせない轟竜を、ほぼ無傷で仕留める奴なんて私は知らない。足を刎ねたのはおそらく足止めの為だろう、しかし足には他に攻撃を受けた痕が無い。どんなハンターでもこぞって狙う尻尾はきれいに繋がっており、頭を持っていかれた以外には剥ぎ取りの形跡が一切無い。食料として大なり小なり啄まられた箇所もない。そいつにとって必要なのは頭だけだったのかも知れないけど、不要な物でも何でも一旦持ち帰り素材として取っておくか売り払うハンターとは違う行動原理を持つ奴ということだけはわかった。

風で消えかけている足跡が四人分あったけど、多分この轟竜を仕留めたのは彼らではない。それに私とウツシ教官の二人で翔蟲とアイテムを駆使して縛り上げたとしてもこのような仕上がりにならないはずだ。

途切れた血痕の先にキャンプがある。風に幽かに血の臭いを感じてオトモ達を見やると少し毛を逆立てていた。あのキャンプに捜索の成果がきっとある。

 

崩れた遺跡の中、より血の臭いの濃い方向に見慣れたキャンプのテントが見えてきた。

距離を取りながらテントの正面へと回り込むと交戦した後と思わしきおびただしい銃弾跡と壁や床を染めた血だまりが複数目に入った。鼻の利くオトモ、特にガルグが血の臭いで参っているので二匹に次のクーラードリンクを渡し崖のきわにある壁の陰で休んでもらう。

倒された松明の支柱をひとつ掴みテントの布を、外側から一周しながら叩いてみた。

テントの布も血で汚れているからどうせ張り直しないとね、と思いながら入口の幕を思いっ切り引き剥がしてみた。

 

…ヒッ

 

引き攣るように息を吸い込むような音が聞こえたので、テントの入口に背を付けて顔だけ向けて内部を覗いた。

囲炉裏の上に震えながら丸くうずくまっている男がいた。

「あなたがティガレックスの狩猟を受注した人ですか?他の仲間はど」

「仲間!ななな仲間!やややられちまった。空がうううう打ってきた、空がやられたみんなやられぢまった。狩りだ俺達は狩られた!あああ痛ぇようう。あいつ!あいつだ!森じゃねぇあいつはぅ空だ痛い痛い痛い!」

仲間という単語に反応した男は堰を切ったかのようにまくし立てた。テントの中も外も危険性は変わらない気がしたので男をテントの外に引っ張り出す。全身を強く打ったのか左腕が関節と逆方向曲がっており肋骨が何本か骨盤も折れている様子で、火傷は囲炉裏の上に乗った時のものだろうか、その大怪我と痛みで二日間よく持ったものだ。

 

落ち着かせたいのと会話するぐらいの力を引き出したくて回復薬と元気ドリンコを飲ませてみる。骨折やひどい打撲の治療は出来ないけど炎症を多少緩和できないものかと、思い付きで薬草と霜降り草とネムリ草を雑にすりつぶしたものを患部に巻き付けてみた。熱があるのに気が付いたアイルーが濡らした布切れで顔の汗を拭う。辺りの血の臭いがきついだろうにあまりの男の狼狽を心配したのかガルグもやってきた。クーラードリンクも無理やり飲まされて渇きを癒した男はポツリポツリと口を開く。

「俺達はティガレックスの狩猟を受注して夜の早いうちに狩ろうと決めて砂原に来た。」

「道中ジャギィ一匹姿を現さないうちに俺達はティガレックスの死体を見付けた。」

――首のない、無傷のティガレックスですね?

「お前もあれ見たんだな?ぅおかしいだろ?頭だけ無くて他は無傷の竜なんて。どこのハンターだって一人だろうがパーティーだろうが報酬が増えるから尻尾を狙うし、弱らせたくて足腰や背中も狙う。でもやつはそうしなかった。頭だけを欲しがった。何故か分かるか?」

「報酬は欲しいけどあんな異様な死体を目にしたら誰だって考える時間は欲しくなる。」

――だからこのキャンプに来たのですか?

「ああ、そうさ。俺達は別にのんびりするつもりは無かった。ただ話し合う為にここに来たんだ。そうしたらまずリーダーが狙われた。」

男はどうにか持ち上げた右腕でテント横の壁の穴を指し示した。

――撃たれたんですか?あの穴は砲撃…?

「その時はリーダーは無事だったけど次に焚火を狙われた。…俺達の視覚を奪った。」

「真っ暗闇の中、笛使いがやられた。」

「暗闇に少し目が慣れて悲鳴が聞こえた方を見たら、辺りそこらに血がべっとりだ。」

血塗れの壁と狩猟笛、あの血だまりか。

「尻尾を鳴らすヘビがいるだろ?あの音を口で真似するような唸り声が…あぁ忘れねぇあの唸り声…」

男は震えはじめた。

「空が人の形になった。光る黄色い眼の空だよ。赤い光の点と線がちらついた。最初にリーダーを狙った照準器だ。」

照…準器…?

「俺達は撃ち始めた。ありったけの弾を全部撃ちこんだ。色んな方向に掃射したっ…でも手ごたえが無ぇ。」

「打ち続けたら女がやられた。でっかい手裏剣を飛ばす音が彼女の体ごと壁に刺さった。」

壁に何かが打ち込まれたような亀裂と亀裂を彩る血痕も見た。

「俺はとんでもない力で横から打ち飛ばされた。骨が何本もいったのはわかったよぁぁ痛ぇぇ」

「気が付くとリーダーが宙に浮いてたよ。足をバタバタして空を蹴っていた。あいつは空の化け物じゃなかった。聞いてるだろ?噂の森の化け物。あれがあいつだ。空でも森でもねぇ。あいつは透けているんだよ。空も木も壁も透けやがる。」

――透ける能力…オオナズチ?でも照準器ってさっき…

「鋼の長い爪が宙に現れて、リリリリリリーダーが刺された。おおおれは間に合わなかった動けなかった…!ぁチクショウいでぇぇぇ。」

「あああああぁみんなやられた、やられちまった。あんなむごいことを…ヒッうぐっ…」

「せめて死体だけでも…止められ、指一本動かせなかった。ひどい、ひどいよ。」

男が震えながらすすり泣いている。男を挟むようにオトモ達がぴたと寄り添った。

すまねぇすまねぇと仲間に小さく謝り続ける男に仲間の遺体がどうなったのか聞くのは酷だと思い、彼が少し落ち着くまで私だけで遺体を探すことにした。

 

そこらかしこに飛び散った血飛沫を頼りに周囲を見回しながら逃れ者達の証言を反芻した。死体がどうとか…死体を…丁寧に――吊る。

テントを覆う遺跡の元に立ち天井を仰ぎ見たが何も無い。ではその上は。

翔蟲で二階に飛び乗ると――いた。逆さまに吊られた三人がいた。

遺体は血に染まっていた。あぁ何てことを。赤いのは皮を剥かれているからだった。腹を裂かれて内臓を引き出されているのがふたつ、ふたり。もうひとつ…もうひとりはうなじから背中に縦に切込みが入っていてそこから頭蓋骨と脊椎を抜き取られていた。

遺跡に登ってから私は見ているものを全て、写真を撮るべく私の指は事務的に動き続けていた。が、ぬめりのある湿った感触の何かを踏んで足元を見た瞬間吐いた。血で濡れていない壁に手を付けて吐き続けた。辺りに充満する血の臭いに鼻が麻痺していたのと、異常な光景を見聞きするのが続いているせいだろうか、足元への注意が散漫になっていた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

私が踏んだのは裂かれた腹から垂れ落ちた人の内臓だった。時間をかけて胃の中身を全て吐き出し涙と鼻水と口のまわりを拭った私は深く、深く深呼吸をした。

「タイシ君、こっちに来なくて正解だったわ。」

 

わざとヘラヘラ笑ってみせてから翔蟲で更に壁を上り、どのような形に遺体を吊り下げているのかを記録した。遺体を括っていたのはハンターが崖を上るのに使っている植物のツルで、力任せとはいえ手先が器用なモンスターでは到底こしらえることができない結び目だった。またひとつ、私達の知るモンスターではないという確信が積み重ねられる。

地面に降りて遺跡を仰ぎ見ればなるほど見つけられないものではなかった。吊り下げるという行為を全く想定していなかっただけの、ただの見落としだった。私はどうやら単独の偵察に向いていないらしい。

討伐したモンスターの剥ぎ取りで切り開いた肉や内臓を見慣れている筈だった。モンスターに襲われ食い散らかされた人間の死体だって何度も見ている。自身の手で人を手にかけたこともある。でもこれは違う。まるで違う。

 

いささか乱暴だけど苦無を飛ばしてツルを切断して遺体を降ろすことにした。

狙いを定めて苦無を投げたがツルに当たらない。しがみついた崖から飛ぼうとするトビカガチにだって走るガルグの背に乗っていてでも苦無を当てられるのに。

呼吸と姿勢を整え、苦無を構え直して投げた。真下のテントの上に湿った質量のある塊が続けて落ちる。落ちる音を聞く都度、生き残りの男はヒィと声を上げる。

――ごめんなさい。あなたの友人達をこれ以上損なうつもりはなかったのです。

テントを引き倒しながらテントの幕を力任せに引きずり、幕の上で遺体を離して並べてそれぞれを包めるようテントの幕を切り離した。それから近くに落ちている武器を拾い集めた。男は泣いている。

――とても辛いことを頼むのですが、どの武器がどの人のものか教えていただけますか?

男は鼻をすすり泣きながらえずきながら、武器と変わり果てた遺体を腕で指し示す。きっと皮を剥ぐ所も背骨一式を抜く所も見聞きしてしまったのだろう。酷なことを私はさせている。へヴィボウガンの持ち主は頭蓋骨と脊椎を抜き取られた遺体だった。ふいに頭の無い轟竜を思い出し男に彼がリーダーかと尋ねると頷いた。持ち去られた頭部はもしかして…戦利品?

クーラードリンクの効果はとっくに切れていたが凄惨な光景に嗅覚どころか皮膚感覚も麻痺していたようで、暑さを感じなくなっていた背中を寒気がぞくりと掴んだ。

 

遺体は首無し轟竜と同様に暑さで傷み始めていたので消臭玉をぶつけて自分が感じなくなった腐臭を祓う。アイテムボックスから引き出したありったけの流水草と霜降り草を貼り付けて泥玉コロガシと雪玉コロガシを添えて敷いている幕でそのまま包んだ。

持てるクーラードリンクに限りがあり活動可能時間を全て捜索に充てる為に採取は行わない予定だったけど、日陰の奥に隠れていた泥玉コロガシと雪玉コロガシだけは拾っておいて正解だったみたいだ。

手探りで遺体を処理する私を眺めながら男は再びポツリポツリと話し出した。

「遠い所から徐々に近づいてくるハンターを狩るハンターの噂は聞いていた。」

「だから俺達は武器を置いてハンターを休業するつもりだった。」

「せっかくだからお互いの故郷を訪ね回る旅にしようって年甲斐もなく盛り上がったよ。」

包んだ遺体にそれぞれの武器を括り付けて作業を終えた。

「武器が無くても四人で固まって逃げるのに徹すれば道中でも守りあえる。」

「その為の防具の整備と路銀を稼ぐ為にあの依頼を受けたんだ。それがこんな…。」

並んだ遺体に手を合わせた。

「リーダーを長い爪で刺し殺したあいつはそのまま姿を現した。」

「竜人族の男より大きくて見たことのない鋼の仮面を被っていたよ。太い腕に太い足、竜のように太い指と爪、ぶっとい筋肉の上に小手と脛宛て以外に碌な装甲をつけていなくて…竜みたいなトカゲみたいなヘビみたいな肌をしていやがった。」

男を見た。

「あいつは俺が死んでいないのに気付いていた。気付いていたら俺も皮を剥がされてそこに並んでいたんだろう。一番強そうな奴の首が手に入ったから満足したのかも知れねぇ。首も動かせねぇ痛みでまぶたも閉じられなかった俺は仲間の遺体がむごい仕打ちを受けているのを止められなくて、目を逸らすことも出来なかった。」

「あいつが上にみんなを吊るした後いなくなってから、何故だかわかんねぇがテントの中に逃げた。真上にみみみみんなが吊るされている。気が狂いそうだのに痛みがそうさせてくれねぇ。」

「ぅ辺り一面血の海だ。いっそどこぞの竜や獣に喰われるのも期待した。」

「でもモンスターは現れなかった!どいつもこいつもあの悪魔に怯えて出てこない!!」

「砂原はもう奴の縄張りだ、他の狩り場もじきそうなる。狩り場の次は里だ。」

「見ただろう、あいつは喰う為に狩らない、素材の為に狩らない。守る為に狩らない。俺達とモンスターと道理が違うんだ。狩ることだけを楽しむだけ。」

「おおおおお前、カムラの里の『猛き炎』って呼ばれている強いハンターだろう。」

突然男の意識が私に向いてまくし立て始めた。

「あいつは女子供は襲わない、だが古龍を倒せるお前は別だ!悪いことは言わない今すぐハンターなんて辞めちまえ。武器を捨てて隠れろ。そっそうだ受付の、お前の許婚のウツシって男もだ、あいつが只者でもないのは俺でもわかる。あいつの首ももれなく狙われる!」

「早く逃げろ。悪いことは言わねぇ、二人で刃も里も何もかも捨てて逃げろ。番の戦利品なんざ趣味が悪りぃ。ハンターの人生なんざ忘れてくれ!」

「もう俺は武器を握れねぇ、きっとろくすっぽも体を動かせねぇ。」

「俺は嫌だ、ハンターももう嫌だ。かかっ顔見知りの奴があんな風に皮を剥かれるのも耐えらんねぇ。血の臭いも何もかも嫌だぁぁぁぁぁぁぁ。」

大の男がむせび泣いている。

動かせない腕に無理やり力を込めてアイルーとガルグを抱きしめて泣いている。

竜や獣と向き合う覚悟を持っていた人のいいハンターが心を折られて泣いている。

 

普段なら依頼を失敗すると台車に載せてぞんざいに運ぶアイルーの救助班に、ギルドからの依頼書を見せ丁寧に運ぶよう追加の報酬を払う。三人の遺体と、私のアイルーとガルグを力の入らない腕で離そうとせず泣き続ける生存者を里に連れて帰る為だ。オトモのいない丸腰の状態でひとり里に帰ることに不安は感じないわけでは無かったけど捜索と調査の結果、どうやら砂原にハンターを狩るハンターの気配は無い。里に流れ着いた逃れ者達による、一組分の狩りを終えるとより強き者を求めて狩り場を変えるという証言は本当のようだった。

 

―――だとしたら。

 

けれど、ティガレックスを切り裂きパーティーを血溜まりに変えた圧倒的強者が砂原を後にしても大型モンスター達は姿を現さなかった。

砂原のメインキャンプを出発してから虫や猟具生物を見掛けはした。けれども小型モンスターどころか水辺で泥浴びに勤しむボルボロスも、餌を求めてのしのし歩くアンジャナフも、長い舌をムチの様に使ってハチミツ採りを邪魔するラングロトラも、女王の如く大空を舞い飛ぶリオレイアも、縄張り争いで昂ぶり泥と化した大地ごと空に昇るオロミドロもいなかった。砂原で見つけたのは重傷の生存者がひとり、凄惨という言葉で片付けるのも憚られる人間の遺体が三つ、足を切り落とされ頭を持ち去られたティガレックスの死体がひとつだけ。

大地を隆起させ起伏に富んだ地形を作り上げた大昔の地殻変動や、浸食によってより複雑な地形を作り上げた今は無き大河に想いを馳せ、赤い土の台地から台地へ大翔蟲を使い飛び渡るのが好きだった。ガルグの背に乗りヒトダマドリに接触しながら崖の縁をギリギリに駆けるのが好きだった。

ここはもう、ウツシ兄ちゃんを追い掛けるようにハンターを目指し、ウツシ教官に訓練で連れてこられ土地勘や猟具生物や採取のコツを学び叩き込まれた砂原ではない。ハンターとして独り立ちし、百竜夜行を凌ぐ傍らギルドの依頼や目当ての装備を作る為にモンスターと命懸けの大立ち回りを演じた砂原ではない。対の古龍を倒した後に赤い砂の台地と青白い岩陰と砂の地下洞を恋仲となったウツシさんと気ままに翔蟲で駆け回った砂原ではもうない。同じ景色であってもほんの数週間前の狩り場ともう違う。

何処から流れて着いたモンスターでもヒトでもない邪悪な闘争心に満ちたこの狩猟者を倒さないと、モンスター達とハンター達の命の営みを育んだ狩り場は戻らない。鼻の奥がツンとして目頭が熱くなったけど先ほどの一抹の不安が蘇り熱が冷めた。

 

―――だとしたら。

 

だとしたら他の狩り場が心配だ。水没林を調査する予定だったカムラの狼雷竜、ウツシ教官が危ない。

 




執筆する中でカムラ愛が炸裂する愛弟子の性格が固まった第3章。

生き残ったモブハンターの証言がスラスラ浮かびながらもモブハンターに感情移入しすぎて泣きながら執筆していました。モブハンター達の雰囲気と仲の良さは『ザ・プレデター』のルーニーズをイメージしています。
(今もザ・プレデターで泣く。)

泣く男に静かにそっと寄り添うアイルーとガルグは、私が泣いていると静かに手が届く範囲に香箱座りをし、何度も撫で崩しても何度も座り直し落ち着くまでそばにいてくれた今は亡き愛猫達の思い出から取りました。
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