ハンゾウとのバトルから、早いもので一か月程が経過していた。
この間、凛空はプロジェクトMSのチームと共に新たなるLBXの開発を進めた一方、自身のレベルアップの為に鍛錬を続けた。
具体的には、学校の友達やサイバーランス社の社員等、兎に角バトルをこなして操作技術の向上に励んだ。
だが、鍛錬を続けた凛空だったが、本人は、これにより操作技術が向上した、との実感は全く湧いていなかった。
それどころか、物足りなさすら感じていた。
「やっぱり、もっとレベルの高い人とバトルしないと、駄目なのかな……」
こうして、自身のこれまでの鍛錬のやり方に疑問を抱いた凛空は、学校が夏休みに突入したのを機に、とある人物に連絡を取った。
「おぉ、どうした凛空?」
「郷田先輩、実は、折り入って相談したい事が……」
その人物とは、誰であろうハンゾウであった。
あのバトルの後、ハンゾウが気に入ったとの事で連絡を交換していた為、連絡を取る事が出来たのである。
なお、連絡を取った目的は、よりレベルの高いバトルの環境を紹介してほしいと相談する為であった。
そして相談の結果、ハンゾウから快い返事を受けて、翌日、その場所に案内してもらうべく、待ち合わせする運びとなった。
翌日、待ち合わせ場所として指定されたのは、トキオ湾の海岸線に面した街、ミソラタウン。
同街の中心部付近にある高架駅、ミソラ駅。その駅前にある書店、BOOK TATUYAであった。
(まだ待ち合わせの時間まで時間があるし、本でも読んで時間を潰そうかな)
購入する書籍を探し或いは吟味し、或いは立ち読みする人々で賑わう店内。
待ち合わせの時間に余裕を持ってやって来た凛空は、ハンゾウが来るまで時間を潰すべく、店内を歩き始める。
「お、あった!」
様々なジャンルごとに分類され、書籍が陳列された棚の数々。
そんな中、とあるコーナーの棚に置かれた雑誌を見つけて、凛空は声を漏らした。
その雑誌とは、今日発売のLマガだ。
しかも、丁度最後の一冊らしく、凛空はそんな最後の一冊を手に取ろうと手を伸ばした、その時であった。
「「あ!」」
ふと、自分自身の手とは別に、Lマガに伸びるもう一つの手に気がついた凛空は、慌てて伸ばしていた手を止める。
すると、相手も同じタイミングで手を止めたので、相手の様子が気になった凛空は、相手の方へと視線を向けた。
そして、凛空が目にしたのは、自分自身と同年代の、一見何処にでもいそうな少年。
しかし、その少年は、この世界、ダンボール戦機の世界になくてはならない人物の一人。
原作主人公の一人、
原作主人公との予期せぬ出会いに、凛空は思わずバンの名前を声に出そうとした。
だが、初対面であるにも関わらず名前を知っているなど、相手からすれば怖くて警戒せずにはいられない。
なので、寸での所で声に出すのを思いとどまる凛空であった。
「ご、ごめんなさい、気付かなくて!」
「俺の方こそ」
「あ、どうぞ、僕の事は気にしないで」
「そんな、悪いよ」
その後、お互いに譲り合いを続け。結果、一緒に見ようという結果に落ち着き、凛空とバンは肩を並べてLマガに目を通すのであった。
「楽しみだな! サイバーランス社の新LBX!」
ページをめくり、今週号の特集として掲載されていたのは、先月発表があったサイバーランス社の新LBX。
特に、特集ページの中で多くの割合を割いていたのが、プロジェクトMS、並びにその第一弾であるザクIについてであった。
「もう続編も開発中みたいだし、一体どんなLBXが登場するのか、今から楽しみで仕方がないよ!」
実はその続報の中身について知っている、というよりも自分が発起人である。と自慢したい衝動を抑えると、適当な相槌を返す凛空。
それから、新商品の販売ページなど、一通り目を通し終えた所で、余韻に浸りながら雑談を交わす二人。
「やっぱり、汎用性の高いマニピュレーターもいいけど、一体型の武器腕も魅力的なんだよなぁ」
「分かる! 武器腕って、言い表せないロマンがあるよね」
「バランスのいいチームで言うと、ナイトフレームでまとめるのが一見いいように見えるけど、武器の選択次第では、器用貧乏で決め手を欠きかねない可能性もあるよね」
「君、本当にLBXが好きなんだね」
「勿論さ! 俺、例えどんなことがあっても、LBXは好きであり続けられる自信があるんだ!」
「そっか」
「そういう君は、LBX、好きなんだよね?」
「勿論さ! 僕も、LBXは大好きだよ!」
互いにLBXが好きなもの同士、話が盛り上がり笑顔が溢れる。
「あ! 俺、そろそろ行かないと、約束に遅れちゃう!」
「そっか、それじゃ、またね」
「あ、そういえば、まだ自己紹介してなかった! 俺、山野 バン、よろしく!」
「僕、西原 凛空、こちらこそよろしく!」
そして、別れ際に自己紹介を終え握手を交わす凛空とバンであった。
「よぉ、待たせたな。んじゃ、行くか」
バンと別れた後、入れ違いに店内にやって来たハンゾウと合流を果たした凛空は、BOOK TATUYAを後にすると移動を開始する。
ハンゾウに案内されながら足を運んだのは、ミソラタウン内にある商店街、ミソラ商店街。
多くの人々で賑わいを見せるこの商店街の一角、コーヒーミルのオブジェクトが目を引く、ほろ苦いコーヒーの香りが漂う喫茶店であった。
「ブルーキャッツ……」
それは、原作内に登場した喫茶店、ブルーキャッツ。
作中、重要な場面の舞台として描かれる事が多かった店を前にして、凛空に緊張が走る。
「どうした、早く入るぞ」
「あ、はい!」
ハンゾウに急かされブルーキャッツへと足を踏み入れる凛空。
店内は、心地の良いジャズのメロディーと共にほろ苦いコーヒーの香りが漂い、落ち着きのある家具と共に、LBXが所々に置かれている。
そんな店内は、まるで外とは時間の流れが違うかのように、ゆったりとした時間が流れる安らぎの空間となっていた。
「いらっしゃいませ」
「よぉ、レ……、じゃなかった、マスターはいるか?」
「生憎と、マスターは今、所用で出かけています」
「何だ、いねぇのか」
そんな空間を堪能する主婦やサラリーマンと言ったお客を横目に、ハンゾウは奥のカウンターに足を運ぶと、店の従業員である、眼鏡をかけ黒のエプロンを着用した若い男性に声をかける。
(誰だろう、この人? 原作ではいなかったよな。……話からして、店の従業員、みたいだけど)
原作では登場しない従業員の存在に内心困惑しつつも、凛空は二人のやり取りを静かに見守る。
「夕方なら、マスターも戻ってきていると思いますけど?」
「いや、いないなら別にいい。こいつを紹介しようと思ってただけだからな」
「そちらのお連れの方ですか?」
「は、初めまして!」
とりあえず会釈する凛空を他所に、ハンゾウは更に話を続けた。
「そんじゃ、地下の方、お邪魔させてもらうぜ」
「ごゆっくりどうぞ」
そして、従業員との会話を終えたハンゾウは、店内の一角にある扉を開けると、慣れた様子で潜る。
それに続き、凛空も扉を潜ると、その先にある地下へと続く長い階段を下っていく。
「郷田先輩、ここって一体……」
「着いたら教えてやるから、黙って付いてこい」
ブルーキャッツの地下、そこに何があるのか、既に凛空には見当がついているものの、ハンゾウに従い黙って階段を下りる。
やがて、階段を下りた先に広がっていたのは、先ほどのブルーキャッツ店内とは別世界の光景であった。
広々とした空間、所々に設置された松明等の灯りに照らされ浮かび上がったのは、観戦用の椅子やテーブル、それにバーカウンター。そして、中央部に設けられたLBXバトル用のステージ。
ステージ内に複数設置されたDキューブでは、今まさにバトルが行われており、その様子が、モニター画面等に表示されている。
そして、バトルが激しさを増すにつれ、観戦しているギャラリー達の熱気が上昇し。
「狩り取ったぞぉぉぉっ!!」
「「うぉぉぉぉぉっ!!」」
「いいぞ! ガトーッ!!」
「最高だぜぇっ!!」
まるで世紀末映画の中から現れたかの如く、モヒカンに棘の付いた肩パッドという出で立ちの巨漢の男性、ガトーと呼ばれた男性が操るLBXブルドが装備したブルドアックスで相手のLBXの首を見事に狩り取った刹那、ギャラリー達の熱気はピークに達した。
響き渡る歓声、そしてその熱気に、凛空は圧倒され足を止めた。
「どうだ、驚いたか?」
「は、はい……。でも郷田先輩、ここって一体……」
「ここは、アンリミテッドレギュレーションを専門とするプレイヤー達のたまり場だ。さっきのバトルを見た通り、ここのプレイヤー連中は外でお行儀よくバトルしている連中なんかとは比べ物にならないレベルの奴らばかりだぞ」
苦労してようやく手に入れた自分だけのLBX、それを、敗北すれば無残にも破壊される可能性がある。
だが、そんな可能性を秘めていても、勝利した際に得られる高揚感、或いは、破壊されるが故に生まれる真剣さとスリル。
それらを求めて、ここには多くのプレイヤー達が集まるという。
「ここなら、凛空も満足するバトルが出来る筈だぜ。最も、負ければ自分のLBXを失っちまうがな」
「大丈夫です、覚悟は、出来てます」
「よし、そうでなくちゃな!」
ここでのバトルなら、更にレベルアップできる。
凛空は、そう確信すると、この強者集う地下闘技場に足を踏み入れる覚悟を決めるのであった。
「ここは上の店、ブルーキャッツの営業時間内なら大抵開いてるから、もし来たい時はさっきいた従業員か、店のマスターに一声かけてから来るといい」
「ありがとうございました、郷田先輩!」
「なぁに、可愛い後輩の相談だからな、お安い御用だ」
早速明日から通い腕を磨く、既に凛空の頭の中には、この地下闘技場で過ごす算段を立て始めるのであった。
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