うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

118 / 122
世界への旅立ち、の前に

「今回、トキオシアで発生した大規模LBX暴走事件。発生から既に24時間以上が経過していますが、その後の進展は?」

「はい、今回の事件に関してはディテクターと呼ばれる謎の組織が犯行声明を発表していますが、ロンド・ベル関係者の話によると──」

 

 ミソラ駅付近の裏路地にある落ち着いた店構えの喫茶店、ピークタイムのティータイムが間もなく終わりを迎える頃とあって、店内にいるお客数は比較的少ない。

 そんな数少ないお客の一人に、凛空の姿があった。

 凛空が自宅ではなく喫茶店に足を運んでいるのは、とある人物に呼び出されたからである。

 

「今回の事件を受けて番組で実行した緊急の街頭インタビューによると、約三割の方がLBXの販売中止に賛成という結果──」

 

 そんな凛空と対座しているのは凛空を呼び出した張本人。その人物は手にしたタブレットPCで夕方のニュース番組を視聴していたが、程なく視聴を止めると、凛空との会話を再開する。

 

「一報を受けた時は潜伏していたイノベーターの残党かと思いましたが、まさか別の、それも正体不明の組織の仕業とは……」

「田中さん、ディテクターについて何か分かった事は?」

「お恥ずかしながら、組織の人員、活動拠点、活動資金の流れ等々……、全くもって」

「そうですか……」

 

 その人物とは誰であろう田中であった。

 彼は申し訳なさそうに調査の進捗状況を説明すると、乾いたのどを潤す様にアイスコーヒーを一口飲んだ後、再び話を続ける。

 

「所で凛空君、やはりA国に?」

「はい。連れ去られたカズやアミ、それにミカを助ける為にも、現地に赴きます」

 

 言葉の節々、そしてその眼差しから凛空の決意を感じ取った田中は、ならばと可能な限りの協力を惜しまない旨を伝える。

 

「流石にA国内では大手を振って……とはいきませんが、役立ちそうな情報など、迅速に提供していきます」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、凛空君はイノベーター事件解決の功労者ですから、当然の事ですよ。……それに、組織の中には凛空君とミカさんの二人の事を応援し(推し)ている者も多いですから、お二人の事となれば尚更、ですよ」

「え、そうなんですか? あ、ありがとうございます」

 

 まさか自身の知らぬ所で自分達の事を応援してくれている人々がいた事を知り、凛空は少々気恥ずかしくなる。

 

「では、私はそろそろ失礼させていただきますね」

「よろしくお願いします」

 

 こうして田中が退店したのを見届けると、凛空もまた退店し、自宅へと向かうのであった。

 

 

 

 

 自宅へと戻った凛空は、早速両親にA国渡航の説明を行う。

 火急の事態とは言え、今回のA国渡航に対しては引き止められるかもしれない。説明を行いながら凛空の脳裏にはそんな考えが浮かんでいた。

 

「凛空……」

「は、はい」

「頑張ってこい!」

「そうよ、必ずミカちゃんを助け出してきてね! 何て言ったって、未来の義理の娘なんだから!」

 

 しかしそれは杞憂であった。何故なら、両親は引き止めるどころか背中を押してくれたからだ。

 

「勿論、凛空の身に何かあればすぐに駆け付けてやるからな!」

「あらあなた、その時は私も一緒ですよ?」

「お、そうだったな! よし衣咲、凛空のピンチには二人で駆け付けるぞ!」

「はいあなた!」

「え、えぇ……」

「凛空、親と言うものは、子供の為なら何だってできるものなのよ」

「そういう事だ、ははは!」

 

 最も、その後両親の本気なのか冗談なのか判断に迷う発言を受けて、困惑せずにはいられない様子であった。

 

 

 こうしてすんなりとA国渡航の許可をもらった凛空は、早速渡航準備を進めていく。

 

「凛空、学校に連絡してオンライン授業の切り替えもらったわよ」

「ありがとう母さん」

 

 ここで原作では描写されなかったA国渡航中の授業対応について説明する。

 当然ながら凛空達がA国渡航中も学校の授業は通常通り行われ、凛空の前世の感覚からすれば授業の遅れが心配された。

 だが、そこは流石の西暦2050年代の学習環境と言うべきか、事前に学校に連絡すれば文部科学省が提供している学習アプリなどを使用してのオンライン授業が可能となっている。

 

 なお、言い換えれば例え日本から離れても学生の本分から逃れられないこの学習環境にバンやラン辺りは今頃絶望していそうと思い、凛空は苦笑いを浮かべるのであった。

 閑話休題。

 

 

 上記の様な一幕を挟みつつ渡航準備を終えた凛空は、ダイニングルームで両親と共に夕食を取り始める。

 衣咲が作った料理に舌鼓を打ちつつ、ダイニングルームのテレビに視線を向ける。映し出されているのは、どれもディテクターの一件を受けて急遽変更放送された報道特別番組であった。

 そんな番組を眺めていた凛空は、ふと浮かんだ疑問を蔵土に投げかけてみる。

 

「父さん、サイバーランスは大丈夫、だよね?」

「ん? さっきテレビで言ってた株価の事か? あぁ、それなら心配ない!」

 

 凛空の疑問に対して、蔵土は自信を持って心配無用と答えた。

 

「確かに、今回の一件はLBX事業においては痛手だ。しかし、サイバーランス社の柱となる事業はLBXだけではないぞ」

 

 蔵土の言う通り、サイバーランス社はLBX事業に注力する一方で、従来のIT事業、更には新たな業界への参戦等で多角化戦略を推し進めている。

 IT事業においては、強みを生かしたウェブブラウザやモバイル機器用のOSの他、ソーシャルメディアと呼ばれる情報交流サービスの提供・運営等々。

 更には、来年放送予定の機動戦士ガンダムを始めとするエンターテイメント事業、LBX開発で培った技術を応用して多目的ロボットの開発。更には、去年凛空がお世話になった電動車椅子や歩行アシストスーツと言った身体拡張技術の数々等。

 この様な多角化戦略によるリスク分散により、LBX事業の低迷を受けても他の事業で支える事は十分に可能であった。

 

 因みに、先程学習環境の説明の件で出てきた学習アプリのいくつかはサイバーランス社が開発したものだったりする。

 

「と言う訳で、会社が潰れる事はないから安心しろ」

「そっか……」

「おそらくプロメテウス社も自動車事業等で損失の拡大は行えるだろう。それに、クリスターイングラム社等多くの大手同業他社もな。……ただ」

「タイニーオービット社は大打撃を免れない」

「タイニーオービット社にとってはLBX事業はまさに大黒柱だ。それもタイニーオービット社がLBXを始めて世に送り出し、今なおリーディングカンパニーの地位にある事からも分かる通りな。……それ故に、今回のようなことがあれば否が応でも矢面に立たされ、それに伴う痛みも我々以上だ」

「……」

「おいおい、そんな顔をするな。確かにタイニーオービット社はライバル企業ではあるが、タイニーオービット社が潰れる事は私だって望んでいない」

「え?」

「その時の為の準備も進めているし、悠介さんとも既に話を──。まぁ兎に角、凛空が心配しているような事態は起こさせんさ」

 

 蔵土の言う準備がどの様なものかは分からなかったが、凛空は蔵土の言葉を信じて頷くのであった。

 

「二人とも、お話は終わったかしら? なら、楽しい食事を再開しましょう」

「おっと、そうだったな。危うく話し込んで衣咲の美味しい料理が冷めてしまう所だった……。ま、衣咲の料理は冷めてもおいしいけどな!」

「あらあら、あなたったら。褒めてもなにも出ませんよ?」

「本当の事だろう? それに、私はもう衣咲の手料理意外じゃ満足できない体になってしまったんだ」

「あなた……、いえ、蔵土さん」

「……衣咲」

「ん、ん゛ん゛ッッ!!」

「「っ!!」」

「仲睦まじいのはいいけど、TPOはわきまえてよね」

「「はい……」」

 

 両親のラブラブっぷりに内心ため息をつきつつも、凛空は、将来ミカとの間に子供を設けたら、絶対に両親と同じ轍は踏まないと心に固く誓う。

 しかしこの二十年後、子供から"ロマンティクス禁止令"が出される日が来るとは、この時の凛空には予想もつかないのであった。

 

 

 

 

 そして迎えたA国出発の日。

 自宅の玄関で両親に見送られながら、用意した荷物と共に車に乗り込んだ凛空は、一路トキオシティ空港を目指す。

 所が程なく、凛空のCCMにヒロからの連絡が入った。

 

「もしもしヒロ君、どうしたの?」

「あ、凛空さん、実は──」

 

 その内容は、トキオシアデパートでLBX暴走事件に巻き込まれた際に拝借していたジャケットとジーパンについてであった。

 あの時は緊急時と言う事で気にしていなかったが、今日になり代金も支払わず拝借していた事に気が付いたらしく、それは正義のヒーローにあるまじき行為と言う事で、代金を支払うことを決めた。

 所が、ジャケットとジーパンは二つ合わせて合計五クレジットと言う、中学生にとってはかなりの大金。

 そして、お金をどう工面するか悩んだヒロは、考えた末に凛空に相談するべく連絡を入れたのであった。

 

「成程ね……」

「凛空さん、どうしましょう……」

「分かった。なら、その代金、僕が立て替えてあげるよ」

「えぇ、いいんですか!? あ、ありがとうございます!!」

「それじゃ、今からヒロ君の家に迎えに行くから少し待っててね」

「はい、ありがとうございます!」

 

 こうしてヒロとの通話を終えた凛空は、運転手に寄り道をしてもらうように頼む。

 刹那、凛空を乗せた車は針路を変更し、ヒロの家へと向かう。

 

 それから程なく、ヒロの家の前でヒロを拾い終えると、車はトキオシアデパートへ向けて再び走り出すのであった。

 

 

 十数分後、二人を乗せた車はトキオシアデパートへと到着。

 車を降りた二人は、規制線が張られたトキオシアデパートの出入り口の前に佇んでいた、関係者と思しき恰幅の良い男性に声をかける。

 

「おや、君は……。うーむ、君の顔、何処かで見た様な……」

「あの実はですね……」

 

 男性に事情を説明すると、程なく男性はヒロの顔を思い出したかのように声を上げた。

 

「ホホホ。いいですよ、そんなの」

「え?」

「えぇ、で、でもそれじゃ……」

「実は私、君の活躍を見ていたんです。お客様を守るために戦ってくれた英雄さんから代金なんて受け取れませんよ。むしろ、私の方こそお礼を言わなくては、本当にありがとう。このデパートのオーナーとして、改めてお礼を言わせてもらいます」

 

 声をかけたのがトキオシアデパートのオーナーであると知り、二人は驚きの表情を浮かべる。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、やっぱりこのまま服をいただくのはちょっと……」

「うーむ、ではこうしましょう。もしまたデパートが襲われたら、助けに来てくれますか?」

「それは……。はい、勿論です!!」

「ホホホ、嬉しいですね。その気持ちだけで十分です」

「分かりました、ありがとうございます!」

「よかったね、ヒロ君」

 

 こうして洋服の一件も片付いた所で、二人は再び車に乗り込むと、一路トキオシティ空港を目指すのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。