「駄目だった?」
今回の絵は、僕の中では自信作だった。
深い海底に宮殿があって、その奥に鏡がある。
その鏡は装飾が少ないけれど、綺麗な縁取りがついている。
その鏡台の下に、小さな赤い石が落ちている。
赤い石が、鏡に当たって鏡に小さなヒビが入っている。
文字にしてしまうと、それだけの絵だった。
「駄目というか、自分の想像と違っていて。……肖像画かと思ってたので」
「あれ? 言ってなかった? ごめんね!」
「いや、でも――」
そうやって木戸口さんは、まじまじと絵を眺めている。
「やっぱり……駄目かな?」
「いや……、いいです。見れば見るほどいいです。好きです」
「本当?」
「なんだか、予想外でしたけど、見れば見るほど、自分のことが描いてある気がしてきます」
「よかったぁ。僕のイメージを詰め込んでみたんだ」
僕がそう言うと、木戸口さんは、絵から眼を離した。
「描いてもらってよかった……」
「え?」
「……なんでもないです」
「ええ? そう言われると、気になるよ」
それでも木戸口さんは教えてくれない。
木戸口さんはしばらく悩んでいるようだった。
そして、最後にこう言った。
「――魚は泳いでる時が一番活き活きとしてるし、鳥は飛んでる時が一番美しいんです」
「え?」
僕は木戸口さんを見た。
日が暮れかけだから、木戸口さんの表情は見えない。
でも、そこに村口さんに似た女の子はいなかった。
……ような気が、した。
★
「ほんとによかったの、瑠美」
「独り占めしたいわけじゃないし」
「その割には、嫉妬深いよねぇ」
「嫉妬ぐらい許してよ」
「……ところで、瑠美は、タロちゃんをどうしたいんだっけ?」
「私の眼の届く範囲に、常に置いときたい」
「えげつないにゃぁ」
「……好きな人がいるのに、病まない人なんていないから」
「春奈は病んでませんけど?」
「それじゃ、春奈は、付き合えたら、どうするんだっけ」
「とりあえず、異性関係はリセットかにゃぁ」
「春奈も大概病んでるって」
「えー、あたし以外の連絡先は要らないでしょ?」
「……春奈のほうがえげつないよ」
「にゃははー……それにしても競争相手の多い闘いですなぁ」
「ほんとにね」
「でも、後悔してないんでしょ」
「春奈は?」
「なんとなく始めた恋だから、後悔なんてしないのさー」
「峯村、今頃どうしてるんだろ」
「そろそろ描き上げたんじゃないかにゃあ」
「木戸口さん、驚くだろうね」
「そうだろうねぇ」
「でも、良い絵を描くんだよね、峯村って」
「そうそう。最初は、はあ⁉ って思うけど、見れば見るほど好きになるんだよねぇ」
「峯村は、天才なのかな?」
「違うと思うにゃあ」
「そっか」
「でも、そう思った方が幸せだよねー」
「なんで」
「だって、あの才能に惚れたと思うとさ、なんか納得できるじゃん」
「ちょっとだけ、わかるよその気持ち」
了