もしかしたら今回は誤字が多いかも知れません。
順次修正していきます。
パーティー会場に併設された待合室。
そこには雪ノ下家・葉山家、それと数人の使用人が集まっていた。
大きなモニターから流れる常識外のニュースを
葉山柚耶と雪ノ下陽乃以外の人間が
絶句した表情で見つめていた。
モニター映るレポーターは伝える。
「こちらが現在の雪ノ下建設本社です。これは……何かのデモ活動の一貫なのでしょうか。
本社ビルはあちこちアクリルラッカースプレーで様々な色で落書きされてますね。
あっ、こちらからなら文字が読みとれます……。」
レポーターは雪ノ下建設のビルに描かれた色とりどりの文字を読み上げた。
「ゆー、ゆきのちゃ、ん。はっぴー……ハッピーバースデイ。
ゆきのちゃんハッピーバースデイと書かれています。
これはどなたのことなんでしょうか?
またこれ程の規模で誰にも気づかれない内に落書きをした犯人の
目的や動機は、一体何なのでしょうか?」
パシンッ。と頬を叩く音が部屋に反響する。
雪ノ下の母である月乃は、絶対零度の眼差しで柚耶を見つめた。
「ここまで愚かだとは思いませんでした。」
通りすぎざまに、先程より低い声音でいい放つ。
「金輪際、二度と雪ノ下家の敷居を跨げるとは思わないことね。」
そんな柚耶と雪ノ下母の姿を見た陽乃は
見る人が見れば分かる程、悪辣にほくそ笑んでいた。
なぜ、こんな事態になったのか。
それはいまから遡ること三日前の出来事だった――――
× × ×
「隼人、柚耶。話があるからリビングに来なさい。」
珍しく早い時間に帰ってきた葉山父の声に柚耶と隼人はリビングに集まった。
仕事着のスーツのままリビングの椅子に腰掛けて「座りなさい」と促した。
厳かな態度でいい放つ父の前には一枚の便箋があった。
「今日から三日後、雪ノ下家次女の雪乃ちゃんの誕生日パーティーが行われる。」
椅子に浅く座り姿勢をピンと伸ばし
真剣な表情で話を聞く隼人。
両手でジュースの入ったコップを持ちながら
ガッツリ背中をつけて深く椅子に座り
にこにこと話を聞く柚耶。
対照的な二人に特に何も言わず、続きを話す葉山父。
「その誕生日パーティは内実、会社関係者や重役の顔合わせの面が大きい。
しかしここで一つ予想外な事態が起こってな……。
当初の予定よりも招待客のご子息が多く参加することになったのだ。」
隼人はおおよその予想が着いたのか
ピンと挙手して葉山父に質問を投げ掛けた。
「それは雪乃ちゃんの将来の婚約者目当てでしょうか」
父は隼人のその姿に満足そうに頷くと答えた。
「雪乃ちゃん……というより雪ノ下家の〈婚約者候補〉って所だな。
内々の話だが、参加者の一部でそういう話が出ているのは事実だ。」
隼人はその話を聞いて、やる気満々な表情で頷いた。
柚耶はその話を聞いて、絨毯にこびりついたガムを見た時のような表情で舌を出した。
「故に葉山家から雪乃ちゃんの付き添いを一人出すことになった。」
隼人は柚耶を一度見た後に、手を天高く掲げて父に言いはなった。
「父さん。僕が立候補します。」
「うむ。私としても隼人がそう言ってくれると思って既に打診している。」
隼人は嬉しそうに笑いながら
すこししてまた、真剣な表情に戻した。
「いや……柚耶がダメってことではないんだぞ?
ただ、柚耶はすこし素直すぎるというか……こう、破天荒すぎるというか……
お堅いパーティーみたいなのは好きではないかと思ってね。」
父は慌てた様子で弁解した。
そんな父の姿を特に気にせず
柚耶の頭の中は雪乃ちゃんのお誕生日計画でいっぱいだった。
(雪乃ちゃんには美味しいおうどん作って貰ったし
僕も雪乃ちゃんの誕生日に、伊勢海老の躍り食いとか作ってあげようかなぁ。)
なんて考えているとは露ほども知らずに父は決定を下すように柚耶に投げ掛ける。
「柚耶もそれでいいかな?」
柚耶は即答した。
「普通に嫌だけど?」
お父さんは小さく「そうか……」と呟き
考え込むように腕を組みながら目を瞑った。
隼人は柚耶の返答が予想出来ていたのか
大きく頷いて父の判断を待った。
やがて父は神妙な顔をして
「さっき話したように、元々家からは隼人に出てもらう予定だったんだ。
雪ノ下婦人は予想通り賛成して下さったのだが……。
そこに待ったをかける形で
雪ノ下家前当主と現当主の誠志さんが柚耶を推していてな。
特に前当主が強く推薦していて、いまいちその真意を測りかねているのが本音だ。
無論、本人の意思次第と前置きはしていたが……。」
探るような目付きの葉山父に柚耶は素直に答えた。
「雪乃ちゃんのパパとは仲が良いけど、雪乃ちゃんパパのパパは会ったこともないよ?」
柚耶のパパ呼びに一瞬眉を顰めたが
すぐに持ち直し、柚耶推薦派の意図を思考する。
葉山父が把握している記憶では
柚耶と前当主は顔を合わせたことがない。
そもそも柚耶は自由奔放で、感性も独特な所がある。
思ったことや感じたことが、そのまま表情や行動に直結するきらいがある
もちろんそれは柚耶の魅力なのだが
社交の場には不向きな性格でもあった。
故に、雪ノ下家。延いては社交の場には
あまり連れ出さないようにしてきた。
そんな状況で柚耶を推薦する理由は一体……。
思考に没頭している葉山父に柚耶が声をかけた。
「お父さん。二人で行けばよくない?」
隼人はその意見が予想外だったのか唖然とした。
葉山父は眉間の皺を深くして、先程から気になっていることを訪ねた。
「柚耶はもう僕の事をパパとは呼んでくれないのかい?」
今日一番真剣な表情で訪ねた葉山父(パパ呼び希望)に
柚耶は呆れるように答えた。
「お父さんはパパって感じじゃなくてお父さんって感じだもん。
雪乃ちゃんのパパはパパって感じがする。」
よく解らないが柚耶には柚耶のルールがあるらしく
その事実に葉山父は膝を着いた。
「誠志に負けた気がする……。
パパの方がパパっぽくはないかい?
ほら、肩幅とか誠志より広いよ?そこはかとなくパパっぽくない?」
動揺しているのか葉山父は仕事用の呼び方ではなく
プライベートの呼び方で雪ノ下父を呼んでいたが
それだけ必死なのだ。
葉山父にとって「パパ」と「お父さん」の間には大きな隔たりがあった。
隼人は早々にお父さん呼びに切り替えたので
最後の希望に縋るように柚耶の言葉を待った。
柚耶はごくごくジュースを飲んで一息吐いた後、審判を下した。
「むしろお父さんって感じでかっこいいけど?」
それを聞いた葉山父は
まるで天啓を得たように感慨深く頷いた。
「そうか……。お父さんはお父さんでいいもんだな。」
葉山父はすごい勢いで掌を返しつつ、柚耶を抱きしめた。
〈かっこいいお父さん〉なんて良い響きなんだ……。
二人の空気感に圧倒されつつ
隼人は先程の柚耶の真意を探ろうと
なるべく刺がないように優しく問いかけた
「柚耶、さっきの二人でってのはどういう意味かな?」
柚耶はひつように抱きしめる父をなだめながら、首を傾げた
「意味もなにも、雪乃ちゃんの誕生日だよ?みんなで祝った方がよくない?」
ここに来て隼人は柚耶の雪乃ちゃんに向ける感情に好意がないことを悟った。
いや、好意は好意でも恋人や将来結婚したい。というものではなく
友達に向ける好意の感情なのではないか
あるいはまだ恋に自覚していないのかもしれない。
隼人は、ここをチャンスと捉えた。
このパートナー役を期に雪乃ちゃんとの距離を縮めてしまえば
まだ望みはあるのではないか。
前回のおうどん事件では
二人の醸し出すあまりにも自然な空気に遠慮してしまったが
ここは勝負所なのかもしれない。
強い決意のなか、隼人は勝負に出た。
「確かに二人で行けば雪乃ちゃんをガード出来るかも知れないけど
それは同時に雪乃ちゃんの友達を増やす機会も減らすことになるんだ。
やっぱりどちらか一人がパートナーとして行くべきだよ。」
隼人は早口でそれらしい正論を捲し立てた。
最近散々な目に合ってばかりの隼人にやっと巡ってきたチャンス。
形勢逆転の神の一手。逆転さよならホームラン、打席葉山隼人なのだ。
「柚耶には負けないよ。」
決意と熱意が籠った眼差しで柚耶と対峙する。
そんな隼人に柳に風の如く、ポカンとした表情で柚耶は
「勝ち負けとかどうでも良くない?」と返した。
柚耶にとってお誕生日会は特別なのだ。
忙しい両親もその日だけは必ず早く帰ってきてくれる。
美味しいご飯に、家族団らんで過ごす幸せな一日。
それに他の人とは違って葉山家は双子である。
「おめでとう。」と言ってもらえて
「おめでとう。」と言える日なのだ。
柚耶にとってそれは他の人の二倍幸せで素敵な一日なのだ。
たくさんの人に「おめでとう」と言われた方がいいのではないのか?
そう考えつつも、柚耶は悩んだ。
残酷なことに、隼人の捲し立てる正論も一理あった。
雪乃ちゃんは本当に友達が少ないのだ。
それはそれは片手で収まってしまうくらいすくない。
その内、小鳥や猫を飼い出して
「今日から私たちはベストフレンドよ。」
なんて言い出しかねないくらい少ないのだ。
自分の幸せの基準に照らし合わせて考えてみると
たくさんの人に祝って貰った方が嬉しい。
でも、それと同じくらい雪乃ちゃんの
友達が増えるチャンスも大事なのかもしれない。
柚耶は脳内で考えに考えた。
「僕とお兄と雪乃ちゃんの三人で友達を探すってのは?どう?」
「雪乃ちゃんは柚耶といる時、あんまり僕とは話してくれないから
それはすこし難しいかも知れないね?」
柚耶の答えを隼人は否定した。
なぜならその場合、雪乃ちゃんが柚耶にしか構わない可能性が大だからである。
もはや確定と言っても良い。
それとなくなるべく遠回しに、分厚めのオブラートに包んで否定した。
「あー、お兄と雪乃ちゃんあんまり仲良しじゃないもんね。
うーん。どうしたらいいかなぁ。」
せっかく包んだ分厚いオブラートをビリビリと剥がすが如くの所業に
隼人の笑顔がピクピク動いたが
ここ最近なぜだか無駄に鍛えられる機会の多かった強靭な頬筋は
辛うじて笑顔をキープ出来た。
葉山隼人は成長するのである。
これを期にと、メラメラ闘志を燃やす隼人と
どうやったら誕生日を楽しく過ごしてもらえるのか
そして、雪乃ちゃん友達少なすぎる問題の天秤に悩む柚耶。
結局、家族では決まらなかった雪乃ちゃんのパートナーは
雪ノ下家に直接判断を委ねることになるのだった。
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投稿に手こずってしまいました。
次回更新 10月1日 21:00
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