水泳の授業の一件から数日後。
外はまだまだうだるような暑さの中、冷房が効いて快適な教室に、放課後ライフを堪能している凛空達の姿はあった。
「え!? それじゃバン、今度発売される新型LBXを使わせてもらったのかよ!」
「まぁね」
「凄いじゃない、バン」
「ん、羨ましい」
「流石は今年のアルテミス優勝者だね」
週末、母親からのお使いで、持って行くのを忘れたお弁当を父親である山野博士に届けるべく、タイニーオービット社の本社ビルに足を運んだバン。
無事に山野博士にお弁当を渡した所で、バンにサプライズが起こった。
それが、タイニーオービット社が来月に発売を予定している新型LBX。
傑作LBXであるウォーリアーの後継機として、タイニーオービット社が培ってきた技術の粋を集め開発。高い機体性能と操作性の良さを高次元で両立させた次世代型LBX。
基本装備の煌剣オーラブレードと盾のオーラバックラー、更に各部のデザインや背部のマントも相まって、非常に騎士らしい外観を誇る。
一部ではタイニーオービット社版ジム・カスタムとも呼ばれているその名を、ソルジャー。
そのソルジャーを、バンはその場に居合わせた結城のご厚意で、発売前に使わせてもらう事が出来たのだ。
「なぁバン、使ってみた感じはどうだった?」
「やっぱりウォーリアーの後継機ってだけはあって、操作はし易かった。性能に関しては、物足りない部分もあるけど、そこは自分なりのカスタマイズや戦い方次第で補えると思う」
「くぅー、俺も早く使ってみてぇな……。あ、けど、新型だから値段の方も高いんだろうな。俺、まだまだ小遣い貯まってねぇし……」
「暫くしたら、キタジマでもレンタルを始めるんじゃない?」
「可能性は、ある」
「けど、きっと他のお客さん達も使いたいはずだから、競争率は高くなりそうだね」
その後も暫くソルジャーの話題で一頻り盛り上がった所で、不意に凛空が、新型LBXつながりという事で新たな話題を切り出した。
「実は皆に、商品モニターに協力してほしいんだ」
「商品モニター?」
「うん。プロジェクトMSの新ラインナップとして今年の下半期の発売を予定している新型LBXのね」
「プロジェクトMSの新ラインナップ!? でも、そんな情報、Lマガにもネットにも載ってなかったような……」
「実は、来月情報が解禁されるんだ。だから、それまでは絶対に他言無用で頼むよ」
勿論だと首を縦に振るバン達の顔を見回した凛空は、早速、自身のバッグから各々に試して欲しい新型LBXを取り出す。
「まずバンには、これ」
バンに手渡した機体は、オレンジと緑を基調とする色合い、装備も大型ビームライフルが一挺というシンプルな機体。
頭部のドムを彷彿とさせるモノアイレール、肩部や腕部などの曲面を多用した装甲形状は、耐弾性を高めるのみならず、飛行形態時に揚力を発生させやすいリフティングボディとなる為でもある。
勿論、人型形態でも、飛行時には推進力となる脚部の推進用スラスターによりホバリングも可能である等、高い機動性を獲得している。
しかし、この機体の最も注目するべき点は、パーツの各所に施されたマグネットコーティングにより、オーディーンの様な専用のコアスケルトンを使う事無く、通常のコアスケルトンでもその性能を最大限に引き出す事が可能な点だ。
まさに次世代を担うに相応しいその機体の名は──
「名前は"アッシマー"、オーディーンと同じく飛行形態に変形が可能な機体だよ。武装もシンプルだから、バンにピッタリだと思うんだ」
「オーディーンと同じ可変機か……。ありがとう凛空!」
「そして、次にアミだけど」
そう言いながらアミに手渡した機体は、灰色を基調とした色合いの機体。
頭部のトサカ状のセンサーやモノアイ、背面バックパックの翼状のメインスラスター等。その外観は、ソルジャーの如く西洋の騎士を彷彿とさせる。
しかしそんな外観とは裏腹に、同機には重斬刀や重突撃機銃等の多彩なオプションが用意されている他。後にザクやジム等の様に、多数の派生型が誕生する事となる。
まさに次世代の量産機とも言うべきその機体の名は──
「名前は"ジン"、高い汎用性を備えた機体だよ。アミのチューニング力なら、この機体の能力を最大限にまで引き出してくれると思うんだ」
「ジン……、いい名前ね。ありがとう凛空!」
「次に、ミカには」
そう言いながらミカに手渡した機体は、白・黒・赤を基調とし、V字型ブレードアンテナにツインアイを有する、ガンダムの特徴を持つ機体。
全体的な外観もガンダムに酷似しているが、バックパックのメインスラスターが四基に増加している他、脚部の可動部の露出が目立つ等、違いも見られる。
しかし、基本装備としてビームライフルやシールドを有する等、随所にガンダムを意識している事が分かる。
ガンダムという名称を受け継いだその機体の名は──
「名前は"ガンダムMk-II"。ガーベラを使いこなしてくれたミカなら、きっとこの機体も使いこなしてくれると思うんだ」
「ん、期待に応えられるように、頑張る」
「ありがとう、ミカ」
こうして三人の各々の機体を手渡し終えた所で、最後の一人であるカズの順番がやって来る。
「最後にカツ……、じゃなかったカズに使ってもらいたい機体は、この機体だよ」
期待に胸を膨らませていたカズは、凛空から受け取った機体を目にした瞬間、暫し固まってしまう。
程なく、バン・アミ・ミカの三人が受け取った機体と自身の受け取った機体を見比べ、暫く物思いに耽った後、思いの丈を口にする。
「なぁ凛空、本当に俺、この機体で合ってるのか?」
「勿論! 寧ろカツ……、じゃなかったカズにはその機体以外の選択肢なんてないよ!!」
「でもよぉ、この機体、何だかすごく弱そう──」
「何言ってるのさ! 確かに装備は他の機体からの流用が殆どだけど、"ネモ"の基本性能は非常に優秀なんだよ!」
緑と濃紺を基調とする色合いの、ネモと呼ばれたその機体。
ジムを彷彿とさせる頭部のゴーグル形状、無駄のないシンプルな外観等。確かに、一見すると頼りなく見えてしまう。
しかし凛空の力説の通り、機体性能は高い次元でまとめられており、見た目とは裏腹に、使い手次第では一点物とも引けを取らぬポテンシャルを秘めている。
「──という訳だから、カズにはネモ以外の選択肢はないんだよ!!」
「ちょ、何だか俺の時だけ圧が強くないか!?」
「そんな事ないよカツ……、じゃなかったカズ!」
「あと、さっきからちょくちょく名前間違えてるのも何なんだよ!」
そんなネモの素晴らしさを説きながら、カズがうんと言うまで止めないと言わんばかりに、強力なプレッシャーをかけ続ける凛空。
この凛空の様子を目にしたバン・アミ・ミカの三人は、二人に聞こえないようにヒソヒソ話を始める。
「凛空ってさ、時々カズに対して当たりが強いよな」
「そうね。……でもま、カズだし」
「ん、しょうがない」
「えぇ……」
そして、アミとミカの辛辣な反応に、バンは複雑な表情を浮かべるのであった。
その後、最終的にカズが折れてネモを使う事を承諾した所で、早速LBXバトルでの使用感を確かめるべく、五人は教室を後にするとキタジマ模型店へと向かうのであった。
時折汗を拭いながら歩き続け、五人はキタジマ模型店へと到着する。
店の自動ドアを潜ると、全身を冷たい風が通り過ぎる。冷房が効いて快適な店内は、涼しさを求めてか、いつにも増して賑わっていた。
「うわ……、こりゃ当分順番が回ってきそうにねぇな」
「だな」
店内に設置されたDキューブでは既に他の客同士がバトルを行っており、その周囲には、順番待ちと思われる観戦者達の姿があった。
この様子を目にした五人は、順番を待つか、それとも別の場所に移動するかを話し合い始める。
すると不意に、バンが店内の一角にとある人物がいる事に気が付く。
「あれ、あそこにいるのってリュウじゃない?」
「え? お、本当だ」
「何してるのかしら?」
五人はリュウのもとへと近づき、彼に声をかける。
「誰だよ、今集中してるんだから……。って、おぉ、皆! それにアミちゃーん!」
相変わらずアミだけは別格扱いのリュウに対して、五人は早速、真剣な様子で何をしていたのかを尋ねる。
「これだよ、これ」
するとリュウは、机に置いていたとある書籍を手に取り差し出した。
ブルドのシルエットが描かれた書籍の表紙には、『ブルド検定3級問題集』とのタイトルが書かれていた。
「ブルド……、検定?」
「そう、来月行われるブルド検定3級! 俺、絶対合格したくて、今猛勉強してたんだ!」
「へ、へぇ……」
ブルド検定なるものが如何なるものか、今一ピンときていない五人を他所に、リュウはブルド検定に対する意気込みを熱く語る。
「実は俺、去年も一度挑戦したんだけど、あと少しの所で合格ラインに届かなくてさ……。だから、今年こそは、絶対に合格したいんだ!!」
「そ、そうなんだ……。頑張ってね」
「うぉぉ! アミちゃん! 俺、頑張るよ!!」
こうして話が一区切りついた所で、バンがブルド検定がどのようなものなのかを尋ねる。
「ブルド検定って言うのは、ブルドシリーズの販売元であるプロメテウス社が毎年行っている検定の事で、文字通りブルドシリーズに関する幅広い知識や技能を測るんだ。因みに、試験の難易度によって1級・2級・3級に分けられてるんだぜ」
更にリュウ曰く、1級合格者は全世界でも数えるほどしかいないらしく、1級合格者は別名"ブルドマイスター"とも呼ばれ、全世界のブルドプレイヤー達の羨望の的だとの事。
「へぇー、そうなのか。所でリュウ、実際にどんな問題が出るんだ?」
「そうだな……、例えばこんな問題とか」
リュウの話を聞いて興味が湧いてきたのか、バンは実際に出題される問題がどの様なものなのかをリュウに尋ねる。
するとリュウは、問題集をパラパラとめくると、とある問題が書かれたページを見せる。
ページには幾つかのブルドの写真、そして、それぞれの写真のブルドがどの型式のものかを当てるという問題文が書かれていた。
早速問題に挑戦するべく写真を見比べていく五人。
一枚目、二枚目、三枚目と最初の方こそ真剣に見比べていたが、四枚目以降、最早本当に別の型式のブルドなのかと、困惑の表情を浮かべ。
遂に、カズが困惑した様子でこう言った。
「全部同じじゃねぇか!?」
カズのこの発言は五人の共通認識かと思われた。
だが意外にも、この発言を聞いたバンと凛空は即座に否定する。
「何言ってるんだよカズ、全然違うぞ」
「うん。特にこの写真のブルドなんて、他のと比べてダントツに顔がカッコイイよ」
「おぉ、そこに気が付くとは流石は凛空だな! そいつは"ブロック50"、歴代モデルの中で一番イケメンな事で知られるモデルだ!」
どうやらLBXバカの二人には写真のブルドの違いが分かっている様だ。
凛空が指で指し示したブロック50と呼ばれたブルドの写真を今一度見比べるカズ。だが、やはりカズの目には、どの写真のブルドも同じに見える。
「やっぱり全部同じじゃねぇか!?」
「……まったく、これだから素人は駄目なんだよ。もっとよく見ろ!!」
そしてリュウは、それぞれの写真のブルドの細かい違いについて説明していく。
「まずこの写真のブルドが現行モデルの"ブロック80"。歴代モデルの中でも一番美しいとされる頭部の角が特徴的だ」
「……」
「次の写真が"ブロック30+"。タイタン開発で培われた技術を使って、それ以前のモデルに比べて履帯の転輪が大型化したのが特徴的だ」
「……」
「その次の写真が"ブロック10"。所謂初期型に分類されるモデルで、この頃はまだLBX製造のノウハウが乏しかったから、後のモデルに比べて表面加工や曲線部分の成形が若干荒いのが特徴的だ」
「……」
その後も写真の型式について説明していくリュウだが、カズの目にはどの写真のブルドも同じに見え、結局理解が追い付かないのであった。
「という訳だ。分かったか、カズ?」
「お、おう……」
説明を聞いていただけなのに何故か疲れてしまったカズを他所に、リュウは満ち足りた表情を浮かべる。
「この問題以外にも、マキシムT600搭載時のブルドの旋回半径とか、ランチャー系装備使用時の適切なコアカスタマイズは以下の内どれか、なんて問題もあるぞ」
ブルド検定は、想像していたよりもかなり奥の深い世界であった。
「所でリュウ。検定の勉強をしているのは分かったけど、ならどうしてキタジマで? 勉強するなら家の方がいいんじゃないの?」
「う! そ、それは……」
刹那、アミが口にした疑問に、リュウは途端に歯切れが悪くなる。
「じ、実は……」
「実は?」
「ブルド検定は、筆記だけじゃないんだ……。実技も、あるんだよ」
「実技?」
「うん。用意されたブルドを使ってバトルするんだ。制限時間内に勝つことも大事だけど、如何に被弾を抑えるかも大事で……。けど俺、バトルの方はあんまり自信なくて……」
「成程、それでキタジマに来てたのね」
「バトルの特訓、するため」
「その通り」
こうして納得がいった所で、五人は何やら話し合いを始める。
やがて、話し合いを終えた五人は、リュウにとある提案を持ちかける。
「ならリュウ! 俺達とバトルしようぜ!」
「え? バン達と?」
「実は僕達がキタジマに来たのは、新しいLBXでバトルをする為なんだ」
提案の内容は、新型LBXの商品モニターも兼ねて、リュウの特訓に付き合うと言うものであった。
この提案を聞いたリュウは、自身の為を思ってくれた五人のこの行動に感動の涙を流す。
「みんなぁ……、あ゛り゛か゛と゛う゛!」
そして、涙ながらに感謝の言葉を述べた所で、タイミングよくDキューブが空いた。
刹那、五人は早速リュウと共にLBXバトルを開始するのであった。
因みにその後、リュウは連敗を喫して再び涙を流す事になるのだが、それはまた別のお話。
ブルド・アーカイブ、略してブルアカ。でございます。