スタッフに誘導されメイン施設を後にした凛空と蔵土は、駐車場に停車させていた車に乗り込むと、夜の闇の中、照明やフレアスタックにより照らし出されたエンジェルスターを後に、一路自宅を目指した。
(ペイルライダー・キャバルリーでも、そう簡単に勝てる相手じゃなかった。流石はジ・エンペラー、そして、海道 ジン)
その道中、凛空は車窓から流れる夜の景色を見つめながら、先ほどのバトルについて反省を行っていた。
決着こそつかず不本意な結果に終わったが、それでも振り返れば、あのバトルで得られたものは少なくはなかった。
(次に戦う時は、もっと有利な戦いを……。ん?)
再戦するその時まで、機体や自身の操作技術を高めようと心に誓っていた矢先。
ふと、車窓から流れる夜の景色の中に、見慣れた人々の姿がある事に気がつき、凛空は声をあげた。
「止まって!」
「か、畏まりました!」
突然の事に若干戸惑いつつも、運転手はブレーキを踏み込むと、程なく凛空と蔵土を乗せた車は路肩に停車した。
「一体どうしたんだ、凛空?」
「友達がいたんだ!」
急に停車してほしいと声をあげた息子の行動に疑問符を浮かべた蔵土だったが、凛空の口から出た理由を聞き、腑に落ちる。
一方、凛空は窓を開けると、友達を見たという道の駅の駐車場に向かって声を飛ばした。
「おーい! バーンッ!」
すると、凛空の声に気がついたバン達は、程なく凛空の姿を発見すると、凛空の乗る車へと近づいていく。
「凛空!? え、どうしてここに!?」
「もしかして、放課後に言ってた、用事?」
「うん、そんな所。それよりも、バン達の方こそ、一体どうしてこんな所にいるの?」
バン・アミ・カズ・ミカの四人が、エンジェルスター近くの道の駅にいた理由を知っている凛空ではあったが、知らない体で本人達に理由を尋ねる。
すると、四人は少々押し黙るが。やがて、何かを伝えるかのように、先ほどまで四人が立っていた、道の駅の駐車場に停めている一台のワゴン車に凛空の視線を誘導した。
ワゴン車の前には、二人の人物の姿があった。
片方は拓也、そしてもう片方は、いつもと服装や雰囲気こそ異なるものの、檜山である事が分かった。
「あぁ、成程」
二人の姿を目にし、事情を察した体を装う凛空。
「詳しい事は、明日また学校で話す」
「うん、分かった。……所で、バン達はこの後どうするの?」
「拓也さんに家の近くまで送ってもらう予定だけど……」
話題を変えた刹那、この後の予定を話していたバンの表情が、見る見るうちに暗くなってくる。
「どうしたの、バン?」
「実は、母さんに黙って来ちゃったから……」
「実は俺も」
「私も、はぁ……どうしよう」
「私も」
どうやら、四人とも両親に黙って出かけていた様で、既に中学生の平均的な門限を過ぎている為、四人ともどの様に言い訳をしようか、頭を悩ませているようだ。
すると、事情を理解した凛空が、四人にとある提案を持ちかける。
「だったら、僕の家に遊びに来ていて、夕食もご馳走になった事にするのはどうかな? 連絡は、遊びに夢中で忘れてた事にしてさ」
「え、でも凛空、凛空の両親は……」
「ねぇ父さん、いいよね?」
「凛空の友達なら、大歓迎だよ」
蔵土の許可も得た所で、バン達四人は凛空の提案に乗り、拓也と檜山に事情を説明すると、凛空の乗る車に乗り込み、凛空の自宅へ向かうのであった。
「そうだ、紹介するよ。僕の父さん、西原 蔵土だよ」
同乗者が増えて賑やかになった車内、そこで凛空は、自身の父親である蔵土をバン達に紹介する。
すると、サイバーランス社の社長である蔵土を目の前にして、バン達は緊張のあまり体が固まる。
「ははは、そう緊張しなくても大丈夫。凛空の父親として、気兼ねなく接してもらって構わないよ」
しかし、蔵土の言葉を聞き、バン達も緊張がほぐれていった。
「あの、急にお邪魔して、ご迷惑じゃなかったですか?」
「迷惑? とんでもない。凛空の友達ならいつでも大歓迎だよ」
「「ありがとうございます!」」
「ありがとうございます、凛空のお父さん」
蔵土に対してお礼の言葉を述べるバン達。
一方、蔵土は気にしなくていいと返事を返すのであった。
「バン君、カズヤ君、アミ君、ミカ君。今後とも、息子の凛空をよろしくね」
その後、バン達の自己紹介を終えた所で、蔵土は、継続的なお付き合いをよろしくお願いしますと、結びの言葉を述べる。
「所で、バン君」
「は、はい!」
「一つ聞きたいんだが、君のお父さんは、ひょっとして山野 淳一郎博士かい?」
そして、蔵土が新たに話を切り出した次の瞬間、蔵土の口から山野博士の名が出た事に、バンは驚きを隠せなかった。
「蔵土さんは、父さんの事、知ってるの?」
「あぁ、良く知ってるよ。何せ、山野博士と私は、大学の同級生だからね」
「え? 父さんって、山野博士と同級生だったの!?」
どうやら蔵土と山野博士が大学時代の同級生という事実は、息子の凛空も初耳だったらしく、バン達同様に驚いていた。
「そう言えば、凛空にも話してなかったな」
「驚いたよ、まさか父さんと山野博士が同級生だったなんて」
「あ、あの……。父さんは、大学生の頃、どんな感じだったんですか?」
少し興味が湧いたのか、バンは、自身の知らぬ父親の大学生時代の事を蔵土に尋ねた。
すると、蔵土は自身の顎に手を当て暫し記憶を遡り、やがて、山野博士の大学生時代の事をゆっくりと語り始めた。
「私と山野博士は、データサイエンス学部とロボティクス&デザイン工学部と、学部こそ違えど同じサークルに所属していてね。そこで親しくなったんだよ」
「どんなサークルなんですか?」
「皆、"社交ダンス"って知ってるかい?」
「確か、男女がペアを組んで、男性がリード、女性がフォローして楽しむダンスの事、ですよね」
「その通り」
アミの解答に蔵土が正解を言い渡した所で、蔵土は更に話を続けた。
「実は、私が大学に入学した頃に、何度目かの社交ダンスブームが起きてね。確か切っ掛けは、ネット番組の企画だった筈だ。……兎に角、他の同級生たちも含め、私も山野博士も社交ダンスのサークルに入る事になってね」
「社交ダンス。……ちょっと意外だな」
「ははは、確かに、少し想像しがたいだろうな。だけど、ステップを覚えるのに苦労した私に比べ、山野博士はステップを覚えるのも、上達するのも早くてね」
「へぇ~」
「それに、性分というべきか、彼は衣装にもこだわっていてね。オーダーメイドのタキシードを仕立てる程の熱の入れようだったよ」
(タキシード、仮面、J……。っ! まさか、アレのルーツは大学時代のサークルだったのか!?)
蔵土の話を聞き、凛空ははっと気づくと、とある人物のとある場面での格好について考察を始めた。
そんな凛空を他所に、バンは自身の知らない両親の一面を知り、満足げな様子を浮かべていた。
やがて、凛空達の乗った車は、無事に凛空の自宅へと到着する。
「こ、これが凛空の家……」
「す、すげぇ、想像以上だぜ……」
「これって、豪邸、よね」
「大きい」
駐車場から家の玄関へと足を運ぶ道中、バン達はシンプルながら気品と重厚感を兼ね備えた外観に衝撃を受け。
更に、玄関へと足を運び、自分達の自宅のリビング程はある、大理石の白が生えるお洒落な玄関を目にして、更に衝撃を受けた。
「さ、皆、遠慮せずに上がって上がって」
「「お、お邪魔します……」」
凛空に促され、バン達は恐縮しながらも玄関を上がると、先導する凛空の後に続いて広々とした廊下を進んでいく。
程なく、通されたのは、広々としたリビングであった。
高級感漂う家具、まるで映画館の様な超大型テレビ。更に、リビングの一角に設置された暖炉。
自分達が知るリビングとはまさに別世界。
バン達は、余りの衝撃に、もはや言葉が出なくなっていた。
「こっちだよ」
そんなバン達を、凛空は更に隣の部屋へと案内する。
案内したのは、いつも凛空が家族と食事を楽しんでいるダイニングルームであった。
「いらっしゃい! さ、夕食の準備は出来てるから、どうぞ座って」
ダイニングルームでバン達を出迎えたのは、凛空の母親である衣咲。
衣咲に感謝の言葉を述べながら、バン達は各々の席に着席していく。
「さぁ皆、遠慮せずに食べてちょうだいね!」
「「いただきまーす!」」
そして、全員が席に座った所で、少し遅めながら、大勢での楽しい夕食が始まった。
「このパエリア、凄く美味しいです!」
「このポテトも、粉チーズがいい塩梅だぜ!」
「このプレートで作ったパスタも美味しい! ……あの、これって、全部お一人で作られたんですか?」
「そうよ。これでも、料理の腕にはちょっと自信があるの」
「凛空のお母さん、料理、凄く上手だね」
「うん、母さんの作る料理は世界一なんだ」
「ははは、こんな料理上手な妻を持てて、私は幸せだな」
「あらあら、お父さんったら」
大きな食卓の上に並べられたシーフードパエリア、粉チーズの皮つきフライドポテト、チーズたっぷりホットプレートボロネーゼ、温玉とカリカリパンのシーザーサラダ等々。
大人数料理の数々に、舌鼓を打つバン達。その様子を見て、自然と、凛空達の表情も笑顔になっていく。
こうして、大勢で美味しい料理を堪能する至福の一時を過ごしていた凛空達。
しかしふと、衣咲が壁掛け時計を目にすると、思い出したかのように蔵土に声をかける。
「あなた、そう言えばこの間言っていたテレビの放送日って今日じゃなかったかしら?」
「ん? おぉ、そうだった!」
「父さん、テレビの放送日って何のこと?」
疑問符を浮かべた凛空が蔵土にどういう意味かを尋ねると、蔵土はゆっくりと回答を語り始める。
蔵土曰く、とあるニュース番組の取材で、LBX業界の現状と未来、更に近年社会問題となりつつあるLBXを用いた犯罪、という題材のインタビューを受け。そのインタビューの放送日が、今日だという。
「もう放送されてるかもしれない、テレビをつけて見て見よう」
蔵土は早速リモコンを手にすると、ダイニングルームの一角に置かれた、リビングの物よりも小型、それでも十分に大型といえるテレビの電源を入れる。
すると、丁度そのニュース番組が映し出された。
「お、やってるぞ」
どんな内容のインタビューなのか、興味が湧いたバン達もテレビに視線を向ける中、番組は進行し、ザ・特集というコーナーが始まる。
「今夜のザ・特集。先ずは、来年で十年という節目を迎える"トキオブリッジ崩壊事故"、その遺族たちの現在についてです。発生から九年という歳月を経て、遺族の方々は今、何を思うのか──」
だが、テレビから流れてきたのは、今から九年前、西暦2041年に発生した四百人以上にものぼる死者を出した未曾有の大倒壊事故。
建造費の圧縮による手抜き工事が原因で起きたこの事故、その犠牲者遺族の現在の心境などに迫った取材内容が流れる中。
「もう、あれから九年になるのね……」
「あぁ、そうだな」
放送を見て、感慨深そうに言葉を零す衣咲と蔵土。
そんな二人の様子を見て、不思議に思ったアミが、二人に理由を尋ねる。
「あの、トキオブリッジ崩壊事故で何かあったんですか?」
すると、二人は凛空の顔を一瞬見た後、一拍置いて話し始めた。
「凛空がね、被災したの」
「「……え!」」
「あの日、凛空は幼児教室の帰りでね。……事故を知った時は、もう気が気じゃなかったよ」
まさか凛空が、トキオブリッジ崩壊事故の被災者の一人だったと知り、言葉を失うバン達。
そんなバン達の様子を目にして、凛空は場の雰囲気を明るくするべく話を始める。
「そんなに気にしないで。確かに、あの事件は僕にとって大変な事だったけど、でも、今はこうして皆と楽しく喋ったり笑ったり、楽しい毎日を過ごしてる。あの事件の記憶も含めて、僕は今、幸せだよ」
「……凛空、強いね」
「ありがとう、ミカ」
笑顔で話す凛空の姿を見て、バン達も気持ちを切り替える。
(そう。だって……、あの事件がなければ、今の"僕"は存在しなかったんだから)
トキオブリッジ崩壊事故、それは凛空にとって、まさに人生の転換点であった。
それは、この事故を契機に、彼に前世の記憶が流入したからである。
最も、そんな事など露ほども知らないバン達は、特集の第二弾として、ようやく始まった蔵土のインタビュー映像に夢中になるのであった。
楽しい夕食が終わり、後片付けを始めた衣咲と、バン達を各々の自宅に送り届ける準備を始める蔵土。
準備整うまでの間、バン達は凛空の提案に乗り、凛空の自室で時間を潰す事にした。
「ここが僕の部屋だよ」
「ここが……」
「凛空の部屋……」
「わぁ……」
「凄い」
子供一人が使うとは思えぬ部屋の大きさに、バン達は今更驚くものではなかったが。
広々としたベッドに、整理整頓された机はもとより。本棚にずらりと並べられた書籍の数々、店舗のショーケースの如く、ショーケースに飾られたLBXの数々。そして、何よりも目に付いたのが、部屋の中に設置されたDキューブ。
部屋のレイアウトを目にして、バン達は目を点にする。
「これ、ロボット工学の専門書、よね。凛空って、こんな難しい本も読んでるんだ、凄いね」
「うん、LBXの造詣を深めるためにね」
本棚に並んだ書籍のタイトルを目にして、アミは感嘆の声を漏らす。
「すげー! これなら、部屋でもLBXバトルが楽しめるのか!?」
「バトルというよりも、主に調整後の機体のテストや、新しい機体の慣熟訓練等で使ってるかな」
部屋の中に設置されたDキューブを目にし、羨望の眼差しを浮かべるカズ。
「わぁ……。ねぇ凛空! これ、サイバーランス社だけじゃなくて、他の会社のLBXも飾ってるの!?」
「うん。LBXの研究用にこれまで集めたLBXを飾ってるんだ」
そして、ムシャやオルテガの他、アマゾネスやブルド、更には国内の中小メーカー製や、海外メーカーのもの等。様々なメーカーのLBXが飾られたショーケース。
ただ、その中に、以前回収したアサシンを含めたイノベーター関連のLBXは飾られていなかった。
イノベーター関連のLBXは、本社ビルのプロジェクトMS開発ルームにおいて、嶺部長をはじめとしたチームの面々にあんな所やそんな所等、隅々まで調べられていたからだ。
だが、そんな事情など露ほども知らないバンは、ショーケースを目にして、目を輝かせる。
「……」
「あの、ミカ?」
「何?」
「えっと……、何してるの?」
「ん、気にしないで」
一方ミカは、何故か凛空のベッドに頭を埋めると、微動だにしなかった。
そんな彼女の行動に、凛空は苦笑いを浮かべるしなかった。
それから暫くして、準備が整ったと蔵土がバン達を呼びに来たところで、いよいよバン達は帰宅する事となった。
玄関までバン達を見送りに来た凛空は、明日まだ学校でと締めの言葉を交わすと、見えなくなるまで手を振るのであった。