「まだかな、レックス……」
「そうだね」
一足先にハープーンの接続部分に到着したバンと凛空の二人は、レックスと黒沢の到着を今か今かと待ちわびていた。
だがその間にも自爆シーケンスが進行し、爆発音と共に振動が走る。
最早、残された時間は多くはなかった。
「急がないと、時間が……」
「っ! あれ!」
その時、凛空が通路の奥からこちらに向かってくる人影を発見する。
バンもそれを確認し、漸く二人がやって来たと安堵した、次の瞬間。
その人影は、突然通路に倒れ込んだ。
それを見たバンと凛空の二人は慌てて人影のもとへと駆け寄る。
「「っ!」」
だが、駆け寄った二人は、そこで目にした光景に言葉を失う。
何故なら、通路に倒れ込んだのはレックスで、そのレックスの腹部からは、とめどなく血が流れていたからだ。
「あ、あぁ……」
「レックス、血が!?」
「あぁ、バン、凛空。すまんな、ドジっちまった……。黒沢を、連れていく事は……、できなかった」
「バン、手を貸して!」
「あ、……うん!」
二人掛でレックスの体を近くの壁に持たせかけると、凛空は自身の持っていたハンカチ、更には脱いだ上着も使って止血を試みる。
しかし、血の流れは止まる事はない。
「バン! 僕が血を止めてるから、その間にバンは急いでエクリプスから人を呼んできて!」
「わ、分か──」
「もういい、よせ!!」
「っ! レックス!?」
「もいいんだ……、っゴフッ! 俺はもう……、助からん」
「何で、何でさ! 約束したじゃないか、一緒に帰るって!!」
「あぁ、すまん、な。約束、果たせ……、そうに……、ゴホッ! ゴホッ!!」
「レックス!」
最早呆然と立ち尽くすバンを他所に、凛空は必死に止血を続ける。
だが無情にも、腹部からの血は止まらず、吐血も止まる気配がない。
それでも、凛空は必死に止血を続けるが、そんな凛空の手を、レックスが掴んで止める。
「もう、いいんだ……。早く、逃げろ……」
「嫌だ! 絶対に、絶対にレックスを──」
刹那、凛空の目から大粒の涙がこぼれ始める。
「ふ……、こんな、俺の為に、涙を……、流してくれるのか。優しい、な。凛空、は……」
「もう、喋らないでよ……」
「ふふ……ゴホッ! ゴホッ! そんな、所が、あ、アイツに……、 そっくりだ」
「アイツ?」
「じ……、十八年、前に生き別れた、俺の妹だ」
「名前は、何て言うの?」
「ま、み。
「いい、名前だね」
「あぁ、自慢の……、ゴホッ! ゴホッ!!」
再び吐血しながらも、レックスは最後の力を振り絞り話を続ける。
「バン……、凛空……。二人と、出会いは、俺にとって……、希望、だった」
「レックス……」
「お陰で、最後に……、憎しみや、怒り、意外の……、生きる意味を、見出す、事が、できた……」
「なら生きようよ!! 一緒に!!」
「レックス!!」
しかし、徐々にレックスの声に生気がなくなっていく。
「だから、俺の……、見届けられなかった、未来。お前たちに、託す」
「……必ず作るよ!! 皆が、祝福される
「俺達で、必ず!!」
刹那、レックスは今にも消え入りそうな声で、バンと凛空に最後の言葉を掛ける。
「ありがとう──」
そして、レックスは静かに目を閉じるのであった。
レックスの最期を見届けたバンと凛空は、涙を拭うと、振り返る事無くハープーンの接続部分を目指して走る。
やがて、ハープーンに乗り込んだ所で、凛空がエクリプスに連絡を入れる。
刹那、ハープーンとサターンの接続部分が切り離される。
エクリプスはサターンの自爆に巻き込まれないように上昇し、サターンは各所に火の手を上げながら、徐々に高度を落として、その姿を雲海の中へと没していく。
やがて、大きな爆発音と共に、雲海の下で炎が輝く。まるで、鎮魂の炎の様に。
サターンの自爆を見届けた後、エクリプスの操縦室兼司令室へと無事に戻って来たバンと凛空は、出迎えた皆に、操縦室突入からサターン脱出までの間に起こった事を話した。
レックスとイフリートの死闘。
レックスが、世界に送ろうとしていたメッセージの内容。
一人孤独な世界ではなく。この世界で皆と共に生き続ける事を、世界を愛そうと、未来へ進むことを選んだ事。
そして──、そんな彼の最期を。
全てを話し終えた時、世界に、新たな夜明けが訪れる。
それは、多くの人々にとっては、いつも通りの何気ない夜明けであった。
しかし、バンや凛空達にとってこの夜明けは、新しい
「終わった、な」
「うん、終わった……」
「なぁ、凛空」
「何?」
「皆、最初は一生懸命光に向かって羽ばたいていた筈なんだ。なのにいつの間にか、小さなボタンの掛け違いが起こって。……気が付けば、世界を巻き込むほどの大きなうねりとなっていた」
「今日のバンは詩人だね」
「ち、茶化すなよ!」
「ごめんごめん。……それで、どうしたの?」
「その……。レックスにはあぁ言ったけど、本当に作れるかちょっと不安で、新しい
「大丈夫、作れるよ、きっと! 二人なら、皆となら!」
「……そうだな! 凛空、改めて、これからもよろしくな!」
「勿論! こちらこそよろしく!」
初めて出会った時の様に、バンと凛空は固い握手を交わす。
時間がかかろうとも、レックスに託された思いを実現してみせる。そんな決意と共に。
それから二週間後。
個室のベッドで安静にしている凛空のもとを、とある人物が訪ねてきた。
「こんにちは。……その後、お体の調子はいかがですか?」
「お陰様で順調に回復しています」
「それはよかった。あ、これ、お見舞いの品です。よかったら、皆さんで食べてください」
「ありがとうございます、田中さん」
お見舞いの品を机の上に置いた田中は、早速とばかりに、本題を切り出し始める。
「報告が遅れて申し訳ありません。思っていたよりも、後処理に時間がかかりましてね……。あぁ、既にテレビやネットの報道等であらましはご存知かとは思いますが、改めてご報告させてください」
「お願いします」
今回田中が凛空のもとを訪ねてきた理由、それは、イノベーター事件の後処理に関する報告を行う為だ。
既にこの二週間の間に、海道 義光や神谷重工等、イノベーターの主要な関係者などに関する様々な報道が行われ、世間を騒がせていた。
もっとも、それらの多くは財前総理側が世間への発表に向けて用意したものである為、真相は、当事者達にしか知り得ないようになっている。
「まず海道大臣についてですが。既に報道されている様に、表向きには、持病の悪化とそれに伴う治療への専念の為に政界並びに海道財閥の会長職を引退。という事になりました」
田中達が回収したアンドロイド海道を使用し、海道 義光に関する後処理は粛々と進められた。
これにより、海道 義光の後任として財前総理派の議員が先進開発省の大臣に就任する等。政界内での財前総理の影響力は拡大を続けていた。
また、生前に海道 義光が止めていたオプティマの医療機器に関する許可も、近々下りるという。
「許可が下りれば、石森さんの妹さんの手術も、速やかに行われる筈です」
「よかった……」
「では次に、イノベーターの幹部など関係者に関する報告ですが──」
貞松・二階堂・藤堂、更に白の部隊を率いていた
イノベーターの実動部隊の司令官、更には部隊員やその他の構成員等。それらの多くは警察に逮捕される事となった。
ただし、八神等の一部の者に関しては、イノベーター事件解決に貢献したとして不問に処されている。
また、イノベーター研究所等の関連施設に関しては、田中達の手によって秘密裏に接収され、調査の後、処遇が決まるまでは封鎖されるとの事。
「そして、神谷重工、並びに神谷グループに関してですが。報道にあった通り、大規模な人事の刷新が行われる事となり。これにより主だったイノベーターの協力者方は、グループを去る事となりました」
神谷グループは国内でも有数の企業グループであり、その中核である神谷重工も国内でも有数の企業だ。
そんな企業が取り潰しともなれば、国内に多大な混乱が生じるのは必須。故に、混乱を最小限に抑える為、財前総理側は関係者との司法取引を行い、人事の刷新という形で決着を付けた。
「最も、一部の方々は我々が接触するよりも前に、自主的に去っていましたがね」
「名呉社長や、神谷重工のLBX開発部門を中心とした方々ですね」
「えぇ。……いやはや、何処の世界にも、組織の崩壊をいち早く察知し保身に走る方はいますが、ここまで素早い方はそうはいませんね」
田中が呆れるほどの手並みを見せた名呉社長。
彼は、太平洋上空のサターンでシーカーとイノベーターが最終決戦を行っていた時、既に保身の為に、クリスターイングラム社のローレンスCEOと接触を図っていたのだ。
この時、二人の間でどのような密約が交わされたかは定かではない。
しかし、最終決戦からわずか数日後には、神谷重工のLBX開発部門はクリスターイングラム社に吸収される事となり。名呉社長自身も、クリスターイングラム社の社外取締役に就任する事となった。
因みに、後にクリスターイングラム社内において"神谷重工ブランド"が誕生。同ブランドの名でデクー、更には一部機能をオミットしたジャッジ等が一般販売される事となる。
「何とか止める事は……」
「残念ながら、正規の手続きを踏んでいるので、こちらとしても手の出しようが……」
「そうですか」
神谷重工ブランドの誕生は、これより六年後に起きるとある事件の下地となるために、凛空としては阻止したい所であった。
しかし、打つ手がないと言われ、内心苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
だが程なく、まだまだ未来は変わる可能性があると、気持ちを切り替えるのであった。
その後も幾つかの報告を聞いた後、凛空はふと、田中に調査を依頼していた件の進捗状況について尋ねる。
「その件に関しては、まだしばらく時間がかかりそうです。なにせ、十八年前の事ですから」
「そうですか、分かりました」
こうして進捗状況を聞き終えた所で、凛空はふと、壁掛け時計に視線を向けた。
そして、現在の時刻を確認した所で「あ……」と声を漏らした。
「すいません。実はバン達と会う約束が……」
「おや、そうでしたか。では、丁度報告も終わった所ですので、私はここで失礼させていただきます」
「ありがとうございました」
こうして田中が退室したのを見計らい、凛空は出かける準備を始める。
最後にあるくエンジェルを装着し、病院から外出の許可をもらった所で、凛空は待ち合わせ場所目指して病院を後にする。
快晴の空の下、凛空の姿は待ち合わせ場所の河川敷にあった。
「お待たせ、皆!」
既に河川敷には、凛空よりも先に到着してたカズ・アミ・ミカ・ジンの四人の姿があった。
「これで後はバン君だけだね」
「ったく、バンの奴、相変わらず時間にルーズだよな」
「ふふ、でも、バンらしいじゃない」
「ん」
「今日はLマガの発売日だから、もしかしたら書店に寄ってるのかもね」
他愛もない話をしながら、最後の一人であるバンを待つ五人。
すると程なく、待ち望んでいた人物が、肩で息をしながらやって来た。
「皆ーっ! 遅れてごめん!」
そして、謝り終えた所で、息を整えたバンは再び口火を切る。
「さぁ皆! キタジマ行って、バトルやろうぜ!」
バンの音頭に合わせて、一行はキタジマ模型店を目指して歩き始める。
その時──、不意に一陣の風が吹いた。
刹那、凛空はレックスに呼ばれた様な気がして足を止めると、ゆっくりと振り返る。
当然、レックスの姿など何処にも見当たらない。
しかし凛空は、優しい笑みを浮かべると、空に向かって言葉を紡ぐ。
「レックス、ありがとう……」
そして、言葉を紡ぎ終えた凛空は、再び歩き出す。
最愛の恋人や、かけがえのない仲間達と共に、今日という未来を歩むために。
これにて、ダンボール戦機無印編、最終回となります。
途中何度か更新が滞ってしましましたが、それでもご愛読してくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!
W編につきましては、幾つか番外的なお話を挟んだ後に開始する予定です。
最後に改めて、本作品をご愛読してくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!