ミソラ商店街を含め、ミソラタウン全域が暁色に染まる頃。
LBXバトルを堪能した凛空達五人は、北島夫婦に別れの挨拶をしてキタジマ模型店を出ると、店先で解散する運びとなった。
「それじゃ、俺本屋寄ってくからここでな」
「私も寄るところあるから、またね明日ね、バン!」
「カズ、アミ、また明日!」
各々の用事を済ませるべく、足早にその場を後にするカズとアミを見送るバン達三人。
「それじゃ、凛空、ミカ、また明日学校で!」
「うん、またねバン」
「バイバイ」
そして、自宅方面へと向かったバンを見送る凛空とミカ。
「それじゃ、僕達も帰ろっか」
「その前に、私、今日、お使い頼まれてるの。付き合ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
「じゃ、行こう」
凛空とミカの二人は、ミカの用事を済ませるべく歩き始める。
その道中、談笑を交えながら肩を並べて歩く二人。
「さっきのバトル、楽しかったね」
「うん」
「それにしても、最近ミカって強くなったよね」
「ん、そうかな?」
話題となったのは、自然とLBXに関するものであった。
「そうだよ。さっきのバトルも、一瞬でも油断してたら勝負の行方はどうなってたか分からなかったと思うよ」
「ん……、買いかぶり過ぎ」
「そんな事ないよ。ミカの腕前は、僕の知ってる中でも上位だと思うよ」
「けど、凛空の使ってた機体、本気の奴じゃないでしょ」
凛空が複数のLBXを所持している事、そして、バン達とバトルする時と地下闘技場でのバトルの時とで使い分けている事も知っているミカ。
先ほど使用していた高機動型ザクⅡは、コアパーツを多少いじっている程度で、特別なカスタマイズ等は行われていない。
一方、ミカが言う凛空の本機の機体は、内部のみならず外観からも判断できる程入念なカスタマイズが施されており。ミカとしては、その機体を使う凛空と対等に戦えてこそ、認められるに相応しいと考えているようだ。
「うーん、そこまでストイックに考えなくても……」
「……、でも、褒めてくれて、ありがとう」
しかし、やっぱり褒めてくれたのは嬉しかったのか、笑みがこぼれるミカであった。
その後、ミカの用事に付き合い、ミカを自宅まで送り届けた凛空は、すっかり日も落ちて暗くなった住宅地を歩いていた。
(確か、この辺りに……)
しかし、凛空の様子は、自宅への帰路につこうとするものではなかった。
その様子は、まるで誰かの家を探しているかのよう。
そう実は、今回凛空が遠回りとなるミカの自宅まで足を運んだのには、とある理由があった。それが、バンの自宅に立ち寄るという理由だ。
これは、原作において描かれている、キタジマ模型店でアキレスのアーマーフレームを見たその日の夜、バンの自宅に謎のLBXが襲撃を仕掛ける、という一幕。
その際、原作の物語において重要な役割を果たす特殊なコアスケルトンを、バンがちゃんと入手しているか、その有無を自身の目で確かめる為であった。
こうして目的を果たすべく、以前に一度、勉強会の為に足を運んだ事のあるバンの自宅へと向かう凛空。
やがて、街路灯に照らされた、見覚えのある赤い屋根の住宅へと近づいた、その時であった。
不意に、赤い屋根の住宅の方から、ガラスや陶器の割れる音が聞こえてくる。
「っ! まさか」
住人の許可を得る事もなく、急いで赤い屋根の住宅へと上がり込み、音の発生現場であるリビングへと向かう凛空。
そこで彼が目にしたのは、テーブルの上に置かれた開けっ放しの銀色のアタッシュケース。そして、その横で、仮装甲と言うべき保護用の青いカバーパッドを装着したコアスケルトンを、ザクシリーズと同様のモノアイに重厚な外観を有した六機のLBXが囲んでいる光景であった。
(デクーが六機!? 三機じゃないのか!?)
デク―という名の謎のLBXの数が、記憶の中にある原作での登場機数と異なる事実に、内心驚愕する凛空。
すると、そんな凛空の存在に気がついた一機のデクーが、装備したマシンガン、スキャッターガンを凛空目掛けて発射する。
「っ! わ!」
ただ、殺意はなく威嚇目的だったのか、凛空の横の壁に幾つもの弾痕が刻まれる。
それでも、自身の方に向けてスキャッターガンを発射され驚いた凛空は、隠れるように廊下に身を引っ込める。
しかし、それで諦めることなく、姿勢を低くして、再びリビングの様子を窺う凛空。
すると、ソファーの影に隠れていたバンが凛空に気がつき、声をかけた。
「え!? 凛空、どうしてウチに!?」
「そんな事よりもバン、これは一体、何があったの?」
「そ、それが突然、あの見た事もないLBXが何処からか現れて……。俺も何が何だか」
一応理由は知っているが、それを明かす事の出来ない凛空は、バンがその手に見慣れないCCMを持っている事を確認すると、再び声をあげた。
「分かった。兎に角、あのデー……、あの見慣れないLBXを倒そう!」
「え!? 俺達で!?」
「このままじゃ、バンの家が大変な事になるよ!」
「……、分かった、俺、やるよ!」
「よし」
バンにやる気を起こさせる事に成功した凛空は、バンが青いカバーパッドのコアスケルトン、AX-00を起動させるのを他所に、自身のバッグから高機動型ザクⅡとは異なるLBXを取り出す。
青を基調とし、侍を彷彿とさせるその姿は、一見するとザイフリートかと思われた。
だが、大型化した頭部に、脚部に増加されたスラスターユニット。更に脚部にマウントされた六連装式のミサイルポッドに、左腕に装備したシールドには、ガトリング砲が組み合わされている等。
ザイフリートよりも機動力や攻撃力が強化されている事が一目で分かる。
この機体こそ、ミカが言っていた凛空の本気の機体。その名を、ザイフリート・カスタムである。
「え!? 凛空、そのLBXって何!?」
「今はそれよりも、目の前の戦闘に集中だ!」
「あ、うん」
バンは初めて目にするザイフリート・カスタムに驚きを隠せなかったが、凛空の言葉を聞き、意識をデクーとの戦闘に集中させる。
次の瞬間、物陰から飛び出したAX-00が、装備した鉄の棒、鋼鉄棍でデク―を貫き、先ずは一機撃破する。
(流石はあの人が作った機体、スピードとパワーは折り紙付きだ。僕も、負けてられない)
更に、その様子に気を取られていた一機のデクーが、死角からザイフリート・カスタムの放ったガトリングシールドの弾幕を受け爆散する。
相手が初心者だと思い込み侮っていたのか、立て続けに味方が二機も倒されたこの有様を目にして、残りのデク―達が浮足立つ。
だが、操縦者側に喝が入れられたのか、再び臨戦態勢へと移行する。
「バン、周囲の物を障害物にして射線を切って」
「分かってる!」
「援護するから、合図したら飛び出して一気に攻撃を」
「分かった!」
リビングに置かれていた本やクッション等。障害物となる物を盾として利用しスキャッターガンの攻撃を躱しながら、二人は次の攻撃の準備を進めた。
そして、合図と共にザイフリート・カスタムのガトリングシールドが火を噴き、その弾幕でデク―達の動きを一時的に封じた所で、AX-00が物陰から飛び出すと、近くにいたデクー目掛けて一気に駆ける。
「このぉ!」
そして、鋼鉄棍の重く鋭い攻撃を受けて、また一機、デクーがその機能を停止した。
「どうする、凛空。あの二機、防御を固めてる」
「ならこれで!」
ガトリングシールドの弾幕を警戒してか、二機のデクーが機体を寄せ合い、互いに装備したタイディシールドで身を守っている。
その様子に気付いた凛空はCCMを操作する。
「くらえ!」
〈アタックファンクション、ミサイルパーティー〉
次の瞬間、ザイフリート・カスタムの脚部にマウントした六連装式ミサイルポッドからミサイルが次々と発射されると、防御を固めていた二機のデクーにミサイルの雨が降り注ぐ。
刹那、複数の爆発が巻き起こり、二機のデクーがそれに飲み込まれると、次の瞬間には、デクー二機分の残骸へと変貌するのであった。
「よし、残り一機だ!」
「バン、援護するから最後は任せた」
「オッケー!」
最後に残った一機のデクー。
最早圧倒的に不利であると悟ったのか、リビングから逃げ出そうとするも、ガトリングシールドの弾幕を前に足を止めざるを得なくなる。
程なく、弾幕が途切れ、何とか凌ぎきったと構えていたタイディシールドを解いた、その瞬間。
「いっけぇぇっ!」
デクーは、弾幕が途切れたのが、AX-00が自身の間合いに入った為であると理解した。
そして次の瞬間、鋼鉄棍の一閃を受けると、最後のデクーは爆散し、周囲に破片を散らばせるのであった。
「やったな、凛空!」
「うん、そうだね……」
全てのデクーを撃破し、喜びに浸るバン。
一方の凛空は、何処か複雑な表情を浮かべている。
それが気になったバンは、凛空に理由を尋ねてみた。
「その、リビングが……」
「あ……。あぁ!! た、大変だ!」
リビングとの言葉に、バンは改めてリビングの現状を目にし、凛空が複雑な表情を浮かべていた理由を理解した。
壁の彼方此方に出来た弾痕、割れた窓ガラスや棚のガラス扉、ボロボロのソファーに、床やカーペットに出来たすす汚れ。そして、至る所に散らばっているデクーの残骸。
最早、惨状と表現しても差し支えないリビングの状況であった。
「どうしよう、どうしよう!」
「バン、先ずは落ち着いて」
「そ、そうだな。……、よし、兎に角、母さんが帰ってくるまでに片付けて──」
「ただいまー!」
急いでリビングの片付けを始めようとしたバン。だが、そんな彼の耳に、玄関が開く音と共に、今一番聞きたくない人物の声が聞こえてくる。
誰であろう、母親の
「バン? 帰ってたのー? あら、この靴……。バン! お友達が来てるなら連絡してよ」
玄関から徐々に近づいてくる声と気配。
「バン、聞いてるの……って、えぇ!! な、何よこれ!!?」
そして、その時は訪れた。
バンの母親がリビングに足を運んだ、次の瞬間。リビングの惨状を目にして一瞬言葉を失ったバンの母親は、軽いパニック状態に陥る。
「母さん、あのね、これには深いふかーい訳があって……」
「あの、お邪魔してます。それと、バンの言う通り、これには止むに止まれぬ事情がありまして……」
「事情って……、っ!」
すると、バンの母親はバンがその手に持っていたAX-00に気がつき、表情を険しくする。
「バン、それ、LBXよね。あなたまさか……」
「あ、母さん、これはね!」
「バンのお母さん! バンを責めないであげてください!」
凛空は、バンの母親をなだめようとする。
すると、バンの母親は深い深呼吸を行い、ゆっくりと語り始めた。
「もういいわ。バン、それと凛空君、だったわね。二人とも、ちゃんと片付けておいてね。……そうだ凛空君、晩御飯はもう食べたの?」
「え……、まだですけど」
「そう。なら、もう遅いし、今日はウチで食べていって。ご両親には、私の方から連絡しておくわ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ母さん、晩御飯の用意するから、ちゃんと片付けておくのよ」
「う、うん、分かったよ」
雷が落ちるものとばかり思っていたが、実際にはそんな事はなく、意外な結果に拍子抜けするバンと凛空。
そして、バンの母親がリビングを出ていくと、バンと凛空は、とりあえず言われた通りにリビングの片付けを始めるのであった。
「バン、ガラス片、こっちの袋に入れておくね」
「ありがと」
手際よくリビングの片付けを進めるバンと凛空。
しかしその一方で、凛空は、参考資料とするべく、デクーの残骸をバンの目を盗んで回収していく。
「ねぇ、バン。ごめんね」
「え? 急に謝ってどうしたんだよ?」
「リビングを滅茶苦茶にした原因は、僕にもあるからさ」
片付けの最中、突如バンに謝り出す凛空。
どうやら、デクーとの戦闘の際にザイフリート・カスタムが派手に戦った事で、リビングの惨状を作り出した要因となってしまった事を気にしての謝罪の様だ。
「そんな、気にしなくていいよ。むしろ、凛空にはお礼を言わなくちゃ! 凛空が来なかったら、俺、怖くて戦えなかったかもしれないからさ」
「バン……」
「さ、早く片付けよう!」
「うん!」
その後、無事にリビングの片付けを終えたバンと凛空の二人。すると、タイミングよくバンの母親が現れ、晩御飯の用意が出来たと告げる。
そして凛空は、バンの家で晩御飯をご馳走になると、別れ際に再度お礼を述べ、迎えの車に乗って自宅に帰るのであった。
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