魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、たから僕は描いている   作:至ッ亭浮道

15 / 16
第15話

 

 (ぼく)(もど)ってきたとき、みんなの(あいだ)には微妙(びみょう)空気(くうき)(なが)れていた。

 

「どうしたの?」

「なんでもないよー。ささ! 早速(さっそく)()(はじ)めましょうぞ!」

「え? あ、うん」

 

 佐藤(さとう)さんに(うなが)されるまま、(ぼく)は、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)用意(ようい)してくれたカンバスの(まえ)(すわ)る。

 すると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(あわ)ただしく部屋(へや)()ていく。

 

「ごめんね! わたし委員会(いいんかい)仕事(しごと)があって!」

先輩(せんぱい)準備(じゅんび)ありがとうございました」

「いいよー! 今度(こんど)(なに)かおごってね!」

学食(がくしょく)でいいですか」

「やだ! カフェで!」

「……(かんが)えときますね」

「よろしくね!」

 

 そう()って、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、バタバタと足音(あしおと)をさせながら、教室(きょうしつ)から()ていった。

 (ぼく)はその足音(あしおと)()こえなくなってから、木戸口(きどぐち)さんの(ほう)()(なお)った。

 

「じゃあ(はじ)めるね」

「は、はい」

 

 そう()って木戸口(きどぐち)さんは、(すわ)姿勢(しせい)(ただ)した。

 けれど、(くび)()(みょう)(かたむ)いている。

 緊張(きんちょう)しているのか、木戸口(きどぐち)さんは(ゆか)()ていた。

 (すこ)()がかりだったけど、(ぼく)()にせず()(はじ)めることにした。

 最初(さいしょ)はゆっくりと、手探(てさぐ)りをするように(せん)()いてゆく。

 自分(じぶん)(なか)(さぐ)るように、(せん)()いてゆく。

 ()いては()し、()してしまっては()(なお)す。

 ()(はじ)めは、川上(かわかみ)さんたちに()られているのが、()になっていた。

 けれど、そのうちに川上(かわかみ)さんたちが、(ぼく)(まわ)りにいるのも(わす)れてしまうほどに、(ぼく)集中(しゅうちゅう)(はじ)めた。

 そして、あらかた方向性(ほうこうせい)()まって、(ふで)()れようとした(とき)

 川上(かわかみ)さんが、(ひさ)しぶりに(こえ)()した。

 

(わたし)(かえ)る」

 

 室内(しつない)全員(ぜんいん)視線(しせん)が、川上(かわかみ)さんに(あつ)まる。

 (ぼく)は、そっかとも、じゃあねとも()わないで、(なん)()えばいいのか(まよ)っていた。

 すると、佐藤(さとう)さんが川上(かわかみ)さんに、なにかを()(はじ)めた。

 

「もういいの?」

「うん」

「どうだった?」

「やっぱり、(わたし)間違(まちが)えてないと(おも)う」

()えたんだね」

「うん」

「そっか」

 

 すると、佐藤(さとう)さんも川上(かわかみ)さんと(おな)じように(かえ)ると()(はじ)めた。

 

「じゃあ、あたしも帰るー」

「いいの?」

「のめり()まないだけで、春奈(はるな)()()(おな)じなのさー」

「そっか」

 

 そう()って二人(ふたり)は、二人(ふたり)(あいだ)だけで(なっ)(とく)したらしい。

 そして二人(ふたり)ともカバンを()って、部屋(へや)から()ていこうとする。

 

「それじゃねー」

頑張(がんば)ってね、峯村(みねむら)

 

 最後(さいご)川上(かわかみ)さんが、木戸口(きどぐち)さんにこう()った。

 

()()るのは、自由(じゆう)だよ。(こわ)くないことだから」

「……わかりました」

 

 (ぼく)には(なに)()からない。

 けれど、木戸口(きどぐち)さんには(なに)かが(つた)わったようだった。

 ガラガラと(とびら)()まり、(ぼく)木戸口(きどぐち)さんだけが教室(きょうしつ)(のこ)された。

 

(つづ)けるね」

「はい」

 

 それからはお(たが)いに無言(むごん)だった。

 (ふで)水彩紙(すいさいし)(うえ)(はし)(おと)だけが心地(ここち)よく(ひび)く。

 そして()が7(わり)ほど完成(かんせい)した(ころ)

 木戸口(きどぐち)さんが沈黙(ちんもく)(やぶ)って、(くち)(ひら)いた。

 

「……(ことわ)りました、告白(こくはく)

「……そうなんだ」

(こわ)かったですけど、ちゃんとしなきゃと(おも)って」

「……すごいよ」

 

 (ぼく)は、(くち)(うご)かしながら(ふで)()()えて、木戸口(きどぐち)さんの(ほう)()た。

 (いま)まで(ぼく)足元(あしもと)彷徨(さまよ)っていた()(せん)が、一直線(いっちょくせん)(ぼく)()つめていた。

 木戸口(きどぐち)さんの()(あか)()が、(ぼく)()つめていた。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでも、ないです」

 

 木戸口(きどぐち)さんはそう()ったっきり、また()(せん)彷徨(さまよ)わせる。

 それからまた無言(むごん)時間(じかん)(つづ)いた。

 ()()(はじ)めて、もう(ひかり)()しでは()くことが出来(でき)ないほど薄暗(うすぐら)(ころ)

 そんな時間(じかん)に、やっと()完成(かんせい)した。

 

出来(でき)た……」

 

 (ぼく)がそう()うと、木戸口(きどぐち)さんはダラリと姿勢(しせい)(くず)した。

 

「ずっと(おな)姿勢(しせい)ってやっぱり(つか)れるんですね」

姿勢(しせい)なんて、()えてもよかったのに」

「え? でも()くなら……」

 

 そう()って、木戸口(きどぐち)さんが()()がり、(ぼく)()(のぞ)()む。

 

「……なんですか、これ?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。