プロローグ〜来栖川智久〜
特務艦
*
「応答、ありません」
「仕方ない。我々だけであの客船を救う。総員、第一級臨戦態勢‼︎」
「了解!」
艦長である若き男──
「客船へ最大戦速。降魔を誘き寄せるぞ」
客船へ近づくと、船の上空を飛ぶ降魔達がこちらに気づき、向かってきた。
「主砲は使うな。客船に流れるやも知れぬ。対空用意!」
襲って来た降魔達を対空砲で撃ち落とそうとする。が、直撃を食らっても降魔は一向に速度を落とさずこちらへ突進してくる。
「降魔、突撃して来ます!」
「構うな!全てをこちらへ誘き寄せろ!」
ガヅンッ‼︎と艦全体に衝撃が走る。何体かの降魔の突進が艦に直撃したのだ。
「ダメです!対空砲が効きません!」
「降魔に取りつかれました!」
「彼らが離脱するまで耐えるのだ!艦内の降魔には銃で応戦せよ!」
無謀にも突進してきた艦に興味がいったのか、降魔達は客船を離れ摩利支天の方へ向かった。
「客船が港の方へ離脱していきます!」
これで最悪の事態は免れた。しかし、問題はここから。この艦には通常兵器しかなく、降魔を撃破する事は不可能だ。帝都の防衛を担当している上海華撃団の到着まで降魔達を市街地へ寄せ付けず、この艦に引きつけておかねばならない。
「総員退艦せよ。上海華撃団が来るまで俺が囮となって降魔を引き付ける」
「艦長…!」
「無茶です!艦長1人で…!」
来栖川の命令に、部下達は困惑の声をあげる。
「神山少尉、退艦の指揮はお前が取れ」
「来栖少佐!あなた1人置いていくわけには…!」
「案ずるな。俺を誰だと思っている」
「しかし…例えあなたでもこれほどの数の降魔を…」
「なに、倒す事は無理でも時間を稼ぐ事はできる」
「無茶ですよ!せめて数人くらいは…!」
「そうです!我々も残って時間を稼ぎます!」
神山の提案に、他の部下達も声を上げる。
「俺はお前達を無駄死にさせたくはない。生きて家族や恋人と幸せに生きよ。これが最後の命令だ」
「なら…俺は今から少佐の指揮下から外れます。俺達は、自分の意志で行動します!」
「最期くらい格好良くさせて下さいよ、少佐」
「お前たち…。では勝手にしろ。だが、先の命令は訂正する。俺と共に戦うからには、必ず生き延びよ。違反する事は地獄の閻魔が許そうとこの俺が許さぬ」
「…っ了解!」
そうして、摩利支天の乗員全てが降魔を食い止める為、艦に残った。
そして。
そして。
数刻が経ち、上海華撃団が摩利支天へ急行した時には、既に半数以上の乗員が死亡していた。摩利支天は動力機関を停止し、沈没しかかっているところだった。
「なんだよ…こりゃ…」
上海華撃団隊長、ヤン・シャオロンは現場の惨状に思わず呻く。しかし、それでも乗員が全滅した訳ではなかった。
「ユイ!あいつらを…降魔どもを蹴散らすぞ‼︎」
シャオロンは隊員を連れ、次々と降魔を撃破していく。
「上海華撃団だ…。救援が来たぞ‼︎」
神山の声に、生き残った乗員達は歓声をあげる。
「お前達海へ飛び込め!沈没するぞ!」
ただ1人、来栖川だけは。
「…………」
ただ沈黙するしかなかった。
部下を信じてしまったばかりに。
強く命令しなかったばかりに。
自分が弱かったばかりに。
*
摩利支天の撃沈から1週間後、提督から辞令交付がされた。
「卿は摩利支天を撃沈させたばかりか、部下の半数を犠牲にした。これは重大な過ちだ」
「返す言葉もございません」
「よって卿を我が指揮下から外す。再び辞令が出されるまで寮にて待機せよ…と本来ならば言うところだが、卿を招き入れたいという御人がいてな」
「…と言いますと?」
「