俺はさくらと別れ、神崎すみれと共に支配人室へ向かう。
「
「恐縮です」
「そんなあなたをここへ呼んだのは、ある仕事を任せたいと思ったからよ。時に来栖川くん。あなたは…「帝国華撃団・花組」を知っているかしら?」
帝国華撃団か。それなら知っている。ここ大帝国劇場を根拠地とし、降魔のような強大な敵と戦う部隊だ。かつては秘密組織として活動していたらしいが、現在ではWLOFの結成によりその存在は公に明かされている。
俺はそのように答えると、
「よく知っているわね。けれど、帝国華撃団は戦うためだけのものではないわ。平時は「帝国歌劇団」として舞台に立ち、人々に夢と希望、そして愛を与える。それは花組の大切な役目でもあるのよ」
なるほど。帝都を守る。ただそれだけではなく、人々の心を救う事をも使命とするのか。
「だけど、今の帝撃…特に花組にはかつての力はもう無いの」
劇にあまり詳しくない俺でも、昔の帝国歌劇団の活躍は知っている。目の前の神崎すみれは、かつてトップスタァとして、ここ大帝国劇場を賑わせていたという。しかし、今の帝劇でそのような話は全くない。俺自身、華撃団は解体されたのかと思っていた程だ。
「さて、ここからが本題よ。来栖川智久くん、あなたに帝国華撃団・花組の隊長になってもらいたいの」
「任務というのなら謹んでお受け致しますが…自分でよろしいのですか?」
俺は懸念を口にする。
なんであろうと任務は遂行する。その気でいたが、よもやそれが再び人の上に立つ事だとは。
「…あの事件のことは聞いているわ。けれどね、その上で、私はあなたが適任であると判断したのよ。それとも、あなたには荷が重いかしら?」
「…自信がないとは言いません。閣下が
「よろしい。期待しているわ、来栖川くん。これから、頼りにさせてもらうわね」
「はっ、こちらこそよろしくお願い致します、閣下」
「…その閣下というのはやめてくれるかしら?平時は「支配人」、作戦時は「司令」でお願いするわ」
「はっ、かしこまりました、支配人」
現時刻をもって俺は帝国華撃団・花組の隊長となった。神崎支配人は、現在の華撃団は弱体化していると聞いたが、さてどれくらいのものか。
「そうそう、帝国華撃団の当面の目標は世界華撃団大戦に勝利することよ」
ほう、これはまた大きく出たな。
世界華撃団大戦といえば、2年に一度開催される平和の祭典だ。種目は大きく二つに分かれ、「演舞」では歌劇の実力を競い、「演武」では霊子戦闘機を操縦する技量を競う。各国の華撃団が出場し、競い合うこの祭典は世界的な賑わいを見せている。
「世界華撃団大戦ですか。それをこの帝国華撃団が?」
「ええ。だけど今は、心の隅に留めておく程度で構わないわ。まずは、花組の隊長としての職務を知ってもらわないとね」
そう言うと、神崎支配人の隣にいた女性が俺の方に向かってくる。
「初めまして、来栖川さん。私はすみれ様の秘書、
「来栖川智久です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「以後は私が案内します。と言いたいところですが、まずはあなたが指揮する花組の隊員と会うのがよろしいでしょう。劇場のどこかにいるはずですので、探してみてください」
顔合わせは重要だ。まずは部下をよく知るところからだな。
「了解しました。では、失礼いたします」
そう言い、俺は支配人室の扉を開け、部屋を出る…
「あたっ⁉︎」
「む?」
扉を開けた先の廊下には、おでこに手を当てるさくらがいた。
「ほう、奇遇だな。こんな所で会うとは」
「あ、あはは…す、すごい偶然ですね…!」
「それで、何か聞き取れたか?」
「いや〜、ここの扉、分厚くって何も聞こえなかったんですよ……あっ」
カマをかけると、さくらは簡単に引っかかった。面白い。
「やはり盗み聞きしていたのか」
「うっ…」
「まぁ構わん。どちらにせよ明かされる事だ」
「何のお話だったんです?」
「俺がこの帝国華撃団・花組の隊長に任命するという話だ」
それを聞くと、さくらは嬉しそうに飛び跳ねた。
「わぁ〜!そうなんですか⁉︎私も、花組の一員なんですよ!だから、智兄さんは私の隊長さんですね!…あっ!ということは、これからは来栖川隊長って呼ばないとですね!」
さくらは喜びが抑えきれないのかまくし立ててくる。なんとも可愛いやつだ。
「変にかしこまる必要はない。だが、そうだな…俺のことは来栖と呼ぶといい。海軍時代はそう呼ばれていた」
「はいっ、来栖隊長!」
「では、俺も
俺がそう言うと、さくらは首を横にぶんぶん振って否定する。
「そ、そんなに堅苦しくなくていいですよ!今まで通り、さくらと呼んでください」
「そういうものか?」
「そういうものです!…そうだ!来栖隊長を他のみんなに紹介しなきゃ!それに、大帝国劇場についても知りたいですよね。私が案内します!」
さくらが案内してくれるというならありがたい。慣れぬ施設を1人で歩き回るとなると、立ち入り禁止区域に入ってしまうやも知れぬからな。
「それは助かる。頼んだぞ、さくら」
「はいっ!」