カムラの対の竜 -カムラVSプレデター   作:薫鮫かおルみずち

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モンスターハンターライズと映画「プレデター」シリーズのクロスオーバーを下敷きにした、ウツハン♀小説の完結章です。愛弟子とウツシ教官を狙うプレデターとの闘いと結末。

・全年齢ではありますが映画「プレデター」シリーズを想定した暴力・流血表現があります。
・モンハン世界のアイテムやカムラの里の対して設定を膨らませています。
・主人公の女ハンターはデフォルトハンターをイメージしてください。
・また、主人公は愛弟子・猛き焔・乙女・戦乙女と呼ばれます。
・タイシ君はデフォルトの男ハンターを幼くしたイメージです。


終章 カムラの対の竜

ハンターを狩るハンターは、これまで手合わせた中で最も強く手応えを感じたウツシを守り剣を振るった猛き焔を同格のツワモノと認め、番の戦利品とすべく水没林から退避しようとするウツシと愛弟子に食い下がる。

 

翡葉の砦に誘い込めばカムラの里に直接犠牲を出さずに戦えるだろうと考えたが、水没林の位置から砦に行くにはどう向かっても里を通らねばならない。師弟はただ逃げることが出来ず、道中を走りながら狩猟者と闘う羽目になった。

 

水没林から走り始めて道半ば、自在に伸縮しては間合いを変える厄介な槍を叩き落とすことには成功したものの、愛弟子の鬼火の剣斧とウツシの雷の双剣は砥石で研ぐ時間を与えられず、また敵の拳や鋼の手裏剣の刃を受け続けて刃がこぼれ剣としては使い物にならなくなっていった。

 

双剣はもはや柄しか残っておらずウツシの攻撃は柄頭で殴る打撃に、愛弟子の剣斧は光弾を弾いたり重厚な打撃を剣斧で受け続けて斧にも剣にも変形できず抜刀できずもはや鬼火を纏う盾の如き扱いだった。

「「…ハモンさんに怒られちゃうなぁ。」」

 

一足先に水没林からガルグに乗って帰還したタイシとハネナガはウツシ教官の救出に成功したこと、メインキャンプに戻ったが敵も狩ったハンターの手荷物からモドリ玉を使ってキャンプに現れたこと、透過する能力は敵の装備した装置によるものであること、敵は大きな鋼の仮面を被ったヒト型の異形であること、敵を足止めするべく闘いながらカムラの里に向かっていることを報告した。

そして今、カムラの里の大門の先、橋の上には傘屋のヒナミが閉門の令を待ち、二歩後ろにフゲンとゴコクが並び、ヒノト・ミノト、アヤメ、ハナモリが武器握り、門の外でもつれ合いながらカムラの大門に接近してくる三者の闘いを固唾を飲んで見守る。

 

愛弟子が仮面の狩猟者を通り越してウツシの手に翔蟲を飛ばし鉄蟲糸を絡めるとウツシは愛弟子の手に鉄蟲糸を絡める。二人は狩猟者を挟んだ状態で左右対称に腕を上げれば体を反転させ、時には狩猟者を軸にして鉄蟲糸を巻き付けながらお互いの位置を入れ替え、また時には足払いを交えながら三日月蹴りを繰り出して何とか狩猟者を足止めせんと奮闘奮戦していた。

 

それは一糸乱れぬ呼吸と青い糸で紡ぐあやとりの如き舞いだった。

黒い瞳と金色の瞳を合わせれば次の振りへと同じ腕が動く。

それは翔蟲の扱いを極め鉄蟲糸技として確立し、また己が狩猟者と里守としての研鑽の結果を全て弟子に注ぎ込んだ師と、狩猟と闘いの立ち回りと翔蟲の扱いを幼き頃より師にイチから徹底的に叩き込まれた愛弟子による「師弟の写し鏡の如き」舞だった。

それはもはや家族と変わらぬ年月を重ねた師弟の絆に重ねるように恋慕の情を共に抱き、互いに番として求めんとする激しき求愛の舞だった。

 

得物は刃を失いもはや鈍器とも言えぬ有り様で手放すことになり、手持ちのアイテムは使い果たし、相手を縛らんと翔蟲を幾度も繰り出し舞っては鋼の手裏剣で鉄蟲糸を斬られ、翔蟲もいよいよ息絶え絶えの有り様で、残すところ頼りにできるのは己の肉体のみ。

 

出来ることなら仮面の狩猟者を里に着く前には倒したかった。せめて里に着く前に縛り付けるなり足止めを…と考えていたが頑強な体を持つ狩猟者は走りに重さを見せながらも師弟以上の元気を残しているらしい。

 

「里長より一回りぐらい大きいだけで厄介な膂力と脚力にスタミナなんて反則じゃないか!ジンオウガとマガイマガドともやりあってるんだぞ?!」

ウツシは半ば呆れるように叫ぶ。

 

狩猟者を置いて逃げきるつもりだったのに振り切ることも足止めも叶わず、里の大門に目と鼻の先という所まで三者は来てしまい、番は災厄を里へ連れてきてしまった結果を激しく悔いた。

 

橋の上の里守達は入り込む余地の無い三者の闘いにどのような手を打つべきか決めあぐねていた。ヒノエは弓に矢をつがえた。ミノトは姉より一歩前に出て大槍を握り盾を構える。

フゲンは消耗を見て取れる師弟に生命の粉塵を投げ込み回復を支援しようと考える…が、もし。もし万が一、ヒト型である敵にも粉塵が効いてしまったらここまで粘り相手を削った師弟の闘いを振り出しに戻しかねないことを危惧した。

 

猛き焔はにじりにじりと間合いを保つように後退りしながら大門を通り、仮面の狩猟者はそれを追い門に足を踏み入れた。ウツシは瞬時に狩猟者の後ろに回り込むとその背にしがみつき、装備に縫い込まれている飾りのクナイで狩猟者の肩や首の装甲のすき間をグサグサと刺し穿つ。狩猟者は禍々しい笛の音の様な叫びを上げると背の荷物を振り落とさんと、ありったけの力で体をねじり腕を振り回すと右腕で背後のウツシの肩口を掴み、後ろから前へと叩きつけた。

「ぐぁっ…はぁっ…っうぐぅ」

「ウツシ教官!」

狩猟者との間合いを保っていた猛き焔は愛しき師に一瞥もくれず狩猟者に駆け出し、愛しき師を地に叩き付けた手を捕まえると地を蹴り体を浮かせ脚を狩猟者の腕と肩に絡み付けた。

橋からは対人格闘術的に関節技を極め腕を折るつもりかと見たがそこは猛き焔、やることが苛烈で大胆だった。敵の頭部、つまり己の足先に向かって火玉コロガシとボムガスガエルを叩き付けたのである。

「ハハッ…!これが、カムラのハンターの闘い、だよ…」

自分の足元を爆発しておきながら、二匹分の提灯オバケムシの恩恵によって火傷一つ追わず橋の欄干の親柱まで吹き飛んだ猛き焔は転がったままハネナガから抜き取った猟具生物カゴを掲げた。

 

「さすが愛弟子!そんな虎の子を隠していたとは…。でも体を使い捨てる様な無茶な立ち回りを教えた覚え…は、無い…よ?」

ウツシは言い終わる前に眼前の爆煙と周りの違和感に気付くや否や、狼雷竜の如く地に伏せて構えた。

――まだ立っていられるのか。

光弾を発射する装置ごと肩を半分爆発で抉られた狩猟者はそれでも立ち続けていた。そして力任せに鋼の仮面を自ら剥ぎ取るとあらゆるモンスターと人間の声を束ねたような咆哮を上げた。

 

仮面の下の、ハンターを狩るハンターの顔は異質という言葉で片付けられないものだった。

広く張り出した額に対して黒く縁取られ奥まった眼窩と白い眼、人なら鼻のある位置から下半分は四本の大きな牙に囲まれた二重の口があった。一見すると蟹の腹のような、または巨大な角と下顎の牙四本に囲まれたディアブロスの頭を小さく圧縮したような…と形容できたかも知れない。上の歯には犬歯の牙が二本と下の歯は尖った門歯が四本並びんだ内側の口を、四隅の大きな牙によって閉じることが無さそうな顎のような口が囲っていた。

呼吸をする胸が前後する様に外側の顎の牙が微かに内に外に揺れる。

 

仮面の狩猟者を食い止め倒すことのみを考え、長い時間対峙している内に仮面の下の素顔を全く考えていなかったカムラの対の竜達は予想外の相貌に仰天した。

 

「なんと、醜い顔なんだ…。」

橋の上から仁王立ちで攻防を見守っていたフゲンは言葉を漏らす。

 

仮面を捨て握っていた丸い手裏剣も放り投げた狩猟者は、天を仰ぎながらより大きな雄叫びを上げきると落ち着きを取り戻し、光弾の砲撃装置ごと吹き飛ばされた肩のわずかしか上げられぬ腕をどうにか動かして左側の籠手に手を重ねる。

 

「ツガイ の ツハモノよ よク ここまデ…」

自在に伸縮する槍も、自動で主の元に帰る手裏剣も、あらゆるものを焼き穿った光弾を放つ装置も全て失い捨てた狩猟者は、左籠手の装置に触れてこれまで狩ったハンターの声をつぎはぎに組合せた音声で番の竜に話しかけた。

籠手の側面が蓋のようにパタッと起き上がると狩猟者は震える指で籠手に収まっている小さな操作盤をいくつか押す。

 

「グックックック…、ハッ…ハッハッハッハッハッハッハッハッ…」

これまで狩ったハンターを束ねた音声と自身の発声器官の音を重ね合わせた笑い声で狩猟者は笑い始めた。讃えるような、嘲笑うような、諦めるような、勝ち誇るような高笑い――にピッピッと規則正しい無機質な音が重なりだす。

 

籠手の装置には無数の赤い点が並んだマス目が四つ並んでおり、ピッと鳴る度に赤い点が消えていく。初めのマス目の点が全て消えると音と共に隣のマス目の赤い点が消え始めた。

 

音と共に消える点が示すのは時間か。とすれば一分あるか無いかだ。数多のハンターを狩り続けてなお戦利品として狙った俺と愛弟子に瀕死の深手を負ったこいつの狙いは――。

 

思考を反射させたウツシは後ろ手に翔蟲を繰り返し傘屋まで飛び下がると一際大きな傘を掴み、瞬く間に空いている手から全ての翔蟲を狩猟者に向けて雷の如く飛び込む。

 

狼雷竜の如き咆哮をあげながら傘を振りかぶったウツシは、ありったけの力を全身に込めて最後のマス目の点が僅かに残る籠手に傘を叩き付けた。後ろに飛び下がりながらも跳弾のように雷の速さで眼前の敵に突っ込む対の背中を見失わなかった猛き焔は翔蟲で師に追い付くと、師の背中からそれを抜き取った。

 

「ハンターをぉぉぉっなぁーめーるーなああぁァァァァァァァァァッ」

怨虎竜の如き咆哮を重ねて叫んだ猛き焔は狩猟者の腹に両刃のナイフを突き立てた。

 

未知の生物の臓物の作りなど知ったものか。

戦乙女は黒い瞳に鬼火を揺らし咆哮を続けながら、腹の中にある筈の臓物を少しでも傷つけんと柄を握る手に重力と力を籠めて、ナイフを揺らしながら奥に奥に踏み込む。

 

駆け出しだろうが手練れだろうがどこの国のハンター誰しも皆が肌身離さず持ち歩く剥ぎ取りの道具に狩猟者は腹を貫かれた。ブルファンゴの毛皮だろうが古龍の骨髄だろうが硬い鱗を裂き肉と骨を断ち切って素材を剥ぎ取るハンター業の象徴といえる道具は、難なくハンターを狩るハンターの強靭な筋肉を破り内臓と血管を切断していく。

 

狩猟者は徐々に小さくなる断末魔と共に黄緑色の光る血液を異形の口から溢れさせ、ゆっくりと白い眼を閉じた。

 

籠手の時限式装置を腕ごと叩き潰したウツシは、拝借した傘の大剣から手を離すと立ち上がる。絶命を示す吐血を頭に浴びてもナイフを握る手を緩めない戦乙女の隣に立ち、彼女の背に腕を回すと肩を抱き寄せた。柄を握る許嫁の手の上に空いた手を重ねたら片足を上げゆっくり蹴るように狩猟者の骸を押した。

「…っはぁ、はぁ…はぁー…」

軽くなったナイフの感触と手に重なる愛しい男の暖かさを感じながら戦乙女は闘いが終わったことを悟る。師のナイフを共に掴んだまま向き合い、顔を寄せて額を重ねた。

 

「よくやったよ、愛弟子。」

「これで一緒に里に帰れますね。」

愛弟子は額を離して少し寂しそうに続ける。

「でもまたこの身と里を血で汚してしまいました。またしばらく花嫁になれなくなっちゃいますね…。」

「一緒に戦って一緒に汚れたんだ。君は俺を、そして一緒にハンター達を守ったんだよ。こんなに喜ばしいことが他にあるかい?」

ウツシは俯く頬に手を添えて花嫁の顔を覗き込んだ。

「君は僕の全て、誇りだよ。」

「教官と共に戦えて良かった。ウツシさんを守れて良かった。」

 

ハンターを狩るハンターの亡骸を前にし、数か月に及んだ異常事態の元凶に打ち勝った実感と骨の髄まで食い込んだ緊張感がほどけていく。

 

「対よ、対よ。鬼火を纏いし君を今宵迎えん。」

「対よ、対よ。祝言の予定を守らせるどころかこのまま続けて里の医師と一戦交えるおつもりですか?」

対の狼雷竜はそもそも水没林の闘いで背骨を生きたまま抜き取られる直前の深手を負っており、対の怨虎竜が施した苛烈な応急処置によってどうにか続行できた戦闘だった。本来であれば重症であるはずのウツシをゼンチ先生が見逃す筈が無い。二人はかつて退けた対の古龍の対話をなぞらえてコロコロと笑う。

「対よ対よ、祝言の後は剣斧の扱い方と今一度、片手剣か盾斧の会得と…対人格闘をおさらいしてみようか!」

「教官それまだ続けるんですか?祝言の祝詞がハモンさんの説教になるかも知れませんよ?お互いに武器がひどい有様です。」

「ヒナミさんにもお礼を言おうね。お祝いの傘を先に貰っちゃったから。」

 

得物を柄まで使い潰し、ハンターの知識を総動員して使えるアイテムや環境生物を使い切り、忍び装束に縫い付けられている装飾品すら千切り握っては振るい、瀕死寸前まで酷使した翔蟲と己の肉体をぶつけて戦ったカムラの竜の番は力の入りきらない足で里に向きを変え、互いに肩を抱きかかえながら橋を渡り始める。

 

可憐な乙女と美丈夫と謳われながら全身を泥土と狩猟者の黄緑色の血で汚し尽くし、激戦の疲労で目の下に現れる隈や顔への打撃で浮かび上がる青あざと腫れや拭いきれなかった鼻血も切れた唇も全て、最強の師弟でもある恋人達の勲章だった。

 

フゲンはズタボロの二人を胸で抱きとめると両腕で力強く抱きしめ、目尻に涙を浮かべながらカムラの空を仰ぎ『気焔万丈っ!!』と叫んだ。

 

-完-

 




最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

9/14(『まないつ』開催の2日後)に公開した終章です。実は1章と4章より先に完成していました。リストブレイドどこいった。

初期の初期の構想段階では愛弟子ひとりでプレデターと戦い、自爆装置を壊すのはハネナガさんと一緒に重症のウツシ教官を里に運び込んだタイシ君…という「実はカムラ最強の女子供がプレデターを倒す」結末でした。
ウツシ教官への色々な想いが表に出ると少し苛烈になる愛弟子の性格が固まってきたのと、ボツにしたウツハン♀小説で「師匠の強さに並びたい・並んで戦いたい・背中を預けあって戦いたい」と望む愛弟子を考えていたこと、モンハンライズは「対」の概念が多く描かれており、対の竜を愛弟子とウツシ教官に重ねていたらこりゃあ二人を舞わせるしかない、と猟具生物とアイテムを駆使してステゴロで戦う師弟・恋人同士VSプレデターになりました。
愛弟子とウツシ教官はプレデターにとってのナルハタタヒメとイブシマキヒコだったのです。
流れ着く逃れ者を里で最初に迎える傘屋ヒナミの前で物語は始まり、大門を司るヒナミの前で物語は終わる。

「まないつ」では本来1章で触れた「祝言が半年延期するきっかけになった事件」を書くつもりでしたが、イベント半月前の勤務中に「猟具生物とアイテムを駆使してプレデターと戦うハンター⇒愛弟子とウツシ教官が闘う」という天啓が閃き、その日のうちに割と具体的な大筋が出来上がってしまいました。

いつのタイミングかわからないですが、気力が戻ったら短い後日談を書きたいです。
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