新サクラ大戦 最強は果てに何を見る   作:らっくぅ

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新たなる風・弍

 俺はさくらと別れ、神崎すみれと共に支配人室へ向かう。

来栖川(くるすがわ)智久(ともひさ)少佐、23歳。海軍士官学校を主席で卒業。海軍に配属されて数年後には艦長を任されるなんて、よほど腕を買われているのね」

「恐縮です」

「そんなあなたをここへ呼んだのは、ある仕事を任せたいと思ったからよ。時に来栖川くん。あなたは…「帝国華撃団・花組」を知っているかしら?」

 帝国華撃団か。それなら知っている。ここ大帝国劇場を根拠地とし、降魔のような強大な敵と戦う部隊だ。かつては秘密組織として活動していたらしいが、現在ではWLOFの結成によりその存在は公に明かされている。

 俺はそのように答えると、

「よく知っているわね。けれど、帝国華撃団は戦うためだけのものではないわ。平時は「帝国歌劇団」として舞台に立ち、人々に夢と希望、そして愛を与える。それは花組の大切な役目でもあるのよ」

 なるほど。帝都を守る。ただそれだけではなく、人々の心を救う事をも使命とするのか。

「だけど、今の帝撃…特に花組にはかつての力はもう無いの」

 劇にあまり詳しくない俺でも、昔の帝国歌劇団の活躍は知っている。目の前の神崎すみれは、かつてトップスタァとして、ここ大帝国劇場を賑わせていたという。しかし、今の帝劇でそのような話は全くない。俺自身、華撃団は解体されたのかと思っていた程だ。

「さて、ここからが本題よ。来栖川智久くん、あなたに帝国華撃団・花組の隊長になってもらいたいの」

「任務というのなら謹んでお受け致しますが…自分でよろしいのですか?」

 俺は懸念を口にする。

 なんであろうと任務は遂行する。その気でいたが、よもやそれが再び人の上に立つ事だとは。

「…あの事件のことは聞いているわ。けれどね、その上で、私はあなたが適任であると判断したのよ。それとも、あなたには荷が重いかしら?」

「…自信がないとは言いません。閣下が()()をご存知の上で自分を抜擢したと言うのなら、これ以上懸念すべきことはありません。全力を以って任務を遂行します」

「よろしい。期待しているわ、来栖川くん。これから、頼りにさせてもらうわね」

「はっ、こちらこそよろしくお願い致します、閣下」

「…その閣下というのはやめてくれるかしら?平時は「支配人」、作戦時は「司令」でお願いするわ」

「はっ、かしこまりました、支配人」

 現時刻をもって俺は帝国華撃団・花組の隊長となった。神崎支配人は、現在の華撃団は弱体化していると聞いたが、さてどれくらいのものか。

「そうそう、帝国華撃団の当面の目標は世界華撃団大戦に勝利することよ」

 ほう、これはまた大きく出たな。

 世界華撃団大戦といえば、2年に一度開催される平和の祭典だ。種目は大きく二つに分かれ、「演舞」では歌劇の実力を競い、「演武」では霊子戦闘機を操縦する技量を競う。各国の華撃団が出場し、競い合うこの祭典は世界的な賑わいを見せている。

「世界華撃団大戦ですか。それをこの帝国華撃団が?」

「ええ。だけど今は、心の隅に留めておく程度で構わないわ。まずは、花組の隊長としての職務を知ってもらわないとね」

 そう言うと、神崎支配人の隣にいた女性が俺の方に向かってくる。

「初めまして、来栖川さん。私はすみれ様の秘書、竜胆(りんどう)カオルです。よろしくお願いします」

「来栖川智久です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「以後は私が案内します。と言いたいところですが、まずはあなたが指揮する花組の隊員と会うのがよろしいでしょう。劇場のどこかにいるはずですので、探してみてください」

 顔合わせは重要だ。まずは部下をよく知るところからだな。

「了解しました。では、失礼いたします」

 そう言い、俺は支配人室の扉を開け、部屋を出る…

「あたっ⁉︎」

「む?」

 扉を開けた先の廊下には、おでこに手を当てるさくらがいた。

「ほう、奇遇だな。こんな所で会うとは」

「あ、あはは…す、すごい偶然ですね…!」

「それで、何か聞き取れたか?」

「いや〜、ここの扉、分厚くって何も聞こえなかったんですよ……あっ」

 カマをかけると、さくらは簡単に引っかかった。面白い。

「やはり盗み聞きしていたのか」

「うっ…」

「まぁ構わん。どちらにせよ明かされる事だ」

「何のお話だったんです?」

「俺がこの帝国華撃団・花組の隊長に任命するという話だ」

 それを聞くと、さくらは嬉しそうに飛び跳ねた。

「わぁ〜!そうなんですか⁉︎私も、花組の一員なんですよ!だから、智兄さんは私の隊長さんですね!…あっ!ということは、これからは来栖川隊長って呼ばないとですね!」

 さくらは喜びが抑えきれないのかまくし立ててくる。なんとも可愛いやつだ。

「変にかしこまる必要はない。だが、そうだな…俺のことは来栖と呼ぶといい。海軍時代はそう呼ばれていた」

「はいっ、来栖隊長!」

「では、俺も天宮(あまみや)と呼んだ方がいいか?」

 俺がそう言うと、さくらは首を横にぶんぶん振って否定する。

「そ、そんなに堅苦しくなくていいですよ!今まで通り、さくらと呼んでください」

「そういうものか?」

「そういうものです!…そうだ!来栖隊長を他のみんなに紹介しなきゃ!それに、大帝国劇場についても知りたいですよね。私が案内します!」

 さくらが案内してくれるというならありがたい。慣れぬ施設を1人で歩き回るとなると、立ち入り禁止区域に入ってしまうやも知れぬからな。

「それは助かる。頼んだぞ、さくら」

「はいっ!」


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