翌日。
バン・凛空・ヒロの三人は、拓也とコブラの二人と合流するべく、集合場所であるミソラ駅の前にいた。
「まだかな……」
「ですね」
駅を利用する人、駅前を通る人、三人と同じく誰かと待ち合わせをしている人等々。
今日も多くの人々が利用するミソラ駅の前で、三人は二人が姿を現すのを待つ。
「ん?」
その時、不意にバンのCCMにメッセージが届く。送り主は、拓也からだ。
「二人とも、拓也さんとコブラ、少し遅れるみたいなんだ」
「え、そうなんですか?」
「どれ位?」
「えーと、ニ十分ぐらいって書いてある」
「なら、何処かで時間を潰さないとね」
急遽手持ち無沙汰となった三人は、各々時間を潰す為の方法を考え始める。
すると、妙案を思いついたのか、不意にバンが声を漏らした。
「そうだ、キタジマに行こう!」
「キタジマに?」
「あぁ、いい機会だからヒロに店長達を紹介しようと思ってさ!」
「成程、いいね」
「あのお二人とも、キタジマって?」
「俺達がお世話になってる模型店さ、店長達もいい人だから、きっとヒロも気に入る筈さ!」
こうして三人は、一路キタジマ模型店を目指してミソラ駅を後にするのであった。
「あらバンに凛空! ……と、二人のお友達?」
「お、来たな」
「こんにちは店長、沙希さん」
「ヒロ、この二人がいつも俺達がお世話になってるキタジマ模型店の店長と沙希さんだ」
「はじめまして、僕、大空 ヒロと言います!」
「お、元気がいいな! 俺がキタジマ模型店の店長、北島 小次郎だ」
「あたしが北島 沙希よ、よろしくね」
「はい、よろしくおねがいします!」
キタジマ模型店に足を運んだ三人は、早速北島夫妻と挨拶を交わす。
「バン、凛空。二人の事だ、あのディテクターと戦うんだろ?」
「ディテクター……。もう頭に来るわ! このままじゃ、LBXは危険だ―って声が上がって、また販売中止になっちゃうわよ! はぁ……、折角売り上げも伸びてきたから、ゆくゆくは二号店の出店も夢じゃないって思ってたのに」
沙希が店舗拡大の野望を諦めていない事に苦笑いを浮かべるバンと凛空を他所に、沙希は更に話を続ける。
「バン、凛空! ディテクターなんかギッタンギッタンにして頂戴! キタジマの、二号店出店の未来はあなた達にかかってるんだから!!」
二人に激励を飛ばした沙希は、いつもの優しい表情を浮かべながら締めの言葉を贈る。
「万全の品揃えでお店を開けておくから、頼んだわよ、少年達!」
「だけど、無茶したり無理するんじゃないぞ」
「「はい!」」
こうして北島夫妻からの応援を受け取った三人は、その後暫く北島夫妻と談笑を交わし、予定の時刻が迫った所でキタジマ模型店を後にする。
その後、無事に拓也とコブラの二人と合流を果たした三人は、拓也の運転するワゴン車に乗り込み大会の会場であるシブヤ武道館を目指すのであった。
シブヤタウンのシブヤ武道館。日本伝統の武道を普及奨励し、心身錬磨の大道場としての役割を担うべく設立された歴史ある武道館。
そんなシブヤ武道館の熱気は現在、最高潮に達しようとしていた。
満員の観客達が見つめるのはメインアリーナである大道場の一角、決勝戦が行われている空手マットの上。
空手着に身を包んだ二人の女子選手が、互いに一歩も譲らぬ激しい攻防を繰り広げている。
誰もが勝負の行方を固唾を呑んで見守っていた、次の瞬間。赤い髪の女子選手が相手の一瞬の隙を突き蹴り技を繰り出した。
刹那、蹴り技を受けた相手選手は、自ら敗北を認めるかの如く膝をつく。
「勝負あり! 勝者、
そして、審判の口から勝者の名が告げられると共に、シブヤ武道館の熱気は最高潮に達するのであった。
その後、粛々と執り行われる女子無差別級の表彰式。
表彰台のてっぺんに立ち、金色に輝くメダルと共に優勝賞品であるLBXを受け取るラン。
彼女が受け取ったのは細身の真っ赤な造形ながらも高い出力を誇り、手甲を兼ねたミネルバクローによる近接格闘を得意とする機体。その名をミネルバ。
「アレが、父さんが託した三体目のLBX」
「そして、花咲 ラン。彼女がそのプレイヤー……」
「四人目の選ばれし戦士ですね!」
そんな彼女の姿を観客席から眺めていたバン達は、各々の感想を零す。
「よし、三体目を託した奴も分かった事だし、早速勧誘に行くぞ」
「はい」
そして、表彰式が終わると共に、コブラを先頭にバン達はランと接触を図るべく移動を開始する。
だったのだが、ここで早速アクシデントが発生する。それは、バン達が出待ちをしていた出入口とは別の出入り口からランが出ていってしまった事だ。
その事実にバン達が気付いたのはランが出ていってから十分後の事。
何とか見つけ出そうと行き交う人々に聞き込みを続け、漸くバン達は、ランとその友達と思しき二人の女の子が路地裏に入っていくのを見たとの情報を得る。
その情報をもとに足を運んだ路地裏でバン達が目撃したのは、展開されたDキューブの中でアキレス・ディード、更には黒いハンターとクノイチの三機と対峙するランの姿であった。
「勝負はこれから、やるよミネルバ!」
「そうだ、諦めちゃ駄目だ!」
「え、まだいたの!?」
突如Dキューブ内に降り立ったエルシオンとペルセウス。更に、ビームライフルにシールドを装備したストライクガンダムに、大型可変翼と高出力スラスターに二本のビームサーベルを搭載する高機動戦闘用のエールストライカーを装備した形態。その名を"エールストライクガンダム"。
上記三機の姿を目の当たりにしたランは、咄嗟に身構える。
というのも、当初ランがシブヤ武道館からこの路地裏に足を運んだのは、組み立てたばかりのミネルバで友達のユキとバトルをする為であった。
所が、ユキのウォーリアーとのバトルの最中、突如として五機のデクー改が乱入。問答無用で攻撃を仕掛けてきたのだ。
何とか五機のデクー改を撃破し、安堵したのも束の間。今度はユキのウォーリアーがブレインジャックを受け、ミネルバに攻撃を仕掛ける。
これも何とか撃破したその矢先。アキレス・ディード達が乱入し攻撃を仕掛け、先程のエルシオン達の出現に至ったのだ。
こうも立て続けに乱入されれば、身構えない方が不自然である。
「あんた達は?」
「味方だよ!」
「味方?」
しかし、駆け付けたバンの言葉を聞き、ランの警戒心に変化が現れる。
「バンさん、凛空さん、黒いLBX……、アキレス・ディードです!」
「それに、黒いハンターに黒いクノイチ。おそらく。ディテクターのLBXだろうね」
「え、ディテクター!? それって、昨日ダイソンビジネスセンターの周辺でテロを起こしたってニュースでやってたあの!?」
そして、凛空の口から飛び出したディテクターの名を聞き、ランは目を見開いた。
「詳しい話は後、今はこいつらを倒さなきゃ!」
「一緒に戦いましょう!」
「協力してくれるよね?」
「……勿論、やるわ! このまま引き下がれないもん!」
刹那、三人からの申し出を快く引き受けたランは、三人との共闘を開始する。
ミネルバは黒いクノイチこと鬼クノイチがエルシオンとの鍔迫り合いに負けバランスを崩した頃合いを見計らい同機の懐に飛び込むと、ミネルバクローによる一撃を鬼クノイチに叩き込む。
次の瞬間、鬼クノイチはブレイクオーバーとなる。
「やるな」
「まだまだ、私の本気はこれからだよ!」
その鮮やかな手際にバンが感嘆の声を漏らすのを他所に、ランは次なる標的を見つけるとミネルバを前進させる。
次なる標的となった黒いハンターことハンター牙は、ペルセウスとエールストライクガンダムの二機と対峙していた。
得物のファングライフルで応戦しつつ、ワイルドフレーム特有の跳躍力を生かして一定の距離を保つハンター牙。それに対してミネルバは、その機動力を持って瞬く間に距離を詰める。そして、ファングライフルの銃口がミネルバに向けられたと確信するや否や、まるで誘うかの如く跳躍してみせた。
刹那、意識がミネルバに向けられている隙を狙い、ペルセウスがペルセウスソードでファングライフルを弾き飛ばす。更に弾け飛んだファングライフルをエールストライクガンダムがビームライフルで撃ち抜く。
こうして得物を失ったハンター牙は、最後にミネルバが繰り出した踵落としを受けて、程なくブレイクオーバーとなるのであった。
「押忍!」
「す、凄い……」
「流石は武闘大会優勝者……」
シブヤ武道館の試合でランが見せた動きをそのままトレースしたかのようなミネルバの動き。
これが初陣とは思えぬその動きを目の当たりにして、ヒロと凛空も感嘆の声を漏らす。
「これで残りは……、アイツだけだね!」
そして残る標的は、岩山の頂上から一連の戦いを眺めていたアキレス・ディードだけとなる。
「凛空、今回は……」
「分かってるよバン。皆で協力して、アイツを倒そう」
刹那、バンが恐る恐る凛空に声をかけてみると、一晩時間を置いた事で冷静さを取り戻したのか、昨日のような雰囲気は感じられなかった。
その様子を目にし、一応安堵するバン。しかし同時に、これが一時しのぎである事も理解していた。
今の凛空は、まさに不発弾。突然に目を覚まし、平穏を打ち破る。まさに巨大な不発弾。
だからこそ、自爆や誘爆には用心しようと、バンは心に留めるのであった。
「いくよー!」
そして、ランの掛け声と共に、アキレス・ディードとの戦いの幕が上がる。
エールストライクガンダムの援護のもと、残りの三機がアキレス・ディード目掛けて跳躍する。
そして、間合いに入るや否や、アキレス・ディードに対して各々の得物を振るう三機。
だが、アキレス・ディードは巧みな動きでそれらを躱してみせる。
更に、得物をビームサーベルに持ち替え遅れてやってきたエールストライクガンダムの攻撃に対しても、ダークシールドを使用し耐えてみせる。
「やっぱり一筋縄ではいかないですね!」
「なら、四人同時に……」
と、バンが四機同時攻撃を提案しようとした、その時。
不意にアキレス・ディードのカメラが点滅し始めると、不気味な機械音声が流れ始めた。
〈デモニックモード〉
刹那、アキレス・ディードが赤紫色に光り輝き始める。
その光景を見たバンの脳裏に浮かんだのは、アキレスのVモード。
「何、こいつ!?」
「さっきまでと、動きがまるで違います!?」
そしてまさに、四機による怒涛の攻撃を軽々と躱してみせるその姿はアキレスのVモードと同様と言えた。
数的不利を覆すべく特殊モードによる機体性能向上で短期の決着を図る、かと思われたが。
なんとアキレス・ディードはダークシューターを使って四機の足止めを行うと、そのままDキューブを飛び出し、何処かへと飛び去ってしまった。
アキレス・ディードを逃しはしたものの、無事にランとの接触に成功したバン達は、早速勧誘を開始する。
「山野 バン!? 本当に、本人!?」
「あ、あぁ……」
「すごーい! 去年のアルテミス優勝者の山野 バン! あ、確か先週のLマガにも載ってたよね! うわ~、本物だぁ。……あたし、貴方に憧れてLBX始めたんだよ!!」
どうやらランはバンに憧れているらしく、勧誘は思いのほかすんなりといきそうであった。
その為、自己紹介を終えた凛空は勧誘役をバンに任せて行く末を見守っていたのだが。その時不意に声をかけられる。
「あの、すみません」
「ん?」
「西原 凛空さん、ですよね。去年のアルテミスに三位入賞した」
「うん、そうだけど、君は?」
「わ、私、ランの友達のユキって言います!」
声をかけてきたのは、ランの友達のユキであった。
「よろしくね、ユキさん」
「は、ひゃい! よろしくおねぎゃいします!」
どうやらユキは緊張している様だ。その証拠に顔は赤く、言葉もカミカミである。
「大丈夫?」
「は、はい……。あの、凛空さん!」
「何かな?」
「私、凛空さんのファンなんです! 去年のアルテミスを見て、ファンになったんです! ま、まさかこんな所で本人に会えるなんて夢にも思いませんでした!」
まさか自分自身がユキの緊張の原因だとは思ってもみなかった凛空。それでも、面と向かってファンであると言われるのは嬉しい様だ。
「ありがとう、ユキさん」
「っ!! こ、これからも、応援します!」
「うん」
「あ、そ、そうだ……」
刹那、不意にユキが自身のバッグの中から何かを探し始める。
程なく、ユキがバッグの中から取り出したのは、一冊のメモ帳とペンであった。
「サイン、お願いします!」
「うん、いいよ」
ユキからの申し出を快く引き受けた凛空は、メモ帳に自身のサインを書いていく。
程なく、凛空のサイン入りのメモ帳を受け取ったユキは、彼の書いたサインを目にし満ち足りた表情を浮かべるのであった。
「よかったね、ユキ!」
「うん。……これはもう、我が家の家宝だよ」
刹那、そんなユキに対してランが声をかける。
「じゃユキ、あたし、ちょっとバン達と秘密基地に寄っていくから、じいちゃんにはちょっと帰りが遅くなるって伝えといて」
「……え?」
いつの間にか合流していたコブラやランの言葉を鑑みるに、どうやら勧誘に成功したランを連れて旧シーカー本部に向かう事になった様だ。
「じゃ、行ってくるねー!!」
「えぇ、ちょっとラン!?」
こうして、伝言役を任せられたユキを残し、ランはバン達と共に旧シーカー本部へと向かうのであった。
拓也の運転するワゴン車を使い旧シーカー本部へと到着したバン達。
そこで彼らを出迎えたのは、昨日の招集により集まった里奈や結城などの元シーカーメンバーの面々であった。
「システムのアップデート等、必要最低限の本部の機能はとりあえず回復したわ。けど、本格稼働させるにはまだまだ時間が必要ね」
「そうか、ご苦労だった里奈」
里奈からの報告を聞き安堵の表情を浮かべる拓也。そんな拓也とは対照的に浮かない表情を浮かべているバン。
「あの、里奈さん。カズとアミ、それにミカの行方は分かったんですか?」
「それは今、結城君が調査中よ」
「そうですか……」
今だ三人の行方が分からず気を揉み続けるバン。
一方、そんなバンとは対照的に、旧シーカー本部に対して目を輝かせていたのが、ヒロとランの二人である。
「うぉぉっ! カッコイイッ!!」
「人も増えてきて、ますます本物の秘密基地っぽくなってきましたねぇ!」
「うわぁ、スゲー!」
「ランさん!」
「ん、どったのヒロ?」
「僕達四人は選ばれし戦士、いえ勇者です! そして僕達は、これからディテクターの魔の手から世界を救うんです! まさしくRPGですよ!! あ、RPGと言ってもルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョートの方じゃないですよ、ゲーム機が四千クレジット安くなるクーポン券付きの方です!」
「……ヒロ、お前面白いやつだな。よーし、一緒に頑張ろうな!」
「はい!!」
改めて固い握手を交わすヒロとランの二人。
そんな二人の様子を眺めていたコブラが、ふと独り言ちる。
「これで、山野博士のLBXを操る三人のプレイヤーが揃ったわけだ」
「コブラ、一つ聞いてもいいか?」
そんなコブラの独り言に拓也が反応を示す。
「バンは兎も角、何故あの二人が選ばれたんだ? 凛空……、はサイバーランスのLBXがあるから仕方がないが、他にも候補になりそうなプレイヤーはごまんといただろう?」
「ヒロは、LBXバトルオペレーションでの反射神経と精度の高い緻密な動きが評価されたからで。ランは、武闘大会での身体能力と格闘センスの高さが評価されたからだ」
そこで一拍間を置くと、コブラは更に話を続ける。
「宇崎の旦那も、LBXを操る能力は子供の方が優れているって事知ってるだろ? 四の五の言わずに、アイツらを信じてみようぜ」
「……ふ、そうだな」
こうしてコブラとのやり取りを終えた拓也に、結城が声をかける。
「社長! 行方不明となっている三人のCCM反応が出ました!」
「本当か!?」
「え!?」
結城からの報告を耳にするや否や、バン達は結城のもとへと駆け寄り彼の目の前にあるモニターに視線を向ける。
「現在位置は……、太平洋上!?」
「この移動速度……、三人は飛行機に乗せられているのか!」
「何処に向かってるんでしょうか?」
「このルートだと、おそらくA国だろう」
モニターに表示された座標と移動速度から、三人の行く先を予想する一行。
そして、行く先が判明した事で、バンは早速助けに向かおうと進言する。だがその直後。
「これは!」
「え?」
「反応が……、消滅しました」
「く! こちらの逆探知に気付かれたか」
モニターに表示されていた三人のCCMの反応が消失してしまったのだ。
「拓也さん……」
「心配するな。ディテクターは三人を必要としている、手荒な真似はしないだろう」
「そうね。それに、少なくとも三人の行き先は分かったわ」
「A国。そこに、ディテクターの本拠地があるんですね」
「よし、皆すぐに渡航の準備を始めてくれ。明日、A国に向けて出発する!」
「「はい!!」」
西海岸なら八千キロメートル、東海岸なら一万キロメートル。日本から遠く離れたA国の地に向かう事を決定した一行は、翌日の出発に向けて各々準備を始めるのであった。