葉山くんは空気が読めない   作:sparekey@設定厨

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葉山くんはおうどんが食べたい

葉山隼人は深く深くため息を吐いた。

 

件の事件が起きてから三日程経った今日

ようやくやっと心の準備が出来たのである。

 

覚悟を決めた隼人は、弟の柚耶の部屋の真ん前まで来ていた。

ドアをノックする前にもう一度頭のなかを整理した。

 

葉山隼人が柚耶に訪ねたいことはたった一つ

 

 

「雪乃ちゃんの事をどう思っているのか?」である。

 

 

しかし、余りにも直接的に聞くのは憚られた。

なんというか、恥ずかしさとは違うムズムズした感情が

背中から顔にかけて駆け走るのだ。

 

そこからどんどん本来聞きたい内容から離れては近づいてを繰り返して

頭の中でシミレーションを何十回もしたが

柚耶の予想を立てるのがあまりに難しく頓挫した。

 

堂々巡りの隼人の頭の中は混乱の最中にあった。

 

 

「もし、柚耶が雪乃ちゃんの事が好きだったらどうしよう……。」

 

その疑問から始まり

大体、二人はいつの間に知り合ったんだ?

兄としてここは応援するのが正しいのだろうか?

……いやいやでも僕の方が先に出会った筈だし?

ここはお互い兄弟の立場を無視して真剣勝負に挑まんとするべき所だろうか

いやでもこの前の事を考えれば敗色濃厚なのは僕の方では?

牽制をするべきだろうか。いや、それは男らしくないかもしれない。

いや待て待て。そもそも柚耶が雪乃ちゃんの事を好きとまだ決まった訳でもないし。」

 

 

かつてない程に錯綜した思考が口から漏れてしまってた。

そんな隼人の顔にババンとドアがぶつかった。

 

 

「あれ、お兄?」

 

扉で鼻先を強く打ち、あまりの痛さに怒鳴りそうになったが

冷静に考えれば扉の前で考え事をしていたのは自分の方だ。

 

この事で柚耶を責めるのはお門違いだと自分に言い聞かせ

鼻頭を擦りながら柚耶に声をかける。

 

「や、やぁ柚耶。えらく勢いよく扉を開けるんだね。びっくりしたよ。」

 

然り気無く、鼻を押さえて痛がる素振りで訪ねるように聞くと

柚耶は真剣な眼差しで隼人に訪ねた。

 

「そんなことよりお兄、いまここにネッシー居なかった?」

 

隼人は混乱した。

えっ??ネッシーてあのUMAのネッシーかい?なんでここでUMA?

ネッシーはせめて湖とかじゃないかな。

なんて考えながら、ふと昨晩の柚耶を思い出した。

 

 

そういえば、昨晩の特番で柚耶は《~怪奇!UMA特集 現代に甦るUMAの奇跡~》なるものを遅くまで見ていたのを思い出した。

 

そんな事を思い出しながら隼人は鼻の痛みも忘れて、微笑ましい気持ちになった。

虫眼鏡片手に寝癖も直さず、真剣にUMAの事を考えている弟を見ると心がほっこりした。

 

隼人は早い内にサンタの正体に気づいたし

幽霊も妖怪も信じちゃいない。

 

 

 

けれど、弟はまだ信じているのだ。

 

ここは兄として現実を叩きつけるのはあまりに大人げないのではないか

弟の中ではサンタも居るし、妖怪だって信じているのかもしれない。

そんな夢を壊すのは兄として不甲斐ないのではないか。

 

そうだ、たまには弟のおちゃらけに乗ってみるのも言いかもしれない。

ちょうど聞きたいこともあったのだし……。

 

 

そう思うや否や、隼人はなるべく優しい声音で柚耶に訪ねた。

 

「柚耶はどうしてここにネッシーがいると思ったんだい?」

 

そういうと柚耶はひょいひょいと手招きして

隼人の耳元に小さな声でぽしょぽしょと話を始めた。

 

 

「あんね、昨日のTV番組の情報でネッシーは湿地帯っていうジメジメした所が生息地らしくてね」

 

うんうん、と頷きながら続きを促した。

 

「ほんとついさっきまで扉の向こうでボソボソと気持ち悪い声が聞こえてね。」

 

隼人は嫌な予感がしたが、そのまま「うんうん」と耳をすませた。

 

「あんなぼそぼそ呟くのは、ジメジメした陰険な場所に住んでるやつに違いないと思って、ネッシーなのかなって」

 

隼人は思い返した。

そう言われて見れば考えが声に漏れていたかもしれない。

けど、陰険って…これは兄弟に不義理な企みをした罰なのか?

あんまりな仕打ちに隼人は鼻の痛みを思い出した。

 

 

「でも、雪乃ちゃんはネッシーなんていないって言うんだ。

だから、二人で陰険なネッシーの野郎を捕まえてやろうと思って。」

 

 

隼人は真顔で言い放った。

 

 

 

「いいかい柚耶。ネッシーなんていない。」

 

隼人は鼻を押さえながらそう言いきった。

 

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 

昼食の時間になると、二人は自然にリビングに集まった。

慣れた手つきで隼人はピザの宅配チラシをテーブルに並べた。

 

 

二人で注文するためにチラシを眺めていた。

最近は両親も相当仕事が忙しいらしく、こうして宅配サービスのお世話になる機会も増えた。

 

柚耶はチラシに飽きたのか、慣れた手つきでスマホを弄っている。

おそらく他社のピザ宅配サイトでも探しているのだろう。

 

 

正直、隼人と柚耶の食べ物の好みは全く違っている。

兄弟でここまで別れるのか、と言うほどに真逆だ。

 

 

柚耶はピザにパイナップルが乗っているのは許せない派だし

隼人は結構好きだったりする。

 

柚耶は温かいうどんが好物だし

隼人はどちらかといえば冷たい蕎麦が好きだったりする。

 

柚耶は辛いものは好きだけど

隼人はどちらかといえば辛いものは苦手だったりする。

 

それでもピザのトッピングはいつも柚耶に任せるし

年末の年越し蕎麦ならぬ年越しうどんは柚耶に合わせて同じものを食べている。

 

辛いものが好きな柚耶のために激辛料理店巡りに付き合ったこともある。

 

 

それは兄だからなのか、それとも柚耶だからなのか。

特に誰が決めた訳でもないし

親にだって「お兄ちゃんなんだから」なんて決まり文句を言われた覚えもない。

けれども、何となく柚耶に譲ることが当たり前になっていった気がする。

 

 

「柚耶はなにか食べたいものはあるかい?」

 

「んー、今日はお兄の食べたいのでいいよ。」

 

結局飽きたのかスマホを弄るのを辞めて、ぐでーんとテーブルに垂れかかっている。

 

 

「僕の好きなトッピングでいいのかい?」

 

久しぶりにハワイアンパインピザでも頼もうかと考えて隼人はすこしワクワクしながら聞いた。

 

「パインでも桃でもなんでもいいよー。あっ、でもサイズは小さめにしてね。」

 

「あんまりお腹減ってないのかい?」

 

 

「んー、今日は手作りのご飯が食べたい気分。」

 

「あー、まぁ解らないでもないかな。」

 

そうは言っても無い物ねだりしても仕方のないことだ。

隼人は弟の気持ちが変わらない内に、いつもよりワンサイズ小さいハワイアンピザを注文した。

 

「頼んでしまったけど良かったかい?」

 

「あー、うーん。」

 

気の抜けた炭酸のような返事をしたまま

ぐでーんとソファーに寝転びながら、だらだらスマホをいじりだした。

 

「結局パイナップルのやつにしたの?」

 

「あぁ、柚耶も食べなさそうだったし、たまの贅沢くらいの気持ちでね。」

 

言いながら、言い訳染みた言い分にさすがに悪い気がしてきた隼人は柚耶に聞き直した。

 

「やっぱり今からでももう一枚ピザを頼もうか?」

 

「ううん。今日はピザって感じでもなかったし。お兄は好きなの食べといて。」

 

 

そう言うと、柚耶は言いづらそうにもごもごと話はじめた。

 

「こういうと贅沢なのかもしんないけどさ

ピザも嫌いじゃないし、友達もピザは羨ましいって言うんだけど

 

そういうのじゃなくてたまには、こう……

お母さんが作ったお鍋とか食べたくなるっていうかさ。」

 

隼人は申し訳なさそうに話す柚耶の言いたいことを察した。

家は両親共働きだし、どちらの仕事も忙しくてなかなか家族揃っての食事の機会がない。

 

つまるところ、柚耶は寂しいのかも知れない。

 

なんと言っていいかわからず隼人はおためごかしのように

「母さんたちも忙しいから仕方ないさ」と溢すしかなかった。

 

 

 

ゴーン、ゴーンとインターフォンの鳴る音が家に響いた。

先程の気分を晴らすかのようにスキップしそうな気持ちを押さえながら玄関に向かった。

 

 

そうだ、たまの日くらい自分の好きなものを好きなだけ食べてもいいじゃないか

何だったら好きなサッカーの試合でも観戦しながら

だらだら寝転がりながら食べてもいいかもしれない

何て考えながら、上機嫌で玄関のドアを開けると

 

 

そこには大きな買い物袋を抱えた雪乃ちゃんが待っていた。

 

 

「えっ……といらっしゃい?でいいのかな?」

 

突然の来客に驚きながら、その相手が雪乃ちゃんだったのもあって

隼人の思考は停止した。

 

そんな隼人に雪乃は一瞥するように最低限の挨拶だけ残して

ズカズカと柚耶の居るリビングに向かった。

 

慌てるように追いかける隼人は雪乃ちゃんに何をしに来たのか訪ねた。

 

「別に、偶然家にうどんが沢山余っていて処分に困っていたから。持ってきてあげただけよ。」

 

えっ?なんでうどん?なんて考えるより早く柚耶がソファーから立ち上がり叫んだ。

 

「えっ‼おうどん‼いま丁度おうどん食べたかったんだけど‼」

 

「ふん。仕方ないから、特別に恵んであげてもいいのだけれど。」

 

隼人は思った。

新品のスーパーの袋に入っている余ったうどんってどんな状況なんだろう…。

 

「あるある‼あるよね。安くてついつい買いすぎちゃった時とかよくあるよね‼

やった‼やった‼やっふぉぉおー‼」

 

走り回り喜びを全身で表している柚耶を尻目に

隼人は深く考えないことにした。

 

 

そんなことより手作りのご飯を食べれることの方が大事だ。

何よりもあの雪乃ちゃんの手作りである。

これが嬉しくない筈がなかった。

 

「雪乃ちゃん料理できるの?こう見えておうどんには厳しいんだからね‼不味かったら残しちゃうかもよ」

 

「臨むところよ。もう二度と私のうどんでしか満足できないようにしてあげるわ。」

 

ソファーの上に立ったまま謎の決めポーズで、無駄にニヒルに笑う柚耶と

仁王立ちしながら向かい合う二人に、隼人は叫びたかった。

 

 

おいおい待って。待ってくれ

なんかこれじゃ、まるで……その……。

僕らの為に作りに来てくれたんじゃなくて

 

何か…その、柚耶の為に作りに来たみたいじゃないか?

それに、うどんも柚耶の好物だし。

 

えっと、うん。

まぁ、余ってたって言っていたし。

 

半分現実逃避しながら呆けている間に雪乃は手際よくうどんを作っていた。

 

そのタイミングで再びゴーン、ゴーンとインターフォンが鳴った。

 

隼人は「あっ」と声を漏らした。

そうだった。ピザを頼んでいることをすっかり忘れていた。

 

でもまぁ、ピザよりいまは雪乃ちゃんの手料理だ。

冷蔵庫にでもいれておけばいいかな、何て考えながら

お金を払い受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

リビングに戻るとそこでは二人で同じ鍋をつつく姿があった。

頬いっぱいに詰め込みながら「ふむふむ」とか厳しい顔をしながら「むむむ」っとぼやく柚耶の姿があった。

 

隼人は何も言わずにテーブルにピザを開けて頬張った。

決して鍋の取り皿が初めから用意されてなかったからでもないし

甲斐甲斐しく柚耶の世話を焼く雪乃ちゃんに言い出せなかったわけじゃない。

 

葉山隼人はハワイアンピザが大好きなのだ。

それも久しぶりに食べるハワイアンピザなのだ。

けれどこの日のハワイアンピザはちょっぴり塩味が強い気がした。

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

「星よっっつ‼」

 

リビングのソファーで、空高々に指を四本突き立て叫ぶのは柚耶だった。

 

「そう……ところで柚耶くん。一つ聞きたいのだけれど、あなたの言うそれは何点満点の採点なのかしら。」

 

不思議そうに首を傾げる柚耶は雪乃に聞き返した

 

「あれ、雪乃ちゃんこの料理番組知らない?」

 

怪訝な表情の雪乃は週末の夜に放送している料理番組に心当たりがあった。

だがしかし、あれは星三つが満点評価だったはずだ。

 

 

雪乃は考えた。

これはもしかしたら……そういうことなのか?

所謂、百点満点中百二十点的なやつなのか?

 

何だかとてつもなく嬉しい気がする……。思わずニヨニヨと口許が緩んでしまいそうになる。

けれども、何だか喜んでるとばれるのは何だかとってもとっても癪なので

なるべくバレないように無表情で続きを促した。

と、言っても口許が緩んでいるのは誰に見ても一目瞭然だったが。

 

 

「それは、あれかしら。私のおうどんが今まで食べたおうどんの中で一番美味しくて、満点を点元突破して、柚耶くんはわたしのおうどん以外食べられない体になってしまった……っということかしら?」

 

 

上機嫌な雪乃とは対象的に、柚耶は未知の生物を見るかのような顔で雪乃を見つめた。

 

「雪乃ちゃん何言ってんの?大丈夫?熱でもでた?」

真剣に雪乃の額に手を当てる柚耶の態度に雪乃の機嫌は急降下だった。

 

「一福亭のおうどんが一番美味しいにきまってるじゃん。」

終始真面目に返す柚耶の態度に、雪乃は背後には般若を幻想するほど怒りに震えていた。

 

 

一福亭とはうどんの老舗である。

三年連続でミシュランに掲載されるほどの名店である。

そんなうどんの老舗と初めての手料理を比較された雪乃は

最早、表情を繕えない程に怒りに震えているのか頬をピクピクをひくつかせながら

なるべく冷静に聞いた。

 

 

「なら、一福亭のおうどんの星はいくつなのかしら?」

めげない雪乃は次回に作る時の参考までに採点を聞いた。

打倒一福亭。打倒ミシュランおうどんである。

雪乃は負けっぱなしなのは気に入らないのだ。

 

 

そんな雪乃の態度なんて意に返さずに、柚耶は飄々と答える

 

「満点星三つだよ。さすがはおうどんの名店だよね。一福亭のおうどんは、いつ食べても変わらず美味しいもん。」

 

 

雪乃は混乱した。

あれ?あらあら?

どういうことかしら?採点さんが採点の仕事をしていないわ。

役割はきちんと果たさないとダメじゃない。採点さんしっかりお仕事して

労務規定違反は解雇されちゃうのよ。採点さん、解雇よ解雇

 

混乱している雪乃を傍目に、柚耶は満腹そうにお腹を擦ってソファーでお茶で一服していた。

 

 

「星四つのおうどんより、星三つのおうどんの方が美味しいのは採点に問題よ、やり直しを要求するわ‼」

 

「えーーっ」と面倒臭そうにしている柚耶に詰め寄った。

 

「一福亭と私のおうどんは一福亭の方が美味しいのよね?」

 

柚耶は面倒そうに「そうだよ。」と答えた。

 

「なら、次におうどんが食べたくなって、目の前に私のおうどんと一福亭のおうどんがあったらどっちを食べるのかしら」

 

 

柚耶は「んー。」とすこし考えてから「それはその日によるかな」と答えた。

 

雪乃は憤慨した。

雪乃自身が負けたこともあるが、採点がころころ変わるのはもっと納得できないのである。

道理の曲がったことはもっと許せないのである。

 

 

柚耶に詰め寄りながら雪乃は尋問を開始した。

 

「被告人は、法廷に立ちなさい。」

 

さながら裁判官の如く、柚耶に詰め寄る雪乃の迫力を柳の如く受け流す

 

「裁判官。美味しいおうどんを食べた後は動きたくありません。」

そういいながらソファーにごろんと寝転がった。

 

 

雪乃は「美味しいおうどん」のワードにふんと鼻息をならしながら

ソファーの傍に座り込んだ。

 

「仕方ないので認めます。」

まぁ?私が作ったのだから美味しいのは仕方ないわ。

それはそれ、これはこれよね。

雪乃の機嫌はすこし良くなった。

 

 

「一福亭のおうどんは変わらずに美味しいのよね?」

 

「うん。いつも変わらず最高さ。

憎たらしい程さくさくジューシーなかき揚げちゃんに僕はいつもめろめろさ。」

 

気障ったらしく返す一福亭の回しもののようの売り文句に

雪乃の機嫌はすこし悪くなった。

 

「なのに私のおうどんも食べたいの?そんなのおかしいわ」

 

「おかしくないと思うけど?」

 

雪乃の機嫌はどんどん悪くなっていった。

 

「採点する人はころころ意見を変えちゃいけないのよ。」

 

そう指摘すると柚耶は雪乃の言いたいことがようやく理解できたのか

優しく説明しはじめた

 

「採点は変わらないよ。変わったのは僕の気持ちだよ。」

 

ソファーに寝転びながら

いじけるように座る雪乃の頭を撫でながら柚耶は続けた。

 

「毎日美味しいうどんを作るためにそれを仕事にして

たくさんの人に美味しく食べて貰えるように頑張ってるのが一福亭。

 

毎日料理をしたことはないけれど、僕だけの為に作ってくれたのが雪乃ちゃん。

 

僕は今日、そういうご飯が食べたかった。

 

だから今日食べるならどんなに高くて美味しいおうどんより

雪乃ちゃんのおうどんが最高に美味しいの」

 

 

首を傾げて雪乃は尋ねる

 

「柚耶にとって一番美味しいのはどんなおうどんなの?」

 

「それは母さんの作るおうどんを家族みんなでつつきながら食べるおうどんだよ。」

 

 

「そういうものなのかしら?」

 

「納得できない?」

 

いまいち想像がつかないのか、はたまた元来のすこし頑固な性格が邪魔をしているのか

雪乃は唸った。

 

「雪乃ちゃんは一番好きな食べものってなーに?」

 

訪ねる柚耶に雪乃は即答した

 

「伊勢海老‼」

 

「だと思った。なら、今からいうことを想像してみて」

 

そう言われ雪乃は目をつむり想像した。

 

 

「雪乃ちゃんの目の前に二つの道があります。

 

右を選べば、大好物の伊勢海老があります。

雪乃ちゃんはそれを一人で食べることができます。

 

左を選べばカレーしか食べれません。

 

雪乃ちゃんはどっちの方がいい?」

 

 

「それは伊勢海老の方がいいわ。

カレーより伊勢海老の方が美味しいもの」

 

即答する雪乃に笑いながら柚耶は続けた。

 

「なら、そのカレーがお母さんの手作りだったら?

お母さんが雪乃ちゃんの為に作ったカレーだったら?

家族みんな食べるカレーだったら?」

 

 

雪乃は唖然と驚きながら

「それは……カレーの方がいいわ」

 

「そういうこと。

何を食べるのかも大事だけど、誰が作って誰と食べるのかってことが

お腹じゃないところが満たされるんだよ。

 

だから雪乃ちゃんのおうどんは星四つ。

わざわざ僕のために作ってくれて嬉しかったからね。」

 

 

改まって柚耶は立って、頭を下げた

 

「雪乃ちゃんごちそーさまでした‼」

 

 

雪乃は納得できたのか立ち上がって宣戦布告するようにいい放つ。

 

「それでも私の料理が他の料理に負けるのは納得できないわ。

だから覚えておいてね、いつの日か私の料理を毎日食べたいって言わせて見せるのだから。」

 

 

堂々といい放つ雪乃に、柚耶は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

そんな部屋の奥では柚耶の食べた鍋を洗い終わった隼人は

おもむろにスマホを取り出した。

 

宅配ピザのレビューに一つ星をつけた後

「いつも変わらない味をありがとうございます。でも雪乃ちゃんの作ったうどんが食べたいです」と記入した。

 

 

確かに久しぶりに食べたハワイアンピザは

いつもと変わらず美味しかったけれど

 

星一つだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

×




僕はおうどんは温かい派です。

次回更新 9月30日 21:00



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