うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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ダンボール戦機ウォーズが某動画共有サービスにおいて配信されたのを記念して、特別編第二弾です。
このお話も、本編と共通している部分はありますが本編とは関係ございませんので、あしからず。


ダンボール戦機ウォーズ 企業の野望 ワールドセイバーの脅威

 一面の銀世界と化した鬱蒼とした森、生い茂る木々の間を駆け抜ける、二つの機影。

 

「こちらアラタ、ポイント268を通過!」

「了解だ。アラタ、そのまま予定通りヒカルと共に合流ポイントへ進め」

「了解!」

 

 その内の一つ、淡い茶色と白を基調とし、赤のラインが入った塗装の機体。

 頭頂部の巨大なトサカ状のパーツ、宇宙戦士のようなフォルムに脚部のタイヤホイール。

 一見すると、バランスの良い中量型の多いナイトフレームかと思いきや、同機は、その見た目よろしく重装甲な外観の多いブロウラーフレームに分類されている。

 まさに、中量型ブロウラーフレームとも呼べる同機。その名は、"ドットフェイサー"。

 

 この機体を操る少年、瀬名(せな) アラタは、クラスメイトにして上官とも言える少年の指示に元気よく返事を返した。

 

「アラタ、少し遅れてる、急ぐぞ」

「おう!」

 

 ドットフェイサーと肩を並べ森を駆け抜けるもう一つの機体。

 銀色を基調とした塗装、航空機のような洗練されたフォルムを有し、その見た目からもスピードを重視した機体設計である事が窺える。

 だが、同機はナイトフレームに分類されており、軽量型ナイトフレームとも呼べる。

 この機体の名は、"バル・スパロス"。そして、同機を操る少年の名は、星原(ほしはら) ヒカル。アラタのクラスメイトであり、戦友でもある。

 

 

 それぞれが操るドットフェイサーとバル・スパロスは、降り積もった雪に足跡を残しながら、森の中を駆け抜ける。

 やがて、二機の前方、突如として視界を遮る木々が消え、切り開かれた場所が出現する。その場所こそ、合流ポイントに指定された場所であった。

 

「見えた、合流ポイントだ!」

「待てアラタ! 様子がおかしい」

「え?」

 

 急いで合流ポイントに向かおうとするアラタだったが、ヒカルの制止に操縦桿を持つ腕を止めた。

 

「っ! アラタ、あれを見ろ!」

「あれは、バイオレットデビル!!」

 

 雪を舞い上げ、味方の機体と激しい戦闘を行うすみれ色の機体。その名は、"ガウンタ・イゼルファー"。

 その見た目通りの重装甲を有しながらも、カスタマイズにより追加されたブースター等により、ベース機を遥かに凌ぐ高い機動性を持ち合わせている。

 しかし、その二つを両立させた為、その操作性はじゃじゃ馬と呼べるほど難しい。

 

 だが、バイオレットデビルの異名で恐れられている少年は、そんな同機を手足のように操り、数々の戦果を残してきた。

 

「アラタ、どうする?」

「そんなの決まってる、いくぞ、ヒカル!」

「了解!」

 

 そんなバイオレットデビルを前に、アラタとヒカルの二人は臆することなく立ち向かう。

 ドットフェイサーとバル・スパロスは手にした互いの得物をガウンタ・イゼルファー向けて振るう。

 しかし、二対一という状況ながらも、ガウンタ・イゼルファーは長剣ベリアルブレード、短剣ベリアルエッジの二刀流を巧みに使い、二機の攻撃を受け流す。

 

「ふ、面白い」

 

 二機の猛攻を受けながらも、バイオレットデビルと恐れられた少年は、この状況を楽しんでいた。

 だが程なく、ガウンタ・イゼルファーはその見た目にそぐわぬ俊敏な動きで二機を翻弄すると、畳み掛けるように斬撃を繰り出し、二機を雪の上に叩きつけた。

 

「くそ、やっぱり強えぇ……」

「く!」

 

 蓄積ダメージで動く事の出来ない二機、そんな二機にトドメを刺すべく、ガウンタ・イゼルファーはベリアルブレードの切っ先を倒れた二機に向ける。

 最早これまでかと、諦めかけた、その時。

 

 突如、上空から複数の光線がガウンタ・イゼルファー目掛けて降り注ぐ。

 ガウンタ・イゼルファーは間一髪の所でそれを回避すると、一旦距離を取った。

 

「何だ?」

「アラタ、上だ!」

 

 この突然の出来事に呆気にとられるアラタ、だが、ヒカルの声に我に返ったアラタは、ヒカルの言う通り視線を上空に向けた。

 そこでアラタが目にしたのは、ビームライフルとシールドを装備し、トリコロールカラーに彩られ、額のV字型ブレードアンテナにツインアを有し、背部に大型の翼を有する機体。

 その特徴的な外観を目にしたアラタは、思わず叫んだ。

 

「ガ、ガンダムッ!?」

 

 その機体に与えられた、ガンダムという特別な名を。

 

「味方、なのか……」

 

 一方、ヒカルはスラスターを使って自分達の目の前に降り立ったガンダムに対して、未だに警戒を解いてはいなかった。

 だが、それも次いで入った通信により解かれる事となる。

 

「二人とも、大丈夫?」

「っ、その声は!?」

「ヤマトなのか!」

 

 目の前のガンダムを操る者が自分達の知り合いだと判明し、ヒカルとアラタは驚きの声をあげた。

 

「なぁヤマト、そのガンダムって……」

「アラタ、説明は後で。今は一旦下がって体勢を立て直して」

「え、いや──」

「アラタ、ヤマトの言う通りだ。ここは一旦下がるぞ」

「分かった。……ヤマト、無茶するなよ、直ぐに戻ってくるからな!」

「うん」

 

 森の中へと退避するドットフェイサーとバル・スパロス、そんな二機を見送ったヤマトと呼ばれた少年は、次いでガウンタ・イゼルファーに視線を向ける。

 

「来たか、ハーネスのガンダム」

 

 ビームライフルの銃口を向けるガンダムに対して、バイオレットデビルの名を持つ少年は、不敵な笑みを浮かべた。

 刹那、ビームライフルの銃口から閃光が発せられ、ガウンタ・イゼルファー目掛けてビームが光跡を描く。

 

 だが、ガウンタ・イゼルファーは巧みな動きでビームを躱すと、ガンダム目掛けて接近を開始した。

 

「流石はバイオレットデビル、なら!」

 

 ビームライフルによる攻撃が無意味と判断したヤマトは、ビームライフルを投げ捨てると、背部のバックパックに備えられているビームサーベルを抜き、構えた。

 そして、ガウンタ・イゼルファーが間合いに入った所で、ビームサーベルとベリアルブレードによる激しい鍔迫り合いが起こる。

 

「瀬名 アラタだけでなく、お前も俺を楽しませてくれる」

「学園最強のプレイヤー、法条(ほうじょう) ムラクさんにそう言ってもらえて光栄だね。けど、僕もお前じゃなくて、ちゃんと名前で憶えてほしいな」

「ふ、それは失礼した」

 

 激しい鍔迫り合いの最中、言葉を交わすムラクとヤマト。

 刹那、二機は一旦距離を取ると、それぞれの得物を構え直し、第二ラウンドの準備に取り掛かる。

 

「では、改めて自己紹介してもらおうか」

「僕の名は、一條(いちじょう) ヤマト。そして、僕が操るこのガンダムの名は、"エールストライクガンダム"だ!」

「成程。その名前、しかと覚えておこう」

 

 そして、互いに準備が整った所で、エールストライクガンダムとガウンタ・イゼルファー、両機の戦いの幕が再び切って落とされる。

 その直後、ヤマトはふと、数か月前この地にやって来た際の記憶に思いを馳せた。

 

 

 

 

 潮の香り、波の音色、そして時折頬を撫でる海風。

 船上の人となった黒髪のその少年ことヤマトは、フェリーの甲板で眼前に広がる日本海を眺めながら、目的地への到着を心待ちにしていた。

 

「ご乗船のお客様へご連絡いたします。本船は定刻通り、午前十時に神威島へ到着の予定です。神威島では二時間程度の停泊の後、本土へ向けて出港いたします。繰り返しお知らせいたします──」

 

 船内アナウンスに耳を傾けながら、ヤマトは刻一刻と近づく神威島に、胸を高鳴らせる。

 程なく、船内アナウンスも終わり、再び甲板に波の音色が響き渡り始めた頃。

 

「あ、待て! うわぁ! そこの君、ちょっとどいてぇ!!」

「え?」

 

 不意に、慌てた様子の少年と思しき声が聞こえ、声に反応するように振り返ろうとした、刹那。

 ヤマトの背中に誰かがぶつかり、ヤマトは倒れてしまう。

 

「ごめんごめん! 君、大丈夫?」

 

 倒れた際に打ち付けた尻をさすっていると、自身を心配する少年の声が聞こえてくる。

 声の方にヤマトが視線を向けると、そこには先ほどぶつかった赤毛の少年、アラタが手を差し出していた。

 

 これが、ヤマトとアラタの出会いの瞬間であった。

 

 

 その後、二人は互いの自己紹介を終えた後、お互いが神威大門統合学園の転入生である事実を知り、同期という事でますます話に花を咲かせた。

 

 神威大門統合学園、それは西暦2055年現在において世界最高のホビーとして、同時にエンターテイメントとして不動な地位を獲得したLBX、Little Battler eXperience(小さな戦士の体験)の頭文字を取ってそう呼ばれる小型のホビー用ロボット。

 同機を操る一流のLBXプレイヤー、または技術者を養成するための世界で唯一の中高一貫校である。

 その為同校は、日本のみならず、世界中からLBX職業者を目指す子供たちが同校の門を叩いている。

 

 とはいえ、世界唯一であるという事は、同時に狭き門である事も意味し、同校は入学条件として"公式大会での三回以上の優勝"等の厳しい入学条件が存在していた。

 だからこそ、入学条件をクリアし、見事神威大門統合学園に転入する事の出来たヤマトとアラタの二人の喜びようは一入だった。

 

「うぉーっ! これが神の門と言われる、神威大門統合学園!! 世界中から最高のLBXプレイヤーが集まる学校かぁ」

「ついに来たんだね」

「あぁ! 厳しい入学条件を突破して、遂に俺達はここに来たんだ!!」

 

 本土から数キロ程度の海域に設けられた人工島、その名を"神威島"。

 神威大門統合学園の所在地である同島に降り立った二人は、途中ノスタルジーを感じさせる島の町並みを通り抜け、お目当ての神威大門統合学園の校門前に到着した。

 

「ふ、厳しい、か」

「ん、何だよ?」

「瀬名 アラタ、君が入学条件をクリアしたのは一か月前。しかも、大会で優勝できたのは相手のミスによるラッキーなもの」

「っ! な、何でそれを……」

 

 その時、町の中で偶然出会った中世的で整った顔立ちの少年、ヒカルが、まるで現場を見ていたかのような口ぶりでアラタの戦績を語り始めた。

 

「公式大会の情報は、全てここに入っている」

「す、凄いね……」

「当然、君の情報も入ってる。一條 ヤマト、君も入学条件を満たしたのは半年ほど前だったね」

「う、うん」

 

 どうやらそのカラクリは、ヒカルの持っているタブレットPCにあるようだ。

 

「ったく、何だよさっきから、随分上から目線だな。そう言うお宅はどうなんだよ?」

「僕の公式大会での優勝は七回。入学条件は、去年の内に満たしていた。入学を遅らせたのは、アルテミスに出場する為だ」

「へぇー、アルテミスねぇ……」

「あ! 思い出した!!」

 

 ヒカルの口からLBX世界大会アルテミスの名前が出た刹那、ヤマトは、漸くヒカルの名前を何処で聞いたのかを思い出した。

 

「星原 ヒカル、前回のアルテミス優勝者!」

「な! そう言えば!!」

 

 ヤマトの言葉を聞き、アラタもヒカルの名前に聞き覚えがある事を思い出したようだ。

 

「そう言う事。因みに、君達は共に予選落ち、だったね」

「ぐ、そうだけど……」

「あはは……」

 

 相手がアルテミス前回大会の優勝者である為、ぐうの音も出ないアラタとヤマトの二人であった。

 

 

 

 

 校門前での一幕を終えた三人は、その後、校門脇の守衛室にて必要な手続きを行っていた。

 手続きの際に、自身のCCMとLBXを没収されるという事態に多少困惑したものの、無事に手続きを終えた三人は、それぞれ指定されたクラスに向かうべく、校舎へと足を進める。

 

 アラタとヒカルの二人とは別のクラス、ヤマトが足を止めたのは、二年三組と呼ばれる教室の前であった。

 一度深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、ヤマトは、教室の扉に手をかけた。

 

「……やっと来たか」

 

 扉を開けて飛び込んできたのは、教壇に立ちホームルームを進めていた一人の女性教師の姿。

 白の白衣を着込み、手入れが行き届いているとはいいがたいボサボサの髪に目の下に出来たクマ、そして、飄々とした口調など。

 一見すると男性と間違えてしまいそうな、そんな女性教師。

 

「あたしは日暮 真尋(ひぐらし まひろ)。この二年三組の担任と、保健の教科を担当している」

「は、始めまして、日暮先生!」

「挨拶はいいから、いつまでも扉の所で突っ立ってないで、こちらに来い」

 

 日暮先生の指示に従い、ヤマトは教壇の前まで移動する。

 そして、そこでヤマトが目にしたのは、制服や作業着を着こなし、新たなクラスメイトの到着を様々な感情をもって迎える、二年三組の生徒達の姿であった。

 

(みな)に紹介する。彼が、今日からこのクラスに転入する一條 ヤマトだ。(みな)、仲良くするように」

「よろしくお願いします!」

 

 日暮先生の紹介と共に、ヤマトは二年三組の生徒達にお辞儀を行う。

 

「よし、ではヤマトの席だが……。そうだな、あそこの空いている席を使ってくれ」

 

 そして、日暮先生が指さしたのは、中央列にある空席。

 

「それと、クラス全員の名前をいきなり覚えるのは大変だろう。だからまずは、自分の席の回りの者から覚えるといい」

「はい」

 

 日暮先生に指定された席に着き、周囲のクラスメイトを一瞥するヤマト。

 すると、早速隣の席の男子生徒が声をかけてきた。

 

「あ、俺は(いぬい) カゲトラ。このクラスの学級委員長をやってる。よろしく」

「乾君、だね。よろしく」

「そんなに畏まらなくてもいい。俺の事は気軽にカゲトラと呼んでくれ」

 

 すると、それに端を発して、反対方向の隣の席に座る女子生徒も声をかけ始める。

 

「ウチは金箱(きんばこ) スズネ。よろしゅうな、転入生君!」

「う、うん、よろしく」

 

 そして最後に、前の席に座る、作業服に帽子を被った男子生徒が、振り返りながら声をかける。

 

「僕は古城(こじょう) タケル。これからよろしくね、ヤマト」

「古城……、もしかして、古城 アスカさんの弟さん?」

「まぁね」

「凄い! 古城 アスカさんの弟さんとクラスメイトだなんて、僕感激!」

「感激するのはまだ早いで転入生君。タケルのメカニックの腕前見たら、感謝感激間違いなしやで」

「スズネ、言い過ぎだよ」

「せやけど、ウチが安心してぶっとばせるんも、タケルの腕前あってこそや。ほんま、ありがとな」

「タケルってそんなに凄い腕前なんだ」

「あはは、そんな──」

「こらそこ、お喋りはそこまでだ。授業を始めるぞ」

 

 日暮先生の声に、一斉に口を閉ざすヤマト達。

 その後、転入初日故に授業の内容に四苦八苦しながらも、ヤマトは授業に取り組んでいくのであった。

 

 

 

 

 何とか初日の授業を終え、安堵のため息を漏らすヤマト。

 すると、そんなヤマトに日暮先生が声をかけ、後をついてくるように言った。

 曰く「これからこの学園で最も重要な規則について説明を行う」との事だ。

 

 ヤマトが日暮先生の後を追いやって来たのは、神威大門統合学園の校庭。

 そこでヤマトは、アラタとヒカルの二人と再会する事となる。

 

「時に、美都(みと)先生」

「何でしょうか?」

「良い提案があるのだが……」

「どの様な?」

 

 ヤマトとアラタ達が転入初日の話題で盛り上がるのを他所に、日暮先生とアラタ・ヒカルのクラスの担任、美都先生と呼ばれた女性教師は、教師同士の会話を交わす。

 

「……ま・さ・か。私に、貴女のクラスの転入生にも、この先の説明をしてほしいという提案ですか?」

「流石、"ジェノック"の司令官。察しが良い」

「はぁ……」

 

 そして、面倒くさい説明の丸投げ、という日暮先生にとっての都合の良い提案に、美都先生はため息を零し頭を抱えた。

 

「あの、日暮先生。ジェノックって、何ですか?」

「あれ、ヤマトはまだ何も聞いてないのか?」

「え? う、うん」

「日暮先生、まさか"ハーネス"の説明も?」

「まぁ、な」

 

 ジェノックやハーネス、何やら重要な単語の様だが、説明を受けていないヤマトは理解できず、疑問符を浮かべる。

 一方、アラタとヒカルの二人は、事前に美都先生から説明を受けていたのか、既に理解している様子であった。

 

「はぁ……。分かりました。そのままでは彼が可哀想ですし、初日に"ロスト"でもしようものなら後味が悪いですので、その提案、お引き受けしましょう」

 

 ヤマトを不憫に思ったのか、美都先生は日暮先生の提案を渋々引き受ける。

 そして、美都先生はヤマトの方を振り向くと、自己紹介を始めた。

 

「はじめまして、私は美都 玲奈(みと れいな)。二年五組の担任で、ジェノックの司令官よ。因みに、貴方のクラスの担任である日暮先生はハーネスの司令官になります」

「あの、美都先生。ジェノックやハーネスと言うのは一体……」

「もうあまり時間がありませんので、それらを含め、移動しながら説明しましょう。それに、百聞は一見にしかず……、ともいいますしね」

 

 最後に不敵な笑みを浮かべた美都先生に先導され、ヤマト達が足を運んだのは、校庭の一角に設けられた時計台。

 一見するとどこにでもありそうな時計台だが、美都先生が台座の一角に手を当てた、次の瞬間。台座部分に設けられた隠し扉が開き、隠し階段が姿を現した。

 

 隠し階段を下りた先に広がっていたのは、地上とは別世界の、まるで秘密基地の様な通路と、大小様々なモニターが設けられ個々のオペレーター用の機器が所狭しと置かれた部屋の光景であった。

 ここは一体何のための施設なのか、その疑問に対して美都先生の口から出た答えを聞き、ヤマト達は目を見開いた。

 

「"戦争"、よ」

 

 曰く、ここは神威大門統合学園の生徒が果たさなければならない必須事項、義務、そして規則。"ウォータイム"と呼ばれるそれを行う為の施設。

 曰く、ウォータイム参加義務の為、学園に入学した生徒は無差別に選ばれた30程のグループ、仮想国と呼ばれる国ごとに分けられ、LBXバトルを行う。

 つまり、先ほどジェノックやハーネスと呼ばれた単語は、それぞれの仮想国の国名であった。

 

 美都先生の説明を聞き、これも優秀なプレイヤーを育てる為の環境づくりの一環かと、暢気にとらえていたヤマトとアラタ。

 だが、直後に二人は知る事となる、これが遊びなのではなく、本当の戦争そのものであるという事を。

 

 

 やがて、ヤマト達は巨大な扉を進んだ先にある、無数の支柱が建ち並ぶ巨大な空間に到着する。

 美都先生曰く、ここが、ウォータイムの舞台となる戦場、"セカンドワールド"。

 

「これが、セカンドワールド?」

「広大ではあるが……、これは一体?」

「見渡す限り柱ばっかじゃん」

 

 とはいえ、見渡す限り支柱ばかりの光景にヤマト・ヒカル・アラタの三人は困惑の様子。

 すると、美都先生はもうすぐ分かると含みのある言葉と共に、一行を浮遊式移動機器に乗せると発進させた。

 

「うぉ、よく見るとあれってジオラマか!?」

「凄い……」

「まさか、島の地下にこんなものが……」

「このジオラマの大きさは、直径10kmになるわ」

「えぇ、10km! マジ……」

 

 巨大な空間に中に整備されたジオラマの直径を知り、驚きを隠しきれない三人。

 そんな三人を他所に、美都先生は自身の腕時計で時刻を確認すると、三人にこれから始まる事を注視する様に促す。

 

「定刻となりました。これより、セカンドワールドを起動します」

 

 刹那、アナウンスが流れると、天井に設置された無数の照明が次々と消え、巨大な空間が徐々に闇に染まっていく。

 だが直後、東の方角から、まるで太陽が顔を出したかの如く眩いばかりの光が出現し、巨大な空間を遍く照らしていく。すると、それに合わせて、無数の支柱も姿を消し、代わりに、まるで地上に出たかと錯覚してしまう程の大空が姿を現した。

 

「す、すげぇ……」

 

 おそらくホログラムの投影により再現されているであろう大空、そんな大空の下に広がる海や山、更には草木や建造物など。

 ジオラマとは言え、その圧倒的なスケールと相まって、大迫力のその光景に圧倒されるアラタ。

 

 一方、ヤマトもその光景を目にして圧倒されていたが、ジオラマの地形などを観察していた際、とある事に気がつき声をあげた。

 

「あの、美都先生。このジオラマって、もしかして」

「気がついたようね。……このジオラマの地形は、地球上のものと全く同じに作られている」

「成程、だからセカンドワールドか」

 

 どうやら、気づいてたいのはヒカルも同じだったようで、セカンドワールドの名は伊達ではないと言葉を漏らした。

 

「各システム、稼働チェック完了。ウォータイム開始まで、180秒」

 

 再びアナウンスが流れると共に、一行を乗せた浮遊式移動機器は地上付近へと降下を開始する。

 すると、アラタが何かに気がつき声をあげた。

 

「お、車が走ってる!?」

「このジオラマ内に存在するオブジェクト、自動車や電車等は、現実世界と同じ機能を持っている。道路を車が走れば、海上を船が航行する、現実と同じように」

「第二の世界の名に恥じぬ、か」

「でも本当にスゲェよな、車だけじゃなく、雲も流れてる。まるで本物だ」

「セカンドワールド内の時間経過は、太陽光シミュレーションにより現実世界と同じように表現され。更に、各地域ごとの天候なども可能な限り再現されているわ」

「凄い……」

 

 まさにその名に恥じぬ徹底した再現ぶりに、ヤマトは呆気に取られる。

 だが、そんな彼の意識を、再び流れたアナウンスが取り戻させた。

 

「ウォータイム開始まで、あと20秒。全プレイヤーは、戦闘の開始に備えてください。繰り返します、全プレイヤーは──」

 

 そんなアナウンスが流れるのを他所に、アラタはとある港で、戦闘開始の時に備える複数のLBXの姿を発見する。

 武骨なシルエット、その見た目通り鈍重ながらも、それを補い余りある装甲とパワーを有し、超重量の武器も搭載可能な積載量を誇る。

 人型パンツァーフレーム等と称されるこの機体の名は、"ティエレン"。オローシャの重機メーカーであるテクノクラート社、中国のLBXメーカーである竜源が共同開発したLBXである。

 

 そんなティエレンの脇には、市販のものとは異なる、おそらくセカンドワールドのみで運用されていると思しきティエレンの派生型の姿も見られた。

 対空戦闘のために頭部や腕部に多数の武装を装備させたその姿は、まさにハリネズミ。その名を、ティエレン対空型、通称ティエレンツーウェイ(ハリネズミ)

 

 

 サイレンが鳴り響き、カウントダウンが始まる中、一体どんなバトルが行われるのかと、アラタをはじめヤマトとヒカルも地上に意識を向けていた、刹那。

 不意に、彼らのすぐ横を、小さな何かが高速で横切ると、それは地上目掛けて降下を続けた。

 

 そして、カウントダウンが終了し、ウォータイムが開始されると共に、その降下を続ける物体目掛けて、地上から激しい対空砲火が行われる。

 運悪く直撃し、力なく地上に落下する味方を他所に、飛び交う弾幕を掻い潜り地上へと降下を完了したその物体。

 可変型LBXの代名詞の一つに数えられる、欧州有数のコングロマリット、ミラージュ・エンタープライズが開発・販売している、曲線的なデザインが目を引く機体。その名を、イナクト。

 対空砲火を掻い潜り地上に降下したイナクト達は、次々と飛行形態から人型形態へと変形し、地上で待ち構えていたティエレン達と激しいバトルを繰り広げ始めた。

 

 なお、バトルが行われているのはその場のみならず、他方へと目を向ければ、あちらこちらで爆発や黒煙が上がり、激しいバトルが各所で繰り広げられている事が窺えた。

 

「す、凄い」

「……かなりハイレベルなバトルだ」

 

 バトルの激しさもさることながら、その高い水準を目の当たりにした三人は、息を呑む。

 そんな中、ふとヤマトの脳裏に、一つの疑問が沸き起こる。それは、神威大門統合学園がLBX職業者を養成する為の学校とはいえ、何故、現実世界を精巧に再現した大規模ジオラマで、これ程のバトルを行う必要があるのか。と言うものであった。

 

「何故、って顔、してるわね」

「っ!」

 

 すると、表情に現れていたのか、察した美都先生がヤマトの疑問に答え始める。

 

「それは、これが"世界戦争"のシミュレーションだからよ」

「……え?」

「このセカンドワールドでは、世界の主要な国々の軍事力をLBXの数と性能に置き換えて、戦闘のシミュレーションが行われている。つまりこれは、LBXを用いた疑似戦争よ」

「疑似戦争……」

「その他、各国が保有する資源・技術力・人口、更には同盟関係等々。様々なデータに基づき、仮想国の戦力が反映されているわ」

 

 そして、美都先生は一拍置くと、更に説明を続けた。

 

「もし現実世界で戦争が起こればどうなるのか、それを知る為にね」

「つまり、戦争の影響による世界情勢の変化を分析するわけですか?」

「察しがいいわね。そんなところよ」

 

 一通りの説明を聞いた所で、ヒカルが要約する。

 しかし美都先生は、次いで先ほどの発言を訂正するかの如く、意味深な発言を行う。

 

「そう、"かつて"は世界平和の維持の為、このウォータイムで得られたデータを基に、現実世界での緊張状態回避に役立ててきた」

「ん、かつては?」

「美都先生、その言い方だと、今は別の目的に使用されているように聞こえるんですけど……」

「えぇ、その通りよ」

 

 ヤマトの質問にきっぱりと答えた美都先生は、更に言葉を続ける。

 

「今やこのウォータイムは、単なるシミュレーションではなく、"代理戦争"そのものと言っても過言ではないわ」

「っ! 代理戦争って、まさか、世界の主要な国々の!?」

「いいえ、国家ではなく、"企業"の為の、よ」

「企業?」

 

 美都先生の口から飛び出した企業という単語に、疑問符を浮かべる三人。

 そんな三人に対して、美都先生は一拍置くと、更に説明を続けた。

 

「貴方達も、LBXプレイヤーなら聞いた事があるでしょ。サイバーランス、クリスターイングラム、そしてミラージュ・エンタープライズ。LBX業界における三大企業グループの名を」

「もしかして、企業の代理戦争って……」

「そう、今やLBXは世界最高のホビーとして不動の地位を手に入れた。けど同時に、四年前のミゼル事変により、LBXの持つ潜在的な可能性……。文字通り国家を転覆できる力を証明してみせた」

 

 そこで一拍置くと、美都先生は更に言葉を続ける。

 

「今や、三大企業グループの影響力は業界のみならず、多方面にも及んでいるわ。政府を通じて、この神威大門統合学園にもね」

 

 クリスターイングラム。A国に本社を持つ他、世界中に生産拠点を持つ、文字通り世界最大のLBXメーカー。

 元々A国でも有名なドローンの製造メーカーであり、その培った技術を用いて開発された同社独自のLBXは、何れも高い完成度を誇っていたものの、大ヒットとなる機種の輩出には至っていなかった。

 しかし、かつて業務提携を行っていた神谷重工が業界参入計画を撤回し、LBX開発部門を同社に放出・吸収後、デクーシリーズ等の大ヒット機種を輩出するに至った。

 また、近年では竜源やテクノクラート等とアライアンスを行う他。ユニオンリアルド、更には同機を昇華させたユニオンフラッグ等の新型LBXを開発し、その影響力の強化を図っている。

 

 ミラージュ・エンタープライズ。「つまようじから人工衛星まで」というキャッチコピーのもと、欧州を中心に様々な製品を製造・販売している他、警備や人材派遣のサービス業も行い、欧州ではかなりの影響力を有する。

 しかし、LBXメーカーとしては他の二大企業に比べ後発。その為、LBX開発においては先発企業であるイギリスのLBXメーカー、アーマー&クラウンと提携し巻き返しを図っている。

 その甲斐あってか、イナクトの他、リーオー等の機種を輩出しているが、一部プレイヤーの間でイナクトは「フラッグの猿真似」と揶揄される等、まだ後塵を拝しているようだ。

 

 そして、サイバーランス。

 元々は日本のIT企業であった為、ライバル企業で業界のリーディングカンパニーであったタイニーオービット社の後塵を拝していた。

 しかし、特徴的な機能を有したLBXを開発し差別化を図った他、プロジェクトMSと呼ばれる、ザクやジム、近年ではジェノアスやグレイズ等の機種を輩出し、ユニオンフラッグやイナクト等の他企業のLBX開発に多大な影響を与えたプロジェクトの成功でその技術力の高さを示し。

 更には、IT企業らしく、家庭用ペットから情報端末まで、様々な用途に使用できる多目的ロボット"ハロ"を開発し、飛躍的な成長を遂げ。

 遂には、ディテクター事件の影響で経営不振となったタイニーオービット社を傘下に収め、更にはプロメテウス社と業務提携を行う事で、名実ともに業界のリーディングカンパニーとなった。

 

「でも、どうしてこの神威大門統合学園を利用しているんです?」

「ここは、本土からも隔離され人目につきにくい。それに、学園には君達のような優秀なLBXプレイヤーが世界中から集まっている、新開発の商品のデータを取るにはまたとない環境よ。そして……、卒業後を見越し、支援する仮想国の優秀な生徒に首輪をつけておくにも、ね」

 

 美都先生の言葉を聞き、三人は神妙な面持ちを浮かべた。

 そして、LBXを生み出す企業の尖兵として、LBXを用いて戦争を行う事に、複雑な心境を抱くのであった。

 

 

 だが後に、ヤマト達はウォータイム、セカンドワールドに秘められた真実、更にはその真実を巡り繰り広げられる巨大な陰謀との戦いに駆り出される事となるのだが。

 この時のヤマト達は、まだ知る由もなかった。

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