セミの鳴き声もすっかりと聞こえなくなり、不意に吹く冷たい風が秋の訪れを思わせる、そんな初秋の週末。
この日、凛空の姿は、サイバーランス社が所有する高速船の船内にあった。
船内には船の乗組員の他に乗客は凛空一人のみで、凛空は暫し、贅沢な太平洋クルーズを堪能する事となる。
やがて、凛空の乗る高速船は、トキオシティの島嶼部の一つである伊豆諸島。その南部に位置するとある島の港に到着した。
最も近い、と言っても数十キロメートルは離れている青ヶ島と同様に火山島である同島、定住する事は可能であるが市町村は存在していない。
その代わりに存在しているのが、サイバーランス社の研究開発施設。通称、ファクトリー。
「お待ちしておりました、ご案内します」
下船し、港からファクトリーへと歩いてきた凛空を出迎えたのは、鋭い眼差しの警備員達と同施設で働く研究員であった。
ファクトリーはサイバーランス社の研究開発施設の中でも最先端の技術を日々研究している。その重要性故、同施設のセキュリティレベルは最高レベルに設定され、完全なスタンドアローン。
その為外部との連絡は、凛空が使用した高速船か、ヘリコプターを使用する他ない。
この様に厳重に管理された施設で一体どの様な技術を研究開発しているのか。
その一端は、間もなく判明する。
「中で主任がお待ちになってます」
「ありがとうございます」
移動の道中、幾つものセキュリティゲートを潜り凛空が案内されたのは、施設内の一角に存在するとある部屋。
足を踏み入れた凛空がそこで目にしたのは、無機質な部屋の中、中央部分に設けられた四つの展示台。
そして、それぞれの展示台に佇む、四機のLBXの姿であった。
「よぉ、わざわざこんな南の島くんだりまでご足労かけたな」
「いえ、これ位なんでもありませんよ、イアン主任」
刹那、そんな凛空に声をかけたのは、眼鏡をかけ無精髭を生やし、カーゴパンツに白地のTシャツという服装の中年男性。
この施設の主任研究員を務める、イアンその人であった。
「ところでイアン主任、これが?」
「あぁ、こいつが、"GNドライヴ"搭載型LBX、その第二世代型に当たる機体達だ」
イアン主任の説明を受けながら、凛空は四つの展示台に佇む四機のLBXを観察していく。
白を基調としたトリコロールの機体、青と白のツートンカラーの機体、白を基調としたまるで板野サーカスでも駆使しそうな見た目の機体。そして、赤・青・黄色のトリコロールカラーの機体。
機体の形状も、機体の特性も異なる四機の機体だが、そんな四機に共通している点が一点存在していた。
それが、イアン主任の説明の中に登場したGNドライヴと呼ばれる半永久機関を搭載している事だ。
GNドライヴ、それは以前、エターナルサイクラーのサンプルユニットの製造に携わった嶺部長が、エターナルサイクラーに匹敵するものを作ってやると意欲を燃やした結果生まれたものである。
嶺部長を筆頭に、嶺部長の学友でもあったイアン主任等で構成されたスペシャルチームが中心となり開発され、その名は、プロジェクトMSの象徴の一つであるガンダムに由来している。
一見すると究極のLBXを作り出すに最適な機関に思われるが、欠点が無い訳ではない。
その一つが、一度稼働させると停止する事が出来ず、本体の改良が出来ないという点。また、生産性がすこぶる悪く、現状では四基しか存在していない。
そして、既存のコアボックスでは同機関を搭載できない為、"GN-00"と呼ばれる専用のコアスケルトンを必要とする。
この様に幾つかの欠点を備えてはいるものの、同機関の誕生はLBXの新たな可能性を切り開いたと言っても過言ではない。
因みに、栄えある第一号が完成し、その報告を耳にした凛空は、まさか本当に作られるとは思ってもいなかったので、脱帽せずにはいられなかった。
閑話休題。
「現在この施設内で、こいつらの試験運用データを収集している最中だ」
「すると、そのデータを基に?」
「あぁ、現在わしらは次世代の……、所謂第三世代型と呼ぶべき機体を開発中だ」
「凄い……」
そこでイアン主任は一拍置くと、とある提案を切り出し始めた。
「さて、わざわざこんな南の島くんだりまで呼んだのは、こいつらを自慢する為じゃない。お前さんに、こいつらのテストプレイヤーになってほしいからだ」
「え?」
「今任せてる連中が駄目という訳じゃないが、やはり最高にカッコイイ機体ってのは、最高のプレイヤーが使ったデータがあってこそ完成するとわしは考えてる」
「それで、僕が?」
「お前さんのプレイヤーとしての腕前は嶺の奴から聞いてる。お前さんなら、こいつらを十二分に使いこなせる筈だ」
イアン主任からの提案を受けた凛空は、暫し考えに耽る。
やがて、考えがまとまったのか、凛空は自身の答えを切り出し始める。
「僕で良ければ喜んで!」
「お前さんならそう言うと思っとったよ。それじゃ、どの機体を使うか選んでくれ。流石に四機全部を持ってかれちまうと、データが収集できなくなるんでな」
こうしてテストプレイヤーを引き受ける事にした凛空は、早速四機の中から一機を選び始める。
イアン主任から四機それぞれの特性を聞きながら、慎重に吟味する凛空。
やがて、凛空は一機のLBXを手に取った。白を基調としたトリコロールの機体だ。
「ガンダムアストレア……、そいつでいいんだな?」
「はい、この機体でお願いします!」
正義のタロットカードに描かれた正義の女神の名を由来とするガンダム。
高い汎用性と運動性能を有しており、各種装備のテストヘッドの役割を与えられている為、多彩なオプションが用意されている。
「それじゃ、いいデータをよろしく頼むぜ」
ガンダムアストレアを暫し見つめながら、凛空は、イアン主任の期待に応えられるよう精一杯頑張ろうと心に誓うのであった。
それから月日が経過し、季節は冬。
間もなく新年の足音も聞こえてくるであろう、クリスマス当日。
この日、キタジマ模型店は多くの客で賑わいを見せていた。
その理由は、クリスマスプレゼントにLBXの購入を許された子供達が大勢訪れていた為だ。
「うぉ、スゲー混んでる!? 一体全体どうなってんだよーっ!」
この少年もまた、クリスマスプレゼントに自身のLBXを購入するべくキタジマ模型店を訪れていた。
人込みをかき分け、漸く店内へと足を踏み入れた少年は、そこで混雑の原因が別にある事に気が付く。
「あ、あれは!?」
少年が目にしたのは、店内のバトルスペースに設置されたDキューブの前に佇む六人の少年少女の姿。
その顔ぶれは何れも、今年行われた第三回LBX世界大会アルテミスで目にした事のあるものばかりであった。
「今年のアルテミス優勝者の山野 バン! それにサポートメンバーの川村 アミに青島 カズヤ! うぉ、隼優勝者の海道 ジン! そしてこっちは、三位入賞の西原 凛空とサポートメンバーの三影 ミカ! す、スゲー!!」
その豪華な顔ぶれに興奮を隠しきれない少年。
だが、そんな六人がBXバトルで使用しているDキューブ内の状況を目にし、少年は更に興奮する。
「あ、あれは! オーディーンにゼノン!?」
Dキューブ内で睨み合うオーディーンとゼノンの二機。
しかし少年の目に留まったのは、その二機の周囲に広がる光景の方であった。
「って! 港湾都市のフィールドがこんなにボロボロになってる!? 一体どんなバトルをすればこうなるんだよ……」
Dキューブ内の港湾都市をモチーフとしたジオラマは、構造物は崩壊し、地面には幾つものクレーターが形成されている。
それはまるで爆撃でも受けたかのような有様であった。
また、そんなジオラマの各所には、激しいバトルから一足先に落伍したパンドラ・フェンリル・ガーベラ。
そして、今回のバトルで凛空が使用していた機体。LBXジンにスラスターを増加しより細身の体型にしたような外観のその機体の名は、シグー。
それら四機の姿もあった。
「そろそろ決着を付けるとしようか、バン君」
「あぁ、望む所だ!」
刹那、オーディーンとゼノンがジオラマを駆ける。
次の瞬間、両機は必殺ファンクションを繰り出す。衝突した二つのエネルギーは巨大な爆発を引き起こし、観戦していたギャラリー達の度肝を抜いた。
「く! 相打ちか……」
「くそ、ならもう一度だ!」
どうやら激しいバトルの行方は、相打ちという呆気ない幕切れを迎えた様だ。
その結果に納得できないバンとジンの二人は、Dキューブ内から自身の愛機を回収すると、再戦に向けて早速修理に取り掛かる。
「おいおいバン、ジン。二人とも、まだバトルする気かよ」
「そうよ二人とも、いい加減もう止めにしたら?」
「ん、あまり長い時間、Dキューブを占領するのはよくない」
「そうだね。それに、結構ギャラリーも多くなっちゃったし……」
そんな二人の様子を、凛空達四人は呆れた様子で見つめていた。
「よーし、修理完了!」
「僕の方も、準備万端だ」
「なら、もう一戦バトルだ!」
程なく、バンとジンの二人が再戦を行おうとした、その時。
「うぉぉぉっ! またあのスゲーバトルが見られるのか!!」
「おいおい、俺にもっと見せてくれよ!!」
「邪魔だ、見えねぇじゃねぇか!!」
「ちょ、押すなよ!!」
「見たい見たい!!」
もっと間近で観戦したいギャラリー達が殺到し、店内が大混乱に陥る。
「こらお前ら! 先ずは落ち着け!!」
「あはは、皆元気があっていいわね!」
「沙希、そんな暢気な事言ってないで、客をさばくのを手伝ってくれ!!」
北島店長が必死になってギャラリー達を落ち着かせるのを他所に、巻き込まれたアミ達は原因を作ったバンとジンに不服の声を漏らす。
「もぉ、二人がいつまでもバトルを止めないからって……、あれ?」
「お? バンとジンの奴は何処に行ったんだ?」
「凛空も、いない」
漸くギャラリー達が落ち着きを取り戻した所で、アミ達はバンとジン、それに凛空の姿が店内から消えている事に気が付くのであった。
「いやー、本当に驚いたな。いつの間にかあんなにも人が集まってたなんて……」
「本当に、バンってバトルになると周りが見えなくなるよね」
「あはは、そうだな」
その三人は何処に消えたのかと言えば、店の裏口を使ってキタジマ模型店を脱出した後、ミソラタウンの街中を散策していた。
「後でキタジマに戻ったら、店長や沙希さんに謝っておかないとね」
「分かってるって」
バンと凛空が話をするのを他所に、ジンは一人、先程のLBXバトルの反省会を行っていた。
すると、次の瞬間。
不意に、三人同時に腹の虫が鳴り始めた。
「ム……」
「お腹減ったな……」
「そう言えば、ずっとバトルしてたから、何も食べてなかったんだよね」
「ん~。あ、そうだ!」
すると、バンが妙案を思いついたらしく、声をあげた。
「ジン、凛空。あそこのコンビニに寄って、何か食べていこう!」
「いいね、それ」
「……?」
バンの提案に賛成の意を示す凛空。一方ジンは、何故か頭に疑問符を浮かべていた。
「ジン君、どうしたの?」
「あ、その……、コンビニというのは、あの店舗の事で間違いないのだろう」
「ジン、もしかしてコンビニ知らないの?」
「バン君、勘違いしないでくれ、僕だってConvenience storeぐらい知っているさ。飲料や食品を中心とする最寄品をセルフサービス方式で小売する小規模な店舗の事だろう」
まるで百科事典の解説文の如く解説を行うジン。
実は、知識としてのコンビニは知っているものの、実際にコンビニを利用した事は一度もないのだ。
当然ながら、コンビニを利用した買い食いなどもした事はない。
(……どうする、このままでは二人に世間知らずだと思われてしまう。ここは二人に付き合って買い食いを──。いやまてよ、これではまるでなれ合いじゃないか)
脳内で自問自答を繰り返すジン。
「ふ、だがまぁ、いいだろう。バン君、凛空君、早速──」
「あ、ごめんジン、電話だ」
「……」
やがて、決断を下したジンではあったが、タイミング悪くバンのCCMに着信が入ってしまう。
「父さん! どうしたの?──うん、──うん! えぇ、それ本当!? え、しかも今から!」
どうやら電話の相手はバンの父親である山野博士の様だ。
大好きな父親からの電話とあって、バンの声色からも、嬉しさがひしひしと伝わってくる。
「あー、でも今はちょっと、……あれ?」
刹那、バンは先ほどまでいたジンと凛空の姿が見当たらない事に気が付く。
とりあえず山野博士に折り返し電話する旨を伝え電話を切ると、早速二人を探しに行こうとしたバン。
だがその矢先、不意にバンのCCMにメッセージが届いた。
「ジンから?」
メッセージの送り主はジンであった。
その内容は、普段忙しい山野博士との折角の食事の機会、自分に構わず、家族との時間を優先してほしい。とのものであった。
「……ジン」
メッセージを読み終えたバンは、小さくジンの名を呟くのであった。
一方その頃、気を利かせてバンと別れたジンと凛空は、ミソラタウンの街中を歩いていた。
「そう言えば、今日はクリスマスだね」
「そうだな」
「そうだ! ジン君、もしよかったら、僕の家に来ない? 実は、家でクリスマスパーティー開くんだ! ミカも来るし、ジン君も──」
「いや、僕はいいよ」
「……え?」
「パーティーを開くのなら、早く帰った方がいい。それじゃ……」
「あ、ジン君」
凛空の誘いを断ったジンは、足早にその場を後にする。
そのまま当てもなく街を歩き続けるジン。
クリスマス当日とあって、街中はクリスマスのイルミネーション一色、光り輝いている。
すれ違う人々も家族の姿が多く、また漏れなく、眩いばかりの笑顔である。
世界がこんなにも輝いている一方、ジンの表情は浮かないものであった。
やがて、ジンが人気のない裏通り、とある廃ビルの前を通りかかった時であった。
「そこまでだ。死にたくなきゃ、動くんじゃねーぜ、海道 ジン!」
突如、物騒な物言いと共に、自身の名を呼ばれ足を止めるジン。
刹那、ジンは自身に向けられた複数の殺気を感じ取る。
「LBX、四機か……。何のつもりかは知らないが、先ずは名前を明かしてもらおうか?」
「は! 白を切るとか、とぼけんじゃねーよ! 裏切者が!」
「裏切者……、という事は、イノベーターか?」
「あぁ、そうさ。オレ達は元イノベーター。海道 義光様直属の暗殺部隊──」
刹那、通りの影から、四人の人影が現れる。
まるでフランケンシュタインの如く巨漢、そして頭部に刺さったボルトが目を引く男性。
顔の傷や顔色の悪さ、更には長い舌を持つ男性。
まるで猫の耳の様な特徴的な髪形をした女性。
そして、四人のリーダー格と思しき、不敵な笑みを浮かべた小柄な男性。
「
4Bストと名乗った個性的な四人、その左腕にはローマ数字のⅣが描かれた腕章をつけている。
そんな、月明りに照らされ明らかとなった4Bストの姿を目にしたジンは、再び口火を切った。
「悪いが、知らないな。いや、LBXの方は見覚えがある。確か、四聖獣の名を冠したLBXだったな」
「知らなくて結構。元より我らは闇の部隊、人知れず暗躍するのがその役目。……むしろ、知られていては我らの落ち度という事になる」
自身もその存在を知らぬ程、イノベーター内でも極めて秘匿性の高い部隊。それ故に、警察に逮捕される事もなかったのだろう。
ジンがその様な解釈を行うのを他所に、4Bストのリーダーは更に話を続ける。
「だが組織亡き今、我らはこうして表舞台に姿を現した。理由は分かるか? 我らが総帥海道 義光様のもとを去り、組織を壊滅へと追いやった最大の裏切り者、海道 ジン! てめーをぶっ殺す為だ!!」
「フ……、成程。まだ僕は、過去の亡霊から逃れる事は出来ないという訳か」
自嘲めいた笑みを浮かべたジンは、直後に自身のCCMを取り出す。
「いいだろう! 丁度暇を持て余していた所だ! 相手になってやる! ゼノン!!」
「そうこなくっちゃなぁ! それじゃ、冥土の土産に自己紹介してやるぜ! オレはセイリュウのジュノ!!」
「オレはゲンブのガンホ!!」
「アタシはスザクのスヨン!!」
「ビャッコのビョンギだ、ギシシ!!」
「いけぇ、四聖獣!!」
そして、戦いの幕が切って落とされる。
開始早々、4Bストの操る四機のLBXは、数の優位を生かしてゼノンの死角を位置取る。
それを目にした瞬間、ジンは悟った。
(しまった! 正確に、対角線に配置されたこのフォーメーション! 奴らは完全にゼノンの死角をついている!!)
「ははは!! 今更気づいてもおせーんだよ!! オレらはてめーの弱点を知り尽くしてる。ましてや四聖獣は元より強力なスペックを誇るLBX!! はなっからてめーに勝ち目はねーんだよ!!」
刹那、四機のLBXによる同時攻撃。その威力はまさに
そのあまりの威力に、通りの一部は爆煙の影響で視界不良となる。
「やったか!!」
「まてスヨン、まだだ」
「な! アレを躱したっての!?」
「あぁ、ギリギリの所で致命傷を避けて身を潜めやがった。流石は海道 ジン。海道 義光様に鍛え上げられた天才LBXプレイヤーというだけの事はある」
一方、そのジン本人はと言えば。
廃ビルの柱の陰に身を潜め、傷の状態を確かめながら、四聖獣に対する対応策を練り始めていた。
「だが、ここじゃ奴が身を隠せる場所などたかが知れてる。じわじわと追い詰めて、なぶり殺しにしてやんよ!!」
刹那、そんなジンの近くに、ジュノが操るセイリュウが姿を現す。
「っ! ゼノン!!」
「おせぇんだよ!!」
次の瞬間、応戦するゼノンに対して、セイリュウは装備した四聖獣セイリュウ。自身の名と同じ名が付けられた剣を使い必殺ファンクションを繰り出す。
「ゼノン!!」
ジンの悲痛な叫び声が木霊するのを他所に、4Bストの残りの面々も、各々のLBXをゼノンへと差し向ける。
「とっととくたばりな!!」
「おらおらおら!」
「死ねや、ギシシ!!」
スザク・ゲンブ・ビャッコが自身の名と同じ名の得物を使い、次々と必殺ファンクションを繰り出す。
この猛攻を前に、ゼノンは防戦一方であった。
そして、ジンとゼノンは気が付けば、4Bストによって廃ビルの屋上にまで追い詰められていた。
「ククク……、もう後がないな、海道 ジン」
「っ!」
「あと一撃でてめーはあの世行きだ。残された僅かな時間、せいぜい反省するがいい。そして……、イノベーターの深き悲しみを思い知れ」
じわりじわりと近づく4Bストを前に、ジンは、半ば諦めようとしていた。
イノベーターを裏切り、その戦いの中で全てを失った自分には似合いの最期。
そんな考えが脳裏を過った、次の瞬間。
「そんな所にいたのか、ジン!!」
「っ!」
聞き慣れた声が、廃ビルの屋上に響き渡った。
そして、一人の少年と、一機のLBXが姿を現す。
「さぁ、バトルしようぜ!!」
「ゲーッ!!」
「あれは、山野 バン!?」
「バカな! 奴が何故ここに!!」
「それだけじゃねぇ! あのLBXは……!?」
4Bストが驚愕する中、姿を現したバン。
しかも、バンと共に姿を現したLBXは、オーディーンではなかった。
オレンジと青のツートンカラーを基調とするその機体は、頭部の三叉鉾の如く角、背部と腰部に備えられたスラスター。そして、胸部に輝くEのイニシャルが目を引く。
更に、ビームの刃が光り輝く双槍イプシロングレイブ、同じく光り輝く、ビームガーダーの強化版とも言える盾イプシロンガーダーを装備している。
月夜の中で光り輝くその機体の名は──
「俺の新型LBX、イプシロンさ!」
イプシロンと名付けられた雄々しき機体。ジンはその姿に、視線が釘付けとなる。
すると、それを感じ取ったのか、バンがイプシロンを手に入れた経緯を話し始めた。
「さっきの父さんの電話さ、実はオーディーンの後継機のこいつが完成したって連絡だったんだ。だからこいつを取りに行って、すぐにジンを探してたんだ」
「なら何故、こんな危険な真似を!」
「決まってるだろ。……イプシロンの初めてのバトルは、ジンとしたかったんだ!」
その瞬間、ジンは理解した。
イノベーターとの戦いの中で、自分は失っただけではなかったのだと。
手に入れていたのだ。自分の為に戦ってくれる、大切な友という存在を。
「おらぁ、こっちを無視すんな!」
「二人でイチャついてんじゃねー!」
「一人増えたって関係ねぇ、ギシシ!」
「二人まとめてぶっとばしてやるよ!!」
刹那、4Bストが威勢のいい声と共に再び攻撃を再開する。
「やってみろ。四聖獣が相手なら、ゼノンとイプシロンの力を試すには丁度いい」
「さぁ、かかってこい!!」
すると、強力な援軍を得て勢いを取り戻したジンが挑発的な台詞を口にする。
それを聞いた4Bストは、怒りの咆哮を上げた。
「るせぇーーーっ!!!」
ゼノンに対して四聖獣セイリュウの切っ先を向け突撃するセイリュウ。
それに対して、ゼノンは
「バカな!」
「動きが変わった!?」
「嘘だろ!」
「よそ見するな! お前たちの相手はこっちだ! いけぇ、イプシロン!!」
ゼノンとセイリュウの戦いに気を取られていた残りの4Bストメンバーに対して、バンはイプシロンを差し向ける。
イプシロングレイブを振るい、光の刃が四聖獣を切り裂く──、かと思われた。
「あれ!?」
だが、振るわれたイプシロングレイブが四聖獣の装甲を捉える事無く、虚しく空を切る。
「何だこいつ、遊んでるのか!?」
「いや待て、まさか……」
「ギシシ、そう言う事か」
その後もイプシロンは攻撃を続けるも、動きにオーディーン程のキレが感じられない。
それを見たガンホ・スヨン・ビョンギの三人はある結論に達した。
「新型とやら、まだ使いこなせてねぇみたいだな!」
「それなのにアタシらに挑もうなんて!」
「百万年早いぜ、ギシシ!」
刹那、四聖獣三機による反撃を受け始めるイプシロン。
「バン君!」
すると、見かねたゼノンが救援に駆け付ける。
「ははは!! さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」
「くっ!」
再び四機が揃った四聖獣の猛攻を前に、ゼノンとイプシロンは防ぐだけで精一杯であった。
「ごめん、ジン。俺がもっとイプシロンを上手く使えてたら……」
「諦めるな、バン君! まだ勝機はある(とは言え、このままでは……)」
何とか一発逆転の手はないものかと思考を巡らせるジン。
その間にも、四聖獣の猛攻により、じわりじわりとゼノンとイプシロンのLPが減少していく。
「これで、終わりだぁーーっ!!」
そして、セイリュウが四聖獣セイリュウを振り上げた、その時。
突如、一筋の閃光が両者の間に降り注ぐ。
「な、何だ!?」
「今のは!?」
突然の事に驚くジン・バン、そして4Bスト。
刹那、何かを発見したスヨンの声に導かれるように、残りの面々は視線を夜空へと向けた。
そこで彼らが目にしたのは、夜空に輝く月を背に、夜空に佇む一機のLBX。
背部から放出される粒子と相まって幻想的で神秘的とさえ感じられるその機体の名は、ガンダムアストレア。
ただし、その頭部には、ガンダムの特徴とも言うべきツインアイを隠すかのように、センサーマスクが装着されている。
「目標対象を確認……。これより、武力介入を開始する」
プレイヤーの意思に従い、ガンダムアストレアは廃ビルの屋上に、ゼノンとイプシロンを守るかのように、四聖獣の前に降り立つ。
「誰だか知らねぇが、オレ達に楯突いたらどうなるか、思い知らせてやるよぉぉぉっ!!!」
〈アタックファンクション、ドリルスラッシャー〉
当然、折角のチャンスをふいにされたセイリュウは、四聖獣セイリュウの切っ先をガンダムアストレアに向け、必殺ファンクションを繰り出す。
「アストレア、目標を断罪する」
刹那、ガンダムアストレアは右腕に装備した折り畳み式の大型実体剣、プロトGNソードの刀身を展開させると、セイリュウの繰り出した必殺ファンクションを刀身で受け止めてみせた。
「なっ!?」
「嘘だろ!?」
「げぇ!?」
「ぎぃ!?」
この事実に驚愕する4Bスト。だが、更なる衝撃が彼らを襲う。
素早い動き、まるでアスリートの如く身のこなしで、ガンダムアストレアが四聖獣を相手に互角以上の戦いを繰り広げたからだ。
「一体、あのLBXは……」
「ん?」
一方、ガンダムアストレアの登場に呆然としていたジンとバン。
だが、そんな二人のCCMに突如、差出人不明のメッセージが送られる。
その内容を確認した二人は、すぐさまアイコンタクトをとる。
次の瞬間、ガンダムアストレアが四聖獣の得物を次々と破壊した。
「今だバン君!」
「あぁ!」
「「うぉぉぉっ!!」」
刹那、ゼノンとイプシロンは必殺ファンクションを繰り出す。
意識がガンダムアストレアに向けられていた事も相まって、四聖獣は二機の繰り出した必殺ファンクションが直撃し、爆発と共に散るのであった。
「う、嘘だろ……。オレ達の四聖獣が、負けた……、だと」
愕然とする4Bスト。そんな彼らのもとに、ジンとバンが近づく。
「「ひぃーーっ!!」」
復讐する側から復讐される側に立場が変わり、情けない声と共に目に涙を浮かべる4Bスト。
「なーんちゃって。昔の事はもういいじゃん。今度はさ、皆で楽しくバトルしようぜ」
しかし、バンは復讐など望んでいなかった。
「お、お……。覚えてろよーーーっ!!」
「「「あざースッ!」」」
「おーう、また遊ぼうなー!!」
(昔の事は箱にしまう、か──)
捨て台詞と共に廃ビルの屋上から走り去っていく4Bスト。
それを見送ったジンとバンは、漸く一息つくのであった。
「そうだ! あのLBXは?」
刹那、ふとガンダムアストレアを探すも、既に廃ビルの屋上に同機の姿はなかった。
とその直後、二人同時に、腹の虫が鳴り始める。
「ム……」
「お腹減った……。あ、そう言えばさっき食べ損ねたんだった」
「なら、食事にしようか、バン君」
「え?」
「コンビニとやらで」
そして、ジンとバンの二人は、雪が降り始める中コンビニへと足を運び、そこで二人仲良くおでんを買い食いするのであった。
「所で、バン君。先ほどの戦いで僕達を助けてくれたあのLBX、君はどう思う?」
「う~ん、マスクで顔ははっきりと見えなかったけど、あの感じ、何となく凛空が使ってるガンダムに似てる気がしたんだ」
「確かに」
「けど、凛空があんな機体を使ってる所見た事ないし……。一体、あれは誰が作って操作してたんだろう……」
ガンダムアストレアの話題で盛り上がりながら。
同時刻、二人の会話の中に出てきた凛空はと言えば。
自宅に帰るべく、迎えの車に乗り込み、車上の人となっていた。
(あの感じなら、例の機体も問題なく扱える筈だ……。未来を切り開く為の、あの機体も)
車窓に流れる、雪降るミソラタウンの景色を眺めながら、凛空は心の中でそう呟く。
そんな彼の手には、ガンダムアストレアが握られていた。
そして、始まりの記憶でもある。