トキオシティ空港へと到着した凛空とヒロは、ここまで送迎してくださった運転手にお礼を述べると、荷物を手に空港のロビーへと向かうべく駐車場を歩く。
程なく、日本の空の玄関口の一つであり日本最大のハブ空港、二十四時間眠る事のない空港のロビーへと到着した二人は、行き交う人々に揉まれながら、先に到着しているであろうバン達を探す。
やがて、ロビーの一角でバン達の姿を発見した二人は、声をかけながら小走りにバン達の元へと向かう。
「よし、これで全員揃ったな」
凛空とヒロの二人が無事に合流を果たした所で、拓也がA国渡航に利用する空の便について説明を始める。
今回利用する空の便は旅客機ではなく、タイニーオービット社が所有する社長専用機、所謂ビジネスジェットだ。
「ヒューッ! 社長専用機とは豪勢だな~。流石は、天下のタイニーオービット社様だ」
駐機場にて翼を休めている、白を基調に赤いラインが入りタイニーオービット社のロゴが描かれた社長専用機。
その姿を目にしたコブラは、感嘆の声を零す。
「にしても、昨日の今日で社長専用機をポンッと用意するなんざ、やるじゃねぇか宇崎の旦那」
「おだてないでくれ……、と言いたいが、生憎と手配の一切合切は霧野君がしてくれたので、俺は書類にサインをしたに過ぎない」
「霧野? あぁ、旦那の所の秘書さんか。成程、ならこの手際の良さも納得だ」
二人のやり取りから社長専用機手配の舞台裏が明らかになった所で、不意に凛空が拓也の方へと近づく。
「拓也さん」
「ん?」
「後でちゃんと、霧野さんを労ってあげてくださいね」
「あ、あぁ、そうだな。……だが、労うにしても何がいいだろうか?」
「そうですね……。なら例えば、仕事の合間に一息つけるドリンクのギフトはどうですか? 僕もたまに、嶺部長達に差し入れで珈琲のギフトを持って行くと喜ばれるので。霧野さんになら、紅茶ギフトもいいかも」
「成程な。ありがとう凛空、参考にさせてもらう」
こうして凛空が拓也にアドバイスを送り終えた所で、拓也は一拍置くと、今後の方針を凛空達に伝え始める。
「バン、凛空。これからはコブラの指示に従ってくれ」
「え!? 拓也さんは行かないんですか?」
「俺は里奈達と日本に残ってシーカーを本格稼働させ、調査を続けることにした。……と言う訳で、頼んだぞ、コブラ」
「任せときな、宇崎の旦那」
そして、今後の方針を伝え終え、あとは専用ターミナルで必要な検査を終え搭乗するのみとなった所で、凛空達のもとに近づく複数の人影が現れる。
「あ、じいちゃん! 見送りに来てくれたんだ!」
「孫の晴れ舞台じゃからな、当然よ」
その内の一人、自身の祖父にして花咲流真拳空手の師範である
「所で、よいかラン?」
「分かってるって! いかなる時も花咲流心得を忘れるな、でしょ」
「うむ。……気を付けるんじゃぞ、ラン」
「うん!」
ランが大門と言葉を交わす一方、バンもまた、見送りに来てくれた母親と言葉を交わす。
「気を付けていってらっしゃい」
「うん!」
「バン、あなたは父さんの子よ。だから、しっかりやってきなさい!」
「あぁ!」
そして凛空もまた、見送りに来てくれたアストナージと言葉を交わしていた。
「まさかアストナージさんが見送りに来てくれるなんて、思ってもいませんでした」
「本当なら他のチームメンバーも一緒にと思ってたんだが、生憎と嶺部長を始め皆忙しいみたいでな」
「いえ、アストナージさんだけでも嬉しいです」
「ならよかった。……お、そうだ。実は凛空君に渡す物があってね」
「僕に?」
そう言うと、アストナージは手にしていた大型のアタッシュケース差し出す。
中身の予想が全くつかない凛空は受け取ると、早速中身を確認するべく大型のアタッシュケースを開く。
そして目にしたのは、複数のLBXと追加オプションと思しきパーツの数々であった。
「新型機の開発はまだ時間がかかる、だから、少しでも役に立てばと試作の機体を幾つかと、それから新しいストライカーパックも。そして、イアン主任自慢のGNドライヴ搭載機用の追加オプションの数々だ」
「ありがとうございます!」
「俺達は日本から全力でバックアップするから、凛空君はディテクターとの戦いに集中してくれ」
「はい!」
頼りになる人々に支えられている事を再認識した凛空は、改めてディテクターとの戦いに意欲を燃やす。
「……」
一方、そんな凛空達の様子を眺めていたヒロは、少しばかり悲しそうな表情を浮かべるのであった。
程なく、凛空達は専用ターミナルでの検査を終え、社長専用機に搭乗。
搭乗完了の後、社長専用機は管制塔からの指示に従い滑走路へと移動。やがて同機は、轟音を響かせながら滑走路を飛び立つ。
「頼んだぞ、皆!」
社長専用機をロビーから見送る拓也達の期待を受けつつ、希望を乗せた翼は、一路A国に向けて大空を駆けるのであった。
トキオシティ空港を飛び立って暫くの後、漸く機体が安定したのだろう、音と共にシートベルトサインが消灯する。
すると、それを合図にコブラがシートベルトを外して座席から立つと、ミーティングを始める旨を伝える。
それに従い、凛空達もシートベルトを外して座席を立つと、コブラの後に続き会議室へと移動を始める。
「じゃ、始めるぞ」
程なく全員が会議室に集まった所で、コブラがミーティングを開始した。
「お前たちにはまだ詳しい行き先を言ってなかったから説明するぞ。これから俺達が向かうのは、A国、Nシティにある
何故その様な場所に向かうのか、疑問に思うバン達を他所にコブラは更に説明を続ける。
曰く、大規模LBX暴走事件において暴走したLBXのMチップを分析してみた所、旧シーカー本部のメインコンピューターから操作されていた事が判明。
この事から、ディテクターが今後も同様の事を起こす場合は、高性能コンピューターを使いLBXを暴走させるとの予想が立てられた。
「でもさ、ならどうしてその何とか宇宙局に?」
「世界トップクラスの高性能コンピューターは軍事利用を避ける為に全てがNICSの監視下に置かれている。だから、NICSに行けば、インフィニティネットを通じて悪用されているコンピューターを特定できるって寸法よ」
「つまり、そこからディテクターに近づいて……」
「拠点を叩いて、ミカ達を助けることができる」
「そういう事だ」
「くーっ、早速悪の拠点に殴り込みですか! なんか燃えてきましたよ!」
「……、でも、何で宇宙なんだ?」
何故宇宙が関係しているのかが若干気になるランを他所に、コブラはミーティングの終了を告げると、この後は到着まで自由行動である旨を伝え会議室を後にする。
一方、残った凛空達も、折角の自由行動なので機内を散策等をするかに思われた。
だがその矢先、不意にヒロが声を上げ、他の面々は足を止める。
「どうしたんだヒロ?」
「バンさん、僕達これから悪の拠点に殴り込みに行くかもしれないんですよ! なら、"四人の選ばれし勇者たち"に代わる、ロンド・ベルのようなかっこいいチーム名が必要だとは思いませんか!?」
「え、えっと……。いらないんじゃないかな、うん」
「えーーーっ!!!」
「バン、そう無下にするのはよくないよ。新しいチーム名で皆の士気が高まるかもしれないし、それに僕達はこれから世界中に、僕達の存在をアピールしていく必要もあるかもしれないしさ」
当初は乗り気ではなかったバンだが、凛空の後押しもあり、最終的には新たなチーム名の話し合いに参加するのであった。
「では、早速僕から新しいチーム名の候補を発表します! ズバリ、"大空 ヒロと仲間たち"と言うのはどうでしょうか?」
「「……」」
「え、え? 皆さん?」
「はぁ~、ヒロ、もっとマシな名前はなかったの? ダサ過ぎ」
「が、ガーンッ!」
ランからのダメ出しに膝から崩れ落ちそうになるヒロ。
しかし、何とか踏ん張ると、そこまで言うからには自分よりもセンスのいい候補があるんだろうなと言わんばかりにランの考えた候補を尋ねる。
「"セレブラム"、なんてどう?」
「セレブラム、英語で大脳を意味する言葉だね。いいんじゃないかな」
「ぐぬぬ……、確かにいい名前ですね。でも、それに決定するのはまだ早いんじゃないですか、ね、バンさん!」
「あ、うん、そうだな」
「それじゃバンさん、次はバンさんの候補を発表してください!」
「お、俺!? そ、それじゃ……、"マーチウィンド"、なんてどうかな? 『三月の風、四月の雨、五月の花を咲かせるために』って、いつだったか聞いた詩のタイトルなんだけど」
「花を咲かせるための風。やっぱりバンって時々詩人だよね」
「ち、茶化すなよ凛空!」
「ごめんごめん」
「……なら、そう言う凛空はどんな候補を考えてるんだ?」
「うーんと、僕の考えた候補はね。"ヴェルター"と"ロータス"、それに"ブライティクス"の三つ。ヴェルターはドイツ語で灯台守を意味して、ロータスは英語で蓮を意味する。ブライティクスは、未知のものを照らす光って意味だよ」
「おぉ、流石は凛空さん、素晴らしいネーミングセンスです!」
「確かにいいけど、幅広い人たちに知ってもらうなら、もう少し簡単な言葉でもいいんじゃないか?」
凛空の挙げた候補に対して、バンは先ほど茶化した意趣返しとばかりに異を唱える。
「例えばどんな?」
「そうだな……。あ! ならこういうのはどうだ、コンパ──、ッ!!!」
バンが新たな候補を挙げようとした、その時。
突如として、目を血走らせたヒロがバンの両肩を掴むと、食い気味に否定の言葉を畳み掛ける。
「バンさん、それだけは駄目です、絶対に駄目です! 何が何でも駄目なんですっ!!」
「わ、分かったから、落ち着けよ、ヒロ……」
ヒロの必死さに若干引きつつも、何とかヒロを落ち着かせようとするバン。
一方、ランはヒロが何故そこまで必死になるのかが分からず小首をかしげ。凛空は、苦笑いを浮かべるのであった。
その後も凛空達は話し合いを続けたものの、結局皆が納得する名前が出る事はなく、この件は持ち越される事となった。