それから暫く、凛空は、両親が大人の会話を行っているのを他所に、用意された椅子に座りオレンジジュースを堪能して時間を潰していた。
すると、不意に蔵土がこっちに来るようにと呼ばれたので、空になったグラスをテーブルに置くと、凛空は小走りに蔵土のもとへと向かった。
「ご紹介します。こちらが、息子の凛空です」
「おぉ、君が西原社長のご子息の凛空君か、よろしくね」
凛空が目にしたのは、灰色のスーツを着込み髪をオールバックにした中年男性。
自己紹介と握手を行った所で、一体誰だろうと内心疑問符を浮かべていると、中年男性に代わり蔵土が男性の紹介を始めた。
「凛空、この人はプロメテウス社の社長をしている
プロメテウス社、その名を聞き、凛空ははっと目を見開いた。
プロメテウス社は自動車メーカーでありながらも、サイバーランス社と同じくLBX業界に参戦している異業種企業の一社だ。
同社製LBXの特徴は、何と言っても自動車メーカーとして培ってきた技術力を生かした装軌式、並びに装輪式の脚部ユニットを有する事である。
しかし、凛空にとってはLBX以上に緊張する事実が存在した。それが、原作の登場人物の一人、その父親が目の前にいる郷田 泰三社長という事だ。
原作において郷田 泰三という人物その人物の父親であるとの明言はないが、父親がプロメテウス社の社長である事は名言がなされている。そして、郷田という苗字。
最早、疑いようはなかった。
「そうだ、今日は
郷田社長がその名を呼び、気だるそうな足取りで近づいてくる少年の姿を目にした時、凛空の緊張は更に高まった。
「ったく、んだよ親父」
「こら! 人様の前だぞ! もっと言葉遣いを改めんか!」
「ちっ! 大体俺は、こんな所来たくなかったんだよ。この服も窮屈でかなわねぇし」
ふてぶてしい態度を見せる少年は、素肌に長ラン、それに下駄を履き木刀を手にした原作登場時の姿ではなく、ドレスコードによりフォーマルスーツを着用している。
格好こそ違うものの、その少年は、紛れもなく原作の登場人物の一人。
「兎に角、自己紹介しなさい!」
「分かったよ。……初めまして、郷田 ハンゾウです、よろしく」
作中で"地獄の破壊神"との異名を持つ、郷田 ハンゾウその人であった。
「こちらはサイバーランス社の社長の西原 蔵土さんと奥様の衣咲さん。それにご子息の凛空君だ」
「はじめまして」
「ハンゾウ君、よろしくね。所で、ハンゾウ君は中学生、だよね?」
「そうです、今中学二年です」
「学校は?」
「ミソラ第二中学校です」
「そうか、なら、来年には凛空の先輩になるな」
実は凛空、原作へ介入するに当たり、主人公を含め登場人物の多くが通う公立中学校、ミソラ第二中学校への入学を希望しており、両親を説得して、来年には入学する運びとなっていた。
「へぇー、そうなんですか」
「ほら凛空。来年からは先輩になるハンゾウ君に、もう一度ご挨拶しておきなさい」
「あの、郷田先輩、よろしくお願いします!」
このよろしくお願いしますには、文字通り様々な意味合いが込められている事になるのだが、凛空以外には、その事実を知る由もなかった。
「所で、凛空、だったよな?」
「はい」
「お前、LBXはやるのか?」
「はい、少しばか……」
「ハンゾウ君、うちの凛空は凄いぞ。何せ我が社でテストプレイヤーも務めているし、学校でも、友達とのバトルで負け知らずだものな!」
本人を押し退け語る蔵土の息子自慢の如く説明を聞き、凛空は苦笑いを浮かべ、ハンゾウは不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ、そりゃ楽しめそうだ」
そして、ハンゾウは小さく独り言を零すと、次いでとある提案を持ちかけた。
「なぁ凛空、俺とバトルしねぇか?」
「バトル、ですか?」
「こ、こらハンゾウ! 何を勝手な事を!」
「いいじゃねぇか親父、丁度退屈してた所だしよ。それに、互いにどっちのLBXが優れてるか、証明するいい機会だ」
息子の突然の提案に待ったをかける郷田社長。しかしハンゾウは、そんな父親の声を無視して話を先に進める。
「どうだ、自信があるんだろ? だったら、やろうぜ、俺とバトル!」
「凛空君、嫌なら嫌と言ってくれていいんだよ。これはハンゾウが勝手に言ってるだけなんだから」
「ご忠告ありがとうございます。でも、郷田先輩からの折角のお誘いですから、僕、お受けします、そのバトル!」
「そうこなくっちゃな!!」
拒否する事も出来た、だが凛空は、自分自身のLBXの操縦技術が今現在どの程度のものなのか、そして、使用するLBXが何処まで通用するものなのか。
それを見極めるという意味を込めて、今回のバトルの誘いを受ける事にした。
「父さん、いいよね?」
「あぁ、勿論さ。それでは、場所を変えましょう」
こうして一行は会場を後にすると、同じ施設内にある別の多目的スペースへと移動するのであった。
多目的スペースへと足を運んだ一行。
早速、ハンゾウがDキューブの設置を終えると、ハンゾウと凛空の二人はDキューブの前に立ち、CCMと、使用するLBXを取り出す。
「見ろ! こいつが俺のLBX、その名も、"ハカイオー"だ!!」
ハンゾウが自慢げに見せたそのLBXは、黒を基調とした重厚感のある巨体を誇る機体。獅子を彷彿とさせる頭部に、胸部に設けられた砲口、そしてその手には、ノコギリのような刃を持つ巨大な剣、"破岩刃"が装備されている。
まさに、その名に相応しい凶暴さを持つLBXだ。
「ほぉ、ハカイオーですか。なかなか面白いLBXですね」
「やはり西原社長はお目が高い。あれはプロメテウス社が開発したLBXの試作品でしてね、本来は別の名前が付けられているのですが、倅は勝手にハカイオーと名付けて呼んでましてね」
「見た所、アーマーフレームはブロウラーフレームですかな?」
「えぇ、しかし、既存のブロウラーフレームと同じではありませんよ。何せ、我がプロメテウス社が採算を度外視して開発したのですから」
「ほぉ……」
ハカイオーの姿を見て感想を零す蔵土と、少々自慢げに語る郷田社長。
そんな二人を他所に、凛空とハンゾウはバトルのレギュレーションについて話し合っていた。
「郷田先輩、レギュレーションは?」
「んなもん、アンリミテッドに決まって……」
「何を言っとる! スタンダードだ! それ以外は認めん!」
しかし、その最中、突如郷田社長が話に割って入ってくる。
「あぁ! スタンダードだ!? 何勝手な事言ってんだよ親父!」
「ハンゾウ! お前は更に私の顔に泥を塗るつもりか! 兎に角、スタンダード以外でのバトルは認めんぞ!!」
LBXのバトルレギュレーションには、大きく分けてスタンダードとアンリミテッドの二種類が存在している。
スタンダードは最も一般的なレギュレーションで、フィニッシュの際に相手のLBXを破壊してはならないとされている。これは、初心者から上級者まで、幅広くバトルを楽しむためと共に、ホビーと言えどもロボットの為に、買い替えるとなるとある程度の金額が掛かってしまう。そこで、経済的な事情を抱えるプレイヤーに配慮したものとなっている。
一方、アンリミテッドはフィニッシュの際に相手のLBXを破壊する事も可能な他、スタンダードでは認められない機体や武器の改造も認められており。こちらは、よりスリルを求めるプレイヤーが好んで行っている。
そして今回のバトルでは、郷田社長の声も相まってスタンダードレギュレーションでのバトルとなった。
「それじゃ、始めるぞ!」
「はい!」
「いけ! ハカイオー!!」
「ブグ、発進!」
合図と共に、互いのLBXがDキューブ内のジオラマに降り立つ。
「ほぉ、そいつが凛空のLBXか」
ビル群や高速道路等、現代都市をモチーフとしたジオラマ内、ハカイオーと対峙するのは、ザクIと同じカラーリングやモノアイを有し、武器とシールドを装備しているものの、首回りや腰部、そして脚部にパイプを持つ機体であった。
「さっき発表してたザクとか言うLBXとは違うみてぇだが?」
「このブグは、ザクIの試作機の一つです。でも、機体性能はブグの方が優れてます」
「ほぉ、そいつは楽しみだな」
凛空のLBX、ブグの説明を終えた所で、いよいよバトルの幕が切って落とされる。
「いくぞ!!」
開始と同時に先に動いたのはハカイオー。その巨体で地響きを響かせながら、ブグに接近を試みる。
しかし、易々と接近を許すブグではなかった。
手にしたZMP-47Dを構えて発砲を開始する。次の瞬間、降り注ぐ弾丸を防ぐべく破岩刃をシールドとして使用したハカイオーの足が止まる。
その隙に、ブグは更に距離を取るべく後方に下がる。
「くそ、距離を取って戦う気か」
(やっぱり、郷田先輩の戦闘スタイルは原作と同様に近接戦が中心か。だけど、距離を取っても安心はできない)
凛空は自身のCCMを操作しながら、ハンゾウの原作での戦闘スタイルを思い出しながら、バトルを優位に進めていこうと画策する。
「ち! ちょこまかと!」
一定の距離を取りながら、またジオラマ内のビルなどの影を利用し銃撃を続けるブグ。
そんなブグに翻弄されつつあるハカイオーに、新たな銃弾が飛来する。
「くそ! 今度は上か!」
それは、ビルの屋上に位置取ったブグからの銃撃であった。
「さっきからちょこまかと! 調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
ハンゾウが自身のCCMを操作すると、CCMから機械音声が流れ始める。
〈アタックファンクション、
刹那、ハカイオーの胸部の砲口にエネルギーが収束すると、次の瞬間、収束したエネルギーが巨大な一筋の光となり、ブグのいるビルへと放たれた。
「な!?」
我王砲が直撃したビルは、爆煙と共に音を立てて倒壊を始める。
それに巻き込まれまいと、ブグは屋上から飛び降りると、程なく地上に着地した。
(あれが我王砲の威力……、原作でも凄い迫力だったけど、実際に見て見るとそれ以上だ。直撃すればひとたまりもないな)
我王砲の威力に驚きと恐怖を覚える凛空だったが、そんな感情に浸る間も与えぬかの如く、ハカイオーの猛攻は続いた。
「やっと下りてきやがったな!」
「っ!」
着地したブグ目掛け迫るハカイオー。
ブグは咄嗟にZMP-47Dを構えようとするも、それよりも早く、ハカイオーの破岩刃が振るわれる。
「しまった!」
振るわれた破岩刃によって弾き飛ばされるZMP-47D。更にもう一振り、破岩刃の凶暴な刃がブグに襲い掛かるも、寸での所でオリジンシールドによって受け止める。
「く!」
「どうしたどうした!? 今度は防ぐので精一杯か!?」
だが、その後も破岩刃を連続して振るうハカイオーの連続攻撃を前に、ブグはオリジンシールドによって攻撃を防ぐので精一杯となる。
(くそ、このままじゃジリ貧だ。かといって、距離を取っても我王砲を撃たれる。……ここは、隙を見て一気に仕掛けるか)
重たい連続攻撃をオリジンシールドによって防ぎながら、ハカイオーへの攻撃のタイミングを見極める凛空。
そして、ハカイオーが破岩刃を振り上げたその瞬間、ここぞとばかりにブグが仕掛けた。
「今だ!」
「何!?」
ブグはヒートホークを瞬時に装備すると、無防備になったハカイオーの胴体目掛けてヒートホークを振るう。
次の瞬間、ヒートホークの刃がハカイオーの胴体を捉え、火花が散る。
だが、致命的な一撃とはならなかったのか、ハカイオーはまるで何事もなかったかの如く様子。
それを見て、ブグは更に畳み掛ける。
「どうしたどうした、そんな打ち込みじゃ、俺は倒せねぇぞ!」
「く!」
先ほどとは打って変わって、連続攻撃を仕掛けるブグ。だが、その攻撃はハカイオーを捉える事が出来ず、シールドとして使用した破岩刃に防がれる。
「打ち込みってのは、こうやるんだよ!」
「っ!」
そして次の瞬間、ハカイオーはその巨体に似合わぬ俊敏な動きでヒートホークを躱すと、お返しにブグ目掛けて破岩刃を振るう。
防ぐ間もなく、破岩刃の刃が直撃したブグは、弾き飛ばされ暫し宙を舞うと、程なく地面に叩きつけられる。
「さぁ、こいつでトドメだ!」
「っ! 立て、ブグ!」
再び胸部の砲口にエネルギーが収束する様子を見て、凛空は急いでブグを起き上がらせようとする。
だが、先ほど受けた破岩刃のダメージか、素早く起き上がる事の出来ないブグ。
〈アタックファンクション、
次の瞬間、再びハカイオーの胸部砲口から巨大な光線が放たれると、ブグ目掛けて飛来する。
刹那、耳をつんざく爆音と共に爆発が起こると、周囲が爆煙に包まれる。
「……、あ」
程なく、爆煙が晴れると、地面に倒れたまま動く事のなくなったブグの姿があった。一方、凛空のCCMの画面には、ブレイクオーバーの表示。
それは、ブグが戦闘不能状態になった事を現し、同時に、今回のバトル、凛空が敗北した事を意味していた。
バトルが終了し、互いのLBXをDキューブ内から回収するハンゾウと凛空。
勝利して上機嫌なハンゾウに対して、凛空は何処か冴えない表情を浮かべていた。
「俺の勝ちだな!」
「こらハンゾウ!」
「あ? 何だよ親父?」
「何だじゃない! お前は、加減と言うものを知らんのか! 相手は年下なんだぞ!」
「は! バトルには年下も年上も関係ねぇだろ」
「何事にも時と場合に応じるという事もあるだろ!」
親善試合の如くバトルを希望していた郷田社長に対して、ハンゾウは手加減なしの真剣勝負を行い、そのすれ違いから口論を始める郷田親子。
そんな郷田親子に、凛空は声をかけた。
「あの、郷田社長、郷田先輩を悪く言わないでください。バトルに負けたのは、僕のLBXの腕が至らなかったのが原因ですし、それに、仮に勝ててたとしても、それが手加減されたものなら、僕は素直に喜べませんから」
「だとよ、親父」
「まだ小学生なのに、何てできた子なんだ。……ハンゾウ! お前も凛空君を見習いなさい! いや、爪の垢を煎じて飲ませてもらいなさい!」
「何だよそりゃ!?」
こうしてバトルを終え、その後郷田親子と別れて残りの予定を消化し、帰路についた凛空。
トキオシティの高級住宅地の一つ、ショウトウの一角にある自宅に帰宅した凛空は、両親の前ではいつも通りの様子を見せていたのだが。
自室へと足を運び、一人きりになった凛空は、静かに、涙を流し始めた。
自分自身の操作技術には自信もあったし、ブグの性能にも自信があった。
故に、ハカイオーとのバトルでも勝利できるのではないか、そんな自信を持っていた。
所が、バトルは敗北を喫し、秘めていた自信は、あっけなく打ち砕かれた。
悔しくて涙を流した凛空だが、やがて、涙を拭うと、凛空は表情を引き締める。
それは、今回の敗北を糧に、更なるレベルアップを決意したかのようであった。
やぁ皆、店長だ!
今日は、作中に登場したブグについての豆知識だ。
機動戦士ガンダムを再構築したコミカライズ作品、機動戦士ガンダム THE ORIGINのアニメ作品に登場するこの機体は、ザクI採用以前に開発された試作機という立ち位置だ。
後発のザクIを上回る性能を有しているが、生産性を度外視した設計の為、生産コストが高く量産に不向きで、生産は少数生産に留まったぞ。
作中では、機動戦士ガンダムでも人気のキャラクター、ランバ・ラルが搭乗した青いブグの活躍が描かれているぞ。
では! また。