魔法少女リリカルなのは 炎雷春光伝   作:しばらく

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8話 機動六課

「兄ちゃんってあんなに強かったんだ!」

 

離陸からしばらくたってもリオの興奮は冷めやまない。戦闘中の極度な緊張状態から解放された反動だろう。

 一通りなのはさん達局員に話しかけた後、思い出したようにそう言った。

 

「目の前で散々鍛錬してたと思うんだけどなぁ」

 

「ノロノロ体操って本当に意味あったんだね!」

 

「何度も説明しただろ、あれはあらゆる状況でも技を完璧に繰り出す為に、より精密に身体に覚えさせる為にだなぁ––––」

 

「あたしもやりたい!しゅんこーけん?」

 

 正に教えてる真っ最中であったのだが。興味があるのか無いのか、はたまた思いつきで言っているだけなのか。

 今まで実家に帰った時だって興味をしめさなっかたのに。

 それでも今日の事で心境の変化でもあったのか、顔つきは存外に真剣なものだった。

 あまり危険な事はさせたくなかったが、本人がやりたいと言うのだから仕方ない。

 

「構わないけど、武道は人を守ることもできれば人を傷つける事も出来る。真剣にやらないとーー」

 

「やったー!兄ちゃん教えてくれるって!」

 

「って、聞いてねぇ……」

 

 真面目な話も聞かずにリオはただ嬉しげになのはさん達の元へ駆けていった。

 意外に人見知りのリオには珍しく早くも懐いているようだ。

 ヘリの飛行は安定しているとはいえ、あまり動かれると今にも転びそうで気が気ではない。

 

「ふふ、良かったねリオちゃん。私も驚いちゃった。レオンくんは何処でそんな戦闘技能を身につけたの?」

 

「確かに気になる所だな、趣味のスポーツってわけじゃねぇんだろ?お前のお動きはそう言うのとは違う、戦う為のモンだった」

 

 リオと話していたなのはさんから、何気なく不自然なくらい自然にそう問われる。おそらく前々から聞く機会を窺っていたのだろう。

 なのはからは疑問、ヴィータからは警戒、その他からも興味津々に、各々違う思いがのせられた目を向けらる。

 

「大した理由じゃないですよ。父の実家が春光拳ってマイナーな武術を教えてる道場で、物心がつく前から続けてるんです。ヴィータさんがそう思うのも魔法や武具を用いていて、結構実践的なせいだと思います」

 

「それで説明できる強さじゃねぇぞ、ありゃ」

 

「それは……」

 

 稀小技能のせいで気が狂いそうだったとか、理由を並べようと思えばいくらでもできる。

 でも力を欲しった理由はリオと一緒にいる為だ。今までもそうだ、この力でリオとの居場所を勝ち取り、この力で守ってきた。

 だから自分の強さの理由なんて昔から変わらない。リオが生まれたその日から。

 

「お兄ちゃんですから」

 

「シ、シスコンも極めればバカに出来ねぇな……」

 

 そう言葉にしたのは苦笑いのヴィータさんだけではあったけど、他の数名の表情を見るからに同意見であることが伺える。

 少しばかり不本意な評価を受けた気がするが、この程度で警戒が解けるのであれば安いものだ。

 

「ヴィータちゃん、そんな言い方失礼だよ」

 

「いいんです、言われなれてますから」

 

 事実その通りでもある、二人で暮らし始めたのもリオが今以上に幼い頃で、それこそ付きっきりで世話をしていた。

 もちろん当時の自分に十分にこなせるわけもなくヘルパーを雇っていたが、それでも時間の許す限り一緒に過ごしてきた。

 それは今でも変わらずに学校が終われば保育所へリオを迎えに行気、他にする事と言えば春光拳の鍛錬ぐらいだ。部活に入った事も無ければ趣味も無い。友達付き合いも最小限で、断り文句はいつも「妹のが待ってる」だ、シスコンと揶揄われるのは不本意だが慣れている。

 

「それよりも、このあと僕たちはどうなるんですか? 本部に向かってるとは聞いていますけど」

 

「あ! そうだったよね。ごめんなさい、落ち着いてから話そうと思ってたんだけど、二人を見てたらつい和んじゃって」

 

 すっかり気を緩めてしまっていたのは自分も同じだ、戦闘自体には慣れているつもりだったが、命をかけた戦いなんて初めてだ。

 それでも冷静でいられたのは、幼少期から身体に染み付いた武のおかげだろう。悔しいがこればかりは感謝しなければならない。

 今では考える前に体が動き、勝ちを模索する。しかし戦闘が終え、今になって疲れがきたのだろう。リオと同じかそれ以上に自分も緊張していたようだ。

 

「これあとは私たち機動六課の本部で事情聴取を受けて貰います。っと言っても聴取ってほど固い話にはならないと思うな、担当官もはやて隊長だし」

 

「分かりました。ただ、聴取を受けてる間リオは……」

 

「一緒で大丈夫だよ、リオちゃんとも話したいみたいだし。あとは、いくつか書類手続きをしてもらうくらいかな」

 

「書類手続きですか……」

 

 書類手続き。これまでの人生で、それがどれだけ面倒な事かは骨身に染みている。

 リオと二人だけで暮らしている現在、その作業の全てを自ら行わなければならない。

 住居を決めるにも学校に行くのにも病院に行くにも役所でも、あらゆる物事に付き纏い、時間と労力を掻っ攫う。

 それに比べれば戦うことのどれだけ容易きことか。

 

「うん、今回の事件はかなり機密扱いだから、機密保持の手続きと、嘱託の事後申請。それからそれからーー」

 

「みてみて兄ちゃん! おっきい〜」

 

「ーーっと詳しい話は下でしようか」

 

 次々挙げられる手続きの多さに辟易としていると、窓をのぞくリオが囃し立てるように手を引く。 

 急かされるまま窓を覗いてみると、湾岸部に隣接された施設が広がっていた。なのはさんの言う“下”とはあれのことだろう。

 

「あれが機動六課本部……」

 

「そろそろ着陸態勢に入るからリオは座ってようか」

 

 はしゃいで跳ね回っているリオをフェイトさんが誘導している。

 子供の扱いに慣れているのか、あのリオが素直に従っている。

 

「ん? 下に居んのはやてじゃねえか。司令自ら出迎えなんて珍しいな」

 

 ヴィータの言う通り徐々に近ずくヘリポートには通信越しで見慣れたはやてさん顔が見える。

 その隣には長い赤髪を後ろで纏めた騎士風の女性が佇んでいた。二人から感じる魔力量は破格のもので、なのはさんら隊長人にも劣らない。

 機動六課の保有する戦力から今回の事件がよほど大規模である事が窺える。

 

「着きましたよ、姐さん方」

 

「ついたの?」

 

 ヘリポートへの着陸が終わり想像していたより小さい振動が止むと操縦士と紹介されたヴァイスさんからアナウンスを受ける。

 そしてフェイトさんとキャロの隣で大人しくしていたリオがとうとう痺れを切らしたようだ。

 

「おう、気いつけて降りろよ嬢ちゃん」

「うん!ありがとう、おじさん」

「おじっ……タハハ」

 

 この場合は謝るのもどうなんだ、なんて思っていると、降機の準備をしていたティアナがニヤケ面で近づいてきた。

 

「子供から見たら皆んなそんなものですよヴァイス曹長」

「そうかい、ティアナおばさん」

「ちょっと! 子供に言われるのとおじさんに言われるのは別です!」

「男ってのはな、いつだって少年の心を持ってんだよ」

 

 二人の表情を見るに本気で言い合っているわけではないのだろう、しかし保護者として謝らねば。

 何よりリオのためにも気遣いと言うものを教えておかねば。

 

「すみませんうちの妹が。リオ、おじさんじゃなくてお兄さんだろ」

「?だって、あたしのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだし……」

 

「ーーなら仕方ないな」

 

 なら仕方ない。

 

「おい! あんたまで!」

 

「おら馬鹿ども、外ではやても待ってんだバカやってねえで出るぞ」

 

 もしかしてヴィータさんの言う馬鹿どもには自分も入っているんおだろうか……まさかね。

 それにしても、二人のやり取りと言いはやてさんの呼び方といい、機動隊と言うからにはゴリゴリの軍隊だと思っていたが、

 思いのほかアットホームな感じだ。

 

「そうだこれね、これ以上待たせたらシグナムも乗り込んできそうだし」

 

 そうフェイトさんが言うと隊長陣以外の顔が凍りつき、和気藹々としていた空気はどこに行ったのか、各人が切羽詰まったように降機の準備を終える。

 

「……やっぱりゴリゴリなのか」

「にいちゃん何言ってんの?」

 

 訝しげに見上げるリオを「なんでもない」と抱き上げる。

 後部の扉が開き澄んだ空気が機内に流れと、風に揺れるリオの髪が鼻先をくすぐった。

 燻る炎の匂いも機械の匂いもしない新鮮な空気がひどく懐かしく感じ、誘われるように外へ出る。

 機内の暗いさに慣れた瞳に明るい光を受ける、一瞬の白く染まる視界が光になれると、待ち人きたり、といいたげな彼女が佇んでいた。

 

「みんなお帰りな、今回もご苦労様や。」

「何をぐずぐずしていた、もう少し出てくるのが遅ければ乗り込んで行く所だぞ」

 

「「「ふぅ」」」

 

「まあまあシグナム。今はお客様の前や、説教は……あとでな」

 

「「「ひぃ」」」

 

「それじゃあ改めて、ようこそ時空管理局機動六課へ!」

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