魔法少女リリカルなのは 炎雷春光伝   作:しばらく

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1話 レオン・ウェズリー

「いいから、朝ご飯の前に顔洗ってきなさい」

 

「う〜ん…はーい」

 

うんうん、と頭を捻りながら洗面所へ向かうリオを見送って朝食の準備に戻る。コトリ コトリ と並べられる皿にはベーコンエッグが飾られている。今回のは会心の焼き加減だ。

 

ふとリオと2人で暮らし始めた時の事を思い出す。

 

「最初の頃は良く焦がしてベソかいてたっけ、俺」

 

もしかしたらリオもその事を思い出しての言葉だったのかもしれない。

そんな事を考えていると前髪を湿らせたリオが戻ってくる。

その足音は先程より大きいが跳ねるようなリズムを刻んでいる。

 

「洗ってきたー」

 

「ちゃんと前髪上げて洗ったか?、後でドライヤーしないとな」

 

「別にいいよ、どうせ勝手に乾くもん」

 

そう言いながら前髪を束ねて搾る様に握りながらテーブルに着く。

 

「いいのか、今日は公園に行く日だけど、そんな前髪で人前にでるのか」

 

「そうだった」と慌てて前髪を整えるがクッキリと握られた跡が残っている。

普段は天真爛漫で人見知りもしないのだが時折り人の目を気にする節がある。ワガママを通すためなら人前で喚き散らすことも厭わないくせに前髪などの些細な事で尻込みする。自分も子供の時は同じだったのだろうかと回想するも余り参考にならないと気付いた。

思い出すのは物心がつく頃からの春光拳の稽古と"眼„による辛い過去だ。幼少期は、生まれつき持つ『レアスキル』を制御できず瞳に映る世界は異質な物だった。

そんな世界から逃げ出す様に稽古に打ち込んだのは当時オン・オフも効かない能力の唯一の制御方法は何かに集中する事だったからだ。

ひたすらに戦いに明け暮れ体力も魔力も尽きた時に初めて本当の世界が開ける。そんな毎日の繰り返しだった。

 

掘り起こされる記憶の蔓に絡まり奥深くに埋まっていた記憶が顔を出す。

祖父との決別した日の記憶、父の最後の言葉。

 

「兄ちゃんどうしたの…お顔が怖いよ」

 

リオの不安気な声にハッと意識が覚める。

無意識に寄っていた眉間の皺を誤魔化す様に口角を上げる。

 

「いや何、リオの前髪が一生そのまんまだと思うと可哀想で」

 

「絶対治るもん!、兄ちゃんの意地悪」

 

「冗談だよ、後で直してやるからご飯に集中だ、あんまりゆっくりしてると遊ぶ時間が減っちゃうぞ」

 

「うん!、すーばー早く食べる!」

 

「スーパーじゃなくて良いからそんなに掻っ込むな」

 

「はーい、——そう言えば今日はノロノロ体操しないの?」

 

「ノロノロ体操ってお前、あれは春光拳の型をだなぁ…まあいい、リオが寝てる間に終わらせたよ」

 

「えー!、一緒にやりたかったのにぃ…」

 

リオの言うノロノロ体操とは型稽古の一種だ、毎朝の稽古を時たま真似する物だから一通りの型は覚えてたりする。本人はラジオ体操か何かだと思っているようだが。

 

「今日はこの後お弁当も作るからな、朝の用事は早め早めに終わらせてるんだ。」

 

「お弁当!」

 

一度ぐずり出すと、どんどんヒートアップする為、すかさず話題を逸らす。

 

「メニューは何になさいますか、お嬢様?」

 

「ハンバーグ!、あと唐揚げとカレーとあとあと」

 

「そんなに食べれないだろ、あとカレーは持ってかないぞ」

 

「それならぁ——」

 

それからは本当に穏やかな時間が流れていった。一緒に弁当の準備をしたり前髪を整えながら今日こそはジャングルジムを踏破するのだと息巻いていた。

 

ふとテレビで流れているニュースが目に入る、内容は2日前に聖堂教会が管理している北部の施設が何者かに襲撃を受けると言った物だったが

「近いわけでもないし心配いらないだろ」とテレビの電源を落とした。

 

 

 

[ミットチルダ東部国立公園]

 

「ほら兄ちゃん、はやくはやくー」

 

先程まで”ジャングルジム„ではしゃぎ回っていたのに子供とはどうしてこうも元気なのだろうか。ジャングルジムとは本人の弁で実際はアスレチック施設と大差ない。今より更に小さい頃から無茶なことばかりする物だから、簡単な身のこなしや受け身を教えたのだが今では余計に手に負えなくなっている、

 

時刻は昼時、2人で立ち寄ったのは青い芝生が整えられた広場だ。

 

「お弁当広げておくからリオは手を洗ってきなさい。」

 

そう言って広場の一角に備えられた水飲み場を指す。

アレならここからでも見えるし1人で行かせても問題はないだろう。

いつまでも見守るわけにも行かずレジャーシートを広げ始める。

 

あらかたの準備を済ませてリオの方へ視線を向けると手には2分前までは無かった物が抱えられていた。

「またか…」昔からリオには拾い癖がある、出来る事なら辞めさせたいのだが、あくまで人助けに当たるため辞めさせるに辞めさせられないでいる。事実、何度かお礼の連絡が来た事もある。

今回はどうなる事かとリオの手元を見やると、見るからに公園には不相応な物々しさを纏っていた。ケースというには無骨で持ち運ぶ事は考慮されていない、むしろ開く事すら許されない様に思う。

 

「リオ…そんな物どこから拾ってきた」

 

「葉っぱの壁に隠れてたの、凄く大事そうな物だったから交番に届けないとって思って」

 

余りの異質さに頷く事を躊躇する。

持ち主には悪いが中身を見させてもらおう、もちろん箱を開ける事はしない。リオから受け取り瞳に魔力を通す。

「——ッづぁ」瞬間、瞳に燃える様な熱が走る。

余りの痛みに目がチカチカする。痛みが収まるのを待ち今度は意識して出力を下げ再び目を向ける。

 

「な、何だよこれ… 」

 

内包された膨大なエネルギーに全身が総毛立つ。

どうしてこんな所にこんな物があるんだ。

網膜をジリジリと焼かれる様な痛みに襲われながら、

今一番重要な事はリオに危険を及ばさない事だと発作的に頭をよぎる。

 

「兄ちゃん大丈夫?」

 

真剣なレオンの顔に何かをを感じたのか此方を心配している。

不穏な空気を払うように可能な限り優しい顔を向けるとまたも視界に異物が映る、発光する"ソレ"に頭が理解するより先に体が動く。

「リオ!」咄嗟にリオを抱えて横に跳ぶ。

 

ズドン!と先程まで立っていた場所に光が落ちると芝生は大きく抉れ土は焦げている。

"眼„を発動していたのが幸いした、あと一瞬でも反応が遅れていれば完全な不意打ちになってただろう。

瞬時に周りを見渡すと膨大な周辺情報が網膜から脳に焼き付く、数にして54機のカプセル状の機械兵器が周囲を取り囲み約1キロ後方から更に援軍を確認する、その数は一個中隊は下らない。

 

此方の考えがまとまるのを待ってくれるはずもなく再び直射弾がレオンを狙う。四方から放たれた光は体を最小限の動きで躱し「シッ」と短い息をを吐き背後を狙って突進してきた機械兵器に空いている左手から”針„を放つ。勿論そんな物を持ち歩いたいた訳では無く魔力によって形成されている。魔力変換資質によって電雷に変えられた針が直撃するとバチンとショートする様に煙を上げ浮遊していた躯体が落ちる。

 

「おかしい…あの程度の装甲なら貫けた筈だ——」

 

現状の把握と対処策の構築に思考だけでは間に合わず言葉に漏れる。

ならば、と今度は小刀を型取り再び投擲する。放たれた小刀は敵の全身を吹き飛ばす威力は有った筈が標的に近づくにつれて刀身を針程度まで削られ貫くのみに終わる。理屈はわからないが魔法の構築が妨害されている。

 

「面倒な!」

 

悪態を吐きながら包囲網に空いた穴へ身体を滑り込ませる。

飛行する事も考えたが自分だけでは魔法の構築が安定せず地面を駆ける。囲いを抜けることで一呼吸分の余裕が生まれ抱えていたリオへ目を向ける。

 

「ヒック——に、にいちゃん……」

 

しゃくりを上げるように短い呼吸を繰り返し縋るようにレオンを呼んでいるがその視線は此方に向いておらず放心状態で、その顔は涙に濡れ恐怖に染まっていた。

 

パキリと自分の中の大切な部分に罅が入る、空いた隙間から熱が流れ出る様に思考が冷めていく。

リオを守らないと、もう一度あの時の様に。

 

「——起きろラインバッハ」

 

声に反応する様に髪留めに着いている琥珀がキラリと輝くと、瞬く間にバリアジャケットが形成さらる。

全身をピタリとボディラインに沿った灰色のインナーが包む、脇から脹脛まで赤いラインが引かれている。その上から橙色を基調とした袖の無い胸丈のスリムなジャケットと黒いゆったりとしたシルエットのボトムスを纏う。両手はより深い橙色の籠手で覆われている。

 

アームドデバイス『ラインバッハ』父から引き継いだコイツを纏うのは”あの日„以来になる、リオと俺を引き離そうとした祖父に挑んだあの日。

頭の中には前回と同じ様に父の言葉が反芻される。リオが産まれてから毎日の様に言われた言葉、死ぬ間際、最後にかけられた言葉。

 

「お兄ちゃんなんだから妹を守ってやらなくちゃ…」

 

ダンと踏み込まれた震脚に大地が揺れ足元には三角形の魔法陣が展開される。リンカーコアから放出された魔力は雷炎となり二体の龍を形成する。

 

「喰らい尽くせ、——双破・龍神翔!」

 

詠唱を合図に2体の龍は唸るように敵へと殺到する。その威力は先程の針とは比べるべくも無く全ての機械兵器を呑み込み、雷と炎、どちらに飲まれた物も等しく塵と果てた。

 

地中から発せられる1つの反応を残して……

 

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