原作の物語が開始される西暦2050年まで、後半年ほどに迫った六月某日。
日本の首都であるトキオシティの一角、会社の事務所やオフィスビルなどが多く立ち並ぶ、所謂オフィス街のとある施設。
そこに、凛空の姿はあった。
「皆さん、本日は、我がサイバーランス社の新型LBXの発表会にお越しいただき、誠にありがとうございます」
黒のスーツに身を包み、壇上で挨拶を行う凛空の父親。
蔵土が挨拶で述べたように、今回、この施設内に用意された会場で、この年の秋に販売が予定されているサイバーランス社の新型LBXのお披露目が開催されていた。
この為、会場内にはサイバーランス社の社員や凛空のような関係者。それに、LBXを扱う雑誌、LBX総合情報誌、通称Lマガの記者の他、テレビやその他の雑誌の記者。そして、招待を受けた同業他社の人々等。
会場内は多くの人で埋め尽くされていた。
「それではご覧いただきましょう! こちらが、今秋の販売を予定しています、我が社の新型LBX! その名を、ショウグン。そして、
蔵土の声と共に、壇上の一角にスポットライトが集中すると、次の瞬間、壇上の一部がせり上がり、二つの小さな人影が姿を現した。
片や、既に販売されているムシャ、そしてその後継機であるカブトと同じく和を意識したデザインの機体。頭部の立物を彷彿とさせる一対の角に、大袖や草摺を模した、まさに甲冑を着た武将を彷彿とさせる造形。そしてその手には、武将が戦の指揮に用いたうちわ形の道具、現在では相撲の行司が使用している事で知られる
まさに、ショウグンという名に相応しいLBXだ。
片や、そんなショウグンとは対照的に、濃緑色を基調としたパーツには突起物が少なく、頭部のモノアイ式のカメラセンサーやその造形も相まって、防弾チョッキを着込んだ未来の兵士を彷彿とさせる。その手には、現代銃器の造形を意識したマシンガン、ZMP-47D、湾曲した形状のシールド、オリジンシールドを装備。
その雰囲気は、隣に佇むショウグンを含め、従来のLBXとは異なるものを醸し出していた。
「ショウグンは、皆さまもご存知の通り、我が社で既に販売しておりますムシャ、そしてカブトに続くブシドーシリーズの第三弾となります。アーマーフレームはブロウラーフレーム。その重厚感もさることながら、パーツの各所には、伝統工芸職人の技術が……」
ショウグンの説明を始める蔵土だが、参加者の多くの者達の視線は、ショウグンの横に佇むザクIの方へと向けられていた。
壇上から参加者たちの表情を窺っていた蔵土は、それを目にするや、口元に微かに笑みを浮かべると、参加者たちが待ち望むザクIの説明を始める。
「そして、次にご紹介いたしますのが、我がサイバーランス社の次世代LBX開発プロジェクト、"プロジェクト
刹那、参加者達が持つカメラのフラッシュがたかれ、会場内を眩く照らす。
そして、暫くしてカメラのフラッシュが落ち着いた所で、蔵土は再びザクIの説明を再開した。
「このプロジェクトMSとは、単に新たなるLBXを開発するというものではなく、LBXの新たなる可能性を生み出す為のプロジェクトなのです」
「具体的には、どの様なものなのでしょうか?」
「LBXは、現在ホビーという枠組みで使用されています。しかし、このプロジェクトMSでは、単にホビーという枠組みに囚われず、極寒や乾燥地、更には深海や宇宙など。人間にとって過酷な環境下での作業を補助する存在として、社会にとって、より良い相棒としての可能性を模索するプロジェクトなのです!」
刹那、再び幾つものカメラのフラッシュがたかれると、次いで、雑誌の記者等から質問が相次ぐ。
「今回が第一弾という事は、今後も第二、第三弾があるという事でしょうか!?」
「プロジェクトMSのMSとは、一体どの様な意味を持っているのですか!?」
「ザクIの名前の由来などをお教えください!?」
相次ぐ質問に、蔵土はそれらを一旦手で制すると、会場内が落ち着きを取り戻した所で一つずつ返答を始めた。
「先ず、第二弾以降の続編に関しましては、現在鋭意製作中です。販売時期など含め、しかるべき時期に情報を発表したいと思っています」
一拍置いた後、蔵土は再び返答を続ける。
「次にMSの意味についてですが、MSとは、
その後、蔵土は記者達からの質問に幾つか答え、程なく休憩タイムを迎えるのであった。
壇上を降りて凛空達のもとへとやって来た蔵土は、張り詰めていた緊張の糸が切れたかのように肩の力を抜くと、妻から差し出されたグラスを受け取ると、乾いた喉を潤す。
「ふぅ……。何度も経験しているが、やっぱり人前で喋るのは緊張するな」
「お疲れ様、父さん」
そんな父親の苦労をねぎらう凛空。すると、蔵土は凛空の肩に手を置きながら凛空に言葉をかける。
「ははは、何を言ってるんだ凛空。今回のザクI発表の最大の功労者はお前じゃないか」
そう、蔵土が口にした通り、今回発表されたザクI、並びにプロジェクトMSは、凛空なくしては今日という日を迎えられなかった。
プロジェクトMS、そしてザクIなる機体は、原作には一切登場しない。ザクIは、凛空が前世で大好きだった別のロボットアニメに登場するもので、本来は全高20メートル前後の有人操縦式の人型機動兵器だ。
凛空は、そんな人型機動兵器、プロジェクトの名称の由来となったモビルスーツをこの世界で再現したいとの思いから、自らのアイデアをまとめた提案書を父親である蔵土に提出。
息子だからと贔屓する事無く、目を通し、凛空の提出した提案書に高い成功確度を見出した蔵土は、直ちに企画書の作成を指示する等、プロジェクトMSの始動を宣言したのだ。
そして、プロジェクトMSの始動から一年が経過した今日。遂にその成果であるザクIの発表に至った。
因みに、表向きにはプロジェクトMSのまとめ役であるプロジェクトリーダーには、サイバーランス社でも実績と経験のある人物が就任しているが。デザインや試作・開発、テスト等、多くのタスクに凛空が関わっており、プロジェクトMSのチームの間では、凛空が真のリーダーという認識であった。
ただ、精神年齢は前世の記憶の流入から成熟しているものの、肉体的にはまだ小学六年生である凛空が全面的に表に出る訳にもいかず、発起人にも関わらず凛空の名前が名を連ねる事はなかった。
「でも、僕は、僕が考えたLBXが実際に販売されて皆に遊んでもらえるだけでも満足だよ」
「うぉぉ! 何とよくできた息子なんだ! 父さんは、父さんはこんな立派な息子に育ってくれて嬉しいぞ!!」
「あなた、私も嬉しいわ」
「あぁ、そうだな! うぅ」
互いに抱き合い感極まって涙を流す両親の姿を前に、凛空は反応に困ったように苦笑いを浮かべるのであった。
「こちらにいらっしゃいましたか」
しかし、不意に声をかけられた両親は、瞬時に涙を止めて表情を元に戻すと、振り返って声をかけてきた人物への対応を始めた。
そのあまりに素早い切り替えに、凛空は内心面食らうのであった。
「これはこれは、どなたかと思えば、天下のタイニーオービット社の社長様ではありませんか。本日はお忍びで偵察ですかな?」
「ははは、そんな所です」
蔵土の背中越しに凛空が目にした人物、普段は結んでいる髪を下ろしサングラスをかけ、白いスーツにハットを被ったその人物の姿を見て、凛空ははっと息を呑んだ。
その姿は、原作内で登場した姿そのもの。原作の登場人物にして、現在LBX業界において最先端を行くタイニーオービット社の現社長、
「それにしても、今回お披露目されたLBXはどちらも素晴らしいものですね」
「宇崎社長にそうおっしゃっていただけるとは、光栄です」
「特にプロジェクトMS、あのプロジェクトには、私も大変感銘を受けました。と同時に、多少の危機感も。これは、タイニーオービットもうかうかしてられないとね」
「それはまた、宇崎社長にここまで称賛されると恐縮してしまいますな」
握手を交わし、談笑を交わす蔵土と悠介社長。
そんな両者の様子を、凛空はじっと見つめていた。
「そうだ、ご紹介しておきます。妻の
すると不意に、蔵土が妻の衣咲と息子の凛空を悠介社長に紹介し始めた。
先に衣咲が握手を交わし二三言葉を交わすと、続いて凛空の番が回ってくる。
「はじめまして、宇崎 悠介です。よろしく、凛空君」
「西原 凛空です。こちらこそ、よろしくお願いします」
悠介社長の差し出した手を握り返し、握手を交わす凛空。
実際に原作に登場した人物を前にして、当初はぎこちない様子の凛空だったが、悠介社長の浮かべた優しい笑みに、ぎこちなさも取れ、自然と笑みがこぼれるのであった。
「では、西原社長、私はこの辺りで失礼させていただきます」
「そうですな、余り話し過ぎると、記者の方々に宇崎社長がお忍びでやって来てることがバレて、主役を横取りされかねませんから」
「ははは、では、失礼」
その後、暫し蔵土と談笑を交わした悠介社長は、別れを告げると会場を後にするべく他の参加者たちの人込みの中へと姿を消すのであった。
凛空は、そんな悠介社長の後姿を見送りながら、登場人物たちの未来を可能な限り良い方向へと変化させるという決意を新たにするのであった。
やぁ皆、店長だ!
今日は、作中に登場したザクIについての豆知識だ。
機動戦士ガンダムに登場するこの機体は、ジオン公国軍の量産型モビルスーツで、宇宙世紀の戦闘用MSの始祖となる機体だ。
ミノフスキー粒子下における有視界領域における新型の戦闘兵器として、軍需複合メーカーであるジオニック社が開発したんだ。
ガンダム本編では、主人公機のガンダムに渾身のショルダータックルを食らわせたぞ。
では! また。