臨時休業の看板を掲げたブルーキャッツに到着した凛空達は、吉報を待っていた檜山から、賛辞を贈られる。
「本当によくやった。これは、この国を救ったヒーローへ、俺からのささやかなプレゼントだ」
テーブル席に腰を下ろした凛空達の目の前に、檜山が用意したコーヒーやジュースなどが並べられる。
それを受けて、バン達は満足げな様子を浮かべる。一方、凛空は、表面上は笑みを浮かべているものの、その内心は、複雑な胸中であった。
それは、檜山の口から国を救うヒーローという言葉が飛び出した為だが、凛空が複雑な胸中にあるとは、誰も知る由もなかった。
「それで、拓也さん。父さんの事なんだけど……」
「拓也、バンに彼の父親の事を話したのか?」
「こうなっては、話しておくのが筋だと思ってな」
「そうか、なら仕方ない」
どうやら、バンの父親である山野博士が存命であるという事実は、檜山も把握しているようだ。
「バン、それに他の四人も。これから話す事は、絶対に他言無用で頼む」
そして、念を押した所で、拓也は山野博士の現状について話を始めた。
拓也曰く、五年前に起こった特別チャーター便の事故は、今回財前総理暗殺を企てたのと同じ組織により行われた、事故を装った誘拐計画との事。
大規模な誘拐や総理暗殺を計画したその組織の名は、"イノベーター"と呼ばれる大規模な秘密結社。
同組織により、山野博士は現在、軟禁状態にあるという。
イノベーターが事故を装ってまで山野博士を欲したのは、彼が持つ天才的な頭脳を欲したからに他ならない。具体的に言えば、山野博士が発明した永久機関、その名をエターナルサイクラー。
イノベーターは、このエターナルサイクラーを手に入れるべく、当初は『世界の恒久平和に向けた正義の為』という理想を説明し、山野博士の協力を得た。
しかし、実際にはその理想が、イノベーターの為の正義、イノベーターが世界を征服する事によって生まれる恒久平和。という、エターナルサイクラーを悪用する事で世界を自らの手中に収める為の詭弁であった。
その事を知った山野博士は、イノベーターとの決別を決意し、イノベーターの研究所から逃走を図るも失敗。
逃走を図った事で監視の目が強化され再び逃走する事が困難となった山野博士は、せめて、エターナルサイクラーの設計データだけでも外へ持ち出し、イノベーターの野望を頓挫できないものか画策。
そして、エターナルサイクラーの設計データを収めたプラチナカプセルと呼ばれるカプセルを、LBXのコアスケルトンに隠して、研究所から脱出した助手に持たせたという。
「まさか、そのコアスケルトンって」
「そう。博士は、息子である君に、世界の未来を託したんだ」
つまり、AX-00を手に入れてからバンの身の回りで起こり始めた不可解な出来事の数々は、イノベーターがAX-00内に隠されているプラチナカプセルを奪還せんと画策したものだった。
それにしては、カズ等を催眠状態にしてLBXバトルを仕掛ける等、随分とやり方が回りくどいように思えるが、実は、これにもちゃんとした理由がある。
プラチナカプセルにはデスロックシステムと呼ばれる保護機能が存在しており、カプセルを強引に取り出そうとした場合、その者の命を奪う毒の矢が発射される他。内部データを消滅させる仕組みとなっている。
だが、このデスロックシステム、LBXバトルの最中は機能が停止しており。イノベーターがLBXバトルを仕掛けてきたのは、バトルの最中にAX-00ことアキレスを破壊し、プラチナカプセルを回収する為であった。
「俺達、知らない間にそんな事に巻き込まれてたのかよ……」
「そのハンターも、おそらくアキレスをサポートする為に設計した機体だろう」
自分達が知らぬ間に巨大な陰謀に巻き込まれていた事を知り、困惑せずにはいられないカズ達。
「今後もイノベーターは、プラチナカプセルを手に入れるべくバトルを仕掛けてくるだろう。だが今後は、俺達が可能な限りフォローする。困った事があれば、いつでも相談してくれ」
こうして、拓也が話を締めくくった所で、バンが恐る恐る質問を切り出した。
「あの……、父さんは、今どこに?」
「っ! それは……」
すると、急に歯切れが悪くなる拓也。
そんな拓也を見兼ねてか、彼の代わりに檜山が質問に答え始める。
「すまない、山野博士の居場所はイノベーター内でもトップシークレットとされ、俺達でもそう簡単には情報を掴めないんだ」
「そう、ですか……」
期待していた答えが得られず肩を落とすバン。
「だが、イノベーターにとっては山野博士の持つ知識は必要不可欠。無闇に危害を加える事はないだろう」
「バン君、必ず俺達が山野博士の居場所を突き止めてみせる。だから、気持ちは分かるが、今は軽率な行動は控えてほしい。勿論、君達もな」
「イノベーターの監視の目は、あらゆる所に潜んでいるからな」
その後、凛空達はブルーキャッツで解散すると、各々帰路についた。
その際、凛空はアミが何やら不審な行動を取っている事に気がついたが、見て見ぬ振りをして自宅へと帰るのであった。
綺麗な夕焼け色に染まるショウトウ、その一角にある自宅に戻った凛空は、暫く自室で過ごした後、ダイニングルームで家族団らんの夕食を楽しんでいた。
「凛空、学校は楽しいか?」
「うん、楽しいよ、父さん」
「ははは、それはよかった」
「最初は公立の学校で大丈夫か心配だったけれど。今は、ミソラ第二中学校に入学して本当によかったと思っているわ」
「全くだ」
木目調の落ち着いた家具が並び、天井に設置された豪華なシャンデリアの下、十人掛けはある大きな食卓で夕食を取る西原一家。
職場の話、学校の話、ご近所さんの話。様々な話題を交えながら美味しい料理を楽しむ。
こうして、家族揃っての微笑ましい夕食が進み、食後のコーヒータイムを堪能していた時であった。
「そうだ凛空。明日は、学校はいつも通りの時間に終わるのか?」
「え? うん。明日は平日だから、いつも通りの時間だけど」
突然蔵土が学校の下校時間を尋ね、凛空は疑問符を浮かべながらもその質問に答える。
「そうか。なら凛空。明日は学校が終わったら、迎えの車を行かせるから、真っ直ぐ家に帰って来なさい」
「え?」
そして、蔵土の口から次に飛び出した言葉を聞き、凛空は耳を疑った。
明日は、原作と同様だとすれば、アミの機転により山野博士の居場所のヒントを得たバン達が、イノベーターと通じている可能性の高いとある企業の工場に潜入を試みる日である。
そして、その工場に向かうのは、学校の授業が終わった後、即ち下校時間であった。
「と、父さん。突然どうしたの?」
当然、凛空も当日はバン達と共に行動しようと考えていたその矢先、突然の蔵土の言葉に、凛空は動揺を隠せなかった。
「凛空、神谷重工は知っているな?」
「う、うん。知ってるよ」
しかも、蔵土の口から神谷重工の名前が飛び出し、凛空の脳内は軽いパニック状態に陥る。
「実は明日、神谷重工が自社の工場の一つであるエンジェルスターで発表会を行うんだが。先方から、是非凛空もご一緒にって招待を受けてな」
だが、蔵土の口からエンジェルスターという単語が零れた刹那。凛空は、これはピンチではなくチャンスではないかと考えを改める。
実は、バン達が潜入を試みた工場というのが、エンジェルスターなのだ。
エンジェルスター、それは神谷重工のアームロボット専門ブランドの名である。
以前、工事現場で同ブランドの商品を目にした際に熱く語ったリュウ曰く、主力商品の一つであるエンジェルスター・マックスシリーズ、その最新型である六軸アームロボットCR-85BPは最新エンジンの神谷DDを搭載、ダイレクトHTSにより駆動での定格出力は従来型の二・八倍もある、国内最大のアームロボットとの事。
しかも、アンローダーの技術を流用している為、定格荷重は驚異の五五トン。まさに、神谷重工の技術力が光る逸品だ。
閑話休題。
そんなCR-85BPを含めたエンジェルスター・マックスシリーズを製造している工場兼保管庫が、トキオシティ郊外にあるエンジェルスターなのだ。
広大な敷地に広がるプラント群、夜になれば、ブランドマークの天使の羽をモチーフにした外観デザインが特徴的なメイン施設が、フレアスタックと照明により照らし出され、幻想的な風景を作り出している。
この様に、一見すると何の変哲もない工場のように思えるエンジェルスターであるが、実は、この工場を巡ってはネット上に様々な噂が流れていた。
一例を挙げれば、工場の地下で兵器を密造しているという類のものだ。
そんな噂が流れる要因が、警備の厳重さに加え、工場見学の依頼を全てお断りしているというものであった。
神谷重工側の見解としては、情報流出の観点から工場見学をお断りしているとの声明を発表しているが、これらの要因から、悪い噂は今もなおを流れ続けていた。
「でも、神谷重工って重機メーカーだよね。そんな企業の発表会にどうして僕を?」
「実はな、これはまだ発表されるまでの秘密なんだが。明日の発表会で、神谷重工が正式にLBX業界への参入を表明するんだよ」
「え?」
「しかも、発表会では、神谷重工の試作LBXがエキシビションバトルを行う予定なんだ。どうだ、興味が湧いてきただろ?」
以前北島店長が話していた神谷重工のLBX業界への参入、しかもその表明発表会の会場が、エンジェルスター。
これは、第三者を招く事でネット上での噂を払拭すると共に、参入表明に更なるインパクトを与える為の神谷重工側の思惑だろうか。
等と、思考を巡らせていた凛空は、やがて一つの決断を下すと、父親である蔵土の顔を見据えて口火を切った。
「うん、僕、その発表会に行きたい!」
「凛空なら、そう言うと思った。よし、それじゃ明日は、学校が終わったら真っ直ぐ家に帰ってくるんだぞ」
こうして、バン達には申し訳ないと思いつつ、凛空はエンジェルスターで行われる発表会へ向かう事となった。
翌日、前日の出来事が夢ではないかと錯覚するほど平凡な登校風景。
それを横目に登校した凛空は、いつも通り登校したバン達と教室で合流すると、その後朝のホームルームを経ていつものように授業を受ける。
そして、時は流れて放課後。
おそらく、昨日凛空達がブルーキャッツを出た後、クノイチの盗聴機能を使って拓也と檜山の二人の会話を録音したものを共有する為に皆を呼び止めるアミ。
しかし凛空は、そんなアミに断りを入れる。
「え? どうしたの凛空?」
「ごめんね、今日は、直ぐに家に帰らないといけなんだ」
「何か、用事?」
「うん、そうなんだ」
「そっか、なら、仕方ないわね」
「ごめんね皆、それじゃ、また明日」
バン達と共に行動できない事に、少しばかり後ろ髪を引かれつつ、凛空はバン達に別れを告げると、足早に教室を後にする。
そして、校門近くで待っていた迎えの車に乗り込むと、自宅へと急いで戻るのであった。
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