うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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偽りの平和

 西暦2050年、一つの戦いが幕を下ろした。

 後に、当事者たちの間で"イノベーター事件"と呼称されるようになった、秘密結社イノベーターとの戦い。

 戦いの舞台となったトキオシティ、そして、最終決戦の舞台となったサターン内部での激闘。

 文字通り世界の命運をかけたその戦いは、決して公にされる事はなく、人知れず、歴史の一ページとして刻まれる事となった。

 

 故に、世間の人々は、この戦いの中心にいたのが中学生の少年少女達であるとは、知る由もなかった。

 

 

 そして、西暦2051年。

 新たな年を迎えて一か月程が経過した現在。

 当事者である少年少女達はどうしているのかと言えば──

 

「おはよう、皆」

 

 当事者の一人である凛空は、いつも通り学校に登校し、自身の教室に足を踏み入れていた。

 数人のクラスメイトと挨拶を交わした後、凛空は、同じく当事者であるミカ・アミ、そしてバンと挨拶を交わす。

 

「凛空、おはよう」

「おはよう」

「おはよう……」

 

 すると、何故かバンだけあまり元気がない事に気が付く。

 

「バン、どうかしたの?」

「実はね──」

 

 刹那、理由を知っているのであろう、アミが本人に代わって元気のない理由を説明し始める。

 曰く、昨日からバンの父親である山野博士が仕事の都合で海外、正確にはイギリスのブリントンへの単身赴任の為に出発したのだとか。

 

 この理由を聞いた凛空は、バンの元気のなさに合点がいった。

 山野博士は以前、海外への学会出席に際して飛行機事故で死亡したと偽装され、イノベーターに拉致された経緯があった。

 イノベーター事件の最中にその事実を知ったバンは、今回の単身赴任においても、同様の出来事が起こるのではないかと心配していたのだ。

 

(という事は、例の組織の準備が最終段階に入ったという事か……)

 

 同時に凛空は、原作において描かれた、山野博士がとある理由により行う事になる世界規模での計画、その準備が大詰めの段階に入った事を察する。

 

(実際に行動を起こすのはタイニーオービット社の新製品発表会が行われる日だ。タイニーオービット社から発表会の日程などの情報はまだ出ていないから、幾分の猶予はまだある……。とは言え、残された猶予は最大でも半年ほどだろうな。となると、嶺部長やイアン主任に例の機体の完成を急いでもらわないとな……)

 

 既にその計画の顛末を知っている凛空は、それに対応するための準備を進めていた。

 しかし、原作では決行の正確な日時が明記されていなかった為、大まかな予測のもとに進められていた。

 

 所が、今回の一件でより正確な予測が可能となった為、凛空はこれを基にした進行状況の修正案を考え始めるのであった。

 

「山野くん、もしかして悩み事?」

「悩みがあるなら相談してね、いつでも話聞くから」

「ありがとう……」

 

 刹那、クラスメイトの女子生徒がバンに優しい言葉をかける。

 この光景を目にした凛空は、バンが最近異性からモテるようになったとしみじみ感じるのであった。

 

 その理由は言わずもがな、成長期に伴う身長の伸びと共に、バンの母親によるコーディネートが行われた為だ。

 

(そう言えば、前にアミが、バンに身長を抜かされてちょっと残念そうにしてたな……。けどそんなアミだって、身長の代わりに、以前までがザクⅡだとしたら、今はアクト・ザク位にまでは胸部装甲が──)

「りんくー?」

「っ!?」

 

 刹那、凛空はアミのどす黒いオーラを纏った笑みを目にし生命の危険を感じ取ると、直ちに邪な考えを振り払うのであった。

 

「はーい皆、お喋りはそこまで。朝のホームルームを始めるから、席について!」

 

 程なく、担任の先生が教室に姿を現し、凛空達を含めたクラスの生徒達は、自身の席に戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 時間は進み、迎えた放課後。

 

「父さん、大丈夫かなぁ……」

「まだ気にしてるの? 大丈夫よバン、もうイノベーターはなくなった訳だし」

「そうそう、気にする事ねえって」

 

 バン・アミ、そしてカズの三人は、凛空とミカが係の仕事を終えるのを待つ間、放課後の教室で話に興じていた。

 最もその話題は、バンの相変わらずの心配性についてであったが。

 

「そもそも単身赴任先は分かってんだろ? だったら大丈夫だろ」

「そうよバン」

「だけど……」

「山野博士だってイノベーターの事があったんだ、用心してる筈だぜ。だから、そう簡単にまた誘拐、なんてされないだろ」

「カズの言う通りよ。バン、あまり考えすぎても疲れるだけよ」

 

 しょげるバンを励ます、カズとアミの二人。

 二人の励ましを受けて、少しは気持ちが楽になるバン。

 

「係の仕事、終わったよ」

「ん、お待たせ」

 

 するとそこに、係の仕事を終えた凛空とミカが姿を現した。

 

「バン、もしかしてまだ気にしてるの?」

「そうなのよ」

 

 バンの様子を目にした凛空とミカはすぐに状況を察すると、早速バンを励まし始める。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、バン」

「ん、大丈夫」

「そうかな?」

「僕やミカ、それにアミやカズ。それだけじゃない、拓也さんや八神さん達だっている。もし山野博士に万が一のことがあっても、僕達が絶対に力になるよ!」

「ん、だから、心配ない」

「そうだぜ、バン!」

「そうよ、私達がいるわ!」

「皆……。ありがとう!」

 

 四人からの励ましの言葉を受け、漸くバンは立ち直るのであった。

 

「それじゃバン! 気分転換に、これからキタジマに行ってバトルでもしようぜ!」

「あ、いいわねそれ!」

「賛成」

「そう言えば、新しいフィールドが追加されたって店長が言ってたね」

「新しいフィールド!? よーし、それじゃ、早速キタジマに行ってバトルしようぜ!!」

 

 そして五人は、肩を並べて教室を後にすると、馴染みのキタジマ模型店に向けて歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

「皆、いらっしゃい」

「よぉ、来たな」

 

 キタジマ模型店に足を踏み入れると、カウンターにいた北島店長と沙希が早速声をかけてくる。

 

「そうだ、皆にいいものを見せてやろう」

 

 そして、北島店長からの誘いを受けて、五人は早速カウンターの方へと足を運ぶ。

 刹那、期待に胸を膨らませる五人の前に、北島店長は手に持っていた二つの箱をカウンターに置いた。

 

「見て見ろ! 今日入荷したばかりの新商品たちだ!」

 

 それぞれの箱のパッケージに描かれていたのは、プロジェクトMSのLBXを彷彿とさせる機体達。

 ただし、パッケージの脇に描かれた製造メーカーのロゴはサイバーランス社のものではなく、何れも"竜源"や"ミラージュ・エンタープライズ"等の海外のLBXメーカーのものであった。

 

 一方のパッケージに描かれていたのは、緑を基調とした武骨な外観の機体、まるで鼻のように伸びた頭部、そして頭部下部に装備された滑腔砲が目を引く。

 その見た目通り鈍重ながらも、それを補い余りある装甲とパワーを有し、基本装備の滑腔砲とカーボンスピア以外にも、必要とあれば超重量の装備も搭載可能な積載量を誇る。

 販売は竜源が行っているが、その開発はオローシャやインドのメーカーとの共同になっている。

 パッケージに描かれたその機体の名は、"ファントン"。

 

 もう一方のパッケージに描かれていたのは、モスグリーンを基調とした、頭部の四角いカメラが特徴的な、シンプルな外観の機体。

 その見た目通り高い操作性と、高い生産性を兼ね備えている。

 基本装備は円筒型マガジンのマシンガンに円盤形状のシールドだが、豊富なオプションが用意されているので、高い汎用性も併せ持っている。

 欧州の巨大財団であるロームフェラ財団を後ろ盾に持つ欧州有数のコングロマリット、「つまようじから人工衛星まで」をキャッチコピーとするミラージュ・エンタープライズが、イギリスのLBXメーカーであるアーマー&クラウンの協力を得て開発。

 パッケージに描かれたその機体の名は、"リーオー"。

 

「ファントンにリーオー。またスゲーLBXが出てきたな!」

「うん。どっちもイケてるデザインだ!」

「これ、プロジェクトMS、意識してるのかな?」

「そうじゃない。このファントンは何となくザクに似てるし、こっちのリーオーはジムに似てなくもないわよ」

 

 二機のパッケージを目にして、各々の感想を零す四人。

 一方の凛空は、海外のLBXメーカーがこの様な機体を開発・販売してきた事に複雑な心境を抱くのであった。

 

 

 こうして北島店長に新商品を見せてもらい気分が高揚した五人は、早速LBXバトルを始める。

 ただ、気分が高揚していた為か、いつもとは異なり少々大味な様相を呈していた。

 

〈アタックファンクション、レインバレット〉

 

 凛空が操るシグーアサルト。

 シグーにアサルトシュラウドと呼ばれる増加装甲を装備させ、更に両肩部に、姿勢制御翼やシールドの機能を持ち裏側にガトリング砲を内蔵した大型バインダーを追加している。

 そんな同機が、増加スラスターを噴かせ上空に飛翔すると、両腕のバルカン内装防盾、更には大型バインダーのガトリング砲の砲口を対戦相手のフェンリルに指向する。

 

 次の瞬間、それらの砲口が唸りを上げる。

 文字通り大量の弾丸が雨の如く降り注ぎ、フェンリルは間もなくブレイクオーバーとなるのであった。

 

「ったく、相変わらず凛空の使う機体は、えげつねぇ火力だな」

「これでも抑えてる方だけどね」

「うへぇ……」

「ちょっと、お喋りするなら機体を回収してからにしてよ」

「ん、次、私達の番」

「カズ、フェンリルの修理が終わったら、今度は俺とバトルしようぜ!」

「お、いいぜ!」

「さぁ、いくわよミカ!」

「ミカ、頑張ってね」

「ん!」

 

 何処にもである、平和な、いつもの日常。

 人知れず世界の危機を救った五人は、自分達の手で取り戻した平和な日常を謳歌していた。

 

 

 

 

 

 だがその裏で、新たな戦いの足音が忍び寄っているとは、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 ──否、この世界の行く末を知る、一人の異邦人(イレギュラー)を覗いて。




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