ジェシカから歓迎の言葉を受けた凛空達はその後、ジェシカの案内で専用ターミナルを後にすると、空港の駐車場へと足を運んだ。
A国らしく、日本とは比べ物にならない程広い駐車場の中、一際目立つ一台の車があった。
ジェシカは、そんな一台の方へと歩みを進めていく。
「さ、乗って頂戴。これでNICS本部に向かうわ」
「え、これって……」
「なんか凄い車!」
「ひょっとしてこれって、リムジンってやつですか!?」
送迎車として紹介されたのは、磨き上げられた黒いボディが高級感と威厳を醸し出すリムジンであった。
「い、いいんですか!? 僕達、ただの中学生なのに、こんなVIP待遇で……」
「そんなに緊張しないで。A国じゃ、セレブのみならず、中流層でもコンサートやプロムの際にリムジンを利用する事があるの。だから、そこまで特別な車じゃないわよ」
「へぇー、そうなんですか」
日本では、リムジンと言えば特別な乗り物のイメージがあるが、A国では比較的身近な交通手段の一つとして認識されている。
こうしてリムジンに対する認識の違いを知った所で、凛空達はリムジンに乗り込み、一路NICS本部を目指す。
凛空達を乗せたリムジンが高速道路を使いNICS本部を目指す中、車内では、親睦を兼ねた雑談会が開催されていた。
尤も、初めてリムジンに乗るヒロとランは、豪華な内装に目が釘付けとなっていた為。主にバンとジェシカの間でやり取りが繰り広げられていた。
「それで、ジェシカはどうして勝負を挑んだんだ?」
「テストよ」
「テスト?」
「えぇ。これから共にミッションを遂行するに相応しい実力があるかどうか……、その為のテストよ」
「それで、結果は?」
「勿論、合格よ!」
合格判定を受けたバンだが、その表情は何処か複雑であった。
「バン、そんなに難しく考えず、素直に喜んでおいていいんじゃないかな」
「あ、あぁ……そうだな」
刹那、凛空のアドバイスを受け、バンは少しだけ気持ちが楽になるのであった。
「実を言うと、貴方ともバトルしてみたかったんだけどね」
「え、僕と?」
ジェシカの口から意外な本音が零れると、当人である凛空がすかさず反応を示す。
「えぇ。だって貴方は去年のアルテミス、三位入賞の実力者ですもの」
「でもバトルしなかったのは……時間がなかったから、かな?」
「その通りよ」
「なら、今度時間がある時に、思いっきりバトルしよう」
「本当!」
「うん。だって、こんなにも素敵な女性からのお誘いだもの、断れないよ」
「っ!」
屈託のない笑みを浮かべる凛空。一方、それを目にしたジェシカは頬を染めると、視線を逸らすのであった。
(これは! 春秋戦国時代に行われたヨ・メ―とアイ・ジーンによる鉢合わせの戦い。或いは、古代ギリシア時代のオットーとマオ・トッコ―によるジタク―の戦い等々。有史以来、世界中で幾度も会戦が行われ数多くの血が流れながらも、決して歴史の表舞台に出る事のない伝説の"シュラバヤの戦い"。その開戦フラグがビンッビンにたつ気配がしますよ!)
因みに、一連のやり取りを見ていたヒロがそんな考えを胸に抱いたのは、ここだけのお話。
「そ、そういえば、まだ貴方達の名前を聞いてなかったわね! 折角だから、改めて自己紹介しましょう」
それから程なく、ジェシカの照れ隠しの如き提案により、お互い改めて自己紹介を行う事となった。
「では改めて。私の名前はジェシカ・カイオス、よろしくね」
「俺は山野 バン」
「僕は西原 凛空」
「大空 ヒロです。よろしくお願いします!」
「私は花咲 ラン!」
「バンに凛空、そしてヒロにランね。改めてよろしく!」
こうして四人が自己紹介を終えた所で、ジェシカは自身に向けられる視線に気が付く。それは、自分を忘れてもらっちゃ困ると言わんばかりの視線。
その視線の主の方へと顔を向けたジェシカが目にしたのは、自慢げな顔をしたコブラであった。
「そして貴方が……」
「山野博士の優秀なエージェントである、コブラだ。よろしくな、お嬢さん」
「Phew! 素敵な自己紹介をありがとう」
無事に自己紹介も終わり、再び雑談会が再開されるかと思われた矢先。バンが何かに気が付き声を上げた。
「ジェシカ。NICS本部って、もしかしてあれ?」
「あら、もう着いたのね。その通り。あれが、NICS本部よ」
車窓から見えたのは、壁面に描かれたNICSのロゴ、巨大なパラボラアンテナが目を引く、白を基調とした巨大な建造物。更には広大な敷地内に大小様々な建物を内包した、巨大施設の全容であった。
「ここが、NICS……」
A国らしく、日本では考えられない程のスケールの大きさに圧倒されるバン。
そんなバンの呟きを他所に、彼らを乗せたリムジンは高速道路を降りると、NICSの敷地内に進入した。
駐車場でリムジンを降り、重要施設らしく眼光鋭い警備員達のチェックを済ませた凛空達は、NICS本部のエントランスに到着する。
「流石はA国を代表するNICS、立派なビルだ。お前ら、変な事せずお行儀よくしてろよ」
「分かってるよコブラ。……それにしても、本当に凄い広さだな」
「ねぇ、アレってもしかして本物!?」
「いえ、おそらくあれは実物大の模型だと思います。でも、模型だとしてもすごい迫力です!」
「確かに。宇宙船や人工衛星って、見てるだけでもワクワクするよね」
「皆、見学もいいけど、そろそろ指令室に向かいましょう」
エントランスに陳列されていた宇宙船やロケット等の展示物を横目に、ジェシカを先頭に一行は奥のエレベーターホールに移動。そこからエレベーターを使い上階へ移動する。
そこから暫く廊下を歩き、やがて、一行はとある部屋に足を踏み入れる。
部屋の中に広がっていたのは、大小様々なモニターに所狭しと並べられた機器、そして多くの職員。さながらミッションコントロールセンターを彷彿とさせる光景であった。
「お客様をお連れしたわ……パパ」
そこで一行を出迎えたのは、ダンディズム漂う一人の男性。しかも、ジェシカは彼の事をパパと呼んだ。
「ようこそNICSへ。私がNICSの長官をしているオーウェン・カイオスだ、よろしく」
「やっぱりな。NICS長官には優秀なLBXプレイヤーのお嬢さんがいるって聞いていたから、もしやとは思ったが……。おっと、自己紹介がまだでしたね。俺の名はコブラ」
「はじめまして、山野 バンです」
「西原 凛空です。よろしくお願いします」
「大空 ヒロと言います。お会いできて光栄です!」
「こんにちは、花咲 ランです」
ジェシカの父親であり現NICS長官でもあるカイオス長官と自己紹介を済ませた所で、カイオス長官が早速捜索の件を切り出す。
「Mr.宇崎から話は聞いているよ。川村 アミ君と青島 カズヤ君、それに三影 ミカ君の捜索は、我々NICSが全面的にバックアップしよう。……残念ながら、まだ有力な情報は得られていないが。だが安心してくれ、三人は必ず見つけ出す」
「「ありがとうございます!」」
カイオス長官の言葉を聞き、バンと凛空の二人は感謝の言葉を述べる。
こうして話に一区切りが付いた所で、凛空達はカイオス長官に促され椅子に腰を下ろす。刹那、カイオス長官が口火を切る。
「日本で起こったLBXの大規模暴走事件に関しては、我が国でも非常に高い関心を寄せている。我が国でも、LBXは若者を中心に爆発的な人気を誇っている。故に、国内で販売されたLBXの総数は数億にも上り……、とてもではないがブレインジャックの原因となるMチップを全て取り除くのは不可能な状態だ」
「だろうな。四年前の販売再開以来、世界中で販売されたLBXの総数は十数億にもなる。だからこそ、ディテクターはMチップに目をつけ利用したんだろう」
「となれば、Nシティでも同様の事件が起こる可能性は高い。そこで、行方不明の三人の捜索を手伝う代わりに、君達に協力を要請したい」
「ギブアンドテイク、ですね」
「その通りだ」
「因みに、この件に関しては、大統領も私達に期待してくれているそうよ」
「ふぇーっ!? 大統領って、A国の大統領ですか!? それってつまり、僕達が海外でもヒーローとして認められたって事ですよね、ね! くー感動!」
ジェシカの口から大統領という単語が飛び出した瞬間、反応を示すヒロ。
一見すると大げさに思えるが、ヒロの反応はある意味当然のものと言えた。国のトップから期待されていると言われれば、大人であろうと感情が昂らずにはいられないだろう。
「Mr.宇崎の話では、ディテクターは高性能のコンピューターシステムを乗っ取りブレインジャックを行う。との事だが……」
「通信、行政、金融、交通、教育。それにエンターテインメント。今じゃ使っていないものを探す方が難しい程、世の中コンピューターだらけだ。まさに連中が付け入る隙だらけって訳さ」
「悩ましい事だ。しかし、巨大化するコンピューターシステムの悪用を阻止する事。それが、我々NICSに与えられた役割だ。我々がいる限り、勝手なことはさせない」
カイオス長官が覚悟を示した所で、不意にコブラが手を挙げる。
「実は、ブレインジャックの対抗策、その手始めとなるものが完成間近だと、先ほど宇崎の旦那から連絡があった」
「え? 何それ!?」
「本当ですか!?」
「コブラ、それって一体どんなものなの?」
「簡単に言えば、電波探知の機能だ」
刹那、コブラは二つのCCMを取り出し、機能の説明を始めた。
「こいつは、LBXに搭載されているMチップに作用する周波数の電波を探知すると、この様にだな……」
そう言いながら片方のCCMをもう片方のCCMに近づけた瞬間、反応を示すアラーム音が鳴り出す。更に近づけると音は大きくなり、逆に遠ざけると音は小さくなる。
「音で目標との距離を知らせてくれるって寸法だ」
「成程。これを使ってブレインジャックする電波の発信源を探し出すんですね」
「その通り」
「所でコブラ、さっき完成間近って言ってたけど。つまりこの機能はまだ完成していないの?」
凛空の疑問に対し、コブラは肩をすくめつつ答え始める。
「そうなんだよ、今最終調整らしくてな。一時間……いや、最低でも三十分は待ってくれってさ」
「ふむ、そういう事なら。データが送られてくるまでの間、自由行動としよう。移動で疲れた者は休息するもよし、LBXのメンテナンスをするもよし。NICS本部を見学したいのなら、職員に案内させよう」
カイオス長官の提案で、暫しの自由時間を得る事になった凛空達。
バン、ヒロ、ランの三人が折角の機会とばかりにNICS本部の見学に向かう中。凛空は、ジェシカに声をかけられ、彼女に同行していた。
「さ、ここよ」
「ここは?」
「ここはレクリエーションルーム。普段はNICS職員が休憩やストレスの発散に使用しているわ」
そして案内されたのは、椅子やテーブル、更に自販機の他、Dキューブが設置された部屋であった。
レクリエーションルームと呼ばれた部屋に足を踏み入れた凛空は、リムジンでのバトルの約束を果たすために連れてこられたのだと、そう思っていた。
所が、扉が閉まると共に鍵をかける音が聞こえ、凛空は慌てて振り返る。
「え?」
「ふふ、これでやっと、二人っきりになれたわね……」
「ジェシカさん?」
「ウフフ……そんな他人行儀に呼ばないで。これからは仲間なんだから、私の事は、ジェシカって呼んで頂戴」
妖しい眼差しと共ににじり寄るジェシカ。それに対して、凛空はじりじりと後ずさる。
だが、程なく壁際に追い込まれてしまう。
最早覚悟を決める他ない。凛空は意を決すると、ジェシカに包み隠さず話し始めた。
「ジェシカ、僕にはミカって言う大事な人が──」
「知ってるわ、二人が強い絆で結ばれている事は。……安心して、二人の仲を引き裂く気なんてさらさらないから」
「え?」
「私が二人っきりで話したかったのは……これについてよ」
刹那、ジェシカは自身のCCMの画面を凛空に見せる。
撮影者は不明だが、画面に映し出されていたのは紛れもなく、ガンダムエクシアであった。
「あぁ、このLBX。確かトキオシアデパートに現れた謎のLBXだよね……」
「あら、とぼけても無駄よ。このLBX、操作していたのは貴方でしょ?」
「っ! ど、どうしてそう思うの?」
「これでも私、記憶力には自信があるの。だから、去年のアルテミスでの貴方の動きと、この謎のLBXの動きを見比べた際に、同じ癖がある事に気付いたって訳」
原作でも描かれていたジェシカの超人的な記憶力の良さ。それを失念していた事を、遅まきながら悔いる凛空。
「……」
「あら、今度はだんまり?」
おそらく下手な誤魔化しも効かない。ならばどうするか。
暫く考えた後、凛空はある決断を下した。
「……降参だよ。ジェシカの言う通り、そのLBX、ガンダムエクシアを操作していたのは僕だ」
「やっぱりね。けど、どうしてバン達に黙ってるの?」
「それは──」
それが、ジェシカにも嶺部長達と同様の話を行うと言うものであった。
「バン達の事を信用していない訳じゃないけど、事が事だけに、山野博士も保険をかけておきたかったんだと思うんだ」
「成程、そういう事だったのね……」
「納得してくれた?」
「えぇ、勿論よ」
「なら、この件は他言無用でお願いしてもいいかな?」
「そうね……凛空が私のお願いを聞いてくれたら、いいわよ」
「ギブアンドテイク。……いいよ、それで、お願いって?」
「実はね──」
そして、ジェシカはお願いの内容を語り始めた。
本年も作品をご愛読いただき、本当にありがとうございます。
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