異能混淆異変   作:湧月

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紅魔館の場合

悪魔の住む館、紅魔館。

 

厳かな外見に似合わず、実は割と愉快な場所であるというのは一部の幻想少女たちには周知の事実なのだが、ある日を境に輪をかけてにぎやかになっていた。

 

「メイド長!あっちの方でまたお皿が割れちゃいましたぁ!」

 

「・・・はぁ。」

 

紅魔館のメイド長である十六夜咲夜は今日何度目か分からない溜息をついた。

 

ある日を境に突然「時間を操る程度の能力」を失ってしまった彼女は現在、妖精メイドの尻拭いに追われていた。

 

今までは静止した時の中を動く事で館内の仕事をほとんど一人でこなしていたのだが、それができなくなった今、妖精メイドの手を借りなければいけないというわけだ。

 

「分かった分かった。見に行くわ。」

 

と現場の様子を想像しながらうんざりした気持ちで歩いて行く。

 

(確実に前より仕事が増えてるわ・・・。)

 

妖精は楽しい事には積極的に取り組む。なので調理などは任せられるのだが後片付けなどの楽しくない事にはあまりしない。当然掃除などにも慣れていないためあちこちで問題を引き起こすのだ。

 

「たぶん幻想郷中で起こってるわよねこの異変。こんな時なら侵入者なんて来なさそうだし、ちょっと美鈴に手伝ってもらおうかしら・・・。」

 

と言いながら現場に到着。

 

どうやらカップが2,3個割れているらしい。ちらっと戸棚を見やるとあと少しで館の主人お気に入りのカップが割れるところだったようで、内心ひやりとしながら後片付けの指示を出した。

 

「残りの片づけはこれだけね・・・。 はい、これで片づけやすくなったでしょ。」

 

「おお!軽ーい!」

 

咲夜が指をならすとその場にあったカップや皿、鍋などの重さが紙のように軽くなる。

 

時に関する能力がなくなってしまった代わりに彼女が新たに得た能力によるものだ。能力を使う時に指を鳴らすのは前からの癖である。

 

(こっちの能力も便利っちゃ便利なんだけど、時に比べちゃあね・・・。)

 

余計な仕事を終え、次の仕事のため、図書館に向かう。

 

行き道の途中にある玄関を通る際に彼女に声をかける者がいた。

 

「咲夜さーん!」

 

「あら、美鈴。昼休憩かしら?」

 

咲夜の同僚、紅美鈴が駆け寄ってくる。

 

「そうです! ここの所、いつにも増して来訪者がいなくて暇だからご飯の時間がほんと待ち遠しいんですよ~。」

 

「妖精達はともかく魔理沙も来ないしね・・・。やっぱり皆この状況に戸惑ってるのかしら。」

 

能力がおかしくなってから1週間。霧雨魔理沙が一度も紅魔館に来ていない。

 

以前はあまりの来訪の頻度にいちいち数えてなどいなかったが、1週間も空くのは珍しい事だった。

 

「おかげでパチュリー様には怒られないで済んでいるんですけどね。ではご飯が呼んでいるので私はこれにて!」

 

「はいはい。満腹になって寝ないでね。」

 

と駆け出す美鈴に背を向け次の仕事場、魔法図書館に向かって歩き出す咲夜。

 

図書館の後始末はどこまで進んでいるのだろうかと考えだした次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という美鈴の叫びとともに窓ガラスが割れる音がその場に響く。

 

「・・・はぁ。」

 

また一つ数が足された溜息をつきながら振り返ると、そこには廊下の幅いっぱいに大きくなった美鈴の右手が窓からはみ出るような形になっていた。当然そこにあったガラスは粉々である。

 

「・・・早く能力の制御できるようになってね。ほんとに。」

 

「・・・すみませーん。」

 

 

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魔法図書館。

 

紅魔館に付属する形で存在しているこの図書館は1週間前に発生した筆舌に尽くしがたい大惨事からの復旧作業に追われていた。

 

「今どのあたりまで終わってるの?」

 

「1階のC区画半ばといった所です。いったいいつまでかかるのやら・・・。」

 

小悪魔の報告を聞きながら、図書館の主パチュリー・ノーレッジは1週間前の出来事を思い返す。

 

 

その日、パチュリーは新魔法開発のため実験をしていた。

 

博麗神社で開かれる宴会を断って打ち込んだその実験は長引き、翌日の明け方に差し掛かろうとしていた。

 

すると突然術式が不安定になり、魔法陣から大量の水が噴き出してきたのだ。

 

あっという間に1階部分は浸水。

 

あまりの唐突な出来事に魔導書に施していた防御魔法が崩れ、大半が解釈不能に。

 

図書館から溢れた水が本館に流れ込み、友人である館の主人とその妹が部屋から出られなくなるというおまけつきである。

 

「火じゃなくて良かったわ。あの水もまあまあ危なかったけど直接命に係わるし、燃えたら魔導書の修復もできなかったしね。」

 

(いっそ燃えてくれた方がこんな大変な作業しなくて済んだ気がしますけどね・・・。)

 

「なんか良からぬ事考えてない?」

 

「え!?いやいやまさか! あ、そろそろ修復に戻りまーす!」

 

そそくさとその場を立ち去る小悪魔。

 

それを見送ったパチュリーは紅茶を飲みながら魔導書に視線を落とす。

 

 

するとそこに咲夜が到着した。

 

「パチュリー様。図書館の復旧はどのような具合でしょうか?」

 

「ざっくり10%ってとこ。まだまだ先は長いわ。」

 

「さようでございますか。何か入用のものなどございますか?」

 

「作業要員に妖精メイドを回してほしい・・・、と言いたい所だけど最近のあなたの様子を見ると、復旧の未来がさらに遠のきそうね。」

 

「私としてはこちらで手伝いをさせておきたいのですが。」

 

「文字通り厄介になる手伝いなんてごめんよ。」

 

と会話しながらもパチュリーは自分の能力について考察を進める。

 

(他の住人の様子から見て能力が誰かと入れ替わったのは確定的。私は水系の能力と入れ替わったと思うけどそれにしては制御が効かなさすぎる・・・。入れ替わった瞬間のあの時はともかく、ほんのちょっと力を使うだけで絶対に何かしら被害が出る程度に水が出ちゃうのよね。)

 

「それでは私は失礼いたします。あちらにお食事をご用意しておきました。」

 

「ん、ありがと。」

 

咲夜が指した方を見るとパチュリーの食事と、小悪魔達の分の大量の食事が用意されていた。

 

あれだけの量を一人で持ってこれたのは入れ替わった咲夜の能力によるものだろう。

 

(そういえば最近魔理沙を見かけないわね・・・。どんな能力と入れ替わったのかしら。)

 

 

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「お嬢様。お食事の時間でございます。」

 

「おや、もうそんな時間か。」

 

食事の用意を持ってきた咲夜は、紅魔館の主レミリア・スカーレットと向き合う。彼女にとってその姿はまるで雷を纏っているかのように眩しく見えた。

 

 

 

「本日のメニューはフォアグラのテリーヌ、トリュフとブッフサレ、リ・ド・ヴォとレンズ豆のガトー仕立てでございます。」

 

「うむ。」

 

玉座に向かうレミリアの動きに呼応するように外では雷光が輝いている。里の人間がこの様子を見ればまさに悪魔であると思わず息を呑む光景であろう。

 

 

 

「ところで館内の修復はどうなっている?」

 

「本館はほぼ元通りに。図書館はまだ滞っているようです。」

 

玉座に座ると同時に雷鳴が轟き、部屋の窓がびしびしと鳴る。幼い少女の様な風体のレミリアだが、その様は絶望の化身に見紛うほどの風格を醸し出している。

 

 

 

「館の全てが戻ったとしても完全に落ち着くのはまだ先になるだろうな。咲夜、お前も変わってしまった能力に戸惑っていることだろう。」

 

「お心遣い痛み入ります。ですがお嬢様へのご奉仕には一切差し支えさせぬ所存でございます。」

 

遠くから悲鳴が聞こえる。まるで彼女の食事が誰かの命を啄むことを表しているかのように。

 

 

 

 

「・・・お嬢様。」

 

「なんだ?」

 

食事を目の前にし、おててを合わせていただきますをしている主に向かって咲夜は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい能力が気に入ったからって無闇に行使するのはお控えください。妖精メイドが怖がっています。」

 

「ごめん、つい。」

 

紅魔館を混乱に陥れた能力の入れ替わりはレミリアも例外ではなく、「運命を操る程度の能力」の代わりに雷を操る事ができるようになっていた。

 

そしてその能力をいたく気に入り、暇さえあれば雷を発生させるのが専らの日課となっていたのだ。

 

「と言ってもわざとじゃない所もあるんだけどねぇ。私もまだ制御できてないみたいだし。」

 

「お嬢様からは元の能力がなくなった事に対する不満が感じられませんね。」

 

「普段から多用するような能力じゃないし。余計な事考えなくていいからむしろ解放されてるって感じ?」

 

そういう場合もあるのか、と咲夜は思う。この異変がどこまで及んでいるか分からないが、地霊殿の主も似たような心境なのだろうかと考え始めた所で、

 

 

 

 

「フランの様子はどうかしら?」

 

という一言で現実に引き戻された。

 

「・・・妹様は相変わらずの様子でした。」

 

「そうか。当事者じゃない私たちが何を言っても気休めにしかならないだろうからそっとしておくしかないのかもね。」

 

と言いつつ、フォークを握るレミリアの手には力みが見れる。姉として何もしてやれない悔しさがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか自分から地下牢に戻る事になるなんて・・・。皮肉なものね。」

 




今回は紅魔館の場合でした。

この話を考えた時に神社と紅魔館の場合はどうなるか割とすぐに浮かんだのですが、ここから先は考えながらになるので少し間が空くと思います。

ゆっくりお待ちいただけると幸いです。
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