「——応答願います」
繰り返し3度の呼び掛けに返事はない。
戦闘技術から見て応える余裕がない様には見えない。
「通信状況に問題はありません、声は行ってるはずですが……」
「先遣隊が着く前に状況が動かん保証は無いって言うんに」
今のところ敵ガジェットはⅠ型とⅡ型のみではあるが、レリックが有るとすると恐らくは更なる戦力が投下されるだろう。
ガジェットについては存在までは各メディアで報道されているが、性能やAMFについては伏せられている。今でこそ火力と立ち回りで圧倒できているがⅢ型や廃棄都市区画での戦闘で確認された召喚士や戦闘機人が出てくれば戦況は大きくに傾くだろう。
「き----てま------」
「応答来ました!」
繋がらないのであればまた別の指示を飛ばそうとするとノイズ混じりの微かな声が入る。
通信が繋がったのは僥倖であるが、かなり不安定な様だ、このチャンスを1秒だって無駄にできない。
「こちら管理局機動六課、司令官の八神はやてです。聞こえていたら再度応答願います」
「--き----聞こえて--ます。すみ-ません前の物も--聞こえてたんですけど邪魔が入って」
先程の不安をよそにノイズは減り、喋り終わる頃にはクリアな声が届いている。一時的な通信不良であったのか、取り敢えず一安心だ。
しかし”邪魔„が入ったと言う以上やはり余裕がないのかも知れない。
「現在、魔導局員が対処に当たっていますが敵戦力が多く現場の戦力では其方に近づけていません、こちらから機動部隊を派遣して居ますが到着には時間を要するのが現状です」
いつまた通信障害が発生するかもわからず一息に状況の説明をする。
細かい相槌はあるが遮ることもしない。
「敵の狙いはあなたたちが保護しているケースで中身は…」
「ロストロギア…ですか」
予想だにしていない問いかけに息を呑む。
相手への警戒度を数段上げ思考を巡らせる。
考えたくは無いが始めからレリック狙いの第三勢力の可能性も考えられる、しかし彼に守られ怯える少女の存在が説得力を持たせない。
「…中身の確認を?」
ブラフだ、ケースを開けて確認したのであれば、封印処理をされてるとはいえ反応を感知できていたはずだ。そもそもレリックの情報は機密扱いで一般には情報開示はされていない。
「そのぉ、自分はエネルギーを感知する稀少技能《レアスキル》を保有してまして、緊急事態だったので失礼ながら確認をさせてもらいました。内包されているエネルギーが通常で生成できる規模とは考えられなかったので、まさかと…」
「なるほど、いや解錠する事なく中身を確認して貰えた事は此方としても好都合でした、機械兵器はレリックに反応して行動します、開けていれば敵の初動はもっと激しいものになってたやろうし」
「はやてちゃん、口調」
「おっと、堪忍な」
横ロングアーチの指揮をしていたリインから注意される。
今日はでアクシデントに次ぐアクシデントで考えることが多すぎる、
堅苦しい口調がいつにも増してまどろっこしく感じ、開き直る事にした。
「こんな状況で申し訳ないんやけど、名前を聞いてもええかな、出来れば今に至る経緯も話してもらえると助かるんやけど」
つまりは、”あんた何者や”と言う事だ。
「そう言えば名乗っていませんでしたね、レオン・ウェズリーです。
後ろにいるのがリオ、自分の妹になります」
シャーリーに目配せを送りデータを照合させる。
「出ました、レオン・ウェズリー18歳st.ヒルデ魔法学園所属とリオ・ウェズリー6歳。」
身分が証明されたことにより警戒心を一段階落とす。
もちろんシャーリーからはインカム越し聞いており彼には聴こえていない。
「学院の休みを利用して妹と公園に来ていたのですが、リオがあのケースを発見して、
あまりの物々しさに内部を確認しましたが、それとお同時に機械兵器に襲撃され現在の戦闘状態となっています。」
驚くほどシンプルに巻き込まれていて一瞬ズッコケそうになる。
第三勢力だのなんだの考えていたのが馬鹿らしくなる。
もちろん気を抜くつもりは無いが嘘をつくにしても、もう少し考えるだろう。
「状況はわかりました、それじゃあ次はこっちから二人の現状を説明させてもらいます。今あなたが戦っている機械兵器は通称ガジェットドローン、時空指名手配犯ジェイル・スカリエッティにより作られ手足となり犯罪行為を行なっています」
説明と同時にデータを送信する。
先程までの電波障害はすでに解消されているようだ。
「狙いはロストロギア“レリック“何に使おうとしているのかは不明やけど、ろくな事に使われないことは確かやと思ってます」
「自分の見立てでも、こんな高エネルギーの結晶体が不用意に使われれば次元断層も起こせるんじゃないかと…」
お互いに同レベルの危機感を持てている事は僥倖だ、
これからする提案に少しでも希望が持てる。
「せやけど、機動隊の到着には時間を要するのが現状やし、取れる手は二つに一つ。
ロストロギア“レリック“を放棄し直ちに避難を!…と言いたいところなんやけど」
そう二つに一つだ、レリックを手放しみすみす奴に奪われるか、もしくは…
まどろっこしいなど言ってられない機動六課司令官としての佇まいへ正し気を引き締め提案する。
「機動隊の到着まで嘱託魔導士としてロストロギア護衛のを依頼します。」
「はやてちゃんそれは!」
そんな睨まんでも分かっとるよ、と念話で答える。
だがレリックの確保に加え民間人の避難だって十分とは言えず圧倒的に人出が足りていない、
今押し留めているガジェットを自由にしてしまっては現場は更に混乱するだろう。
「機動隊の到着には推定で15分は掛かります。その間にレリックが奪われれば奪還は難しいでしょう」
「……」
「現在で既に幾つかのレリックが敵の手に渡っています。
未だ分かっていない敵の狙いに備えて1つでも多く確保しておきたいと考えています。
無理も無茶も承知の上、どうか力を貸してくれませんか!」
周囲の音が止みだれかの息を飲む音だけが聞こえる。
「いいですよ」
一瞬の間を置き何のことない様に返事が返ってきた。
「ホンマに!」
「すぐにでもこの場を離れたいのが本音ですが、こんな危険物を間近で見ればそうも言ってられません。
自分の稀少技能《レアスキル》はエレルギーを視覚化するものになりますが、あのレリックを視界に写す度に焼ける様な痛みを感じます。
こんなことは初めてです…そんな物を犯罪者に渡す気にはなれません。それに…」
それに?と聞き返してみるが、いえ、とはぐらかされる、
多少の違和感を感じながらも思わぬ快諾に安心の息が漏れる。
「ただ、一つだけ条件があります」
一変して緊張感が走る。
条件とは?と問う声に明白な警戒心が含まれてしまう。
「あ、いや!見返りが欲しいとかでは無くて、ただ機動隊の到着後はリオ…妹の護衛して退避してください、殿は自分一人で受け持ちます」
「なんや、そんな事なら何の問題も無しや!っとはならんよ…嘱託と言っても民間人である以上は一人戦場に残して行くなんてできません」
「この程度であればいくら束になっても敵ではありません。レリックと共に妹を連れて全戦力で安全地帯まで退避して下さい、受け入れて貰えないのであれば…」
レリックを放棄する、と。
信じて良いのか悪いのか信用されているんかされていないのか、なんとも判断に迷う。
恐らくされていないのだろう要は自分が付いていれば確実に妹を守ることができる、
だが下手な相手に任せて危険に晒されるのはごめんと言う訳だ。
それとも一人になりたい理由があるのか、違和感がある以上はやはり疑わずにはいられない。
だが身元は確認できている、どんな狙いがあろうとスカリエッティに渡すよりはましだ。
「分かりました、条件を呑みましょう…ですが敵の動きが予想できない以上現場の判断が優先されます。
もちろん出来るだけ反故にはしないよう伝えますが絶対ではないと覚えておいて下さい。
これから一時的に別の局員に変わります。」
「分かりました」
こちらの葛藤など露にも掛けず簡素な返事で締め括られる。
グリフィスが通信を引き継ぎ細かい状況説明を始め再び管制室にけたたましい音が戻る
「先行した3人とFWのみんなに繋いで」
さて、どう説明したものか…なのはちゃん怒るやろなぁ…
何より人を助けることに懸命な親友だ、魔導士とはいえ市民を巻き込むことを気にしに訳がない。
ましてやその保護対象を警戒しろなんて…
なにせ余りに出来過ぎている。
凄腕の魔導士がたまたま居合わせガジェットより先にレリックを確保していて殿まで勤めてくれる。
疑わない方がおかしい。
「みんな聞こえてる?」
「「「はい」」」
「うん」
「ああ」
「聞こえてるよはやてちゃん」
FWの皆んなに加えフェイト・ヴィータ・なのはと返事が続く。
「はやてちゃん、市民の避難状況はどうなってる…」
「今は8割が安全区域まで避難が済んどる、被害報告も出ていないと言えば出てへんよ…」
「一応?、でも良かった!陸の局員がうまく対処してくれたんだね」
あかん…出鼻を挫かれてしまった…
安心するなのはを見て失敗だと気づく。
「そのことなんやけどぉ…」
『?」
「たまたみ合わせた魔導士に嘱託扱いでレリックの護衛と対処に当たってもらっとるんよ」
現地の映像を各隊員に回す。
嗚呼…明白になのはちゃんの顔が厳しくなって…
「はや━━」
「居合わせると同時にレリックも同魔導士が確保しとったし確認した時には既に交戦状態やった、
現状では最適な判断だと思っとる」
「…」
なのはの言葉を被せるようにして遮る。
なのはも馬鹿ではない、似たような事を幾度と危険している。
私の判断を信じてくれるはずだ。
「すごい…」
ふとFW陣から聞こえたスバルの声に睨み合いが切れる。
どうやらレオンの戦闘を見て漏れた声のようだ。
「苦手な距離がないんだ、それに私とエリオと同じだね」
フェイトの言うようにあらゆる距離を雷を持って器用に捌いている。
それだけではない、地面から登る火柱がガジェットの自由を奪う。
「今度は炎か、2種類の魔力変換資質なんざ滅多に見れねえぞ」
ベルカの時代から生きているヴィータが言うのだから相当なのだろう。
各々が戦闘を見ては意見を交わしている、よしよし良い雲行きだ。
「それでな、協力してもらうにあたって条件を出されてるんよ」
「条件と言うと報酬を要求していると?」
全員が佇まいを正し此方は目を向ける。
FWの思いを代弁するようにティアナが問うてくる。
「そうやない、なんて言ったら良いのか…まぁシンプルに伝えると、
殿は自分が務めるから全戦力で妹を守って欲しいっちゅうことや」
「あのぉ…それって現在の協力と何が違うんですか?」
自分だけが理解できていないのか不安なのだろう困惑顔でキャロが聞いてくる。
「舐められてるってことだろ」
とヴィータが吐き捨てる。
感情的にはなっていないが、いつもより低い声が不機嫌の現れだ。
「あたしらは群れになってねぇとガキ1人守れねぇって言ってんだ」
「落ち着きヴィータ、接してみた感じそんな子じゃなさそうやったし、単に妹想いなだけやと思うわ」
「それだけじゃないよね、つまりは彼一人を置き去りにするって事、だよね」
条件の説明をしてから、じっと映像を見ていたなのはだ。
はいそうですかと納得しないのは予想していたが至って冷静だ。
自分同様に彼の実力であれば不可能ではないと判断したのでろう。
「もちろんなのはちゃんの言いたい事は分かっとる、せやから最終判断は隊長達に任せよう思っとる。当人にも現場の判断を尊重する様に伝えてる事やし」
「でも、それって悪いことなんですか?、レリックに戦力を回せる分ありがたいんじゃあ…」
「だ・か・ら!それが舐められてるって言ってんのよ馬鹿スバル!、どんなに強くても市民である以上は私たちの保護対象なんだから、それを一人戦場に残していくなんて管理局のメンツ丸潰れよ」
メンツと言って仕舞えば大袈裟だがティアナの言っていることは間違ってはいない。
管理局員である以上市民の安全を守るのは当たり前だ、そこに力の強弱は関係ない。
もちろん今後の被害の大きさを考えればスバルの言っていることも正しい。
どちらも正しく間違ってはいない、まさしくメンツの問題である。
「まあまあ落ち着いて二人とも、はやての言う通り妹想いな子なんだよきっと。私はなのはの判断に任せるよ」
「ありがとうフェイトちゃん、でももう少し考えさせて、到着する前には答えを出すから」
フェイトの言葉でひとまずは一段落ついたようだ。
なのはに任せればどんな結果になろうと悪いようにはしないだろう。
あとは…
「それと皆よく映像を見といてな」
「そうだな、あたしら隊長クラスの魔道士の戦闘だ見ておいて無駄にはなんねぇ、特にスバルなんかは同じタイプで参考になんだろ」
「それもあるんやけど…一応…戦闘することも考慮して欲しいんよ、ほな!」
口早にそう言い残し通信を切る。
「はやてちゃん!」