葉山くんは空気が読めない   作:sparekey@設定厨

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葉山くんは空気がよめない

 

 

「空気」もしくは「雰囲気」

それらは上手く言語化できない情報を曖昧かつ適切にまとめたラベルのようなものである。

 

 

例えば君が人と話すとき、君の五感はその人の表情を見る。

次に声を聞く。語感や声の強弱それらを統合して君の脳は相手の機嫌を察することができる。

そこから読み取れる情報を認知して、その上で君は応じる。

或いは応じないことを決めることができる。

 

 

これが対面するのが集団だとより顕著な結果がでる。

個人個人の行動・仕草・言動・態度。

君の視覚あるいは聴覚はそれらを様々な角度から情報を集積して精査する。

 

脳は個々人の観察した情報を記憶することなく

「雰囲気が悪い」という情報ラベルだけ記憶する。

 

結果、脳に残るのは何故か根拠は説明できないが

その場の雰囲気だけは理解できるという結末である。

 

これが空気を読む。という能力の一端である。

 

 

ここにその能力に難を抱えた一人の男がいた。

 

 

   ×  ×  ×

 

 

「雪乃ちゃんあーそーぼー‼」

 

静かな教室で幼い少年の声が響く。

周囲は先ほどの事も合間って、教室には少年の声につられて周囲の視線はそこに集まった。

 

「柚耶くん、遅いわ。お陰様でおサルさんに絡まれたのだけど。」

ふんまんやるかたないと鼻息荒く怒る彼女の名前は雪ノ下雪乃。

 

事の発端は、彼女がとある男子生徒を中心としたグループに遊びに誘われて

それをにべもなく断ったことから始まった諍いだった。

 

その男子生徒が女子生徒を多数引き連れて遊びに誘ったが

彼女はそれを断った。

 

しかし、男子生徒はめげずにあの手この手で何とか連れだそうした。

断り続ける女子生徒にそれを誘い続ける男子生徒。

 

面白くないのは周囲に居た女子生徒である。

幼いながらも少女とて女である。

目当ての男子生徒が本当に誘いたいのは誰なのか察した周囲の女性たちは嫉妬もあって

彼女を批難しはじめた。

 

「葉山くんが誘っているのにお高く止まって嫌な感じ」

「頭がいいからって調子にのってるんじゃないの?」

「ちょっと可愛いからってうっざーい」

 

 

当人にそんなつもりはなくとも、気づけば自分を中心としたグループが

一人の彼女と対立する関係になってしまった。

 

慌てた男子生徒、葉山は周囲を止めようと大声で言い放った

 

「みんなやめるんだ‼‼」

 

 

普段、大声で叫ばないからなのか彼の周囲は静けさに包まれた。

それは叫んだ当人にも予想外の出来事で

いざ静まった周囲を前に次は何を話せばいいのか頭の中でぐるぐると思考が回った。

 

そんな時である。

まるで昔馴染みを誘うかのようにふわふわと気が抜ける声が響いたのは。

 

その気安い関係をあらわすように、先ほどまで自分が誘っていた雪乃はその声の主の腕に引っ付きながら文句を言っていた。

 

周囲にはどう写っていたか解らないが葉山には解った。

雪乃が憎まれ口を叩くのは気安い関係の人間だけなのだ。

もっと幼い頃には自分にも文句をよく言っていた。

そんな雪乃の話を「やれやれ」と言いながら聞くのが自分の役目だった。

そしてそんな関係が大好きだった。

 

 

周囲に悟られぬようになるべく取っつきやすい笑顔で接しながら

声の主を見たとき、葉山隼人は絶望した。

 

 

葉山柚耶。

懸想する相手が自分にしか向けていなかった好意〈の裏返しのような行為〉を向けていたのは

双子の弟だった。

 

 

葉山隼人にとって弟は、特別苦手なものだった。

 

しかし、ここは引いてはいられない。

このままでは、まるで自分が彼女を批難した一派と思われてしまう。

せめて誤解だけでも解かなければ。

 

 

心機一転、柚耶に声をかける。

 

「柚耶、いま僕が雪乃ちゃんと話しているんだ。柚耶の用事は後にしてくれないかな?」

 

周囲は黙ってその状況を見守っていた。

出来るなら騒がしくして欲しいのだが、、

もっとも自分が叫んだ結果が、いまの状況になのだから誰に言えばいいのかは解らないが

 

 

そんなことを考えながら柚耶の顔を恐る恐る伺うと、不可思議なものでも見たかのように首を傾げている。

 

「ん?昨日、雪乃ちゃんとお昼休みは一緒に図書室に行こうねって約束したんだけど。お兄はそれよりも早く約束したの?雪乃ちゃん酷い‼嘘つきは首ちょんぱだよ‼」

 

飛び火するかのように自然と雪乃を責め立てる。

 

雪乃は目を真ん丸く驚かせた後、キッと効果音がなりそうな程睨みながら言った

 

「そんなことしてないわ‼どうして私のせいになるの‼大体私は何度も何度も断ってるのにしつこく誘ってくるのは、あなたのお兄さんでしょ‼」

 

 

そう言いながら、雪乃が睨んでいるのは隼人である。

話が飛躍しているし。そもそも、隼人はその約束すら知らなかったし

そうならそうと言ってくれればまた別の形で誘ったし

そもそも首ちょんぱは怖すぎる。

 

「そんなわけないでしょ‼僕の兄さんがそんな自分勝手で頭の悪いことするわけないでしょ‼

だって、嫌がってる女の子を無理矢理誘うのは最低ってことくらい、お兄は知ってるし

 

それをこんな大人数で責め立てるように誘うのは苛めだよ‼

僕の兄さんがそんな犯罪者みたいなことするわけないでしょ‼」

 

 

隼人が弟を苦手とする最たる理由がこれだった。

本人は無自覚らしいのだが、柚耶としては兄である自分を援護のつもりでやっている行動が

結果として隼人を責めるような結果になるのである。

 

しかも質の悪いことに柚耶は兄である隼人を好いている。

好意と善意によって、隼人は今まで何度も追い詰められてきた。

 

好意と善意によって隼人は

柚耶に頭の悪い犯罪者扱いされているのである……。

 

 

どう言い繕っても雪乃に批難されると思った隼人は断腸の思いで決断した。

 

 

 

 

 

「それは邪魔して悪かったね。柚耶、いってらっしゃい。」

 

 

逃げたのではない。戦略的撤退だ。

自分にそう言い聞かせながら、心中は何か取り返しのつかない選択をしたのでは?という不安感が拭えなかったが、間違っていない筈だと言い聞かせた。

 

 

遠くの廊下ではじゃれあう二人の声が聞こえる

「私を信じなかったのだから首ちょんぱの刑なのよ」

「ごめんよ雪乃ちゃーーん」と言いながら柚耶の首に抱きついてイチャついてるようにしか見えないが

気のせいったら気のせいである。

 

儚い隼人の背中に周囲は何かを悟ったのか

お昼休みの時間、先ほどまでの喧騒とは打って変わって

どこかみんな優しかった……。

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

雪ノ下雪乃にとって、葉山柚耶は愛すべき悪友である。

早熟だった自分は、道理の曲がることに対して妥協出来なかった。

そんな傍らで「それはこんな風にやれば上手くいくよね」と示し続けたのが彼であった。

もっともそれが正しい方法なのかどうかは置いておいて……。

 

いまよりももっと幼い頃に両親に「デステニーランドに連れていってほしい」とおねだりしたことがあった。

周囲の人間がさも素晴らしい場所であるかのように自慢するものだったから羨ましかったのもあるし

あまり雪乃が両親に遊びに連れていって貰えなかったのもある。

いま思えば甘えたかったのかもしれない。

 

 

父親は次のお休みに連れていってくれると約束したが

母親は習い事の習字が上手く出来たらと課題をだした。

 

その日から、雪乃はデステニーのキャラの一つであるパンさんの本を傍らに習字の課題に果敢に挑んだ。

元々、自身の手が小さいのもあって習字が苦手だった雪乃は

逆境何のそのと燃えていた。

打倒「そ」と「ね」である。

 

 

一週間たった週末に、雪乃は敵を討ち取った。

 

 

「そ」のバランスの悪さと「ね」のくるんとした後の小さな丸に勝ったのである。

半紙の左端には赤文字で「大変良くできました」の文字が誇らしく書かれていた。

 

威風堂々とその二枚の半紙を掲げながら

雪乃は家の廊下を闊歩した。

さながら英雄の凱旋の様である。

 

仕事場の部屋として扱われている一室の前に着いた時

雪乃は深呼吸をして、入室しようとした。

 

 

 

その時、部屋の声で争っている声が聞こえてきた。

 

難しいことは解らなかったが、県議会議員である父が何処かに行かなければならないらしい。

 

 

けれども、今日は約束をした当日だ。

 

デステニーランドに連れていってもらって

甘いお菓子やふわふわのパンさんに囲まれて幸せな一日を過ごす約束をしたのだ。

そのために腕が痺れてもこの日のためと「そ」と「ね」を倒したのだ。

 

くしゃくしゃになった半紙を握りしめるとなぜだか涙が溢れた。

理由は解らないが、ここは雪乃が納得しなければいけない気がした。

それが「いい子」で、それができない子は「ダメな子」になる。

 

だから雪乃は静かにそのまま自室に向かった。

ふかふかのベットに埋もれて、パンさんの本でも読もう。

そうすれば、もやもやした何かも何処かに行く筈だ。

 

 

 

そんなとき、ふらふらと歩く先に彼は居た。

なぜかパーティー用のドレスを着て、変なお化粧をして向こうから歩いてきたのである。

 

ドレスである。

ひらひらのレースにピンクの生地のドレス。

控えめに言って変態だと思った。

 

雪乃は家に変態が居ると思い、慌ててその男に立ち向かった。

 

「人のお家でなにしてるのかしら。」

 

片手に来客用のスリッパ、片手にくしゃくしゃになった半紙をもって挑んだ。

 

 

「あれ?はるちゃん小さくなった?」

 

それだけで、姉の友達だと理解できた。

たぶん姉のいつものイタズラでドレスを着せられて化粧という名の落書きをされてるのだろう。

雪乃にも心当たりがあった。

姉は一度相手を気に入ると、際限なくおちょくってくるのである。

大まかな事情を察したのと同時に男に同情した。

 

けれど、雪乃はそれがなぜだか面白くなかった。

自分はこんなに我慢しているのに姉が目の前の変態と一緒にケラケラと笑う姿が想像できて

それが無性に腹が立った。

 

「姉と私の違いもわからないなんて。変態さんでおバカなのね。」

 

「はるちゃん、口が悪くなった?」

 

精一杯の悪口も聞き流され、頑固として姉としか見ない変態に雪乃はより一層刺を刺した

 

「あら、変態さんは耳もおかしいのかしら。おかしなところだらけね。」

 

「はるちゃんは疲れておかしくなっちゃったんだね。かわいそうに。およよよ」

 

柳に風のように嫌みを受け流し、頑として姉扱いする男の子に

腹が立って、雪乃は持っていたスリッパで頭を叩いた。

 

けれども叩かれた彼はいたがる素振りも見せずに雪乃を責め立てた。

 

「人は叩いちゃいけないんだよ。そんなことも解らないの?」

 

男の子を睨みながら雪乃はなにも言えなかった。

確かに叩いたのはいけないことだったかもしれない。

でも、でも私は雪乃だもの。お姉ちゃんじゃないもの。

 

パニックのように頭の中がぐらぐらする中で男の子が言い放った言葉が雪乃に止めを刺した

 

「君はダメな子だね、」

 

 

じわじわ滲むように視界が涙で埋まり。

決壊したダムのようにこぼれる涙を腕でぬぐりながらも言葉がこぼれる

 

「雪乃はダメな子じゃないわ。ヒッグ……だっ…て習字も頑張ったもの……グッ」

 

嗚咽混じりに溢すのは、先ほどの事だった。

私は頑張ったもの。約束したもん。

でもでも私はいい子だから我慢できるもん。

 

そんな文にならない言葉の欠片がこぼれる。

 

「「そ」も「ね」も……ウッグ、綺麗に、書けるようになったって……先生も言っていたもの…ズッ」

 

「そっか。」

 

「雪乃はちゃんと我慢してるもん。ダメな子じゃないわッ」

 

すると頭を傾げて男の子は不思議そうに聞いた。

 

「我慢できたらいい子で、我慢できないのはダメな子なの?」

 

グシッグシッと服の袖で目元を拭う手を掴み、男の子がハンカチで涙をポンポンと優しく拭いながら聞いた。

 

 

「それは……だってお母さんも言っていたもの。聞き分けのない子は悪い子でダメな子ねって。」

 

「約束も守って、嫌いなことも頑張ったのに?」

 

「嫌いじゃないわ。すこし苦手なだけ」

 

「じゃぁそれで……。」

 

すこし面倒臭そうな顔をしながら、ウエーっと舌を出しながら男の子は嫌そうな顔をした。

 

「じゃぁ僕はダメな子でいいやー。」

 

あっけらかんと答える男の子に雪乃は未知の生物を見たかのような顔をした。

 

「どうして?ダメな子のままじゃよくないわ」

 

「どうして?」

 

「だって、ダメな子は遊びに連れていってくれないもの。」

 

「雪乃ちゃんはいい子にしてたら連れていってもらえた?」

 

「でも……だって、それじゃ怒られるわ」

 

男の子は優しく笑いながら言った

 

「怒られても、怒られなくても何も変わらないなら、楽しい思いをして怒られた方がよっぽどいいよ。」

 

雪乃にはよく解らなくなった。

確かに、どう頑張ってもどうにもならないのなら楽しい思いをして怒られた方がいいような気もしてきた。

でも、それと同じくらいダメな気もする。

 

「いいかい、雪乃ちゃん。今から正しい我が儘の仕方を教えてあげる。」

 

「正しい我が儘の仕方?」

 

「そう。きっと君も楽しませて見せるよ。その代わり一緒に怒られてくれるかい?」

 

雪乃は考えた。

このまま憂鬱な気持ちのまま過ごすより怒られてでも我儘を言ってみるのもいいかもしれない。

それに何より、二人で一緒に怒られるのならいつもより怖くない気がする。

 

 

「いいわ。約束よ。」

 

「うん。約束ね。」

 

そういうと男の子はその姿のまま、さっきまでの部屋のドアを開けた。

雪乃はドアの後ろでこっそり様子を見ていた。

 

 

バンっとドアを開けると、お母さんとお父さんは一斉に男の子を見た。

 

「おや、柚耶くん。あー、変わった格好をしているね。」

 

「……柚耶くん。その格好は陽乃の仕業ね。陽乃を連れてきなさい」

 

 

怖い。

雪乃はそう思った。

特にお母さんが怖い。

ここから男の子はどうするのか。

腰を屈んで中の様子をこっそり覗き、ドキドキしながら待った。

 

 

 

「あら、私は雪乃なのだわ。娘の顔も解らないなんておバカなのね。」

 

何処かで聞いたことのある悪口にギョッとした。

 

「えっ、あー。うん。そうか雪乃だったか。」

 

「そうなのだわ。雪乃なのだわ。」

 

お父さんは一瞬戸惑いながら目の前の男の子を雪乃と呼んだ。

お母さんは仕方なさそうに呆れたようにお父さんを見た。

 

「雪乃はどうして、ここに来たんだい?」

 

「そんなの簡単なのだわ。約束を履行してもらいに来たのだわ。」

 

そう言いながら。いつの間にか持っていた私の習字の二枚を広げて見せた。

 

「これは最後まで苦労したのだわ。腕もパンパンに腫れたけど、デステニーランドに行きたいから頑張ったのだわ。」

 

そう言うとお父さんは優しく笑って関心したように習字を見た。

 

「結果を出したのだから、今度はそちらが守る番じゃないですかね?」

 

「それは……困ったね…。」

 

お父さんは困ったように笑う反面、お母さんはすこし怒ったように言い放つ。

 

「柚耶くん。何が目的か解りませんが、子どもが大人の話に入ってくるのはやめなさい。」

 

そういうと柚耶くんは、床にべたんと寝転がって手足をバタバタさせながら叫ぶように駄々をこねはじめた。

 

「いやなのだわ。いやなのだわ。デステニーに行きたいのだわ。約束したのだわ。だわなのだわ」

 

ぐるぐる床を回りながらだわだわ叫ぶ柚耶くんを見て

お母さんはため息を吐きながら頭が痛そうに押さえ

お父さんは笑っていた。

 

さすがに恥ずかしくなって、勢いよくドアを開けて止めに入った。

 

「私はそんなにだわだわ言ってないわ‼‼」

 

「だ……わ?あなたは誰なのだわ?」

 

私は柚耶くんを引っ張って部屋を出ようとした。

 

「もう早く出るの」

 

「イヤなのだわ。私は今日のために嫌いな……じゃなかった。苦手な習字を克服したのだわ。」

 

「早くでるの」

そう言いながら柚耶くんを押してもちょっとずつしか進まない。

 

「腕も痛かったし、居残りもしたけど、それでも頑張ったのだわ。」

 

「ほら、はやくっ……。」

 

その内、押す力がどんどん出せなくなって

何で柚耶くんを追い出そうとしてるのか解らなくなってきた。

 

「部屋の前までに行って、誉めてもらおうとしたのだわ。けれども、二人がお仕事で忙しそうにしているのが解ったから泣いて自室に戻ろうとしたのだわ。」

 

「……。」

 

「部屋に戻って何でもないようにしてないとダメな子になるからって。

 

雪乃はいい子だから気にしないっていいながら

せっかく頑張った紙をぐしゃぐしゃにしながら泣いてましたよ。」

 

 

柚耶くんはふざけた格好をしながら

ふざけたように駄々を捏ねながら

私が思っていることを真剣に言っていた。

 

そう思うと、柚耶くんを追い出そうとは思えなかった。

 

 

いつの間にか私は柚耶くんの背中を掴んでいた。

 

 

「なので雪乃は今日から悪くてダメな子になるのだわ‼いい子にしてもいい事がないなら我儘好き勝手にやった方がましなのだわ。」

 

そう指をさすと、私の腕を引っ張って部屋を出て行こうとした。

 

 

「だっせー大人。」

 

柚耶くんが中指を立てながら部屋を出る。

 

二人で部屋まで歩いていると、お母さんが追いかけてきていた。

 

 

「雪乃。来週末は、時間が作れるわ」

 

何処かよそよそしいお母さんは目をそらしながらそう言った。

むくむくと嬉しさが滲み出るように嬉しくなった私はお母さんを抱き締めた。

 

お母さんは小さい声で「ごめんなさい」と優しく頭を撫でると部屋に戻っていった。

 

 

確かに、こんなに幸せな気持ちになれるのなら

たまには我儘を言ってみるのもいいかもしれない。

 

でも、あんな風に駄々をこねるのは恥ずかしい。

それに私はあんなに変な話し方はしない。

 

その事に文句を言ってやろうと柚耶を探したけれど

結局その日は何処にも柚耶の姿を見つけられなかった。

 

 

 

 ×  ×  ×

 

 

「あー、楽しかった♪」

 

汗ばんだ額を拭いながら満足そうにぼやけば

部屋の片隅に居た少女はつまらなそうに口を尖らせた。

 

「結局柚耶は何がしたかったの?」

 

「んー、陽ちゃんは不満?」

 

三角座りしながら、不満そうな顔で訪ねる少女は本当に理解できないのか

ねぇねぇと柚耶の頬を何度もツンツンしながら訪ねる

 

「何で?どうして?何が?どう思っていて、何を考えているの?

 

全部解っちゃったら、楽しくないでしょ。」

 

 

「んー、そんなもん?」

 

「そんなもん♪」

 

「理解はできないけど、柚耶がそういうなら聞かない」

 

「ん。陽ちゃんのそーいうとこ嫌い」

 

笑顔で柚耶が答えれば「ウガーー」っと頭をガシガシかきながら唸る。

 

 

「柚耶は結局私のことが嫌いなのーー?それとも好きなの?はっきり聞かせなさいよ‼」

 

「嫌いなところもあるけど、陽ちゃんは好きだよ?」

 

陽ちゃんと呼ばれる少女は限界が来たのか床にゴロゴロ転がりだし駄々をこねはじめた。

 

「わからないのだわ、柚耶が何を考えているのか解らないのだわ」

 

柚耶は呆れて陽ちゃんを見る

 

「なにそれ、変なの。」

 

「さっきの柚耶の真似っ子ー♥」

 

えへっと笑いながら、ぼさぼさになった髪を整えながら上目使いで見つめる。

 

「あざとすぎるかな?三十点。」

 

「ちぇーッ」

 

いじけるように拗ねて見せれば、柚耶は頭を撫でながら微笑んだ。

 

「陽はそうしてる方が可愛いよ。」

 

そう溢しながら、ドアを開けて出ていった。

呆けた表情をしながら誰も居なくなった部屋で陽はごちた

 

「なにそれズルい……。」

 

 

 

 

 

×

 






習字の赤い墨汁に憧れたのは、僕だけではない筈

次回 9月29日 21時00分更新


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