「・・・飛べない。」
と博麗霊夢が呆けたようにつぶやいたのはある日の昼下がりの事であった。
宙に浮かび上がる事ができない、という事実に思考が埋め尽くされる。
何に対しても暢気な彼女にしては珍しくうろたえていた。
「主に空を飛ぶ程度の能力」を持つ彼女にとって飛ぶという行為はできて当然。
いや、できるできないなどと考えるまでもない事だった。
人が食卓に出されたものを苦も無く口に運ぶように彼女は空を飛ぶ。
昼食の材料買い出しのために人里へ向かおうとしていた彼女の頭の中から献立と賽銭の心配と空腹感を追いやってしまう程度にはショックな事だったらしい。
「っ、弾幕は!?」
常備している札を少し遠くの石に投げてみる。
札は石に向かって正確に吸い寄せられ、小さな破裂音とともに吹っ飛ばした。
それを見て少し安堵した彼女は自分の身に起きている事を考察し始める。
(弾幕が撃てたってことは霊力までなくなったわけじゃないわね。博麗大結界の存在も感じられるし・・・。ん?これは・・・。)
霊力の確認のため、周囲の力を探っていると不自然な、しかし身に覚えのある力を感じ取る。
霊力が満ちている神社の境内の中では通常感じられない力。霊夢の友人である霧雨魔理沙の魔力だった。
人の身でありながら強大な魔力を持つ彼女の体から漏れ出た魔力がいつもより念入りに周囲を探っていた霊夢の感覚に引っかかったようだ。
そして前日に人妖入り乱れての大宴会を行った博麗神社には魔理沙が泊まっていた。
このままでは人里に行くのも面倒くさいことになるし、ひとまず神社に戻って魔理沙に相談することにした。
魔理沙は大口を開けながら仰向けに眠りこけていた。
思えば宴会がお開きになった後も二人で明け方までだべっていたのだった。
「・・・おい、足どけろ。」
あまりに緊張感のないその表情を見た霊夢は無意識に左足でぐりぐりやっていた。
魔理沙の目をのぞき込むように霊夢は言う。
「なんか飛べなくなったんだけど。」
「・・・飲みすぎたな。お前も私も。」
「酔って飛べないんでもあんたの耳がおかしいんでもなくて事実よ。」
未だに半信半疑の魔理沙は起き上がって目をこすりながら霊夢に向き合う。
「ほんとうに?」
「本当に。飛べない事の証明はできないけど。」
「そりゃそうだ。なんか心当たりはないのか?」
「特に何も。ここんとこはずっと縁側でお茶をすする日々だったし。」
「怠け癖が祟ったんじゃないか?」
「言っとくけど弾幕は普通に撃てるんだからね?」
冗談だ、と言いたげに手を振る魔理沙。
「で、どうすんだ? 異変でも起きない限り特に困らんとは思うが。」
「喫緊の問題として人里に行くのが面倒くさいというのがあるのよ。というわけで連れてって。」
魔理沙と会話し、いつもの暢気さを取り戻した霊夢が挙げた問題もまた、暢気なものだった。
「はあ。ちょうどいい機会だし、不摂生な生活改善のために歩いて行くのがいいと思うけどな。」
と言いながら魔理沙は箒を手元に呼ぶためにパチンと指をならした。
しかし、なにもおきなかった。
「・・・え?」
二度三度鳴らしても箒はうんともすんとも言わない。
魔力が通っている箒は合図一つで魔理沙の元に飛んでくるはずだった。
「・・・まさか、あんたも?いや、も、というよりは・・・。」
魔理沙は飛ぶときに箒に頼っているわけではない。飛ぶための飛行魔法と相性が良いという理由で使っているだけだ。
しかし、箒が合図に応じないというのは飛ぶ云々の前の問題につながる。
「私も飛べ、ない・・・魔法がでない・・・!?」
魔理沙の飛行能力は魔力によるものだ。また、その他普通の人間にはできない超常的な事はすべて魔力を通して行っている。
その魔力の行使ができない。
霊夢とは違い、弾幕を撃つこともできない魔理沙。
自分の変化に与えられた影響は霊夢のそれとは比べ物にならないだろう。
これまでの努力の積み重ねが跡形もなく消えてしまったのだから。
「あ、ああ・・・。」
自分の両手を見つめてわなわなと震えている。
そんな彼女の様子を見ながら霊夢はある疑問を感じていた。
(魔力がなくなったわけじゃない。さっきと同じで今も力を感じるし。ならばこれは・・・。)
「魔理沙、あんたの魔力は、」
と言いかけた所で魔理沙がばっと顔をあげて霊夢を見る。
その目には焦燥、絶望、嫉妬、ありとあらゆる負の感情が見えるようだった。
あまりの形相に思わず怯んだ霊夢を尻目に魔理沙は箒をひっ掴んで外に駆けだす。
「魔理沙!」
一瞬遅れて後を追いかける霊夢だったが、魔理沙の姿はもう見えなくなってしまっていた。
「これは、ちょっとまいったわねぇー・・・。」
キャラクターに番号を振り、乱数メーカーによって誰の能力が誰に移ったかを決定していますので、どんな話になるのか私も分かりません。
話の展開を考えてちょっといじることはあるかも?