第一目標であるサターンの迎撃システム無力化後、スパークブロード通信を完全に遮断されてしまったエクリプス。
そこで八神が次に繰り出したのは、有線によるサターンとの通信にて、真実を伝えサターン内のイノベーター達に投降を呼びかけると言うものであった。
しかし、サターン内のイノベーター達は裏切者である八神の言葉に耳を傾ける事はなかった。
ここに至り、八神は田中や嶺警部達と協議の上、とある決断を下した。
それが、エクリプスに備えられている突撃用の連絡通路、通称ハープーンを使ってサターンに直接乗り込むと言う決断だ。
当然ながら、サターン内には完全武装した兵士達もいる為、当初乗り込むのは田中の部下やロンド・ベル、更にはシーカーの有志からなる突入部隊だけの予定であった。
所が、バンや凛空達が同行を懇願した為。急遽、突入部隊が安全を確保した後、バン達が愛機を回収する為に乗り込むという方向で進む事となった。
「HQ、こちらブラボー5。これより突入する」
「ブラボー6、物陰に注意しろ」
「敵、二名ダウン」
「了解」
「HQ、こちらブラボー5。アンカーポイントを確保した」
「こちらHQ。了解ブラボー5、引き続きポイントの安全を確保せよ」
「HQ、こちらアルファ3! 管制室前の通路で激しい抵抗を受けている! 至急──」
「くそ! グレネード!!」
「HQ、こちらアルファ3! 一名負傷、繰り返す一名負傷!! 大至急増援を送ってくれ!」
「HQよりチャーリー7、直ちにアルファ3の救助に向かってください」
「こちらチャーリー7、了解」
突入部隊とオペレーター達との緊迫のやり取り、時折聞こえる激しい銃声を耳にしながら、バン達はその時が訪れるのを静かに待つのであった。
十数分後、遂に先行していた突入部隊が安全を確保したという事で、バン達にサターン突入のGOサインが出る。
防弾チョッキを着込み、自動拳銃を手にした八神・拓也・田中・嶺警部を先頭に、ハープーンを通ってサターン内に降り立ったバン達。
そこで彼らが目にしたのは、紺色の戦闘服に防弾チョッキを着込み、フェイスシールド付きのヘルメット等を装備し、アサルトライフルを手にした突入部隊の隊員達。
そんな彼らに拘束されたイノベーター側の兵士達の他、回収された銃火器の数々、更には通路の各所に残る弾痕や通路の端に置かれた黒色の袋、所謂ボディバッグ等々。
まさに本物の戦場と言うべき光景の数々であった。
「八神教官、俺はここで拘束した兵士達のエクリプス収容を指揮します」
「分かった。では我々は、LBXの回収に向かうぞ」
この場を嶺警部に任せた一行は、LBXの回収を行うべく移動を開始する。
程なく、格納庫や通路で停止してたLBXを回収し終えると、最後に、制御室のオーディーンとゼノンを回収する運びとなった。
「よかった。オーディーン……」
愛機の無事に安堵し、無事に回収を終えるバン。
ジンも無事にゼノンを回収し、これで全員が無事に回収を終えた。
「……おかしい」
「えぇ、全くです」
「やはりお二人もそう思いますか」
そんなバン達を他所に、八神・拓也・田中の三人は意味深な言葉を零す。
すると、それを耳にしたバンが三人に真意を尋ねた。
「通信の遮断から我々が突入するまでの間に、何故LBXを破壊しなかったのか、それが不可解でな……」
破壊する為の時間や手段はいくらでもあった、まさに千載一遇のチャンス。
にもかかわらず、レックスは何もしなかった。
このレックスの行動には、八神達も理解に苦しむ他なかった。
「余程自信があるのか……。或いは……」
「何れにせよ、我々の取るべき行動は決まっていますよ」
「そうですね」
レックスの暴走を止め、サターンのNシティ突入を阻止する。
その為に、気持ちを切り替える八神達であった。
「よし、ここからは二手に分かれよう。私と山野博士他数人は管制室に向かいサターンの針路変更を試みる。バン達は、拓也と田中さんと共に操縦室へ向かってくれ」
八神の指示に全員が頷いた所で、不意にバンが声をあげる。
「ねぇ、八神さん。あいつ、助けてあげられないかな?」
バンの言うあいつとは誰であろう、神谷 コウスケの事であった。
バンの言葉に応えたのは、意外にも真野であった。
「あんたがそう言うなら、私達に任せな。細井、矢壁! いい歳してこじらせてるこのナルシスト君を運ぶよ!」
「「ラジャー!」」
刹那、真野・細井・矢壁の三人によって運ばれていくコウスケ。
それを見送ると、バン達は二手に分かれて行動を開始しようとした。
だが、──その直後。
制御室に大量の自律型LBXが押し寄せてきた。どうやら、ダクトなどを通って突入部隊の監視の目を潜り抜けてきた様だ。
「行け、ここは私が押さえる!」
刹那、八神はジェネラルを取り出すと、自律型LBXの大群と対峙する。
すると、そんな八神に続くかのように、カズ・アミ・ミカ・ハンゾウ・キヨラ・ゴウダ三人衆・リュウが、各々のLBXを取り出し臨戦体制に移行した。
「皆!?」
「ここは私達に任せて!」
「そうだぜ、バン達は先に行け!」
「ミカ……」
「今度は、私が守る番」
「ありがとう」
「急ぎましょう!」
こうして残りの面々は八神達にその場を託すと、急いで制御室を後にするのであった。
制御室を後にした一行は、通路の分岐で二手に分かれた。
管制室に向かう山野博士と拓也の組と、操縦室に向かうバン・ジン・凛空・田中の組だ。
その一方であるバン達四人は、山野博士達と別れた後も通路をひた走り。やがて、とある空間に足を踏み入れた。
そこはサターンの艦内でも一際巨大な空間で、中心部分には、幾つもの巨大パラボラアンテナの姿があった。
「ここは一体……」
「どうやらここから、スパークブロード通信の妨害電波を出している様だ」
「成程。と言う事はさしずめ、ここはコントロールルームと言った所ですね」
「なら、先ずは妨害電波を止めないと」
この部屋の使用用途を理解した所で、四人は階段を駆け上がり、中央に設置された制御用の機器へと駆け寄る。
「おそらくこれで止められる筈だ」
機器に駆け寄ったジンは、早速コンソールを操作し妨害電波の停止を試みる。
そんなジンを守るように、残りの三人は周囲の警戒を行う。
淡々と作業を進めていたジンだったが、ふと、バンに質問を投げかけた。
「……バン君。君は、レックスに会ったらどうするつもりだ?」
「……説得する。こんな事は許されないって、何とか解ってもらうんだ」
「そうか……。凛空君、君は?」
「僕も、バンと同じだよ。例えどんな事情があろうとも、暴力を使って世界を変えるやり方は間違ってるからね」
「強いね、二人とも……」
二人の答えを聞いたジンは暫し口を噤むと、やがて言葉を紡ぎ出す。
「僕は、レックスを目の前にしたら、お爺様の仇を討とうとしてしまうかもしれない」
「ジン!」
「それって……」
「解っている。それではレックスと同じだという事は」
押し黙るバン。対して凛空は、ゆっくりと語り始める。
「レックスにとっては自身の人生を狂わせた元凶であっても、ジン君にとっては、たった一人の家族だったんだよね。だから、ジン君がそんな家族の仇を討とうとする気持ち、解るよ」
「……」
「だけど、憎しみは憎しみを呼ぶだけだよ」
「っ!」
「多分、ジン君が仇を討てば、誰かがレックスの仇としてジン君を討つと思う。そして、憎しみの連鎖は続いていく……」
そこで凛空は一拍置くと、再び語り始める。
「僕もバンも、他の皆だって、誰もそんな事望んでいない。もしかしたら、海道 義光だって……」
「……」
「人は過ちを繰り返す。だけど、その過ちを赦せるのもまた人なんだ。その事を忘れないで、ジン君」
そして、コンソールを操作する音だけが暫し響き渡るのであった。
「よし、これで妨害電波は停止したはずだ」
程なく、ジンの言葉を裏付けるように、それまで聞こえていたモスキート音が聞こえなくなる。
とりあえず問題を一つ解決できたことに安堵するバン達。
だが、そんなバン達の近くで、不意にDキューブが展開される。
謎のDキューブの展開に首を傾げていると、次の瞬間、部屋の奥にある階段から足音が聞こえてくる。
「っ!」
「あれは……」
「海道 義光……」
足音のする方へと視線を向けたバン達が目にしたのは、肩に月光丸を乗せ階段を下りる海道 義光。否、アンドロイド海道の姿であった。
「子供の前だ、そんな無粋なものは仕舞いたまえ。それに、見ての通り私は丸腰だ」
「田中さん、拳銃は下げておいて大丈夫だと思います」
「……分かりました」
近づいてくるアンドロイド海道に対して自動拳銃の銃口を向けていた田中だったが、凛空の言葉を信じて、自動拳銃を下ろすのであった。
「決着を付けようじゃないか」
そして、Dキューブの前で足を止めたアンドロイド海道は、そう言いながら肩に乗せていた月光丸を自身の手の上に乗せた。
「バン君、凛空君。二人は先に行け」
「え!?」
「それって……」
「コイツとの決着は僕が付ける!」
「ジン……」
「分かった。頼んだよ、ジン君。……バン、行こう!」
「あぁ!」
ジンの言葉を信じその場をジンに任せたバンと凛空の二人は、アンドロイド海道の横を走り抜け、そのまま奥の階段を上り始める。
一方田中はと言えば、ジンとアンドロイド海道のバトルの行方を見届けるかのように、その場に止まるのであった。
Dキューブ内に広がる火山遺跡のフィールド。
そこで、煮え立つマグマの如く熱きバトルを繰り広げている二機のLBX。ゼノンと月光丸だ。
ゼノンが怒涛の攻撃を仕掛けるも、月光丸はそれをことごとく躱し、隙を見てムラマサの一撃をゼノンにお見舞いする。
(く、やはりカイザとの戦いでデータを取られたせいか……)
冷静に状況を分析するジン。
彼の分析の通り、月光丸はゼノンの動きを完全に見切っていると言わんばかりの動きを見せている。
しかし、幾ら相手の動きを見切っているとは言っても、実際に躱す為には相応の機体性能が要求される。
つまり、それが意味するものは──
(月光丸は、カイザより遥かに強いという事か……)
難敵、と言う事だ。
「スピード、パワー、全てに劣る。お前では私には勝てない!」
〈アタックファンクション、月華乱舞〉
刹那、幾つもの衝撃波がゼノン目掛けて襲い掛かる。
ジンは咄嗟に反応して回避しようと試みるも、僅かに反応が遅れたのか、衝撃波によりゼノンの左腕が無残に斬り落とされる
「っ!」
「勝負あったな……」
片腕を失い、ダメージの蓄積も危険水準間近。
アンドロイド海道の言う通り、最早ジンの敗北は確定かに思われた。
「まだだ……」
「ん?」
「僕は最後まで諦めない! 何故なら、バン君や凛空君がそれを教えてくれたからだ!」
だが、ジンの諦めない気持ちに応えるように、ゼノンも再び立ち上がる。
そんなゼノンを完膚なきまでに叩き潰す為に、月光丸はゼノンに迫る。
刹那、月光丸が装備するムラマサの斬撃が次々とゼノンに襲い掛かる。
片腕を失った為に防御もまともに出来ず、ゼノンのLPは減少していく。
(これは……、ダメージが少ない)
しかし、それを見たジンは、ある事に気がついた。
そう、先程までと比較し、明らかに受けるダメージの量が減少していたのだ。
そしてジンは、そこに勝機を見出した。
「これで、終わりだ!」
刹那、月光丸がゼノン目掛けてムラマサを振り下ろす。
しかし、ゼノンはその一撃を避けてみせた。
「何!?」
「腕を失った事が幸いした。バランスが変わったゼノンの動きを、もうお前は正確に予測できない!」
そして、ジンの言う通り、その後も月光丸は次々と攻撃を繰り出すも、ことごとく回避されてしまう。
「ならば……、分析再開」
刹那、アンドロイド海道は新たに行動パターンの分析を始めるも、最早手遅れであった。
〈
次の瞬間、青白き閃光と化したゼノンが月光丸に襲い掛かる。
そして、為す術なく、ゼノンの重たい攻撃に晒され続ける月光丸。
「な、何故だ……」
「消え失せろ!!」
〈アタックファンクション、
次の瞬間、縦回転の勢いをつけたゼノンハルバードの一撃が月光丸を直撃し、直後に起こった大爆発の中へと月光丸を消し去るのであった。
「ばば、馬鹿な、ばば、馬──かか、かな」
刹那、アンドロイド海道に異変が現れる。
顔の右半分が爆発し、人工皮膚に隠されていた機械の顔が露わになると共に、身体の各所から煙が吹き出し始めたのだ。
「ジン、わ、私は──、おまえを──」
そして、崩れ落ちたアンドロイド海道は機能を停止し、完全に沈黙するのであった。
「海道 義光。貴方がこれまでしてきた事は、決して許される事ではありません。だが、貴方に与えられたLBXで、僕は大切な"仲間"を手に入れる事が出来た……。そして、僕を海道家の人間として迎え入れてくれた事を、僕は生涯忘れない。だから……、さようなら、お爺様」
そんなアンドロイド海道を前に、ジンは別れの言葉を贈るのであった。
「……素晴らしいバトルでした」
「……」
程なく、田中がジンに言葉を掛ける。
「所でジン君。今の貴方にこんな話をするのは酷だと分ってはいるのですが、私の話を聞いてはもらえないでしょうか?」
「それはどんな話だ?」
「こちらの抜け殻となった海道大臣を、私達の方で回収させてはいただけないでしょうか?」
「っ! まさか貴方も、お爺様を冒涜するというのか!?」
「ま、待ってください! そうではありません!」
ジンの反応を目にした田中は、慌てて説明を始める。
曰く、このままではイノベーターの存在を含め、海道 義光のこれまでの悪事が世に出るのは必須。そうなれば、日本全体に混乱が広がるのは避けられない。
故に、アンドロイド海道を使って世間の目が及ぶ前に秘密裏に事後処理を行う事で混乱を最小限に抑えたいとの事。
「貴方だって、大好きなお爺様が稀代のテロリストとしてその名を歴史に刻まれるのは快く思わないでしょう?」
「……、分かりました」
暫く考えた後、ジンは承諾する旨を伝えるのであった。
ジンとアンドロイド海道との因縁に決着がつけられた頃。
ジンを信じて先を進んでいたバンと凛空の二人は、操縦室を目指して長い通路をひた走っていた。
程なく、通路の先にある階段を上り切った先で、二人は漸く足を止めた。
「この先が、操縦室……」
二人の目の前にある重厚な扉。この先が操縦室であり、そこには二人が予想した人物が待ち構えているだろう。
息を整え、いざ扉に近づこうとした、その時。
「サターンにご搭乗の諸君。本艦は、当初の目的地であるタイラントプレイスから針路を変更し、現在世界国家首脳会議が行われているNシティに向けて飛行中だ。間もなく、本艦は会場である国際連合本部ビルへ特攻をかけるべく最高速度による飛行に移る。なお、今し方脱出ポッドのロックを解除した。命が惜しい奴は、速やかに退艦する事だ」
レックスによる艦内放送が流れる。
そして、艦内放送が終了した所で、不意にバンのCCMが着信を知らせた。
「父さん!」
「バン、先程の艦内放送は聞いたな?」
「うん」
「管制室から針路の変更を試みたが、サターンは針路を変更できないようにプログラムされていた。最早、Nシティを守るには、サターンを自爆させるしかない」
「っ!」
「自爆の指示ができるのは操縦室だけだ。そして、おそらく操縦室には檜山君が待ち構えているだろう……。バン、お前なら凛空君と共に檜山君を止められると、私は信じている」
「父さん……」
「こちらは、先程の艦内放送を聞いて投降してきたイノベーター達のエクリプス収容作業を進める。だからバン、お前は心置きなく、決着をつけてくるんだ!」
「うん!!」
山野博士との通信を終えた所で、今度は凛空のCCMに着信が入る。その相手は、最愛の恋人であるミカからであった。
「ミカ?」
「凛空、大丈夫?」
「うん。こっちは大丈夫だよ。そっちは、大丈夫?」
「ん、大丈夫」
「よかった……」
「ね、凛空。……必ず、帰ってきてね」
「勿論だよ!」
「約束、だからね」
刹那、凛空はミカの声色が変化した事に気がつく。
「もしも、約束、破ったら……」
「……破ったら?」
「後、追いかけるから」
ミカの発言を聞いた瞬間、凛空の背筋に冷たいものが走る。
同時に、何が何でも絶対に帰らなければならないとの使命感に駆られるのであった。
お互いに通信を終えた二人は、いよいよ重厚な扉を潜る。
短く薄暗い通路の先、光り輝くその部屋に足を踏み入れた二人が目にしたのは、神々しくも禍々しくも感じられる球体状の巨大機器。
「これは……」
「これこそが、グラビティポンプ。エターナルサイクラーから生まれた悪魔の機関だ」
機械の正体を明かしたその人物は、ゆっくりと椅子から立ち上がると、二人の方へと顔を向けた。
「よくここまで来たな。バン、凛空」
「レックス!!」
「……」
その正体は誰であろう、不敵な笑みを浮かべたレックスその人であった。
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