お耳は痛いしお目々も見えない 作:Uberルーパー
レース描写ぁ?ンー、キンクリキンクリ
(実力不足を何も省みない人間のクズ)
緑色の芝がオレンジ色に染まり始める夕暮れ時、日本ウマ娘トレーニングセンター学園において、新入生用の模擬レースが開催されていた。
主催はチームリギル。七冠ウマ娘を始めとした実力者が所属する学園最強と名高いチームであり、この模擬レースで一位を勝ち取った者だけがその扉を叩く資格を得ることができる。
出走を控えるウマ娘をリギルメンバーが誘導し、ゲートへ向かっていく中、出走表を眺めるリギルトレーナー、東条ハナに話しかけるものが一人。
「よっ、おハナさん。いつにも増して強張った顔だけどどうした?注目してる奴でもいるのか?教えてくれない?」
「急に話しかけないで…。そういう事教えるとあなた、その子が二着になった時や交渉がもつれた時に掻っ攫っていくでしょう。というより、あなたなら入学時の資料であたりは付けてるでしょうに」
人影の正体は飴を加えたトレーナー、チームスピカを率いるこれまた優秀な人物である。
入学時の資料とは言うが、新入生の数は軽く三桁台に達する。
それらを入学から模擬レースまでの短い間に確認するということは相当な労力だが、当たり前のように確認を前提として話し合うところから、この二人の能力の異常性が伺える。
軽口を言い終え、新入生達に目を向けると、スピカトレーナーの雰囲気が専門家のそれへと変化する。
「…やっぱりオルフェーヴルか」
「ええ、レース勘や気性に粗はありそうだけど、あの能力には目を見張るものがあるわね。順当にいけばこのレースはあの子が勝つのでしょうけど…」
「なんだ、言い淀んで。ちょっと気になってる子でもいるのか?」
そう言われ、ハナは出走希望者を集めた時の決意表明について話し始める。
一通りウマ娘達の決意表明を聞き届け、残り数人となったところ、次、次、とスムーズに進んでいた流れが唐突に断ち切られた。順番が来たその少女は自信満々な笑顔を浮かべながら、エッヘンと効果音が出そうなほど胸を張って腰に拳を当てており、ズカズカとハナヘ向かってくる。
そして顔がぶつかる程に近づくと、耳元に口を寄せ、小声で決意表明をしてきたのである。
「なんだその面白いやつは…、今度ゴルシに伝えとこ。それで?その子がここで走るのか?」
「そう、小柄で、青紫の髪をしていて、たしか名前は…。あっ」
そう驚嘆を漏らしたときには遅く、既にゲートは大きな音を立ててウマ娘達を開け放っていた。
ただ一人、一瞬気絶したように立ち止まる青紫の少女を置いて。
私は強い。それを疑ったことは無い。というか疑う余地がなかった。どんな強者にも勝てるという訳では無いのだろうが、少なくとも地元じゃ負け知らず。テレビで中継されるレースを見ても、好走は可能だな、なんて客観的に見てもそう思えるくらいだった。
トレセン学園に来ても、それはあまり変わらなかった。入学試験では他の走者を軽々と抜き去り、日々の授業トレーニングを見ても能力は圧倒的。模擬レースが始まる前だって誰も彼もを歯牙にもかけなかった。
少なくとも、レース終盤までは。
(何だコイツ何だコイツ何だコイツッッッ!!)
模擬レースだし、マスクも付けてちょっと力抜いて走ろっかなーなんて思っていた少し前の自分をボコボコにしたい。今、青紫の髪をもつ小柄なウマ娘が横に並んでいる。
後ろから、いつの間にか追い込まれていた。寸前まで気がつけなかったのが不思議に思えるほどのプレッシャー。圧倒的能力をもつ自身に引けを取らない、というかほぼ互角のスピード。
そして何よりも自分を驚愕させたのが、
(何で、何で目ぇ閉じてやがるッ!)
視覚から得られる情報は、どの感覚器官からもたらされるものよりも人、ウマ娘にとって重要だ。それを意図的に遮断して走るメリットは皆無と言える。
そこから分かる事実にまたも愕然としつつ、今は走ることに集中しなくてはならない、と意識を切り替える。差しの作戦をとっている自分よりも後ろから来たということは、恐らく脚質は追い込み。その通りならば最後の切れ味ではこちらが勝る。
追い抜き、追い抜かれ、そのやり取りを何度も繰り返す。
そして、残り百メートルに差し掛かる直前。
「今ァ!」
こんな感覚は初めてかもしれない。
誰かと競り合って、頭を使って、意地で限界を気にせず走って。
そんなことを思って身体を倒したゴールの瞬間、いつの間にか外れていたマスクが隠していた口元は、好戦的に笑っていた。
「…なぁ、今の」
「ええ、目、閉じていたわね」
オルフェーヴルは一着、話に上がるウマ娘は二着である。
二着といえば、おこぼれ狙いのトレーナー達がこぞって勧誘に集まるものだ。実際、誰もが目を離す、気絶したような出遅れからの爆弾の様な追い上げは喉から手が出る程欲しいトレーナー達が多いはずだ。しかし、
(目を閉じきって走っていた。恐らくは、…盲目)
それでも走ることができていたという事は、目が見えない代わりに他の感覚器官のどれかが異常に発達しているのだろうか。有力な線は聴力だろう。普通の感覚を持ったウマ娘でも、レース中に聴覚で後方を把握することは少なからずある。
脚音、腕を振る音、呼吸音、もしかしたら心音まで把握してレースを掌握しているのかもしれない。というより、そこまでのアドバンテージがない限り、盲目で走ることなどできない。
資料の備考にもその旨が無かったのは、問題ないと判断した理事長の、先入観や偏見を持たずに彼女の走りを見てほしいという願いからだろうか。そうだとしても少し心臓に悪い。主催者の自分くらいには教えて欲しい、なんて思ってしまう。
誰もが彼女に駆け寄らない。あんなハンデを背負って尚走り続ける子は見たことがなく、取り敢えずは様子見、という判断を下す者がほとんどのはずだ。
…ただ一人を除いて。
「全く…、あの馬鹿」
いつの間にか青紫のエッヘン少女に全速力で駆け寄る飴ペロトレーナーが一人。無許可で脚を触り始める不審者を寛容に受け入れるウマ娘も一人。確かに彼はああいった子が大好物だろう。
相変わらず拳を腰に当てて胸を張り、熱烈なアプローチを受けて顔を真っ赤にする少女を見て、ハナは決意表明の時に耳元で聞こえた可憐な声を思い出す。
―――ライバルになる子に、勝ちたいです
ああ、確かにライバルになる。口端を釣り上げる鹿毛の少女のもとへ歩き出し、そんなことを予感していた。
「ミクロノイジア、ね。覚えておきましょう」
(エッ、決意表明?まだ自分の声うるさくて無理なんですけど…。そうだ、耳元で話せば万事解決じゃね?俺天才だったわ。おい何だ見てんじゃねえよ舐めてんのか。いや舐めてないな。胸張って自信満々にしておけば何も喋らなくても舐められないってお母さん言ってた。
てかレースかぁ、仕方ないことだけどゲート嫌だなぁ。気絶するんだもん。そのせいで目が見えないのに追い込みしないといけないし。くそう!あまりにも世界が辛辣!
オルフェ強すぎんか?能力リセットされてるとはいえ俺ニ周目だぞ?
てか沖トレェ!俺の才能に見惚れたのか知らんが急に脚触んじゃ、アッアッやめてッ、急に口説かないでッ、分かった分かった触っていいしチーム入るからぁ!)
架空馬好きの架空馬小説作者さんに影響を受けてこの小説を書きました。届きますようにって思ったけどこの作品架空馬要素少なすぎでは…?
声が出せないせいでもし物語が進んでいったら勘違い系になったり曇らせ系になるんだろうなぁ、コイツ。
あとおハナさんが思ってるよりノイカスの聴覚は発達しています。どのくらいかって言うと舌すら使わず空気の擦れる音とかで常時エコー使って物体感知してる感じ。ノイカスがよぉ(悪口)
馬の描写難過ぎて人型の方が筆乗っちゃう作者を許してぇ…