時は管理局からの通信前に遡る。
絶えず襲い掛かる機械兵器を薙ぎ払いながら血が上った頭を落ち着ける。此方には目もくれずリオへ殺到している。
——狙いはやはりケースか…
中身はおそらくロストロギアだろう、むかし一度だけ目にした事がある。
博物館で公開されていた物で、危険性、価値、ともに程度の低い物だ。それでも内包するエネルギーは破格の物だった。
だが目の前にある物その比ではない。正直リオに持たせておくのは不安だが、手放そうとも思えない。
頭を悩ませているのはそれだけでは無い、今まさに足下に潜んでいる潜んでいる。
形状は人型だが身体は一部機械で構成され魔力とは違うエネルギーを運用しているのが分かる。
今の所は手を出す様子は無いが機械兵器を深追いしてリオから離れようものなら、すぐさま奪われるだろう。
いっそ被害を覚悟して強行突破を図ろうと思ったが既に手遅れだ。
下だけでは無い、幻影のような何かが狙っている
気づいたのは偶然だった、機械兵器から逸れた魔法が弾かれたのだ“何もない空間で“
そう何もだ、音や風も其処に何も存在しないことを証明するように通り過ぎていく。
だが魔法が弾かれた結果だけは確かに残っている。
今までこの眼は全てを映してきた、望もうと望むまいとだ。
初めての知覚できない存在に首の後ろに冷えるような怖気が走る。
ーー逃走も強硬手段も取れないとなると、耐久戦か
救援なき籠城戦に先は無い。しかし今回は当て嵌まらない。
これだけの騒ぎだ、必ず管理局が動いている。
ジリジりと詰められて行く様な感覚に危機感を覚える。
だが、やることは単純ーーリオを守る。そのために戦い続けるだけだ。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
噂をすれば影だ、デバイスに通信が入る。返事をするた目通信を繋げようとする。が、
ーーこれは……ジャミング!
それ自体さしたる問題ではない、ジャミングの網を避け通信を繋ぐ程度、見えていれば造作もない。
しかしこちらの手の内を晒す事にはならないだろうか。
こちらのアドバンテージは戦況を正しく理解できていることだ。
まさか自分たちの存在に気づいているとは考えていまい。
奇襲、不意打ちの回避だけではなく、上手くすれば罠に嵌めることもできる。
しかし繋がらない筈の通信に答えれば完全で無いにしても気づく事があるだろう。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
繰り返される問い掛けがカウントダウンの様で気が急いていく。
今この瞬間が戦いの分水嶺だ、ケースを手放し逃げに徹するか、救援がくるまで耐え抜くか。
選択の為に管理局の到着時間はどうしても知る必要がある。
ーーまずい!
思考に意識の大半を向けていたせいかリオから離れている事に気づく。
地面からの反応が急速に浮上しリオへと迫る。
ーーでも、今なら堕とせる!
急速に踵を返し攻撃のタイミングを窺う。
1歩、2歩と敵との距離が縮み構える…が、捉える数歩手前で再び地中へと潜っていく。
予想外の引き際の良さに違和感を覚える。
敵とて管理局が動く事は予想しているはずだ、しかしその手段には即急性を感じない。
敵の狙いも戦闘の長期化だとすれば救援が来ようとねじ伏せるだけの戦力を用意している事になる。
ともすれば物量で此方の体力を削り弱った所を主力による各個撃破と言った処だろうか。
無策に助けを待つだけでは自ら敵の腹に収まるような物だ。
『こちら時空管理局です、聞こえていたら応答してください——』
もはや手をこまねいている場合では無い
寸分違わない言葉で掛けられる声が今度は地獄に垂らされる蜘蛛の糸のように感じた。
ーー切れて落っこちる訳にはいかないな…
そう口の中で囁き3度目の問いかけに答えた。
△▽△▽△
『ーーーⅢ型は2型を上回る砲門と装甲に加え、高い接近戦能力を有しています、
何より旧来の型よりAFMの出力が高く注意が必要です』
はやてとの通信を終え引き継いだグリフィスから眼前のガジェットドローンの説明を受け、
鞭のように伸び迫るガジェットⅢ型のアームをいなし躯体へ燃える拳を放つ。
交渉から暫くして戦況は動き始めた、一つは敵の質が変わった。従来のⅠ型やⅡ型に比べ大型のⅢ型だ。
二つ目は動きだ、ただ闇雲に行われていた侵攻は統率され働き蜂のように個ではなく郡での動きに変わる。
援軍の到着までそう長くはない、恐らく本格的に此方の体力を落としに来ているのだろう。
しかしレオンとて考えなしに戦っていたわけではない、確実に幻影を捉えはじめている。
一定の間隔で広範囲に火柱を上げる。これにより四方から迫る敵の動きを鈍らせる。
だが狙いはそれだけでは無い、火柱により周囲の温度が急激に上昇する。
瞬間、上空5メートル戦場の中心の空間に(コンマ1秒に満たない刹那であったが)
切り取られたように環境情報が置き去りにされていた。
ーー見つけた
非効率な方法ではあるが確実に敵の所在を掴無ことができる。
しかし管理局に伝える訳にはいかない。相手の思惑に乗り拮抗状態を演じなければならない。
できなければ強硬手段に出られ用意した策も無駄になってしまう。
“策“と言うほどの物ではない、敵の策略は消耗戦と奇襲。
ならば此方は奇策で迎え撃つ。
戦力を分散させず魔力も万全であれば簡単には手出しできないはずだ。
そのために一人で殿をつとめる。
『市街地方面にⅠ型とⅢ型で構成された一団が転そ…いえ、召喚されました』
「召喚?ですか」
グリフィスにより敵の増援を知らされるが聞き馴染みのない言葉に思わず繰り返してしまう。
『ええ、以前よりガジェットの襲撃に合わせて召喚魔導師が確認されたいます。
使役する召喚獣が出現する恐れがありますデータを送るので確認を』
送られて来たデータに合点がいった。
ガジェットの動きが変わるのを皮切りに何処かと魔力のリンクができていた。
その繋がりを辿れば恐らくは…
ーーいた、この広場を抜け南に外れた林。これは…子供?
見ればリオと3つと変わらないだろう少女だ、まさか指名手配犯の仲間がこんな子供とは…
見た目通りではない事は理解している、召喚師特有なのだろう繋がりを見れば強大な力に繋がっている事がわかる。
ーー秘密がまた一つ増えてしまった…
伝えれば確保のため戦力を回すと言い出しかねない。
「姿は確認できませんが、付近に潜伏している恐れがあります、十分に注意をしてください」
「……はい」
リオの安全の為とはいえ罪悪感を覚える。
居場所を教える事はできないが忠告には喜んで従おう。
しかし敵の量が多い、単機の戦力は大した物ではにがこうも群れると流石に厄介だ。
加えて守りながらの戦いだという事が大きな足枷になる。
無尽蔵に増える敵に対して此方はリオから離れることができない。
広域魔法など使えばリオも巻き込みかねない。
できることは火柱により周囲を守り破壊し切れず抜けて来たガジェットを各個撃破するのみ。
あとは敵増援を双龍演舞による雷龍と炎龍をもって近づく前に叩く、その程度だ。
「に、兄ちゃん…」
震えながら発したリオの声はひどく弱々しく戦闘の音に掻き消されんばかりだった。
しかし兄としての矜持からか聞き逃しはしなかった。
思えばリオが生まれてから初めて喋った言葉はママでもパパでもなく自分を呼ぶ声だった。
この6年間そう呼ばれない日はなかったのだ、もはや魂が聞き逃さまいとしているのだろう。
振り向いてリオを見やれば先程まで蹲っていた体を起こし怯えながらも此方を見つめていた。
落ち着きを取り戻した姿に自然と柔和な笑みを浮かぶ。
「大丈夫だリオ、絶対に兄ちゃんがどうにかする、ちゃっちゃと片付けてうちに帰ろうな」
『そんな優しいお兄ちゃんに吉報や!』
独特の訛りを含んだ言葉遣いが声の主をはやてだと気づかせる。
はやてが言葉を続ける前に後方から近づく膨大な魔力を察知する。
『待ちに待った援軍の到着や!』
『敵陣右翼へ援護砲撃を行います、衝撃に備えてください』
念話と同時に術式が形成され魔力が収束する。
一切の無駄なく収束される魔力の密度と技術に驚愕する。
『行きます!」
放たれた眩い桃色の輝きは右翼に陣取るガジェットのことごとくを焼き尽くす。
真っ直ぐ絨毯を引かれたように出来た道を堂々と進み眼前へ降り立つ。
少女の様相を残した姿から年齢はさして違わないだろうが、
その佇まいは同年代とは思えないほど洗練されていた。
「時空管理局機動六課、分隊隊長の高町なのは1等空尉です。」