カムラの対の竜 -カムラVSプレデター   作:薫鮫かおルみずち

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モンスターハンターライズと映画「プレデター」シリーズのクロスオーバーを下敷きにしたウツハン♀小説です。調査と警戒で水没林に訪れたウツシ教官と弟子のタイシの前にハンターを狩るハンターが遂に現れる。

・全年齢ではありますが映画「プレデター」シリーズを想定した暴力・流血表現があります。
・モンハン世界のアイテムやカムラの里の対して設定を膨らませています。
・主人公の女ハンターはデフォルトハンターをイメージしてください。
・また、主人公は愛弟子・猛き焔・乙女・戦乙女と呼ばれます。
・タイシ君はデフォルトの男ハンターを幼くしたイメージです。


第四章 水没林の捕食者

これまで任務で狙った者や護衛に好敵手と見做され交戦になることがある。相手が求道者の様な武人だったり、敵を探しては相手との戦闘から己の強さを図りたい奴に見つかった場合は逆に執着され非常に面倒くさい。手合わせの勝利に戦利品の意味合いを被せてくるのである。こちらはサクッと仕留めて早く里に、早く愛しい愛弟子の元に帰りたいので、全力で返り討ちの返り討ちにして任務を終わらせたものだ。

そうしてウツシの目の前に景色の中から現れた者は、そういう面倒くさい手合いだった。

 

―――

 

砂原の異変とパーティーの消息を調査捜索しに向かう愛弟子を早朝に見送ったウツシは、身長が伸び体と筋肉の成長が本格的に始まった弟子のタイシと水没林に哨戒に来た。水没林では急激な温度の上昇と小型モンスターが見えなくなったぐらいの異変であるが、未知の狩猟者は各地方でも水没林に現れる情報を得ている為である。

 

水没林の最奥の瀑布に近いサブキャンプから救難信号が飛んだ。

「ハンターが来てたのか?」

 

ウツシとタイシはサブキャンプの少し離れた所でガルグから降り、気配を消しカムラ特有の忍び装束に相応しく周囲に溶け込みながらキャンプ地に忍び寄った。

キャンプは静けさに包まれていた。人がいた気配はあるが争ったような形跡は見当たらない、が、ウツシよりまだ目線の低いタイシはテントを守り囲む岩壁にある小さな出入口の様な穴のひとつ、瀑布から遠い穴の周りの草に鮮やかな赤を見つける。岩壁の外側に続く赤は誰かを引きずった血の跡だった。

タイシは穴を抜けて血の跡を追う。最初にハンターが選ぶようなポーチが落ちていた。さらに辿ると血の付いた防具がぽつぽつと落ちている。跡は樹木の小さな茂みの向こうに続いているみたいだ。不安と緊張で胸が早鐘を打っていたタイシは目をつぶり時間をかけて呼吸と鼓動を落ち着けた。気配を消し茂みに手をかけそうっと緑を開いた。視線の先に温度と湿度をはらんだ赤い塊がふた山並んでいる。濃い血の匂いで鼻がバカになっていたタイシは座学で読んだ人体図鑑に載っている絵図を思い出し、目の前の塊に結び付けると吐いた。塊から目を背けても止まらない嘔吐を続けながら後ろに下がるタイシと入れ替わりウツシ教官が前に進む。

塊の上に赤いしずくが落ち続けていた。ウツシが上を向くと太く高い枝から腹と背を裂かれた臓物の持ち主の男ふたりが逆さにぶら下がっていた。

 

「…センパイがこっちに来なくて正解だったッスね。」

吐き気がおさまったタイシは口の周りを拭いながら、実は砂原で同様の物と対峙したばかりの姉弟子を気遣う。

ウツシは逆さ吊りの男達から視線を降ろしたら目に映る林に違和感を覚えた。巧みに気配を消しているようだが視線の様な意思のような気配なものがウツシに向いている。蛇が尾を鳴らした音を人が口真似したような唸り声が辺りに響く。

「ハンターを狩るハンターがカムラにお出ましだ。」

 

右側の茂みが揺れたと思ったら左前側から光弾が飛んできて命中した樹木を焼き貫いた。大型モンスターに見られるビーム攻撃にしては小さくまとまっており、威力の密度が桁違いだった。悠長に分析している暇は無く、直線的に光弾は発射位置を変えて次から次へとウツシに向かって飛んでくる。敵は移動しながら打ってくるようだ。

ウツシはウツシの周囲を派手に動き回りながら姿が見えない敵の攻撃を避け続ける。

「タイシ君、すぐ里に報せて!例のあいつが現れたことと、さっきの救難信号の顛末だ。できれば水没林を閉鎖させてもらってくれ!」

双剣を抜いたウツシは光弾の飛んでくる元にアタリを付けて切りかかる。

「タイシ君、急いで逃げるんだ。武器を持っていない子供の君なら今追い掛けられない筈だよっ!早く逃げて里に報せるんだ!」

ウツシは見えない敵との攻防によってタイシの姿を見失っていたが、カムラの里で一番響く声量はタイシの耳にしっかり届いた。

「ウツシきょうかーん!最強の助っ人を呼んでくるッス!それまで踏ん張ってくださーい!!」

さっきまで嘔吐していたばかりのタイシは胃から食道と口に残る不快感をサクッと忘れてメインキャンプへと駆け出した。

 

―――

 

里長と同じかそれ以上の巨躯、筋肉は人と同じような付き方をしているが四肢ががっしりと太い。太ももは俺より太いのかそしてふくらはぎも足首もガッシリと太い。竜の足を持つ狩猟者はその健脚で木々や遺跡の高低差を軽々と駆け上がり、時々姿をくらましてはあらぬ方向から光弾や円盤状の手裏剣を飛ばしウツシを翻弄する。

 

ウツシも翔蟲で空中戦を挑むが、トカゲや鳥のように木々を移動しながら透過の能力を使われると次第に追い込まれていく。離れた所から光弾を撃ってきたかと思えば見えないままいきなり殴りつけてくるのだ。右腕の籠手のカギ爪は繰り出されると刃が透過されないので辛うじて避けることが出来たが敵の腕を振る速さも厄介で避けるだけでも消耗させられた。

また、双剣での攻撃は片手剣の盾よりかは多少小さい円盤状の手裏剣で防がれた。

 

しばらく闘いながら敵の観察をするうちに顔を鋼の大仮面で隠していること、光弾は防具の装置から発するエネルギー弾であること、そして透過する能力も装備に搭載された機能であることを把握した。背景に溶け込むオオナヅチは晴れて無罪放免となった。

 

ハンターを狩るハンターにいよいよ追い立てられ、エリアを移動していたら雷光虫をの光を集めるジンオウガに出くわす。ウツシは瞬時に鉄蟲糸で縛り狼雷竜に乗った。帯電した脚や尾の打撃が効いたのか狩猟者は距離を取った。好機と捉え咆哮で落雷を呼び寄せて雷の柱を狩猟者にぶつけたら稲光は狩猟者の体表を這いまわると右腕の籠手に集まり霧散した。

「雷が効かないの、か…?」

生まれつき雷の耐性が高く強さと闘い方を狼雷竜に例えられるウツシにとって、雷を活かす闘いが封じられてしまった。ハンターを狩るハンターはウツシにとってとことん相性が悪い相手であった。

「あぁ本当に、面倒くさい。」

狼雷竜の唸り声の如き低い声でウツシは独りごちた。

 

狩猟者はジンオウガの肩や前足に例の光弾を撃ち始めた。肉を焼き穿つ痛みにジンオウガは体を崩し操竜を諦める。狼雷竜から飛び降りたら網が目の前に広がった。避けようと後ろに飛ぶが投網は装置により発射された勢いのままウツシに追い付き体に巻き付いた。投網は覆い被さるのに留まらず、しかと巻き付きウツシを絡め閉じ込める。

 

ハンターを狩るハンターに仮面越しに見下ろされる。狩猟者の隙を探そうと網ごしにウツシの金色の目は狩猟者の体躯を隅々までせわしく観察するが、大きな鋼の仮面を飾り立てるような硬めのドレッドヘアと三色のまだら紋様に彩られた爬虫類の如き肌とそれを覆う面積の少ない装甲…目に入るのは見た目の特徴だけで逆転できそうな要素が何かも判断できない。

 

ハンターを狩るハンターはウツシの筋力でもカムラの炎で鍛えられた双剣や苦無でもビクともしない鋼鉄の網を、容易く引き剥がした。

――ドスッ

起き上がろうと片膝ついたウツシの腹に重い蹴りがめり込み、ウツシは小石のように転がる。木の根と枝が絡まり崖と崖を繋ぐ橋を回る視界が目に入った。よそ見をすれば崖下の泥の水辺に落ちる木の根と枝の橋まで吹っ飛べたなら逃げることができたかも知れないが、残念ながらウツシの体はその手前で止まってしまう。

ハンターを狩るハンターはかつてない強者の戦利品を目前に満足げに歩み寄る。

小型モンスターが姿を見せなくなり小さな生き物も声を潜める水没林。

ウツシは枯草色の髪を掴まれ上体を起こされた。

ハンターに触れたヒトダマドリの囀り。ハンターの重さを乗せたガルグの駆ける足音。

「あれ、音だけ聞こえる走馬灯もあるのかな?」

膝立ちのウツシの耳にかつての水没林の喧騒が蘇る。

狩猟者の仮面越しの唸りに混ざりながら蘇る鳥の声。瞼の裏に浮かぶ愛しい愛弟子の笑顔。

「やっと祝言だったのになぁ…グゥッ」

狩猟者は空いた手でウツシの太い首を掴んだ。頭蓋骨を引き抜くべく指と黒い爪がミシッと首に食い込む。

「フウンダと おモッて アキラめナ。」

これまでに仕留めたと思われるハンターの声を組み合わせた声がウツシに観念しろと促す。不運、か。

子泣きキジが高らかに鳴く声。風に混じるエンエンクの匂い。大型モンスターの駆け回る足音。

「……?!」

ウツシの首に血がにじむほど食い込んでいた狩猟者の指が急に力の入った首の筋肉によって押し戻された。

「あーー、ハハッ…。俺、教官だよ?だから――」

筋肉に力と生気を戻すウツシを狩猟者は訝しむ。

「俺の弟子達も手強いぞッ…!」

マガイマガドの太い前足がウツシ諸共ハンターを狩るハンターに叩きつけられた。

 

「「ウツシ教官!!」」

 

水没林に現れない筈のマガイマガドの背に男物のリノプロ装備を着込んだ愛弟子が乗っている。愛弟子の後ろから年齢と体格に対して大きすぎるリノプロ装備を着たタイシが怨虎竜の背から降り、抱えていた二羽の子泣きキジと一匹のエンエンクを解き放った。

 

「教官、今のうちッス!」

ハンターを狩るハンターの死角に入ろうとタイシは怨虎竜の陰に隠れるべく師を引きずる。猛き焔は操竜を続けて狩猟者に怨虎竜の硬いウロコとしなやかで厚い筋肉に覆われた足や十字槍の尻尾をお見舞いさせ続けた。操竜により攻撃させられているようには見えないほど生き生きとした様相で、怨虎竜は右前足を叩きつけては左に薙ぎ払い、左前脚で受け止めたら右に薙ぎ払い、狩猟者が側に回り込もうとすると体を横に倒して巨体で押しつぶそうとする。

その動きは彼女の意思か、怨虎竜の意思か、あるいはふたりの――。

戦乙女の心を乗せたかのような猛攻撃を続ける怨虎竜はいよいよ興が乗ったのか鬼火を纏い始めた為、猛き焔は操竜を切り上げた。

 

怨虎竜の陰に隠れてタイシは背負っていたリノプロ装備一式を並べ師匠に着付けていく。ウツシは怨虎竜の渾身の一撃による最新の衝撃と激痛と引き換えに、あわや戦利品にされる運命を先送りできたことを怨虎竜にも礼を言うべきか逡巡する。

 

水没林に現れない筈のマガイマガドと成人男性のリノプロ装備を身に付けた弟子達、ウツシは何が起きているのかよくわからなくなっていた。ハンターを狩るハンターとの敗北寸前の交戦による消耗と負傷に加え、怨虎竜と戦乙女の強烈な一撃により一人では動けない状態のウツシは、里へ伝令の為に返した筈の幼い弟子が作戦を立てて強力過ぎる応援を呼んできたことだけを理解することにした。

 

操竜を切り上げた愛弟子は怨虎竜の背から翔蟲でウツシ教官とタイシの前に飛び降りた。師と弟弟子の腕を掴むと木の根と枝の橋に向かって飛び…興の乗った怨虎竜が周囲にまき灯した鬼火が大爆発した。

 

爆風で飛ばされた三人は橋の根のすき間から真下の泥の水辺に落ちる。

「ばはぁ!」

三人は深くはない水辺から泥まみれの上体を水面から出した。

愛弟子は自分の兜を外しアイテムポーチを取り出すと、ウツシの兜を外す。古の秘薬を口に含み硬化薬グレートをあおった愛弟子は、おもむろに許婚の頬を掴むと唇を重ねて口移しで薬を飲み込ませた。

「待って待って愛弟子待って、荒いって。大丈夫だから、一人で飲み込めるから!」

今度は鬼人薬グレートをあおり、握り砕いたウチケシの実を流し込もうとするかわいい筈の許婚をウツシは制止した。

「ウツシさんが体を動かせないほど消耗しているなら…こうでもしないと薬を飲み込めないと思って…」

泥まみれの乙女はしどろもどろに弁解しながらウチケシの実と鬼人薬グレートを手渡す。タイシは大胆な方法を次から次へと繰り出しながら気弱にモジモジする姉弟子を見て、大人の女性ってマジわかんないッスね、と言うのをグッと飲み込んだ。

 

猛き焔の苛烈な応急処置によりウツシは水中で体を動かせる程度におおよそ回復したので、退避すべく全員リノプロの兜を被ると、頭上の木の根が立て続けに爆発した。

鬼火の爆発でも砕けない巨木の根や枝がバラバラと落ちてくる。落下物から身を守ろうと水面にしゃがんだら重量のある何かが水柱を高く上げて落ちてきた。

水柱が平らな泥水に還ると見えない何かが水面に波紋だけを作り三人に近付く。師弟達は泥水にかがんだまま息をひそめた。

水の波紋の真上に景色と空気がヒト型に浮かびあがっている。頭とおぼしき位置から目のような黄色い光が浮かびあがり、その近くから発せられる三点の赤い光線が巨木と泥の壁や水面を撫でるように師弟たちを探している。

ウツシは浮かび上がる眼光と目が合った…気がして体を強張らせたが、動く景色が作る水の波紋が方向を変え三人から静かに離れた。

「俺とわからなかったのか?いや俺達が見えないんだ…。」

 

ズドドドドドドドドドドザァーン

轟音と共に濁流が流れ込んできた。

「今だっ!すぐキャンプに飛べ!」

濁流を流し込んだ張本人、オロミドロを操竜するリノプロ装備の奥からハネナガが叫んだ。

濁流に身をもまれながらどうにか掴み出したモドリ玉を上も下も泥もわからない状態でどこかに叩きつけた。

 

水没林のメインキャンプに薄緑をはらんだ白煙が四つ立ち上るとカムラの里守が四人現れた。

「ハネナガさん今までどこ行ってたッんスかー!」

タイシはハネナガに抗議する。

「武器を持っていたら獲物と見做されるって聞いたから、武器以外に俺達の武器になりそうなものを集めてたんだよ。どうせ採取のヒマなんて無かったろ?」

 

メインキャンプで体制を整えながら愛弟子は砂原の報告を、タイシは救出の経緯を説明した。

愛弟子は早朝に赴いた砂原の報告を里に送ったものの、不安と闘いの予感が治まらず韋駄天の速さでフズクズと同着で里に帰還した。生存者をゼンチ先生に引き渡し、収容した遺体と共に砂原での惨劇を報告していたらタイシの救難信号が届いた。

『救助者が狙われて全滅したくないから、武器は全て置いて来てほしい。救助者と教官の背丈や体格を誤魔化して撹乱したいから、教官を含めた男物のリノプロ装備を用意してほしい。』と、結果を振り返れば中々に的を得た内容だった。

タイシの救援要請に応じたのは愛弟子とハネナガの二人。愛弟子と自前のリノプロ装備を持っていたハネナガは、リノプロスの素材を里中からかき集め、二つの加工屋とオトモの加工屋総動員で最大まで強化した装備を超特急で三人分を用意させた。

そうして水没林に駆け付けタイシと合流するも、何と早々にハネナガとはぐれたのだった。

愛弟子はテントの中から愛刀の剣斧「禍ツ斧」を取り出す。

「センパイも何なんスか。武器は持ってくるなって言ったじゃないッスか!」

何だかんだでやりたい放題の先輩たちにタイシは呆れた。

 

「万が一、私達がハンターと、闘える者とバレて向かってきたら逃げるにしても結局武器は必要になるかと思って。あの場には持ってってないからいいじゃない。それに禍ツ斧がマガイマガドの縁を繋いでくれたみたいだし。」

「マガイマガドの操竜といい、薬の飲ませ方といい助け方が苛烈過ぎるよ。愛弟子。」

教官は先程から愛弟子に少しでも滋養を、と無理矢理こんがり魚を食べさせられている。

「ウツシ教官は相手に腕の一本でもくれてやる覚悟で対峙したのでしょうけど、あいつが欲しいのは教官の背骨と頭蓋骨ですよ。もし私達の到着が少しでも遅かったら…。」

「センパイが行かず後家になる所だったッス。」

イガグリ坊主を卒業したてのタイシの頭を愛弟子が憎たらしげに叩こうとする。

 

「あいつの体の大きさからすると落とし穴は使えないかもな。それにジンオウガの雷撃が効かなかったからシビレ罠も効かないかもしれない。」

「え、そうなの?じゃあ雷毛コロガシは戻しちゃうね。ホレッ森へお帰り。」

「ハネナガ君のポーチにはオロミドロも入っちゃうんだね。あんな大胆な助け方、愛弟子かと思ったよ!!」

「ウツシさん諸共にぶっこんだマガイマガドには及ばないですよ。全部クグツチグモと偶然通りかかったオロミドロのおかげさ。」

ハンターを狩るハンターは砂原から水没林に狩り場を変えたばかりなのか、まだ大型モンスターを狩っておらず竜達が妙な気配を感じても砂原の大型モンスター達のように姿を隠すまでには至っていなかったらしい。砂原の地下はモンスター達で血の海になっているのかも知れない。狼雷竜・怨虎竜・泥翁竜と次々に会えたのはまさに幸運だった。

ハンターを狩るハンターはカムラの里にとって切迫した脅威なのだが、重要な戦力であるウツシを未知数の鉄火場の中で誰一人欠けること無く奪還できたのは僥倖である。多少は気を緩めた会話に乗せて各自は手早く身支度を整え里に帰る準備を進めていた。

 

里へ帰るべく全員が立ち上がるとメインキャンプの前の小川に薄緑をはらんだ見慣れた白煙が立ち上った。四人は互いの顔を見回し、たった今会話をしている者が今ここに戻ったのかと眩暈の伴いそうな思い違いをしかかった。

瞬間赤い光線が眼前をちらついたと思えば白い光弾がハネナガの脚に当たった。蛇が尾を鳴らした音を人が口真似したような唸り声に、泥の斜面が透けている体。

白煙の中心、水面から上へと青白い火花が人の形をなぞるように走っている。

 

次に光弾を受けたのはタイシの肩だった。本来ならば肩が胸部ごと吹き飛んでいたかも知れないが、光弾は修行中の成人男性より二周り以上小さいタイシの肩をかすり軽い火傷を負わせるに済んだ。

光弾がキャンプに据え置いているアイテムボックスとテントを破壊した。なるほど二度と補給と休憩はさせないってわけだ。自分の装備の上から無理矢理リノプロ装備を被せられているウツシは次の手を考える。

 

「伏せて!」愛弟子の声が閃光弾と共に弾けるとガキィンッ!と金属がぶつかる音が響いた。愛弟子が剣斧で仕掛けたのだ。

小川の中で一撃、転がっては離れ、突き。見えない相手に合計二撃。

 

ハネナガがありったけの生肉を愛弟子に向かって投げつけた。浅い小川までも遡上していた大量のギガニアがいくつも水柱を上げ生肉もろとも小川の生き物に食いついた。乱射される光弾、負傷した脚で転がり避けるハネナガ、回復したばかりの教官を庇い突き飛ばすタイシ、小川の上空から鉄蟲糸に掴まりぶら下がる猛き焔。

 

ギガニアの狂乱が収まり愛弟子が着地する。小川の透明な人型は青白い火花をさらに弾けさせると、背景の泥の土手を透過しなくなり大仮面の狩猟者が浮かび上がった。

右手に鋼の細槍、左手には水没林で狩られたハンターのポーチを持っている。世界中そこら彼処のハンターとやり合い、狩りの合間にハンター達の立ち回りを沢山見てきた筈で、モドリ玉を使う者も何人かいたことは想像に難くない。

 

仮面の狩猟者は左腕の籠手に触れたがその体は斑に透けようとするばかりで完全な透過が出来なくなったらしい。鬼火を纏った剣斧を愛弟子が振りかぶったら鋼の槍がさらに延びて愛弟子を払い飛ばした。ウツシは勇猛な許嫁に手を伸ばしたが投擲された槍に翔蟲を邪魔されてしまった。

 

「フウンダと おモッて アキラめナ。」

小川から上がった仮面の狩猟者は籠手の装置に触れながら、全く同じ装備で体格も揃えて判別がつかない筈のウツシに話し掛ける。

 

ウツシを庇ったタイシ、環境を利用して邪魔をしたハネナガ、ウツシから気を逸らさんとマガイマガドに乗り今度は同じ鬼火を纏った剣斧で攻撃してきた猛き焔。絶対にウツシを生きて返す意志の元に皆が取った行動が直前までの一騎打ちの中でウツシの立ち回りを覚えた狩猟者に正解を与えてしまった。

「タイシ君はよく考えたよ。モンスターやハンターと全く違う道理で動いているってのを信じ込み過ぎた。あいつがモドリ玉を使って追い付くなんて誰も考えつかなかっただけ。」

猛き焔は男物のリノプロ装備を脱ぎ始める。ガシャンと防具が落ちる音と共に紺藍に染まるカムラノ装が現れた。

「それに新品で強化したての装備のおかげでみんな生きているわ。タイシ君、よくやったよ。…だけど、私の引退はっ!まだまだ先だっからねっ!!」

リノプロメイルを力任せに仮面の狩猟者に投げつけると愛弟子は金剛連斧で斬りかかった。命を狙われている筈のウツシは翔蟲の光と剣筋を走らせて敵に突っ込んでいく戦乙女に見とれてしまった。

「教官しっかりするっす!!祝言の前に夫婦セットで頭と背骨を取られちゃっていいんスかっ?」

タイシは生意気盛りだった頃の姉弟子に放ったセリフを根に持たれていたことに肝を冷やしながら、誤魔化すように教官を立ち上がらせた。

 

リノプロ装備で姿を攪乱する作戦は意味をなさなくなった。バラバラに駆けながら方々から仮面の狩猟者に脱ぎだした装備を次々と投げつける。足を負傷したハネナガはガルグに騎乗している。

 

なんと荒唐無稽で笑い話の様な戦闘だろう。しかし透過の能力を失ったとは言え敵は圧倒的な膂力と戦闘技術を持ったハンター。伸縮する槍と円形の手裏剣以外に未知の手を隠している可能性もある。時にはクナイや石を交えて投げては相手が攻撃に専念できないよう投擲を続け、里守達は水没林の出口ににじり寄った。

槍を手放した狩猟者は円盤状の手裏剣を掴むと片手剣の盾の如く愛弟子の剣戟を防ぐ。

剣戟と投擲の乱戦の中、仮面の狩猟者はウツシに顔を向けた――瞬間――狩猟者の左肩から光弾が飛び、避けたウツシの足元を掠めた。

光弾の衝撃で里守達の猛攻が止まった一瞬に仮面の狩猟者は己が先刻投げた槍を掴んだ。掴んだ槍を薙ぎ払う様に大きく振り回して地面に突き刺すと狩猟者は重心を腰に落とし仮面越しから高らかに咆哮を上げた。

ビリビリと肌に響く絶叫に足が止まる。誰も彼も肩を上下に呼吸していた。どうにか間合いを保つべく足元はジリジリ力を入れながら呼吸を整えて逆上せた頭を冷やす。

 

度重なる攻撃を浴びても仮面の狩猟者は傷を負っていないと思っていた。堅牢な表皮を持つが故に少ない装甲の防具だと。

どんな厚い表皮の竜の体にも獰猛に噛み付いては噛み千切るギガニアの狂乱をまともに浴びたのにこいつが無傷であるはずがない。現に私が上から着ていたリノプロ装備もボロボロになった。猛き焔は落ち着いて蛇のようなトカゲのような斑紋を纏った体に目を凝らす。

ギガニアの噛み痕は無数にあった。そして噛み痕や剣斧の傷痕から蛍光色に光る緑色の液体が流れているのを見つけた。

傷口に着いた液体、あの緑の液体があいつの血液…?赤じゃないのか。

剣斧を構え直した愛弟子は自信を込めて言い放った。

 

「血が出るなら殺せる。」

 




カムラの里の人間とプレデターがついに邂逅した第4章。

自分が思う最高にカッコいいタイミングで「俺、教官だよ?」と「血が出るなら殺せる」を言わせました。弊カムラの里の愛弟子にはマガイマガドを重ねており、ウツシ教官がジンオウガなら愛弟子はマガイマガドだろう、と。
自分の妄想ながらノリノリでプレデターと闘うマガイマガドにときめいていました。

『まないつ』イベント会期中に完成掲載できず、前半のウツシ教官とプレデターの一騎打ちとプレデターのリストブレイドが好き過ぎて作中でうまく扱えず半端な描写になるくらいならと色々オミットする事になったので、本にするならこの点を詰めたいと思っています。
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